表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/67

63.家の一部が

 私が途方に暮れているその時でした。高台のベンチに人がいるのがわかりました。こんな暗い時間に人がいるのを初めて見ました。

「お、やっぱり(ゆー)さんかい」

 そのベンチの人は、私を見つけると声をかけてきました。その声は

(てー)さん?どうしてここに」

 驚いていると、Tさんはこちらにやってきました。由さんと柚さんは私の後ろに小さくなっていました。大丈夫ですよ?別に怖い人じゃないですよ?

「お前さん、探してたんだよ。さっき、このお嬢ちゃんたちがお前さん探してたからよ。そんで、ちょっと俺もさがしてたらよ、お前さんとすれ違ったんだよ。気づかなかったか?」

「全然」

 気づきませんでした。どの辺ですれ違ったのでしょうか。あの細い道だったら絶対わかると思うのですが。

「ま、いいや。とにかくここに来たら、お前さんの家の一部が残ってたからよ、まだここに戻ってくるだろうと思って待ってたのよ」

「そうだったんですか。すみません・・・で、私の家は?」

「それがよ、中に猫が入っちまってよ、そしたらそのままシューって言って、ヘロヘロ飛んで行っちまったんだよ」

「は?」

 由さんと柚さんが声を出しましたが、私は息を飲んだだけで何も言えませんでした。

「お、俺は何もしてねぇよ?ホントよ、猫が悪いんだよ、猫がお前さんの家入って飛んでっちまったんだから」

 (てー)さん・・・その話し、誰にも言わないでくださいね。

 私の宇宙船、猫が乗って行ってしまったみたいです。

 私はなんだか、笑いがこみあげてきました。



 私はクスクス笑いが止まりませんでした。

「す、すみません、(てー)さん。ちょっと実験していたんです。猫が乗ってしまったのは予想外でしたけど、飛んだなら大成功です。明日日が出たら、どこに行ったか探してきますね」

「はあ、なんだ実験だったのかい。じゃ、(ゆー)さん、また帰ってくるよな?」

「え・・・」

「俺んちの隣」

 (てー)さん。Tさん、もしかして知っているのですか。私がどこかへ行こうとしていたことを。そんな顔でした。

「はい、勿論」

「そうかい、じゃ、俺は先に帰ってるな」

 Tさんは笑顔になって帰って行きました。

 Tさん、私のこと心配して探しに来てくれたんですね。何も言わないで出てきた私のことを、気づいて探してくれたんですね。

 しかも、私の家が置きっぱなしになっているからって、ずっと見ていてくれたなんて。

 良い人ですね。

 本当に、日本人はこんなに良い人ばかりです。少なくとも、私が出会った人たちはみんな優しい人ばかりです。



 私がしんみりと(てー)さんを見送っていると、由さんが聞いてきました。

「で、ハニューシカさんの家に猫が入って飛んでっちゃったって、どういう意味?」

 はあ、そのフレーズだけ聞くと、さっぱり分からないですよね。

 家に猫が入って飛んでった。って、ねえ~?

「つまりですね・・・宇宙船を置きっぱなしにしたらですね、猫が入ってしまって、スイッチを押してしまったようなんですよ」

 私の説明では分からないようで、二人は口をポカーンと開けたままでした。少しの間そのまま止まっていたお二人は、ブルっと頭を振って、まずは柚さんが生きかえりました。

「ハニューシカさんの家っていうのは?」

「家が宇宙船なんです」

 私は事実を言うだけです。だけど、お二人はまたポカーンとしてしまいました。

「ハニューシカさんの家って、段ボールハウスですよね?」

 やっと由さんが生きかえりました。

「そうですよ?」

「段ボールが家で、宇宙船で、猫が操縦して、飛んでっちゃった、ってことですか?」

「そうです」

 さすが由さん、実に順序立てて説明してくれました。私はにっこりと頷きました。

「ん~~~~~・・・」

 由さん、大丈夫ですか。

 と、思ったら彼は全然大丈夫でした。この双子は実に前向きなんですよね。

「分かった!段ボールに見える宇宙船ってことだ。それは分かった。それは分かったよ。だけど、宇宙船が飛んでっちゃったって、つまり、ハニューシカさんの宇宙船がなくなっちゃったってことでしょ?どうすんの?帰れないじゃない!」

 その通りです。

 ま、この場合、一番取り乱さなければならないのは私のはずですが、私は意外にも冷静でした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ