61.高台から発射したら
ハニューシカさん一人称語りです。
お二人は、私が星へ帰らなければならないことを分かってくれたようです。でも、私は彼らの質問に答えた時に、自分の心がわかりました。
私は、星へ帰りたいわけではないのだと。命令だから仕方なく帰らなければならないのです。
確かに星は私の故郷です。星は私を育ててくれました。嫌な思いもしたことはありません。基本的に言うことを聞いていれば、うまくいくようになっているのです。誰もが羨む、平和で健康で長生きの星ですから。
だけど、何かが、違うんです。
だから私は、星のやり方に反発して娘をさらったのでした。
反発した途端に、星は私を追放しました。
追放されて、流刑にあった時、私は言うことを聞いていれば良かったのにと後悔しました。言うことを聞いていれば追放されるようなことはなかったのです。あの星での唯一の禁忌である、人数管理を覆すようなことをしなければ良かっただけなのです。
だから初めのうちは、やっぱり私が悪かったと思っていましたし、日本に来てしばらくは、星に帰りたいと思っていました。
今でも表面上は、私が悪くて、星に帰りたいと思っています。それは何か星の呪いのようで、私をがんじがらめに縛っているのです。
だけど、さっき私の口から出たものは、命令だからしかたがなく帰る、という言葉でした。
そうです。私は日本が大好きです。
日本にいる、娘のそばにいたいですし、成長を見届けたいです。それに仲良くなった由さんと柚さんとも離れがたいのです。
でも帰らなければなりません。星からの命令ですから。
私は星の人間です。星の決まりを守って生きる人間なのです。
私たちは高台へ移動することにしました。
お二人は、私をぜひ見送りたいと言ってくれたのです。
「ねえねえ、宇宙船ってどんなの?」
柚さんはかなり興味があるようでした。まあ、当然ですね。
本来ならば、絶対に日本人に見せてはいけないものですが、彼らは私のことを口外しませんし、私がいなくなってしまえば、何もできませんから、特別にお見せすることにしました。多分監視の方も、何も言ってこないと思います。
「どんなのと言われましてもですね、そうですね、一人乗りですから小さいですよ」
「やっぱり円盤みたいなの?それともロケット型?」
「形で言えばですね、乗用車みたいですよ。ワンボックスの」
「それってタダの四角ってこと?」
「まあ、そうですね」
そう言うと、お二人はゲラゲラ笑っていました。
「でも、高台から発射したら、それこそみんな見るんじゃないの?」
「なぜですか?」
「だって、すごい光ったり音がしたりするんじゃない?」
「いえ、そんなにうるさくないと思います。自転車くらいだと思います」
「自転車?」
そんな素っ頓狂な声をださなくても。お二人とも、やっぱり想像できませんか。
「私が来た時も、誰も気づかなかったと思うので、お二人が想像するほどはうるさくも光りもしないですよ」
「そうなの?来た時はどこに降りたんですか?」
「あの公園ですよ。ブルーシートゾーンのそばです」
「マジで~!?」
「うそー!」
「本当ですってば」
「だって、隕石の話とかなかったし、広いとはいえ、あんな住宅街のど真ん中に宇宙船が降りてきたらパニックだよ?」
柚さんが何を想像しているのか知りませんが、多分相当違うはずです。
「まあ、見たらわかりますよ」
何だかわからない優越感を覚えながら、私たちは商店街の坂道を登って行きました。