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64.探すの得意なの

 宇宙船がなければ、私は星に帰ることができません。

 ちなみに、宇宙船の中には私の罪を許す恩赦の証明が記してある通行手形が入っていました。というか、置きっぱなしになっていました。あの黄色い手紙と一緒に入っていた、白い小さい方の紙のことです。

 あれがなければ、私は宇宙を渡れません。アレがなければ星に帰っても入れてもらえません。再発行とかしてくれるのかも想像できませんが・・・

 宇宙船も通行手形もないのなら、帰れないですから。

「帰れなくなりました」

 私が笑顔で言うと、由さんと柚さんが目が飛び出るほど驚いた顔をして、それから二人でゆっくりと顔を見合わせて、そこらじゅうの空気を吸い込んで

「えええええー!」

 と叫びました。



 微笑んでお二人を見ていると、由さんが急に改まった顔をしました。

「でも、どうするの?帰れなくなりましたって・・・帰りたいでしょう?」

「良いんです。宇宙船も通行書もなければ、帰れませんから」

 私がさっぱりとした顔で答えるのが、お二人には腑に落ちないようで、また同じ質問をされました。

「でも、帰りたいでしょう?」

「そうですね・・・妻には、一度謝りたいと思いますが、私は日本で暮らしたいと思いますよ」

「ホントに?」

 良いハモりですねぇ。うっとりします。

「本当です」

 私が頷くと、お二人は急にホッとしたような、柔らかい笑顔になりました。

「良かったぁ」

 お二人は本当に喜んでくれました。こんなに怪しい宇宙人の私が、日本に残ることを喜んでくれるなんて、変なことですよね。



 私たちは高台を後にしました。

 もうここには用はありません。私の娘はとっくにこの高台から出て、私の宇宙船も勝手に星に帰ってしまいました。

 星のほうはきっと驚くでしょうね。恩赦と書かれた通行手形を持った猫が乗っているのですから。あ、ちなみに、猫は宇宙にもいますよ。日本の三毛猫はいませんが、似たような種類の猫はたくさんいます。ペットにする人はあまりいませんがね。多分、私たちの星の人間から見ると気まぐれすぎるのでしょうね。

「これからどうするんですか?」

 歩きながら先ほどよりずっと顔色の良くなった由さんが聞いてきました。

「そうですね、とりあえずは(てー)さんが待っていますから、あの段ボールハウスに戻ります。それから、しばらくは今まで通り訪問販売を続けるつもりです。アレが結構楽しいんですよ。そして・・・娘を探します。どこにいるか探して、陰ながら娘の成長を見守るつもりです」

「お父さんだよーんって言っちゃえば良いじゃない」

「そういうわけにはいきませんよ」

 柚さんは、もう、ノリが軽いですね。

「でも、そういうことなら私たちも協力してあげるわ。私、人、探すの得意なのよ」

 あー、なんとなく分かります。私はどうしても、柚さんに見つけられてしまいますから。なんていうんですかね、執念というか怨念というか、そういうものを感じますよね。

「ありがとうございます」

 とりあえず、こう答えておくのが良いでしょう。



 宇宙船がなくなったことで、私は急にふっきれました。ずっと、星に帰ることに固執していたのがバカバカしいほどです。

 だけど、その前に、由さんと柚さんが、何度も私に聞いてくれなければ、私は宇宙船がなくなった時に、きっと嘆いたことでしょう。どうして自分ばかりこんな辛いことが起こるのかと。

 由さん、柚さん「どうして星に帰るの」かと聞いてくれてありがとうございました。おかげで、私は自分を見つめ、また自分の本心に気づくことができました。

 考えてみれば、自分の心を見つめることをしたことってありませんでした。いつも、誰かの言いなりになり、大丈夫と言われることだけをしていました。だけど、自分の気持ちで考えることも必要なんですね。

 そういう意味では、由さんと柚さんは、自分の気持ちをよく考えているんだと思います。そして、日本人らしく、相手の気持ちも考えられるのでしょうね。そこが居心地の良いところです。

 ああ、本当に、日本にくることができて、そして彼らに会うことができて良かったです。

 私は日本で生きて行きます。6万日になるその日まで、訪問販売員Uとして働きたいと思います。


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