59.日本人が考える宇宙人の姿
由くん一人称語りです。
ベンチに座って少し落ち着くと、柚が背負っていたリュックからタッパーを取り出した。それからポケットの中をゴソゴソと探して、例のチャームも出した。
「ハニューシカさん、これ、そらちゃんに作ってあげたの」
柚が気持ちの悪い宇宙人のチャームをハニューシカさんに見せた。ハニューシカさんはそれを受け取って、手のひらに乗せて見ていた。
もう暗いし、街灯の明かりだけで見るとまた格別に不気味だった。
ハニューシカさん、素直に気持ち悪いって思ってる?
「このゴム紐は、私の星の・・・」
「そ。そらちゃんがね、日本で一人で生きて行くなら、お父さんのこと誰も教えてくれないだろうけど、それだけでも持ってて欲しかったの。だから、急いで作ってさっき渡しに行ったら、もういなくなってて、すごく、びっくりしたの。ひとこと言ってくれればよかったのに」
「すみません」
ハニューシカさんはなんだか小さくなって謝っていた。もともとこの人って、すごく子どもっぽいんだよね。初めて会った時も可愛らしい高校生に見えたけど、今はいつものスーツじゃなくて僕たちと変わらないパーカーとデニムだから、いつもよりずっと子どもっぽく見える。
だから、なんかこうやって柚がズケズケ言うと、いじめてるみたいだ。そんなつもり、ないからね。
「今から、なんとかそらちゃんに渡せない?」
柚がそう言うと、ハニューシカさんは首を振った。
「ちょっと難しいと思います。なにせ私は、どんなご夫婦にもらわれたのか知らないのです。それに、今は事故があったばかりで所在が分かりませんし」
「そっか」
柚も少し残念そうだった。
「じゃ、それハニューシカさん持ってて。もし、渡せたらそらちゃんに渡してあげて。無理だったら、ハニューシカさんが記念に持って帰って良いわ。日本人が考える宇宙人の姿だから、ソレ」
柚が笑いながら言った。
日本人が思い描く宇宙人は随分と気味が悪い。本物は僕たちと何も変わらない(内臓は違うらしいけど)高校生みたいなおじさんなのにね。そう思うと、僕も笑った。
多分柚は、ハニューシカさんがそれをそらちゃんに渡せなかったら、同じものをもう一個作るんじゃないかな。それで、絶対根性でそらちゃんの居所をつきとめて、渡しに行くに違いない。絶対そうだ。柚はそういう変な根性があるのを、僕は知ってる。もう二度と会えないなんて思わないことが素晴らしいことだと思うんだ。
「それから、これも」
柚はタッパーのふたを開けた。
中にはあの3連の折り鶴が入っていた。ああ、鞄の中でつぶれないように、タッパーに入れたのか。頭良いね。
「これは折り鶴って言ってね、日本には折り紙をする文化があるんだけど、その中でも、相手の幸せを願って折るものなの。だから、ハニューシカさんが星に帰っても、幸せでいられるように。これは、ハニューシカさん、これは奥さん、これがそらちゃん、で3人一緒にね。私たちのことも忘れないで欲しいから、5連にしようかと思ったんだけど、ちょっと難しくてできなかったから、せめて折り紙を見たら、日本のことを思い出して」
柚はそう言いながら、ハニューシカさんの手にタッパーごと折り鶴を置いた。
「ありがとうございます」
ハニューシカさんは愛おしそうに折り鶴を眺めていた。それを見ていると、彼が日本のことをすごく好きだったんじゃないかなって思った。
僕たちは仲良くなったし、日本の文化にも随分馴染んでいたんじゃないかな。
だから、彼はきっと僕たちのことも日本のことも忘れないでいてくれると思った。6万日も生きる宇宙人が、僕たちがいなくなった後も、僕のこと覚えていてくれるなら、それも良いかなって少し思えた。




