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株売買は悪く言われる

<株売買は悪く言われる>


今日も『1円作戦』で約5000円の利益を出した。

なんで他の人が株を始めないのか分からないと思う。


だって、こんなに簡単に儲けられるのに。

仕事をしている人だって、ちょっとトイレとかに20分くらいこもってスマホからトレードすれば、一日5000円くらいなら稼ぐことが出来るんじゃないかな。


何でみんなトレードやらないんだろう?

不思議になる。


結衣さんの方も目標金額を超えたようで、トレードを終了させた。

「健二君、悪いんだけど・・・・」

「はい、手伝います。」


結衣さんがモゾモゾいう時はトイレに行きたい時。

この数日は、遠慮しながらも僕に声をかけるようになってきている。


僕もそろそろ手馴れたもので、足が変な方向に折れ曲がらないように車椅子に移し変えて、さっとトイレに行けるようになった。

車椅子から便器に移動させてあげてドアを閉める。


ドアを閉めるときに、結衣さんは小の時なら『ちょっと待っててね』と言ってくるけど、大の時は何も言わない。

そういう時は、僕も『終わったらスマホで呼んでください』と言って、わざと足音を立てて結衣さんの部屋に戻るのだ。

これはお母さんが、お爺ちゃんの介護の時に開発したテクニックで、極力相手に気遣わせない方法だって言っていた。


実際、結衣さんからは特に『もっとこうして欲しい』という事は言われないから、正解なんだと思う。

そして大をした後は大抵、結衣さんは僕を呼ばずに自力で帰ってくるし。


便意があるときは急ぐけど、用が終われば急がないから自力でゆっくり戻ってこれるというわけだ。


ただこれがお昼時間だと大の後でも時々呼ばれる。

12:30から証券取引の後場(午後の部)が始まってしまうから急ぐから。

僕が手伝えば1分で戻ってこられるけど、結衣さん1人だと5分以上かかってしまう。お昼時間のこの時間差は大きいということだね。


健康な女性が相手ならトイレの問題はごまかしが効くけど、結衣さんのように障害のある人は誤魔化せない。

だから、仲良くする相手がすごく少ないのは仕方がない気もする。

そのせいか、僕にはわがままを言っていいと思ったのか、最近急激に遠慮が減ってきた。


僕の方も、最初は結衣さんをお姫様抱っこするときはドキドキしたけど、最近は普通にできるのだから慣れってすごいと思う。


そう思いながら結衣さんの部屋で待っていたら、結衣さんは自力で部屋に戻ってきた。

すぐにベッドに移動させてあげる。


「いつもありがとう。本当に助かるよ。」

「いえ、僕でよければ手伝いますよ。お母さんの介護姿も見ていたから何となく流れはわかりますから。」


結衣さんは少し遠慮気味に微笑む。

「最近、私ってちょっと図々しいお願いが多くなってるよね。自覚はしているんだけど、健二君しか頼れないことも多いから我がまま言ってゴメンね。」

「僕は特に気にしてないですよ。アメリカ留学している姉がいるんですけど、姉の命令に比べたらなんでもないですから。」


すると結衣さんは意外そうな表情をする。

「え、健二君ってお姉さんが居たんだ。一人っ子かと思ってたよ。」

「だって僕は『健二』ですよ。一人っ子だったら『健一』ですよ。」


すると結衣さんは爆笑しはじめた。

何がツボだったんだろう。


「あははははは、確かにそうだよね。全然気づかなかったよ。ほんとそうだよね。」

「そんなに可笑しいですか?。」


「ごめんごめん、確かに言われてみれば健二君は弟タイプだね。妙に素直にお願いを聞いてくれるのも弟の本能なのかな。」

「そうかもしれないですよ。だって姉と弟っていうのは『王様と奴隷』ですから。姉は恐ろしいものです。」


「あははは、そうなんだー。だったら私も弟が欲しかったな。」


ゲラゲラ笑われた。

いや、ほんと、この話のドコがそんなにツボったんだろう?

まあ楽しんでくれたのでしたら何よりです。


すると結衣さんのお母さんが飲み物を持ってきてくれた。

「あら、随分と楽しそうね。大暴落でもあったの?」


流石は叶家、ジョークも株式だ。

結衣さんはメガネの下の涙を拭いながら飲み物を受け取る。

「ちがうよ、健二君にお姉さんが居るって話をしていたの。姉と弟は『王様と奴隷』なんだって。」


すると結衣さんのお母さんは僕にも飲み物を渡してくれながら、すこし考える。

「言われて見れば、いとこの姉弟もそういう感じだったわね。わたしは妹しかいないけど、姉妹はライバル的な友達って感じだったから子供のころは生意気な妹とよく喧嘩したわ。懐かしいわね。」


ふーん、姉妹ってそんな感じなのか。

「結衣さんは一人っ子ですよね。」

「そうだよ。」

そういうと結衣さんは寂しそうな顔になる。

「まあ兄弟姉妹がいたら、私の面倒を見なくちゃいけなかっただろうから、一人っ子でよかったのかもしれないけどね。」


思わず言葉が詰まる。

たしかに僕も、姉の足が動かなくて面倒見ろって言われたら嫌だもんな。

変な話だけど、他人の結衣さんだから面倒を見られるところがあるんだよね。

姉だったら、気持ちが辛いと思う。


この気まずい空気の中、丁度いいタイミングで僕の携帯がなる。

うわ、僕の携帯が鳴るとか、久しぶりすぎてびっくりした。

最近は、結衣さん専用連絡装置だったからな。


送信者の名前を見ると、イトコの辰夫君だった。

『君』づけで呼んでいるけど、もう31歳の会社員。

最近は殆ど会っていないから、連絡が来るなんてめずらしい。


「ちょっとすいません」

僕は立ち上がり窓の方を向く。


「もしもし。」

『健二、久しぶり。元気か?』

「うん元気だよ。辰夫君は?」

『ああ元気だよ。ところで健二は今夜ヒマか?。』

「いや、ネットゲームの予定があるから忙しいけど。」

『じゃあヒマだよな。じつは今口説いている女性が引き篭もりと話がして見たいっていうんだよ。ちょっと駅前のファミレスまで来てくれよ。19時集合で頼むよ。』

「ええ、そんなの嫌だよ。」

『頼むよ、もう向こうと約束しちゃったんだよ。何でもおごるからさ。』

「絶対いやだ。絶対いかないから。」

『待ってるからな、よろしく。』


ブツ


電話が切れた。


「このやろう。」


スマホをポケットに仕舞うと、結衣さんと結衣さんのお母さんが心配そうにこっちを見ている。

自分がすこし険しい顔になっていることに気づいた。慌てて微笑む。


「あ、すいません。イトコからだったんです。口説いている女性が引き篭もりと話がしたいって言うから、僕をだしにして会う約束をしたみたいで。夜にファミレスに来いっていう電話だったんです。断ってるのにヨロシクって切られちゃった。あははは。」


すると結衣さんのお母さんが不愉快な顔をする。

「健二君は断っていたようだけどどうするの?そういう無神経なお願いはイトコでもハッキリ拒絶しないとダメよ。」


結衣さんにいたっては怒っていた。

「行かなくていいよ。断ったんでしょ。絶対行っちゃダメだよ。そんな失礼な人はイトコでも拒絶しなきゃ。それでなくても無神経な話なのに、断ってるのに『よろしく』ってなんなの?」


なんか怒ってもらえて嬉しいな。

嫌な話のはずなのに、つい笑顔が出てしまった。


すると、また電話が鳴る。

一日に二回も仕事をするとか、今日の僕のスマホは大忙しだ。

みると、またイトコの辰夫君だった。


「あ、また辰夫君だ・・・・。」

すると結衣さんが僕のスマホを奪い取ろうとしたので、とっさにガードする。

「ちょっと健二君、私が文句を言ってあげるからコッチにかして。」


結衣さん怒りすぎ。


「いや大丈夫です。ちゃんと断りますから。お気持ちだけありがたく頂いておきます。」


そして電話に出る。

すると今度はテレビ電話モードだった。

スピーカーで結衣さんたちにも向こうの声が聞こえている。


『健二、さっきは電車の都合で話の途中で切っちゃったんだけどさ、今大丈夫か?』

「そうなんだ。僕はいつでも大丈夫だけど。」

『じつは、今日会ってもらいたい人の弟さんが引き篭もっているそうなんだ。で、全然家族と話をしてくれなくて悩んでるらしんだよ。健二なら家族と話す程度の引き篭もりだから、理解の橋渡しになるかもって言ったら、是非話したいって事になってさ。なんか焦ってるみたいで出来るだけ早く話したいみたいなんだ。力になってあげてくれないかな。』


見ると結衣さんの顔から怒りが消えていた。

返事をしようとしたら、スマホの画面の辰夫君の顔が消えて、女性が画面に映った。

『初めまして、生駒といいます。無神経なお願いをしてスイマセン。できたら少しでいいので相談にのっていただけないでしょうか。今日が無理でしたらそちらの都合のよい日にでも・・・。』


さっきまでの辰夫君へのモヤモヤは完全に消えた。

これは、手伝わないといけないパターンだ。


結衣さんのお母さんが困った顔でいる。

「そういう事だったら、手伝ってあげても良いんじゃないかしら。わたしも急ぐ気持ちはわかるわ。家族って、過剰に焦るものなのよ。」


僕は黙って頷くと、画面向こうの生駒さんを見た。

「わかりました。そういうことでしたら19時に駅前に行きます・・・・。」

『ありがとうございます。たすかります。』


生駒さんは大人の女性だろうに、画面越しに僕程度の若造に丁寧に頭を下げた。

切羽詰ってるのがわかる。


また画面に辰夫君が映った。

『サンキュウ助かるよ。叔母ちゃんも援護射撃ありがとうな。』

おもわず速攻でツッコンだ。


「知らない女性にオバチャンはないんじゃない?」

すると辰夫君が混乱していた。


『あれ?健二の傍に居るのは正子叔母ちゃんじゃないの?』

「ああ、お母さんかとおもったの?ちがう、お隣のお母さん。」

『うわあ、それは失礼いたしました。健二からも謝っておいてくれよ。』


すると結衣さんがケラケラわらった。

「お母さんはオバチャンだからいいじゃない。」


そこで辰夫君がハっとした顔になる。

『あれ、健二は自分の部屋に居るんじゃないのか?』


ーーーーーー

18:55

駅前に、僕は結衣さんの車椅子を押して向っている。

あのあと、事情を説明したらなんとなく結衣さんも来ることになった。


辰夫君曰く『女性が多いほうが、生駒さんも話がしやすいだろうから』だとか。

駅に着くと、生駒さんを連れた辰夫君がすでに待っていた。


「健二、来てくれてありがとう。叶さんもわざわざすいませんでした。」

「初めまして叶です。」


すると生駒さんも僕を見る。

「初めまして生駒です。今日はありがとうございます。」

「いえ、気にしないでください。あははは。」


生駒さんは、いかにも仕事している感じの女性で、年齢は結衣さんと同じくらいだろうか。

確かに美人ではあるけど、どこか疲れた表情にも見える。


ファミレスに入ると、手早く結衣さんを椅子に移し変える。

お母さん直伝の椅子移動テクニック。

姿勢を決めて、小さく反動を使うのがコツだ。

最近は毎日結衣さんをトイレに運ぶので、我ながら慣れたものだ。


その様子に辰夫君も生駒さんも感心してくれた。


生駒さんは不思議そうに尋ねてくる。

「お二人は、どうしてお知り合いに?」


結衣さんは楽しそうに微笑み返す。

「引越ししたら、隣の家の窓が凄く近くて、その窓の先に住んでいたのが健二君なんですよ。窓と窓のあいだが1メートルないので、いつも窓越しにお話をしていたら仲良くなったんです。」


一応僕も補足した。

「あ、それとお隣同士と言うことで、両家で食事したりもよくするんですよ。結衣さんのお父さんとウチのお父さんもガハガハと仲が良いし。」


すると生駒さんは羨ましそうな顔になる。

「家族で仲が良いんですね。ウチは今まで疎遠だったから、いまさら距離感がわからないんです。」


僕は、結衣さんが現れる前の自分を思い出す。

「ウチもそうでしたよ。家族で話なんかしませんでした。結衣さんが隣に越してきて、一緒にネットゲームをするようになってから人と話をするようになりましたね。それまでは家族とは挨拶の返事すらしないことも多かったかな。」


「まあ、変化があったのですね。」


「ええ。そういえばお父さんと話すようになったのは株の口座を作ってもらってからかな。僕の興味のある事を一生懸命調べてくれているって分かって、なんか少しは歩み寄らなくちゃって思ったのがきっかけかもです。」


すると、しばらく考えて生駒さんは自分なりに何かをまとめたようだ。

「つまり、健二君と話が出来るレベルまで、健二君の好きな事を理解しようとしたって事でしょうか?。」

「なるほど、そうとも言えますね。あと学校に行けって言われなくなったのも大きいかな。」


生駒さんはそこで神妙な顔になる。

「それはダメなんですか?」


「ダメだと思います。『なんで学校に行かないの?』とか『そろそろ外に出てみない?』とか言われるのって辛かったですから、そういう事を言われるのが嫌で親と話をしなかったところは有ります。今は僕が高校に行くことを諦めたみたいなんで、それで話が出来るようになったかもです。」


「もしも嫌でなければですけど、その理由を聞いても良いですか?」


すこし考える。けど上手く言葉に出来ない。

言いたくないわけじゃないけど、うまく言葉が見つからない。

ちらりと結衣さんを見た。


ちょうど頼んだチーズハンバーグを美味しそうにモグモグ食べている。

あれは至福の顔だ。

今の結衣さんはアテにならないと判断し、ユックリ言葉にしてみる。


「そうですね、嫌なものから逃げているのに、嫌な事が追ってきたら辛いといいますか。うーん、学校に行っていない事や部屋に閉じこもっている事はコンプレックスみたいなもので、そのコンプレックスに触って欲しくないといいますか。そういう傷みたいなものに相手が触れてこないって分かると少し安心するといいますか。」


説明が難しい。

するとハンバーグを飲み込んだ結衣さんが補足してくれた。


「ああ分かりますよ。私も足が動かない事で部屋から出ないのが、申し訳ないというか恥ずかしいというか。そういう複雑な気持ちで他人や家族とも接点が少なくなってましたから。」


生駒さんは真面目な態度で結衣さんに向く。


「ですが今は、そんな様子には見えませんし、むしろ明るく見えますが?」


「健二君のお陰なんですよ。そんな塞ぎこんでいる時に、引越ししたんですが、健二君のお母さんが『うちの息子は引き篭もりだから、遠慮なくお使いとか頼んでね』ってあっけらかんと話してくれたんです。それで健二君になら引き篭もり仲間として仲良くしてもいいのかなって思って話しかけて、今に至る感じです。」


僕も頷いた。

「ですよねー。僕もいっつも昼間に部屋に居る結衣さんとは仲良くなれる気がしてましたから。」


すると、また生駒さんは1人でうなずいて考えをまとめる。

「つまり、コンプレックスを刺激しない相手が居たから、そこからすこし世界が広がったって感じでしょうか。」


僕は感心した。

「生駒さんは頭がいいです。いまの適当のおしゃべりでよくまとめられましたね。そういう事が言いたかったんです。」


すると結衣さんは思いついたようにグーを握る。

「そういえば弟さんはどんなゲームをしていますか?私は健二君からネットゲームを教わって、けっこう上手いんですよ。よかったら生駒さんもご一緒にどうですか?」


思わず突っ込まざる得なかった。

「すいません生駒さん、結衣さんは新規紹介のボーナスが欲しいだけですから適当に聞き流してください。」


「ふふ、そうですね。ちょっと弟に聞いてみます。もしも同じゲームでしたらよろしくお願いします。」

生駒さんはスグに弟さんにメールをした。

一応、メールをするくらいの関係なら、大丈夫な気がする。


「あ、返事が来ました。『ヘルカンRPG』だそうです。」


結衣さんは歓喜した。

「それですよ。でしたら是非私の紹介でIDを作ってください。助かります!」

「おーい、結衣さん、最後に本音が出てますよ。」


そして三人で笑いあった。

辰夫君は話についてこれず暇そうだったけど。


しばらく雑談をしていたら、株のトレードの話になった。

僕がトレードで毎日5000円稼いでいると話すと、すごく驚かれた。


その話になると辰夫君は急に活き活きと話しに入ってくる。

「健二、株なんて博打で稼いでちゃダメだぞ。バイトでも何でもいいから仕事しろよ。」


すると結衣さんは急に不機嫌になる。

「生駒さん、これが悪い例ですよ。こういうふうに相手の好きな事を否定したら心を閉ざしますから。弟さんがなにか言ったら、まずは聞いて理解してあげてくださいね。」

「なるほど、分かりやすいサンプルです。」


「えええ、そりゃないよ生駒さん。」


僕は生駒さんを悲しい目で見る辰夫君をジト目で見る。

「辰夫君は無神経だからなあ。疑問があるなら腰を低くして質問しなきゃ。相手よりも知識が少ないのに否定するとかダメすぎだよ。」


三人に苦笑いで見つめられ、辰夫君はガックリ肩を落とした。

「なんか居心地わるいなあ。でも株って言うのは他人の金を奪い合う行為で、そんな事しても人は幸せになれないと思うんだけどな。」


そう言われると不安になる。

僕は結衣さんを見た。

反論してもらわなくちゃ。


でも結衣さんは、僕を子供みたいな表情で見ていた。

そして隣に座る僕の腿をゴツゴツと拳でつついてくる。


ああ、そういう事か。


僕はそっと立ち上がると、結衣さんを車椅子に乗せて、移動しながら二人に向いた。

「すいません、ちょっと待っててくださいね。」


後ろで辰夫君が「どうしたの」といってるのを生駒さんが「気を使ってください」とたしなめている。

ほんと辰夫君は無神経だ。

きっと、フラれるな。


五分ほどで帰ってくると、辰夫君が気まずそうにしている。

結衣さんを席に戻すと、僕は結衣さんの飲み物を取りに行く。


帰ってくると、結衣さんの目が輝いていた。

辰夫君と口論になっているようだ。

「では仕事とは何だと思いますか?。わたしはお金を稼げば全て仕事だと思います。」


そっと飲み物を結衣さんの前に置くと、生駒さんに小声で教えてあげた。

「結衣さんに株トレードの話を吹っかけると、一晩でも語るんで気をつけてくださいね。」


クスリと笑ってくれた。

「ウチの弟もそうなんですよ。アニメの話とかすると、私も母もあのこが何を言っているのか分からないくらい話すんです。それで私達は会話を諦めてしまったところもあるんです。」

「ああ、わかります。僕も結衣さんと同じで株トレードに興味があるから良いですけど、結衣さんのお父さんは株の話が始まると逃げるらしいですから。」

「やっぱり、みなさん同じなんですね。でしたらウチも希望が持てます。」


そう言って微笑む生駒さんを見て、今日はココに来て本当に良かったと思った。


さて、あとはマシンガン結衣さんをいかに止めるかだな。

性質が悪いことに、負けず嫌いの辰夫君も議論を始めている。

長くなりそうだ。


僕が生駒さんに、今期のアニメの基礎知識を授けている横で、2人の会話はさらに熱くなる。


「株なんて博打じゃないですか。そんな他人のミスに付け込んで儲けるなんて仕事ではないと思いますが。人を出し抜くような行為で幸せになれませんよ。」

「どんな業種でも、商売相手を出し抜こうとするのは当然ですよ。そんな事を言ったら全ての商売で幸せになんてなれないのでは?それに小売業は売る前にまずは生産しますが、それを博打と呼びますか?一定の根拠を元に考えてお金を投資するのは博打ではありません。」


「うぐ。それに企業のお金を利用していて何も生んではいないじゃないですか。そんなの良くないに決まっている。」

「企業はお金が欲しいから株式会社にして上場しているんです。嫌なら公開株にしていません。つまり公開株を売買するのは、売買される企業自身が望んでいることです。確かにトレーダーは差額で儲けていますが、株価が下がれば買い、本来の株価以上に高くなれば売ることで、株価の安定を助けても居るんです。トレーダーがいなければ落ちた株価が上がってくることなんて無いですよ。」


「だ、だったら買ってすぐに売るのは悪ではないですか?デイトレードは企業にお金を蓄積させない悪なのでは?」

「いいえ、むしろ正義です。近年は不況と暴落が繰り返されて日本株は下がりました。それはひいては円の価値を下げる事にもなります。そこで法改正がされて信用取引を使えば、一日に何度でも売買が出来るようになったんです。これは明らかにデイトレード優遇です。株を買うことを恐れる人たちに、少しでも売買してもらうために国が法改正したんですよ。デイトレードが気にいらないなら、この法改正にケチをつけてください。」


「でも・・・・」

「だいたい、投資を悪だと思っているのは根拠がありません。たとえばアメリカでは、学生の頃から投資のやり方を学びます。そのせいで日本の株式市場はアメリカ資本が多く入っていて、アメリカの動きに左右されているんですよ。そんなのヒドイと思いませんか?日本の経済は日本が握ろうと思うなら、株トレードはもっと日本人がメインでやらないと。日本人がやらなければアメリカや中国や韓国に日本経済を握られてしまいます。日本の経済を他国にまかせるのが貴方の正義ですか?」


「じゃあ先物取引は・・・」

「食物の輸入を手伝うために金を出すのは悪ですか?先物取引は問屋が少しでも儲けようと努力するようなものです。大量のリンゴやトウモロコシの輸出入に先行投資するのが悪ならば、輸入食品に頼るこのファミレスの食物の殆どが悪ですが?」


「でもFXとかみたいに身を滅ぼすものは・・・」

「為替取引は日本の円の価値のコントロールです。日本全体に関る意義あることです。そもそもどんな商売でも、下手を打てば損をします。トレードだってより研究して、しっかり勉強して、慎重に考えれば儲かります。ですがそれをしない人が多いから損をする人が多いんです。法に従ってトレードしで利益を出すことを仕事ではないなんていうのは、経済の事を全く知らないと言いふらしているようなモノですよ。」


そこで辰夫君は僕を見た。

しょうがないな。

「知らないのに、適当な事を言う辰夫君がわるいよ。結衣さんはデイトレーダーな事に誇りを持ってるからね。4年でためた貯金は1千万以上だよ。」


そこで辰夫君と生駒さんが驚いた。

「え!4年で貯金が1千万以上?それはすごいな。俺より収入多いじゃね?」

「そうだよ辰夫君。結衣さんは仕事としてデイトレーダーをしているんだから、あんまり失礼な事を言っちゃダメだよ。」


生駒さんは頷いてまた1人で考えをまとめている。

「なるほど、デイトレーダーというのは投資家の一種ってことなんですね。お金を貸して、利益が出るように返してもらうんだから銀行みたいな業務ですよね。」


結衣さんは嬉しそうに生駒さんの手を握った。

「さすが生駒さん、頭が良い人には分かってもらえると思ってました。」


つまり結衣さんの中では、辰夫君は馬鹿扱いな訳か。


そのあと少しおしゃべりして、しょんぼりした辰夫君に全ての支払いを任せて、僕達は帰路に着いた。

時々、株とか先物取引は悪だと思っている人に出会います。

そう言う人は面倒なので、一緒に飲みに行きません。だってすごく絡んで来るんだもの(汗。

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