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67.いつも通りの日々が続くと

訪問販売員一人称語りです。


 公園の家に帰って、またいつも通りの日々が続くと、そう思っていました。確かに、私は今までと同じように、宇宙人であることを隠し、高級訪問販売員Uとしてひっそりと宇宙っぽいものを売りつける仕事を続けました。

 ところが、私には他にも仕事がありました。



 あの事故の日から5日が経った日のことです。

(ゆー)さん、ちょっと良いかい?」

 私の段ボールハウスにお隣の(てー)さんがやってきました。彼は私の家の入口にかかっている布を開けてちょこんと家の中を覗いていました。

「Tさん、どうぞ。どうしたんです?」

 私はTさんを家に招き入れて、最近購入した座布団を勧めました。

 彼は小さ目の段ボール箱と封筒を持って入ってきて、座布団に座りました。

「訪問販売員Uに届け物だよ。ほら」

「これ・・・」

 Tさんが持って来た手紙にも、段ボールにも私宛の名前が書いてあります。でも、彼には読めないはずの、星での私の名前が記されていました。

「また誰かに頼まれたんですか?」

「まあな。まあ、開けてみろ。ちょっと説明するから」

「説明?」

 私は少し訝しみながらも、とりあえずは手紙を開けました。

 あの日の「恩赦」のことを思い出すと、少し心が苦しくなるような、背筋が伸びるような緊張が襲ってきました。

 あの手紙を失くしてしまったために、再発行されていたら、私は星へ帰るでしょうか。星からの正式な命令をうやむやにしてしまってはいけないでしょう。

 ところが、そこに書かれていたのは意外なことでした。


―任命状―


 それは星からの任命状でした。

 私に日本での監視員の役を任命するというのです。

 どういうことか分からずに、怪訝な顔をしていたのでしょう。Tさんが少し笑いました。

「こっちの箱を開けてごらん」

「はい」

 私は言われるままに、その小さな段ボール箱を開けました。

 中には小型の通信機が入っていました。星のものです。

「これって」

「使い方はわかるだろう?俺も同じものを持ってる」

「え・・・?」

 Tさんは私に分かりやすく説明してくれました。



 それによるとどうやら私は、星から日本に来た人間が、宇宙人の秘密をバラさないかどうかを見張るという監視員に任命されたと言うのです。

 Tさんも同じ職についているそうです。つまり、今まで私のことを監視していたらしいのです。

「すまなかったな。まあ、別にずっと見張ってたわけじゃないさ。お前さんはそうそう、バカなことをやらないし、自分の始末は自分でできたからな」

「はあ」

 私の間抜けな反応に、Tさんはますます笑いました。そんなに変ですかね。

「ま、気持ちはわかるさ。星の方もな、お前さんのことを考えて、こっちにいる方が良いだろうって言うんで、こうして仕事にしてくれたのさ。

 もう、罪人扱いじゃないから、時々は星にも帰れるし、手紙だって出せるさ。そのための通信機だしな」

「つまり・・・私はもう流刑の身じゃないんですね?」

「そうだ」

「でも、宇宙船、飛んでっちゃったんです」

「俺ので良ければ、使っていいぞ?」

「いいんですか?」

「そりゃな」

 Tさんは別に、大したことないように笑っていました。

 本当にいいのでしょうか。私は罪人として流刑にあったのに、そんなに自由な身になるなんて。

「あの星のやり方が合わないヤツだって、そりゃいるさ。だから、こうして自由をくれるんだよ。俺もそうだし、この公園には同じように流刑でここに来て、喜んでここに住んでいるヤツが何人もいるのさ」

 それを聞いて、私は驚愕しました。

 初めてこの公園に来た時に、同郷者がいると思ったこと、それが勘違いだったと思ったことは、あながち間違いでもなかったのです。

 全部が全部同郷者ではないでしょうが、言われてみると、やっぱりあの宇宙船だと思われる段ボールハウスはチラホラ見かけました。

 この公園は私のように、星に馴染めなかった者の楽園だったわけです。

 私は、自由を与えられていたんです。


--- --- ---


「おや、新入りさんですか。場所が見つからないようでしたら、お隣にどうぞ」

 私はウロウロ公園を歩いている不審な宇宙人に声をかけました。

「アリガトゴザイマス」

 彼はやっぱり宇宙人ですね。まだ、言葉が馴染んでいません。

 それで私は早速、日本のことをそれとなく教えてあげました。彼は自分をV(ヴぃー)と名乗りました。私の次に来たVさんですね。

 そうやって、私は監視員の仕事をしました。



 でもやっぱり、こちらの方がずっと楽しいです。私は今日も高級訪問販売員Uとして呼び鈴を押しました。

― ピンポーン ―

 ドタドタドタドタ・・バン!

「いらっしゃ~い!(ゆー)さん、お待ちしていたわ~ん!」

 ひきつった顔を悟られないように、私は笑顔で会釈をしました。

 今日もまた、どうぞご贔屓に。





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