55.日本の記念に
52話の続き。(53話と並行で)由くん一人称語りになります。
家に帰ると、柚は何かをせっせと作っていた。柚はとても手先が器用で、普段あんなにズボラなのに(うそうそ、うそだってば)可愛いモノを作ったりするのが好きで、しかも上手い。
「ジャーン!」
朝起きると、すぐに柚は僕の部屋にやってきて、昨日の夜に作っていたものを見せてくれた。
「え、これどうすんの?」
柚が見せてくれたのは、ビーズで宇宙人を作って、例の魔法のゴム紐で留めた超個性的なチャームだった。てか、チャームか?根付け?
「チャームっていうのは、フックが付いてるやつ。根付けは紐が付いてるだけのやつ」
と、教えてくれた。一応留め具が付いてるからチャームらしい。チャームって名前に似合わず、くっついてるのは宇宙人だけどね。頭がでかくてアーモンドみたいな釣り目のやつ。こんなの誰が使うんだよ~。不気味すぎだよ~。なんか柚は手先が器用で上手いって言ったような気がするけど、ウソ。だって、不気味すぎるもん。
「可愛いでしょ?そらちゃんにあげようと思って」
・・・泣くから。こんなの貰ったら泣くって、絶対。
「このゴム紐は、宇宙のゴム紐。それに宇宙人がくっついてるの。お父さんのこと誰にも教えてもらえないかもしれないけど、このゴム紐は持っててほしいのよ」
「そうだね」
柚なりに、そらちゃんとハニューシカさんの繋がりを作りたかったんだね。そらちゃんはどうかわからないけど、ハニューシカさんは喜んでくれるんじゃないかな。
「それからコレ」
「うわ、すごい!」
もう一つ、柚が見せてくれたのは、折り鶴だった。グラデーションの入った和紙で作った折り鶴。ただの鶴じゃないよ。3つの鶴が羽根で繋がってるの。
「一枚の紙で作ってるのよ。だから、ココ繋がってるの」
「マジで~?」
さすがだ。やっぱり器用で上手いよ。
これはハニューシカさんにあげるんだね。日本の記念に、お土産にしてもらうんだ。きっと喜んでくれる。それに、僕たちのことも、覚えていてくれるよね。
僕たちは早速、ハニューシカさんの家に届けることにした。
放課後待ち合わせて、電車に乗り、あの広い公園に行った。
ブルーシートゾーンに入って行くのは、まだちょっと怖いけれど、まあ、少しは慣れた。
相変わらず、誰もいないみたいだった。人が住んでいるんだろうけど、昼間は仕事とかに行ってるのかもしれないね。寝てるのかもしれないけどさ。
段ボールハウスは、みんな同じようでいて、結構形が違う。だからハニューシカさんの家も、迷わずに着いた。
段ボールの壁にトントンとしてから、声をかけた。
「ハニューシカさん?」
一応、返事がないか少し待ってみた。返事はない。いないのかもしれない。
「開けますよ~」
柚が出入り口の布をそっと開いて中を見た。
「いない」
「あ、ホント?じゃあ、仕事じゃない?」
後ろから僕が言っても、柚は立ち上がらなかった。
「ねえ、なんかヘン」
「変って?」
「前と違う。なんだろ、なんか片付いてる」
何が?と思って、僕もしゃがんで家の中を覗いてみた。
確かに、何か片付いた感じがする。布団と食器棚と冷蔵庫がふたつ。それにテレビ。
「パソコンがないんだ。あと、あの変な機械類」
小声でこそこそと話していると、背後から声がした。
「Uさんなら、出てったよ」
ビョクン!と飛び上がって、振り向いた。こないだのおじさんだ。びっくりした。
「出て行ったって?仕事ですか?」
「いや、ショバ変えだろ」
「引っ越しですか?」
ショバってなんだ?って思ってたら、柚が聞いてくれた。ショバって場所のことか。
「ああ、そうだよ」
「どこに行ったかわかりますか?」
「さーねー・・・」
おじさんは、ポリポリと顎の無精ひげをかいていた。それから、僕たちのことをジーッと眺めて、柚が持っている宇宙人のチャームを見るとニヤっと笑った。
「帰るって言ってたっけなぁ」
僕たちは顔を見合わせた。
「ありがとうございました!」
大急ぎでお礼を言って、走り出した。
ハニューシカさんは帰るって言ったんだ。
帰るんだ。星へ。もう!?
こんなに急だと思わなかった。だってまだ昨日の今日だ。
僕たちは走った。行くところは決まっていた。あそこだ。高台の墓地だ。僕たちは大急ぎで走った。




