第7話 ケン、初めての近接戦闘
よろしくお願いします。
<第7話>
「いよいよお出ましか……」
森に入った以上はこうなることは予想済みだ。
こっそりとカメラで写してステータスを確認する。
「ワイルドドッグ。要するに野犬だな」
『そうですね。昨日の犬と変わりません』
「犬しか見てねえけど、よくある狼とかウサギとか出てこねえのか?」
『倒しやすそうな敵の方がいいじゃないですか』
「それもそうか。群れでいる様子はあるか?」
『それはなさそうです。これは僥倖』
「よし、やるか」
トランキリティでまずは心を落ち着かせる。
棒を軽く握って、訓練を思い出す。
やれる。
やれるはず。
そう言い聞かせて、魔物の気を引くために軽く小石を投げ、離れたところで音を立てる。
魔物の注意がそちらへ向いた瞬間、全速力でダッシュ。
慌てて振り向いた魔物の鼻っ面に、なぎ払うようにして全力で棒を叩きつける。
「ギャウン!!」
悲鳴を上げる魔物。
骨が砕ける感覚が棒を通して手に伝わってくる。
「え?」
そしてそのまま、魔物の頭部が弾け飛んだ。
赤黒い血液やら頭蓋骨の中身が飛び散った。
グロい。
「トランキリティ!」
スキルを使うと、今にも吐きそうだった気分がすっと落ち着いていく。
スキル様々である。
「……いや、まさか吹き飛ぶとは」
『ステータスのお陰ですね。この程度の魔物なら恐れることはないと』
「それがわかったのはありがたいなあ」
一撃で倒せるなら、危険度は一気に下がる。
「さて、魔物の肉は食えるかな?」
ステータスをゆっくり確認すると、美味くはないが食用になるそうな。
そして、死んだ魔物はブレイクできるらしい。
「働け、オレのイマジネーション!!」
無駄に気合を入れるケン。
「おお、やっぱり!」
管理領域には、魔物一体から「毛皮、肉、骨、モツ」と4つの素材が収納されていたのである。
ブレイク、あまりにもフレキシブル過ぎるスキルであった。
神様も驚いているに違いない。
「うむ。やはり魔法とは想像力だな!」
『神様もここまで万能なスキルだとは思ってなかったでしょうねー……』
何かを諦めた調子でリンゴが相槌を打ったのだった。
「いやー、ステータス様々ですなあ。チートその1が鑑定スキルなのがよく分かるぜ」
『異世界ですからね。その世界の情報を知る手段は必須ですね』
「ありがたい話だ」
神からもらったスキルの他にも、称号「異世界転移者」に含まれる通訳と文字の読み書きなど、様々な特典がケンには付与されているのだ。
実は。
「よし。慢心するわけじゃないが、もう少しこの森を探索するとしようか」
『了解です』
ケンは森を歩き回った。
野鳥を見つけては投石で一撃。
野犬の群れに囲まれては棒の一撃でまとめて吹き飛ばし。
猪の魔物に突進されては落とし穴に落として倒し。
気がつけばLVが4に上がっていた。
「うむ。気がついたらまた強くなっているな」
『そのようですね』
HPは400でMPは700だ。
敏捷力と精神力が70になり、残り4つは40である。
『この世界で言いますと、ざっくり20倍程度の性能差ですね……』
「それは重畳」
その時、メールの着信を知らせる音が。
「また来た」
『アレですね』
予想通り神様からのメールだった。
『順調にレベルアップしているようで良かったぞい! また新しくスキルが追加されているから確認しておくんじゃぞ? というか、ブレイクで解体とか驚いたわい。やるな、ケン! by神』
相変わらず軽い内容のメールだ。
「どれどれ。ステータス!」
09.高速回復……HPとMPの回復速度が大幅に上昇する。
新しいスキルは、地味だがとても便利なスキルだった。
検証した結果、1回復するのにかかる時間が、5分から2分30秒へと半分に短縮されていた。
「ありがたい話だぜ。また探索がはかどるな」
『ですね。奥へ進んだらもっと強い魔物が出てくるかもしれませんし、レベルアップは僥倖です』
「犬、犬の群れ、猪と来たから、次は熊かな」
『巨大ヘビとか昆虫型の線も捨てがたいですね』
そんな軽口を叩きながら、様々な素材をブレイクしまくるケン。
特に石や木材、繊維の原料はいくらあっても困らないため、積極的に貯め込んでいるのだ。
「噂をすれば、だな」
『ですね』
素早く写真に収めるとステータスを確認する。
『ステータス的には、ご主人様が圧勝ですね』
「らしいな。ここらで一丁、気張るとしますかねえ」
『危険と判断したら、即落とし穴っちゃってくださいね?』
「当たり前だ。死にたくねえ」
ここまでの魔物との戦いで、だいぶ頭と体が慣れて来たようで、強敵と直接対決する気になったようだ。
空を飛ぶ魔物ではない分、いざとなったら穴に落とせばいいと思えるのも一因か。
クマの魔物は、人間など敵ではないとたかをくくっているのだろう、悠然とした足取りだ。
確かに普通の人間なら、熊のスピードとパワーに叶うはずがない。
だが、ケンはすでに普通の人間ではない。
「先手必勝!!」
拳大の意思を取り出すと、大きく振りかぶって思いっきり投げる。
ボッという音を立てて、猛スピードで飛んでいく石。
さすがに音速には達していないようだが。
「グアアアアアッ!!」
石弾は、狙いたがわず熊の右肘のあたりに命中し、前腕分を引きちぎった。
痛みか怒りか、雄叫びをあげて熊がケンに向かって突進してくる。
「見える! 私にも見えるぞ!……って1度は言ってみたかったぜ!」
有名な赤い人のセリフを叫んでご満悦のケン。
まあ、一般人の3倍以上の速度は軽く出ているのだが。
冗談はさておき、ケンには熊の攻撃がスローに見えていた。
レベルは魔物の方が上なのだが、敏捷度ではケンの方が倍近いのだ。
体力と生命力で若干負けているくらいか。
「当たらなければどうということはない!」
ひらりひらりと攻撃をかわしながら棒を叩きつけていくケン。
「ダメージ入ってんのかな、これ?」
『微量ですがHPは減っています。しょせんひのきの棒ですから』
「ま、チマチマ削るか!」
ローキックを入れ続ける空手家の如く、足を重点的に攻めるケン。
『流血によるスリップダメージも入っているようですね』
「お、先手必勝にも意味があったな……ぬあ!?」
思い切り叩きつけた棒が折れてしまったことに驚くケンだったが、慌てず騒がずブレイク&クリエイトで新たな棒を取り出すとまた殴り始める。
そして、ややしばらくして、ついに熊が倒れた。
「よっしゃあ! 獲ったどー!!」
棒を天高く突き上げて、勝利の雄叫びを上げるケンであった。
ちなみにレベルも上がった。
実は強敵だったクマなのである。
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