表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/67

45.元気そうで

44話と同時間で、由くん一人称語り。

 雨が降ってきたので、僕たちは帰った。

 ハニューシカさんは駅から電車で、あの公園へ。

 僕たちは、あの公園に自転車を置きっぱなしだけど、まあ、雨だからしょうがない、そのまま家に戻った。

 雨はどんどん強くなった。



 ハニューシカさんの娘さんのこと、住んでいた星のことを聞いて、僕たちはなんだかとても遠くに来たような気がした。

 世の中には僕たちが知らないだけで、色んなことがあるものだ。星もそれぞれ、人もそれぞれ、考え方もそれぞれだ。だけど分かり合えないわけじゃない。

 僕たちは彼のあの声を忘れない。苦しそうに号泣するあの声と、その後の「もう良いんです」と言った時の表情。

 全然よくない。良くないよね。彼は好きで日本にいるわけじゃないんだ。できることなら、家族3人で、故郷の星で暮らしたいはずだ。奥さんを残してきて、娘さんは病気。おまけに、正体をバラせない宇宙人が、日本で幸せでいられるとは考えられない。彼の言った「もう良いんです」はただの強がりだって、僕たちにはよく分かっていた。

 言いたくなかっただろうな、こんなこと。

 よく言ってくれたよな。

 僕たちは嬉しかった。

 彼の役に立ちたいと思った。僕たちはただの高校生で何もできないかもしれないけど、だけど、もしかすると何かできるかもしれない。

 だから、何か、良い方法があるんじゃないか、考えようとした。

 時間が必要だよね。



 僕たちは家に戻ってからも、特にハニューシカさんのことを話しあうようなことをしなかった。自分の心の中だけで考えていた。柚には柚の考えがあるだろうし、僕ももう少し自分なりに考えて整理したいと思った。

 夜の間考えて、いつの間にか眠ってて、次の日の朝になっていた。

 ああ、日曜日だ。

「由、自転車取りに行こう!」

 せっかくのお休みだから、図書館に行って調べものでもしようかと思っていたら、先に柚に誘われた。

「自転車か。忘れてた」

「忘れてたの?由ってば、あんまり自転車使わないからねー」

 柚はケタケタ笑っている。確かに柚は自転車大好きだからね、僕のことあんまり乗らないと思ってるけど、そうでもないよ?ちゃんと使ってるよ?



 二人で電車に乗って、例の公園に行った。

「寄ってく?」

 昨日の今日だけど、ハニューシカさんに会いたい気もする。まだ落ち込んでるんじゃないだろうか。

「えー?いいよ、今日は。私この後図書館行きたいし」

 柚の考えは、僕にもよく分かる。やっぱり図書館だよね。同じこと考えてら。

「僕も行くよ」

 それで僕たちは、公園のハニューシカさんの家には行かずに、そのまま自転車に乗って、図書館に行くことにした。

 柚の激チャリは相変わらずで、僕もかなり必死に漕いでったんだけど、途中で完全に見失って、結局別行動で図書館を目指した。

 公園から図書館までは、電車で3駅分くらいは離れているから、チャリで15分くらいの道のりだ。あと少しというところまで来て、足が疲れてきて、住宅街を少しタラタラ流していた。



 角を曲がって、まっすぐ下るとすぐに図書館というところで、柚の自転車を発見した。アレ?自転車降りて押して歩いてる。パンク?と、思いながら近づいてびっくりした。

「ハニューシカさん!」

「あ、由!遅いって!もうちょっと早くに来てれば、面白いもの見れたのに」

 柚はゲラゲラ笑っていた。

「何?面白いものって?」

「ハニューシカさんとデブったおばさんのすごいシーンがね!」

「柚さん!」

 ハニューシカさんの顔が真っ赤だ。どうした!すごいシーンって何!?

「違うんですよ。私の売った痩せ薬が効かないって、追いかけてきたお客さんがいたんですけどね、柚さんが来てくれて助かったんですよ」

 ああ、ありそう。だけど、ホントにそれだけ?柚が笑ってるけど?

「そうなんだけど、そのお客さんがすごいんだって!もー、ハニューシカさんに抱きついちゃって、ほとんどブチューってしてたよね?あはははは!」

 どんな客だ。

「薬が効かないってクレーマー?抱きついちゃうって、ストーカー?」

「どちらかというとストーカーの方なんです。毎回、会うと大変なんですよ。お宅がわりと近いのですけど、こんなところで会うとは思いませんでした」

 ハニューシカさん、真っ赤だよ。よっぽどだな、その客。

「たまたまハニューシカさんを見つけたみたいで、すごい勢いで突進してきたところを目撃しちゃったのよ。いや~、アレは見ものだったわ」

 柚は大笑いだった。

「僕も見たかったな」

「やめてください、由さんまで!」

 ハニューシカさんは悲鳴のような声をあげていた。ああ、でも、元気そうで安心したよ。

 色んなお客がいるんだなと思いながら、僕たちはその足で、図書館に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ