表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/18

トレードの準備

<トレードの準備>


今日は、世間的には土曜日らしい。

曜日の関係ない生活をしている僕だが、やっぱり結衣さんに釣られて1時に寝たので朝から目が覚めた。


別に釣られて寝なくてもいいのだけれど、結衣さんが寝ているのにバタバタしたら悪いから静かにしていると、つい寝てしまうのだ。

声が届く距離に他人がいるというのも良し悪しですね。


カーテンを開けようかとも思ったけど、結衣さんの部屋からドライヤーを使う音が聞こえてきたので、気を利かせてカーテンを開けない僕は紳士だと思う。


しょうがないから朝ごはんを食べよう。

一階のリビングに降りると、お父さんが新聞を読んで座っていた。

会社が休みの日くらい、ユックリ寝ていればいいのに。


「お、健二おはよう。」

「んー。」


生返事をして座ってコーヒーメーカーに溜まっているコーヒーを飲むと、お父さんが封筒を出してきた。

「健二、お前は株に興味があるというなら証券口座を作ってやろうか?」


コーヒーを吹き出しそうになった。

「ゴホッ、ゴホッ。どうしたのいきなり。」


するとお父さんは、すっと目をそらす。

そんなに引き篭もり息子と話すのが気まずいのか。


しかし、書類を封筒から出して話を続けてくる。

「取引先での雑談で、息子が株に興味を持ったという話をしたらな、そこの社長さんが丁寧に株について教えてくれたんだよ。それでお父さんが勘違いしていたことがわかったんだ。」


「ああ、FXとか先物取引とかとの違いとか?」

「お、知っていたのか。さらに社長さんが高校に無理に行かせるよりも可能性を伸ばしてはどうかって薦めてくれたんだ。お父さんとしては高校に行って欲しいが、それが無理なら株の経験も何かの役に立つかもしれないと思ってな、用意してみたんだ。やるか?」


「やりたい!」

「そうか・・・。社長さんの話では、しっかりした株の塾のようなところで勉強しないと危険だとも言っていたぞ。社長さんがオススメの株の塾を教えてくれたから、株をやるならまずはそこで勉強しなさい。」


でも僕は断るね。

「タブン株の学校はいらないと思うな。だって知り合いに株で生活費を稼いでいる人がいるからその人に習ったほうが確実だと思う。株学校なんて怪しいけど、実際に稼いでいる人は確実だから。」


それを聞いてお父さんは驚いた顔をした。

「お前、いつのまにそんな知り合いが出来たんだ?」


「え?お隣の結衣さんだよ。昼間はずっとパソコンで株の売買していて、毎月貯金額を増やしていてるんだってさ。体に障害があっても稼げる仕事だからデイトレードをしているって言ってたよ。」


それを聞いてお父さんは納得していた。

「なるほど、たしかにWEBで株の売買をするなら体が不自由でも在宅で可能か。株の事は怖い噂を信じて毛嫌っていたけど、そういう側面もあるとは目から鱗が落ちたよ。それに仮にお前が就職した後にヘマしてクビになっても、株取引を知っておくことは役に立つかもしれないしな。」


「クビになる前提はいらないよ。」


するとお父さんは楽しそうに大笑いした。

家族とこんなに話したの久しぶりだし、お父さんが笑うのはもっと久しぶりだ。


するとお母さんがキッチンからやってくる。

「お父さんは引き篭もり対策の本に『子供の興味があることから視野を広げよう』って書いてあったから、一生懸命に株の事を調べてくれたんだよ。少しはお父さんに感謝しなさいよ。」

「うるさい!そんな説明はしなくて言い!」


お父さん、そこ怒鳴るところじゃないだろう・・・。


でもお母さんは気にしていない。

「そういう事だったら叶さん一家を御夕食にお呼びしましょうか?株の話も聞けるし丁度いいでしょ。」

「あちらさんの都合次第だが、声をかけておいてくれ。」


そうして、あれよあれよというまに、僕の株の売買はスタートしそうだった。

早速書類をつくったが、僕は未成年者なので結局、親が僕用に『未成年者用』の手続きで作らないといけないようだ。

ついでに併設されるネット銀行も開設手続きをする。


食事をして、その書類を書いたら、僕は結衣さんに相談するために自部の部屋に戻った。

カーテンを開けると、結衣さんは寝転がって本を読んでいる。


「あ、健二君おはよう。」

「おはようございます。今日はデイトレードをしていないんですか?。」

「証券取引所は土日祝日はお休みなんだよ。だから私は週休二日制だね。」


「へー、休みの日があるっていうのは気持ちが楽でいいですね。」

「そうだよー。だから私はFXはやらないの。あれは24時間年中無休だからシンドイからね。」


「株もFXも似ているようで全然違うんですね。僕もFXはやらないようにしよっと。」

「でも働いている人とかにはFXは人気だよ。仕事が終わってからでも取引できるから。会社勤めの人にはFXの方がいいかもね。」


「そういう考え方もあるんですか。奥が深いですねー。」

「その人にとって、一番やりやすいスタイルを見つけるのが大事だね。」


「じゃあ先物取引はどういう人がやるほうがいいんですか?」

「うーん、先物取引は株やFXよりもニュースを掴むのが簡単で、値動きも予想外の動きをしにくいらしいから、株よりも分かりやすいって言う人は多いよ。あと本当に沢山の果物とかを入手する人とか向けかな。小豆みたいな変動しやすい銘柄を扱わないで、トウモロコシみたいな安定した商品を売買すれば怖くないかな。」


「怖いと思っていたFXや先物取引も、利点があるんですね。」

「そうそう、大事なのは正しい知識と的確な運用なんだよ。それさえキッチリできれば、株もFXも先物取引も大差ないかもしれないかな。相性の問題だけだね。」


さすが結衣さん、サラサラと答えてくれる。


「あ、そうだ。お父さんが僕が株をやるなら、株の塾みたいなところに行きなさいって言っていたけど、それってどう思います?」


すると凄い腹筋力で結衣さんがムクリと起きた。

「え?株のトレードやるの?」

「うん、お父さんも『お前が就職してからクビになった時のために勉強しておくのも悪くないだろう』っていって賛成してくれたんです。」


「ふふふ、確かにそれはそうだね。株トレードは、定年後のお年寄りでも、前科モノの犯罪者でも、コンビニもない田舎の人でも、体に障害がある私にも、平等に出来る仕事だもの。のめり込むかどうかは別として、正しく運用できるように訓練だけしておくのは良いかもね。」


「そうそう、大震災が来て海外に逃げることがあっても、その逃げた先の国の株トレードさえ出来れば、稼げるかもしれないですし。」

「健二君は面白いことを考えるんだね。でも確かにそういう側面もあるかな。外国の株だって日本株の売買で身につけた能力はそのまま使えるからね。」


へー、外国の会社の株でも同じなんだ。

インターナショナルな技能ってことだな。


すると、結衣さんはいつものように窓からズイっと身を乗り出す。

「もしも株をやるなら株学校なんかいかないで私の部屋でやりなよ。少なくても私の知っているとおりにすれば儲かると思うよ。だって私は確実に貯金を増やしているもの。」


イエス!その言葉を待ってました!


「結衣さんが教えてくれるなら安心ですね。ところで結衣さんは今いくらくらい貯金を増やしたんですか?」

「あ、私はそんなにペースが良くないからボチボチだよ。貯金を4年で300万から1000万台に増やした程度だから。あ、運用費と生活費を抜いた純粋な貯金額でね。」


「グハッ!す、す、す、、、、すげーーーー。」

「たまたま時期がよかっただけなんだよ。オリンピック景気で日本の景気があがってたからね。」


「でも凄い。師匠と呼ばせていただきます。」

「ふふふ、大げさだなあ。」

「デイトレーダー健二、爆誕の予感。」


ーーーー


その夜、叶さん一家がうちに来た。

結衣さんのお父さんをはじめてみたけど、ヤクザみたいに貫禄がある人だった。

なんでも、土木会社の社長さんらしい。

食事を待ちながら、ウチのお父さんとメチャクチャ打ち解けている。

仕事の関係で、共通の話題が多いっぽい。


「いやあ、もっと早く矢作さんと交流を持てばよかったですわ。まさか、三上電機の社長さんとお知り合いとは世間は狭い。こんど三上電機の社長さんも誘って飲みに行きましょう。」

「あはは、それは楽しみですね。是非ご一緒させてください。」


なんか楽しそうだ。


僕の横では、車椅子の結衣さんが証券会社の書類をチェックしてくれていた。

「うん、この証券会社は悪くないみたい。一見手数料が高く見えるけど、デイトレ割引っていう『その日のうちに売り買いしたら一回分の手数料でOK』っていうのはいいね。私もここに乗り換えようかな。指値、逆指値もあるし。」


「へー、やっぱり慣れた人でないと分からない部分もあるんですね。」


「そう、たとえばこの証券会社だと連携したネット銀行と証券口座の間で即時にお金が出し入れできて、しかも手数料がかからないでしょ。これは地味に効いてくるから重要なんだよ。」


「そういえばお金のやり取りをどうやるかは知らなかったです。」


「それ以外にもさっき言ったこの『指値』と『逆指値』注文っていうのは重要な機能なの。これが有れば大損しないで済むんだよ。未だに時々『指値』や『逆指値』の機能が無い所があるから要チェックだね。」

「どういう機能なんですか?」


指値さしね逆指値ぎゃくさしねっていうのは、指定した値段になったら、自動で株の売買を完了させてくれる機能なの。『○○円になったら買う』とか『○○円で売る』とかって設定できるよ。この機能を上手く使うと、万が一に急に株の値が暴落しても予測の範囲内の損で終われる『損切り』ができるんだよ。指値や逆指値で『損の許容範囲』を指定しない人はいつか大損するから、クセとして必ず指定するようにしないといけないよ。」


「損切りって?」


「大事なことだよ。株って言うのは、なんだかんだ言って予想を裏切る動きをする事は少なくないの。たとえば買ってしまった後に、予想に反して値が下がってしまったとするでしょ。その時に『もう一度値が上がってくれ』と祈るよりも、パっと切ってそれ以上に損をしなようにすることだよ。」

「結衣さんでもそういう事ってあるんですか?」


「多い日は、5回中3回は損切りするかな。」

「ええ、そんなに。」


「そうだよ。それが損する人と儲ける人の明暗を分けるんだから。損は小さく、利益は確実に。たとえば5円の損を3回やっても、8円の利益を2回出せば儲かるでしょ。そうやって計算して素早く損切りするのがコツだね。」


「損切りしないで、もう一回値が上がるのを待つのはダメなんですか?」

「それはトレードスタイルによってだよ。私はデイトレーダーだから待たないけど、数年単位で株を手元に持つ人は待つんじゃないかな。まあ普通の株トレーダーは、そういう株を『塩漬け株』といって嫌がるんだけど。」


「・・・つまり、まとめるとどういう事だってばよ。」


「そうね、最低でも提携銀行とのお金の移動に利便性があって、デイトレードに有利な手数料体型で、指値や逆指値のシステムがある証券会社を選びましょうだね。」

「あ、簡単な説明で助かります。」


「後々の事を考えるなら、その証券会社が提供しているツールの優秀さや信用取引をする時に有利なシステムかも見る必要があるけど、それは初心者にはわからないから、とにかく人気がある上位5個くらいの証券会社に手当たり次第に申し込んで、気に入ったところを使うっていうのも手ね。たいていは証券口座を作るだけならタダだから。」


「最後は力技ですか・・・・。」


「力技上等だよ。それに証券会社といえどもシステムが故障して止まるときもあるし、証券会社自体が倒産して無くなっちゃうこともあるでしょ。だから最低二個くらいの証券会社の口座を作っておくことは基本かな。証券会社によって見れる情報も違うしね。

それに普段使っている証券会社のシステムが壊れて一時的に売り買いできなくなったら、急いで別の証券会社でチェックしながら逆方向に売り買いして調整するのは必須テクだよ。」


「なるほどー。じゃあもう一個くらい申し込まないとですね。師匠。」


ここでいきなり結衣さんのお父さんが豪快に僕の肩を叩いてきた。

「なんだ結衣に弟子ができたのか?こりゃいいや。結衣は株の事は楽しそうに話すんだが、いかんせん結衣の株の話を聞いてくれる人はいないからな。健二君が聞いてくれるなら丁度いいや。」


「ちょっとお父さん、もう酔ってるの?お父さんは馬鹿力なんだから健二君をバンバン叩いたら痛いでしょ。」


そんなやり取りをしていたら、うちのお母さんと結衣さんのお母さんが食事を持ってきてくれた。


「はい料理ができましたよ。それじゃ結衣さんも椅子にうつりましょうか。」

そういうなりお母さんは、ひょいと結衣さんを車椅子から食卓の椅子に移してしまった。


それを見て結衣さんのお父さんは驚く。

「奥さん、力がありますね。私だってそこまで軽々はできませんよ。」


しかし、いかにも『おかん』なお母さんは、豪快に『はっはっは』と笑った。

「去年までお爺ちゃんの介護をしていたんで慣れたものですよ。コツをつかめば楽に出来るしね。爺ちゃんは太っていて大変だったけど結衣さんは軽いから紙のように楽々だね。」


すると結衣さんのお母さんが申し訳なさそうに笑った。

「すいません、本当は重いのに。」

「お母さん!」


そんなこんなで、楽しく夕飯を囲んだ。



食事の後、お父さんコンビはガハガハ酔っ払って楽しそうだし、お母さんズはお父さん達の目の前で『夫のグチ大会』を始めている。

飽きてきたので、結衣さんの希望で僕らは僕の部屋に来た。


「こんなに近いのに、健二君の部屋に来たのは初めてだ。このちょっとが遠いんだよね。」

足が動く僕には、想像もできないほど遠いのだろうな。


「また適当に来てください。」

すると結衣さんは自分の部屋を見る。


「あー、こんなことならノートPCを持ってくるんだったな。ここでネットゲームできたのに。」

みると結衣さんの部屋はあいかわらず、窓もカーテンも開いている。


「取ってきましょうか?」

そういって、僕は窓からぴょんと結衣さんの部屋に飛び移った。


「きゃ!危ないよ!」

「そう言われても、もう飛んじゃったし。」


結衣さんの部屋はすでに勝手知ったる状態なので、ノートPCを持ってピョンと自分の部屋に戻ってきた。

「まあ落ちても所詮2階ですから着地できますので大丈夫です。」


すると結衣さんは、めちゃくちゃ楽しそうに笑ってくれた。

「あはははは、健二君はやんちゃだね。でもありがとう。ネットゲームは健二君が師匠だから頼りにしていますよ。」


そういってネットゲームを始めると、ゲーム内でスグにいつものメンバーと合流できた。

そういえば結衣さんのノートPCが普通にWEBに接続できていて不思議だ。


あ、よく考えたらこの距離だと、結衣さんの部屋の無線LANが余裕で繋がるのか。

密かに笑ってしまったね。

もしも僕のネット環境が繋がらなくなったら、ちょっと借りちゃおとか思った。



証券口座を作るときは悩みました。

結局勘でつくった口座で満足しましたが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ