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大きな流れの読み方

<大きな流れの読み方>


夜の2時。

今ネットゲームで結衣さんのレベル上げを手伝っている。


お互い、窓を開けて話せる状態なのにゲーム内のチャットで話をしていたのは、我ながらシュールだと思う。

いきなり、窓越しに話しかけられた。


「健二君、今日はありがとう。ソロソロ寝るね。」

「はい、それじゃあ僕もそろそろ寝ます。」


「そっか。じゃあお休みー。お陰で楽しかったよ、ありがとうね。また明日ね。」

「はい、また明日ー。」


そう言うと結衣さんはそっとカーテンを閉めた。

何となく僕もカーテンを閉める。


ふう、なんか女性とネットゲームする日が来るとは思わなかったな。

ネットゲームで女性キャラがいても、基本的に中の人はオッサンだと思って生きてきたし。

僕って実は、今リア充かもしれない。


パソコンの電源を切って、モゾリとベッドにもぐりこむ。何となく今日の一日の出来事を思い出してみた。

悪くない一日だった。

そう思いながら目を閉じるが、久しぶりに女性と話したせいか、すぐには眠れなかった。


次の日

目を覚ますと10時だった。

僕にしては早起きだ。


カーテンの向こうでは、もうラジオのような音が聞こえる。

ちゃんと朝に起きる人なんだ。


僕はカーテンを開けずに1階に降りた。

お母さんは掃除をしていたので、なんかこっちには構ってこない。

適当に食事をして、シャワーを浴びてから自室に帰った。


もう10時半。

部屋に帰ってカーテンを開けると、相変わらず結衣さんは窓際に座っていた。

「あ、健二君おはよう。」

「おはようございます。」


その挨拶だけすると、結衣さんはスグにパソコンの画面を向いてカチカチとマウスの操作をしている。

パソコンを見ながら僕に話しかけてきた。

「ごめんねぇ、この時間は一番忙しくて。11時半になったら暇になるから、そしたらまたゲームの事おしえて欲しいな。」

「はい、わかりました。僕もここにいるんで適当に声をかけてください。」

「ありがとう。」


あんまり邪魔しても悪いので、僕はパソコンの電源を入れてWEBの巡回を始めた。

ゲームの攻略サイトとかを読んでいたら、あっというまに時間が過ぎる。


「健二君、今大丈夫?」

結衣さんから声がかかったので時計を見ると、いつのまにか11時半だった。

引き篭もってからは時間が過ぎるのが早い。

「全然大丈夫ですよー。急ぐことは何にもしていないので。」


窓に顔を向けると、また結衣さんは窓から身を乗り出すようにしている。

「ネットゲームって面白いね。こんな世界があるんなら、もっと早く知りたかったな。」

「でもハマるとヤバイですよ。高校にいけなくなるくらいに。」


すると微妙な苦笑いをされてしまった。

「たしかに危険だね。それにゲームの中でも友達が出来たりするでしょ。のめり込んじゃいそうだね。」

「そうそう、リア充達はゲーム内の友達とかを馬鹿にしますけど、良い関係が出来るなら良いじゃんとかおもうんですよね。」


「そういえば昨日一緒に仲間になってくれた人たちとは友達なの?」


昨日、結衣さんのレベル上げを手伝っていたら、いつものメンバーが合流してくれてパーティーを組んだことかな。


「ええ、ゲーム内の友達です。親切な人たちなんでよく組むんです。」

「そうなんだ。ネットゲームの人って、もっと怖いかと思ったけど親切でびっくりしちゃった。」


「『怖いガチな人』と『無神経な自己中な人』と『紳士的な人』は、それぞれ同じくらいいますね。でも、仲間が増えると変な人と接することは少なくなりますよ。」

「ふーん、そうなんだ。」


なんかゲームの話を結衣さんは楽しそうに聞いてくれる。

ネットゲームの話とか、気安く他人と話してはいけない気がしていたから、なんか新鮮。


「結衣さんは午後もデイトレーダーですか?」

「今日のトレードはもうおしまいだよ。午前中に3万以上稼いだから午後はやらないんだぁ。」


なんか不思議な気がした。

「なんでですか?午後もやったほうがもっと儲かるんじゃないんですか?」


すると困った顔で微笑まれた。

「私のジンクスなだけなんだけどね。午前中に充分稼いだ日は午後はマイナスになることが多いから、欲を出さずに午後はスパッとやめるの。」

「へー、なんか不思議な話ですね。そういえば今日はコンビニになんか用あります?お昼食べたら漫画を買いに行くんで。」


すると、結衣さんはポイっと窓越しに何かを放り投げてきた。

財布と鍵だった。

慌ててキャッチできてよかった。


「ありがとう。じゃあついでにWEBマネーを一万円分お願いできる?あとウーロン茶。」


「はい。じゃあ一時間後くらいでいいですか?。」

「うん、適当でいいよ。今日は家に誰も居ないから適当に上がってきてね。」

「はーい。」


そういって僕はちょっと早い昼ごはんを食べるために1階に降りた。


ーーーー


ノックをすると返事があったのでドアを開ける。

「お邪魔します。」


ドアを開けると、昨日と同じ場所に結衣さんはぺたんと座っていた。

「ありがとう。健二君は今日も長居できるの?」


「引き篭もりですから、予定は無いので問題なしですよ。」

「ふふ、なら良かった。」


買ってきたモノとお財布と鍵をわたすと、すでに部屋の中においてあったコップにウーロン茶を入れてくれている。


この部屋に来るのは二度目なのだが、実は気になっているものがある。

パソコンのモニターだ。


ベッドとくっつくように置かれた机に、二つ並んで置いてある。

パソコンも二つ有るようだ。


「結衣さん、パソコンを二台使っているんですか?」


「まあね。本当はもう一台くらい使いたんだけど、場所が無くて。」

コップを僕にわたして、マウスを操作して見せてくれた。


「デイトレード用ですか?」

「そう、時間が無いときが多いから、画面の切り替えをしなくていいようにね。まあ二画面でも十分できているから良いんだけど。」

「へー。」


画面を見ると、ピコピコ棒グラフがリアルタイムで動いている。

それを見ながら、率直に聞いてみた。

「株って危なくないんですか?」


すると、楽しそうに言われてしまった。

「危ないよ。なんせ暴落のあった日は電車が止まるって言われるくらい身を滅ぼす人も多いからね。」

「電車が止まる?・・・・電車自殺ってことですか?」

「そう。だから他の人にはオススメしないんだ。」


危ないんだ。


「じゃあ何で結衣さんは株をやったんです?危ないのに。」


結衣さんは寂しそうに微笑むと、自分の足をパンパンと叩いてみせる。

「動けなくても出来る仕事は少ないの。まして会社員と同じくらい稼げる自宅仕事なんて殆ど無いからね。だからデイトレードを始めたんだよ。デイトレードは体のハンデは一切関係ないから。」


なんか聞いて置いて、申し訳無い気持ちになってしまったな。

「大変なんですね・・・。僕もやってみたかったですけど、気軽にやるのはやめた方がいいですね。」


その言葉に結衣さんのメガネが一瞬光った気がした。

「興味を持つだけならいいと思うよ。株を知ると日本が見えてくるから。」

「うわ、急に話が大きくなりますね」

「だって、日本の景気を考えないで株のトレードをしても失敗しかしないから。大抵の会社は日本の景気に連動した動きをするからね。お金の動きを予想できなかった人は損をして、しっかり予測出来た人が得をするのが株なの。日本の景気の動きも把握する必要があるんだよ。」


なるほど。よくわからないけど、なるほど。


「じゃあ日本の景気の波はどうやって知るんですか?」


するとパソコンの画面を操作して二つの画面を出してくれた。

「大体、三つの事を把握してればわかるの。ひとつはこのアナリストのレポートね。」


「アナリスト?」


「そうアナリストっていうのは経済についての予想を立てる人なんだけど、WEB証券取引ではどこでも無料でアナリストのレポートが見れるんだよ。何人かお気に入りのアナリストのレポート読めば大きな流れがわかるの。」


「へえ、WEB証券取引?株の売り買いするところかな・・・。無料で見れるというのは親切ですね。」


「サービスが良くないと他の証券会社にお客を取られちゃうからね。で、見る必要がある二つ目はこの為替相場ね。円とかドルの値段の所。円安か円高で相場の流れは結構変わるからね。円安なら上向く勢いが早くなるし、円高なら下向く勢いが早くなるっていわれているの。」


「なるほど・・・わからない。もっと分かりやすい見方はないですか?」


すると、二つ目の画面を指差してくれる。

「ふふ、だったら三つ目の指針ね。これを見て。これは日経平均株価といって、日本を代表する株価の値段だよ。」


「コレがわかりやすいんですか?」

「一目でわかるでしょ。この折れ線グラフが上向いていれば『景気上向き』。下を向いていれば『景気下降中』よ。」


「おお、確かにわかりやすいですね。この表だと上向きだから、日本の景気は上向き中ってことですか。」


「はい、正解です。しかもこの本日の日経平均株価の『17200円』ていうのは中々良い数字なの。ガンガン買いやすい時期と言えるかもね。」


なるほど。確かに日本の経済が少し見えた気がする。

面白い・・・そう思った。


結衣さんの画面はピコピコ細かく数字が動く。

「この数字って、24時間ずっと動くんですか?」


「いいえ、特別な場所を除き、日本国内の株のトレードは9時~11時半と12時半~15時の間だけ。今は2時だから、相場はラストスパート中かな。」


見ていると、みるみる急激にグラフが下ってきている。

「あ、経済が下ってきましたよ!」


「おお、あっぶなーい。やっぱり午後は買わなくて良かった。買ってたら午前中の儲けがマイナスになって損するところだったよ。」


そのグラフの動きを真剣に見つめた。

「今、沢山の人が損をしているんですかね。」

「そうね。でも同時に大もうけをしている人も居るんだよ。これが株の良い所でもあり、怖いところでもあるんだ。」


実感がわかないけど、今日本の経済の動きを見ているんだ。

「結衣さん、このくらいだと電車に飛込みする人っていますか?」


「絶対いるね。15分で300円も落ちたんだもの。これはヤバイよ。」


たった300円で人が自殺しなくちゃいけないほど追いこまれる世界か。

「不思議な世界ですね。」


数字の動きが止まっているので時計を見たら3時1分になっていた。

結衣さんはそっと画面を閉じる。

「今日損をした人は、明日には株価が上がってくれって祈りながら夜を過ごすのかな。でも、一週間くらい上がらなくて絶望するんだろうね。ほんと他人にはオススメできない世界だよ。」


そう言いながらWEBでイロイロ検索を始めた。

「ああ、中国株が大暴落したのか。それに巻き込まれたんだね。向こう一週間は嵐の予感だなあ。」

そう言いながらも、どこか結衣さんは楽しそう。


経済が暴落しているってことは、沢山自殺者が出るって事なんじゃないだろうか?

それなのに楽しそうに見える。


デイトレーダーさんは不思議な人達だというのはわかった。

日経平均を監視していても、為替相場をチェックしていない人は多いという噂を聞きました。為替に日経平均が連想するので、為替を見るほうが早いらしいです(噂でそう聞いただけですが・・・・)。

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