第1話 ケン、創造神に出会う
第1話です。よろしくお願いします。
第2話は0時の予定です。
<第1話>
「ここは……?」
知らない天井だ、という常套句が建の頭に浮かんだが、残念ながらここには天井がなかったのでグッと飲み込んで我慢することにした。
建が辺りを見回すと、ただただひたすらに広がる乳白色の空間。
目に優しい白い世界だった。
上下左右の区別さえ曖昧で、何やらほんのりと暖かい。
「あれか、これは死後の世界ってやつか。大霊界か!」
動画投稿者の性とでもいうのか、どんな状況でもついついネタをはさんでしまうのは建の悪い癖だ。
「だが断る!」
乳白色の世界でドヤ顔をする建。
「とはいえ、成仏できずにこんな世界を彷徨うってのもぞっとしない話だな。どうしたもんか」
腕組みをして首を捻る建。
自身もたった今まで乳白色の光の塊だったのだが、いつの間にか生前の姿に戻っている。
『さすがじゃのう。それほど我が強ければ問題あるまい』
「誰だ? オレの他にも彷徨ってる奴がいるのか?」
どこからともなく聞こえてきた爺さんボイスに、思わず返事をしてしまう建。
『ワシは彷徨ってなどおらんよ。何せ神じゃからのう』
「神様キター!!」
建が叫ぶ。
『そんなに喜んでもらえると嬉しいのう』
「さあ、神様。オレを早く生き返らせてくれ。オレに作られるのを待っているモノ達がまだまだいるんだ」
『ほっほっほ。さすがは「創造主」とまで呼ばれた達人よ。神に愛されたものとはよくいったものじゃ』
自称「神」はそういって笑う。
『わたしの加護を得るほどの者ですからね。当然です!』
「もう一人キター!!」
突如会話に参加してきたお姉さんボイスに、またしても叫ぶ建。
「神様が二人も。いや、神様だから二柱か。まあいいか。なおさら早く生き返らせてくれよ!」
『それはできんのじゃ』
「何故に? why?」
速攻で却下された願いに意義を唱える建。
『不可能ではないが、色々と問題があってのう』
『この世界の理を外れるからねえ』
若干申し訳なさそうな雰囲気がセリフに漂っている。
「そうなのか……。そこをどうにかならないか?」
『多少お主の願いとはずれるかもしれんが、どうにかする方法が無いわけではないぞい』
「じゃあそれで頼む」
即答する建。
『詳しい中身を聞かずに即答していいの!?』
「女神様よ。オレにとってモノづくりは何者にも代え難いことだ。それができるならオレは構わん」
『さすがじゃのう……』
何やら神にまで呆れられてしまったらしい建だった。
『創造神さま……?』
『うむ。説明してやるが良いわい』
『あのね……』
そう言って女神は話し始めた。
この世界での復活は難しいこと。
しかし、別な世界での復活なら可能なこと。
ただし、その世界は荒廃してしまっており、魔物が徘徊する危険な世界であること。
故に、建の力を大いに発揮して、その世界を建て直して欲しいこと。
「異世界転生キター!!」
創屋建、3度目の叫びであった。
『異世界の神でも、多少のつながりがあってね。世界そのものを再建するような仕事を任せられるような存在を探しているって言っていたの』
『それがお主というわけじゃよ。行ってくれるか?』
「勿論だ。ただのモノづくりを超えて、世界まで作れるとか何のご褒美ですか!?」
鼻息荒い建。
「しかし、いくらなんでも壮大な仕事過ぎるんじゃないか。ただの人間には」
確かにその通りだろう。
魔物が徘徊するような危険な世界で、いかにモノづくりに優れていようとも、ただの人間がそんな大それたことができるとは思えない。
『そこでワシらの出番じゃよ』
『そうよ。一つの世界を建て直してこいって言うんだから、それなりの便宜は図るわ』
随分と人間臭い物言いだが、便宜を図ってもらえると言うならば異存はなかった。
『ワシからは、モノを生み出し、分解する力を』
『私からは、創造したモノを保存し、取り出す力を』
そう言うと、二柱の神から青白く輝く光の玉が発せられ、建の体に吸い込まれた。
「おお、何だかよく分からないが力が」
『詳しくは現地で色々試してみると良いぞい』
『ここで一から十まで詳しく説明はできないし』
「それもそうか。すまないな」
ゲーマーとしては、自分で検証してみることも大事だ。
実地で検証していないものはデータとしては不完全であるからして。
「すまないついでに、一つお願いがあるんだ」
『何かしら……。できることなら叶えてあげたいわ』
女神から困惑した雰囲気が感じられる。
「オレが愛用していたタブレットがあるじゃないか」
『ええ。それが?』
「それを持ち込みたいんだ」
建は、ここ最近の自分の相棒ともいうべきタブレットを連れて行きたいのだと言った。
あの中には、これまで自分が作った様々なモノに関するデータや写真、設計図が収められている。
異世界でもそのデータは、きっと自分の助けになるだろうと思うのだ。
『よかろう』
『良いのですか?』
『仮にも世界を一つ立て直そうというんじゃ。それくらい構わんじゃろう。……その方が面白そうじゃし』
『創造神様?』
最後のセリフは聞かなかったことにしたい。
『これも異世界転生に付き物の「ちーと」という奴じゃよ。折角じゃから色々機能も付けてやろうかのう』
突然、建愛用のタブレットが現れる。
それに、何やら先ほど建に飛び込んだような光球が幾つか吸い込まれていく。
『あ、じゃあ私も』
その流れに乗り遅れまいと、女神からも光球が幾つか飛び出しては吸い込まれていく。
「だ、大丈夫か?」
次々と吸い込まれていく光球によって魔改造されていくタブレットに若干不安を覚えた建だったが、今更どうしようもないのですっぱりと諦めることにしたようだ。
『こんなもんかのう』
『そうですね』
やはり神々も魔改造は好きらしい。
改造にはロマンが詰まっているものだから。
「ありがとう。これで心置き無く旅立てる」
『それは良かったわい』
『なかなかに大変そうな仕事だけど、よろしく頼むわね』
「任された。じゃあ、ちょっくら行ってくるわ」
軽い感じでそう言うと、建はタブレットを持つと、挨拶するように片手をあげる。
「そうだ、クローゼットの奥にある秘密の本とか薄い本とかハードディスクの中の危ないデータとか、その他諸々も気掛かりだな……?」
『……処分しておくわよ』
「頼んだぞ」
それだけ念押しすると、建はどちらへともなく歩き出す。
歩き出した建の目の前に、ぐるぐると渦巻くオレンジ色の光が。
「あれか、旅のと◯ら的な、ワープゲート的なアレか?」
そう呟くと、何のためらいもなくその渦の中に身を躍らせる建。
剛毅な男である。
『行ってしまったのう』
『行ってしまいましたね』
『上手く行くかのう?』
『きっと行きますよ。彼ですから』
『そうじゃのう。首尾よく全てが終わったら、こっちの世界で生き返らせてやるかのう?』
『いいのですか?』
『少しくらい構わんじゃろう。なんせワシ、最高神じゃし』
『それもそうですね。まあ、彼が望めばですけどね』
『そうじゃの。それまでは、建の旅を動画仕立てで見て楽しむとするかのう』
『いいですね。お供しますよ』
二柱の神が半実体化すると、目の前に巨大なスクリーンが現れた。
ゴッドなチューブであった。
神々も退屈であるらしい。
こうして、かの世界でも「創造主」として名を轟かせることになる、創屋建の異世界道中は幕を開けたのであった。
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