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5.切っても直る

訪問販売員が帰った後の、高校生の一人称語り。

 僕たちは押し売りから買ったばかりのゴム紐を半分に切って、それを半分に切って、早速靴に通した。ちなみに、僕のは半分でちょうどだった。あれ、計算間違えた。

 (ゆず)の靴はハイカットで、しかも違う色の靴ひもに絡めて使っているので、全部使いきったようだった。良かった、良かった。

「残ったならちょうだい」

 僕のゴム紐は1メートル近くも残ってしまったので、それを柚が欲しがった。残しておいてもしょうがないので、あげることにした。

「いいよ、何に使うの?」

「チャーム作るの。(よし)のも作ってあげようか?」

「うん、欲しい」

 さすが、発想が女の子だよな。どんなのができるか想像つかないけど、この紐だったら、期待できそう。



 早速二人で居間に行き(今まで玄関でやってた)、ゴム紐を切ろうとした。

「このくらいかな。ちょっとここ持ってて」

 柚が長さを調節しながらゴム紐全体を見て決めている。

「よし、ここ」

 場所が決まったので、柚は糸切りバサミでゴム紐の糸の部分をちょこっとだけ傷つけて目印にした。サクっと良い音がした。

 それからまた何か所か目印に切り込みを入れて、さあ切ろうとしたところ、二人で驚いた。

「んん!?」

 切れ込みを入れたはずのゴム紐に、切れ込みがなくなっていたからだ。

 柚が紐を何度もビヨンと伸ばして、切込みの場所を探しても見当たらない。元の新しいゴム紐に戻っちゃったみたいだった。

「うそ、私切ったよね?」

「うん、切ったよ」

 サクって音聞いたし、切ったのも見たし、切れてないはずないのに。

「なんだろ、いいや、もう一回やり直し」

 柚はあんまり気にしないで、もう一度切れ込みを入れた。

 柚はあんまり気にしなくても、僕は気になる。ずっとその切れ込みを入れたところを見ていた。すると、見ているそばからゴム紐に付けた傷は消えた。怪我した傷がふさがるのを早回しで見ているような感覚で、ほんのちょっと切れたゴム紐がくっついた。

「付いた!」

「は?」

「付いたってば、今柚が切ったところ、もう直ってるよ」

「え、マジ?」

 柚は僕の指さすところを見て、指で何度も触って、そしてゴム紐をまた伸ばした。

 それから二人で顔を見合わせた。

「どういうこと?」

「わかんないけど、切っても直る紐?」

 自信ないけどそうとしか思えない。

「そんなわけないよ。さっき二つに切ってんじゃん」

 柚は自信ありげに言った。僕たち双子って、似てるんだか似てないんだか。

「じゃあ、もう一度やってみよう」

「うん」

 そこは二人意見が合って、もう一度ゴム紐を切ることにした。失敗すると嫌だから、端っこの方をちょっと切った。

 そして、やっぱりちょっと切っただけのところは、すぐに元に戻ってしまった。



「直ったね、もう一回」

 柚は楽しそうにもう一度、ゴム紐をチョコンと切った。そして鮮やかに修復していく様子を二人で眺めた。不思議だ。

「ゴムまで切ったら戻らないんじゃない?」

「なるほど」

 細いゴム紐だけど、中のゴムも切ることにした。実験だ。

 柚は器用に、中のゴム部分の半分くらいまで切った。

 二人で見守っていても、傷はふさがらなかった。つまり、小さな傷は直るけど、中のゴムまで切った時は、直らないということらしい。ホンマカイナ。

「面白いね、これ」

「ねえ、これって魔法だよね」

 柚はとんでもないことを言い出した。魔法って!物語の中だけのものじゃん。柚ってそういう発想する人だっけ?

 だけど、僕は思った。一理ある。理解できない事を理解するのに、無駄なことを考えるより、ありそうなことを考えた方が実は建設的だ。この場合、小さな傷は何度もふさがっているのだし、それが科学技術でなせるわざとは到底思えない。それだったら、魔法という考え方を受け入れるのもこの際アリだ。そういう意味で、柚は現実を受け止めるのがうまいと思う。

「それで2000円って超お得じゃん!」

 そこか。僕はがっくりと肩を落とした。

 そこが重要なんじゃないような気がしない?柚はほくほくした顔をしている。僕はいまだにこの現実を受け入れられないでいるっていうのに。僕が腑に落ちない顔をしていても、柚は全然気にしなかった。


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