プロローグ
思いつきを形にして見ました。
力を抜いて、何となく読んでくれたら嬉しいです。
<プロローグ>
LED照明に照らされた、雑然とした部屋。
壁際に設置されたパソコンデスクと、その前に置かれた高級そうなゲーミングチェア。
タワー型のデスクトップの排熱ファンが低い音を立てている。
30インチ以上はある高価な液晶ディスプレイに映し出されていたのは、驚くほどのリアリティに溢れた某有名アニメの空に浮かぶ城であった。
「やっと完成したぜ!」
何やらワイヤーフレームによる設計図的なモノが映し出されたタブレットをデスクに置くと、ゲーミングチェアにもたれて大きく後ろに反り返るように伸びをする男。
短く刈り込んだソフトモヒカンにジャージという、オシャレ感のかけらもない格好だ。
「あとは、これまでに撮りためた作成過程の動画を編集したりボイスつけたり……。まだまだやることあるな。でも、飯の種だしな。頑張るか!」
某有名サンドボックス型ゲーム上で、現存する有名な建築物や創作上のシロモノを再現する「創造主」とまで呼ばれる世界的に有名な動画投稿者。
それが彼、「創造主」ケンである。
彼の本名は「創屋 建」という。
遡れば、はるか江戸の時代から続く「モノづくり」の名家。
細工物から建築物までなんでもござれ。
個々人で発揮する才能の方向は違うものの、何かを「つくる」ことに関して異常なまでの、それこそ「神に愛されている」としか思えないほどの才能を発揮する一族。
彼も例外ではなかった。
幼い頃から、実物、非実物を問わず「モノづくり」に強い執着を見せた彼。
数学を基本に、物理や化学、工芸、美術、果てはプログラミングまで、ありとあらゆるものに貪欲に手を伸ばし続けた彼。
小中高と異端と呼ばれながらも自らの道を邁進し。
大学も国内の有名な工業系大学に進学し、様々な業績を残した彼。
今は何故か動画投稿者だったりするのだが。
「何せ、役に立つかどうかもわからないものをつくってるからな。それが金になるなら最高だ」
彼はそう言って、自らが「モノをつくる」過程を投稿し続けているのである。
そのマルチな類稀れなる才能を世界に発信し続けている彼は、自らの技術と才能だけで多額の収入を得ているわけだ。
何もゲーム内の作品だけをアップロードしているわけでは無いのである。
工作だったり、化学実験だったり、時にはリアル建築だったりする。
この間は、全て手作りの寄木細工だったりもした。
「こうやって自分の作品が、手軽に世界中に発信できるなんて、作り手冥利に尽きる時代だな」
彼はそう呟くと、飲み物を作るためにゲーミングチェアから立ち上がろうとした。
その時。
「あ?」
自らの視界がぐらりと傾く。
「地震か?」
そんなことを考えた時には、どさっという音ともに床に彼の体が叩きつけられた。
「あれ、オレが倒れてるのか?」
急激に意識が薄れていく。
「待てよ。まだだ。まだまだオレにはつくりたいモノがたくさんあるんだぞ……」
遠のいていく意識の中、彼はひたすらそのことだけを考えていた。
死ぬことよりもモノが作れなくなる。
そのことの方が、よほど彼には口惜しかった。
創屋 建。
享年24歳。
「創造主」とまで呼ばれた天才の、短過ぎる生涯であった。
次話は22時を予定。