4.公園に同郷者
私がこの星に降り立ったのは、実はもう1年も前のことでした。
降り立った公園で私はものすごく驚きました。宇宙船があったからです。私の乗ってきたのと同じような、私の星では一般的な個人用小型宇宙船です。
仲間がいた!と思いました。
その心境は複雑でした。私は犯罪者として流刑にあった身。ここにいる私の同胞ははたして流刑の仲間なのか、それとも調査に来ている者なのか、分からなかったからです。それに、ちょっと見た感じ、立派なコミュニティーも発展しているようで、そこに入り込んで良いのかわからなかったのです。
同郷の者に見つからずにひっそりと暮らしたいという思いと、同郷者と仲良くしたいという思いの板挟みになりながらも、私は宇宙船を畳んでその公園を歩きました。広い公園でした。
「お前さん、新入りかい?場所がみつからないなら、ここはどうだい?」
老人が声をかけてくれました。その親切な声に私は、ああ、ここに入っても大丈夫だ、と確信しました。
私はありがたく、その老人に教えてもらった場所に、宇宙船を広げさせてもらいました。近くに置いてある他の宇宙船と見分けがつかないくらいすぐに馴染みました。
「分からねぇことがあったら、何でも聞いてくれや」
そう言われて、私はそこに住むことにしました。同郷者が近くにいてこんなに心強いことはないと思いました。
ところが!違ったのです。私としたことが、大きな勘違いをしていました。
こんなところに、こんな辺境の星に、こんなに複数の同郷者がいるはずないじゃないですか!ってことに、気づかなかったのです。その時は、きっと心が萎れていたせいでしょう。
ここにいる人たちは、この星の人でした。
ひっそりと観察をして、気づいたのです。気づいた時の私の心境と言ったら、恥ずかしくてたまりませんでした。誰に対して恥ずかしいのか分かりませんが、とにかく、宇宙船の中で一人悶えるくらいは恥ずかしかったのです。誰にも見られなくて良かった、というのが本心です。
だいたい、どうして間違えたかと言うと、彼らの家が宇宙船そっくりだったからです。でも後から分かりましたが、これは家ではないんですね。段ボールという箱の素材だそうです。私の宇宙船とは違って、単なる紙でできているそうです。いやー、これじゃ宇宙は渡れません。しかし、見た目はそっくりなのでした。ちなみに、家の中も、それなりに居心地良いです。紙の家はそれはそれで温かく良いものでした。
私は普通の地球人の暮らしを知るために、ある家にお世話になりました。(宇宙船はあの公園に置いておいて、毎日見に行きました。)私の星の道具を使えば、地球人になりすますことなんて簡単です。事情を知らない地球人に数か月泊めていただき、私はこの日本という国の文化を習いました。
主に教えてくれたのが女の子だったので、私の言葉づかいが変だということに、後から気づき、本を読んで直しました。まだちょっと下手ですが。
地球人がそうなのか、日本人がそうなのかは分かりませんが、彼らは非常に勘の鋭い人たちだということが分かりました。超能力なのかもしれません。こちらが言ってないこともよく分かるのです。この国の言葉で「空気を読む」と言うんだそうです。空気って読めるんですね。字も書いてないものを読むんですから、やっぱり超能力なのでしょうが、とりあえずややこしいので、勘が鋭いということにしておきます。
とにかく、勘の鋭い日本人は、ほんの数日一緒にいただけで、私が宇宙人であることに気づきました。それでも誰にも言わないでくれました。私の方も、星にある便利な道具、とかそういう余計なことは言わないように気を付けましたが。
そうそう、先ほどの家の少女も、鋭かったですね。鞄とひしゃくのサイズのせいで、危うく正体がバレそうになってしまいました。それに、どうやら「押し売り」の認識がずれているような気もしました。もしや「押し売り」というのはメジャーな職業ではないのかもしれません。それとも、売ってる品物が違うのか。「ひしゃく」は確かに違和感がありました。
私は図書館で借りた本を開いてみました。本の説明に「昭和20年」と書いてありますが、この星の年号はさっぱりわかりません。ただ、古い本だということは分かりましたので、きっと情報が少し古かったのでしょう。さらなるリサーチのために、もう一度図書館に行くことにしました。