第6話 ケン、森で食料を手に入れる。ついでに神託
第6話です。
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<第6話>
『ケン……。ケンよ……』
熟睡していたケンに誰かが呼びかけてくる。
「うう、あと5分……」
『そのようなお約束をしている余裕はないのです……』
何やら焦ったような女性の声がする。
リンゴの声ではない。
「なんだ、夢か……」
『確かに夢なのですが……。とにかく話を聞いてくれませんか……?』
「泣きそうな声出すなよ……って誰?」
『私はこの世界の神、アドです……。この度は世界再生の仕事を請け負っていただきまして誠に……』
「ああ、礼はいいよ。オレも十分楽しめそうだしな!」
魔法という反則ツールを手に入れて、思う存分モノづくりができるだけでケンは満足だった。
そのついでで荒れ果てた世界を立て直してもいいと思っていた。
『そう言っていただけたら気が楽になります。世界が荒廃してしまい、私の力もとても弱まっておりまして……。世界が復興していくたびに、私の力も強まっていくはずです』
「そうなのか。あんたの力が戻ったら、魔物とかいなくなるのか?」
『減るはずです。ああ、もう時間が……。せめて私の加護を。どうか世界をよろしくお願いします』
そういうと、この世界の神、アドはゆっくりとフェードアウトしていってしまったのだった。
「適当にがんばるぜー」
どこへともなく手を振ると、気の抜けた言葉を発するケンだった。
ワンルームの中に、軽快なポップスが鳴り響く。
もちろんリンゴが気を利かせてセットしたアラームが鳴っているのだ。
「朝だー」
『おはようございます、ご主人様。通常通り午前7時に鳴らしてみましたが』
「相変わらずいい仕事だ。さて、ステータス!」
夢の中での出来事を確認するべく、ステータスを開くケン。
確かにそこには「04.アドの加護」という称号が増えていた。
「ふむ。神様も大変だのう」
『神託を送るにも力が必要ですからね』
「力尽きないといいな」
そう言ってステータス画面を閉じて、とりあえずストレッチをすると、顔を洗う。
「うーむ、何とかして着替えを作るしかないな」
倒れて死んだ時のジャージ上下だけでは流石に困る。
『それを素材にして新しくジャージを作れば良いのでは?』
「リンゴ、お前天才だな!」
『ご主人様はどこか抜けていますからね』
「うっさいよ」
ジャージの上下をブレイクしてポリエステル製の布地に変換。
クリエイトで自分が気に入っていたジャージを生み出す。
Tシャツとニットトランクスも同様だ。
下着は死活問題だが、これで解決である。
「MPはかかるが、洗濯いらずで便利かもしれん」
『大量にMPが確保できるご主人様だけの荒技ですけどね』
「持っているものを使うだけだからな。不公平は仕方あるまい」
土壁を一度消して、自分の領域の外側へと警戒しながら踏み出すケン。
「とりあえず魔物はいないようだな」
『そのようですね』
廃村に残されていた素材はほとんど管理領域に保存されている。
いずれここを引き払う時には、全部まとめて素材にしてしまう予定だ。
今は、自分の家の周囲に障害物がある方が都合がいいというだけだ。
「今日は一日中一杯、周辺部の探索だ。向こうに見える山なんかも含めてな」
『そうですね。その辺に生えている野草だけではお腹も膨れませんし』
「そうなんだよ。肉とか炭水化物食いてえなあ」
『昨日潰した犬型の魔物の肉は美味しいかもしれませんよ?』
「貴重なタンパク源だな」
とりあえず木材をコンストラクトで丈夫な木の棒にして、武器にする。
「しばらく前に、ネタにするために棒術を習ったのがここで役に立つわけだ」
『ご主人様は、普通の人間に比べるととても濃い人生送ってますからね』
「人生太く長くがいいな」
モノづくりに全ての情熱を注いでいたケンは、様々なものを自作していた。
そして、作ったモノは、当然使ってみたくなるわけで。
彼は、自作の道具を使いこなすために様々なプロに弟子入りまがいのことをしていたのであった。
「まずは、食料といえば森でしょう」
『では、あちらの山と森を目指して参りましょうか』
「乗り物がないからな。自前の足が頼りだよ」
『ステータスの恩恵を思い知るといいですよ?』
レベルアップしたステータスの力はすごかった。
「今なら短距離でもマラソンでも世界を狙えるな」
走るスピードも持久力も、日本にいた頃とは段違いだった。
軽いランニング程度では疲れを感じることもなく、どこまでも走っていけそうだ。
荒れて草ぼうぼうになってはいるが、道が残っていたこともプラスに働いた。
「さて、何が出てくるか」
警戒しながら、ゆっくりと森に足を踏み入れる。
飛び道具になるように、手頃な大きさの石を拾っておくことも忘れない。
「む、このツルは……」
地面をブレイクすると、土がごっそりと消え、大きな山芋が現れた。
生命体はブレイクできないしクリエイトできないの法則である。
「どこからどこまでが生命体なんだろうな。食材は生命か?」
『要検証ですね』
ツルを切って山芋を持ち上げる。
地面に置いた山芋をブレイクすると、管理領域に収納できた。
「スーパーに売ってる状態になったら素材ってことでいいかな」
『ご主人様の思うようになさるといいかと』
そんな調子で、自生している芋やら木の実やらを採集していくケン。
自給自足のサバイバルも、彼はお手の物であった。
某日曜夜のアイドルたちも真っ青だ。
『ご主人様』
「おう」
小さくリンゴが注意を促す。
ケンの視線の先には、昨日倒した犬型の魔物にそっくりな魔物がいたのだった。
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