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36.静かに待ってる

 僕たちは、ハニューシカさんの家(と言っても、段ボールでできている家)で気が付いたら大騒ぎをしていた。

 そりゃ、監視に見つかるはずだよね。ハニューシカさんは僕たちのことを気遣ってくれていたのに、やっぱり秘密を守るにはまだ僕たちはお子様ってことなんだろうか。

 こんな未来的な商品を見て、興奮しないはずがない。

 それを黙っていることができれば、せめて辺りを気にして小声で話し合うことができれば、僕たちが未来人に監視されることはないかもしれないけど、それが分かっていたのに、こんなに大きな声で喋りまくってるんじゃ・・・弁解の言葉もない。

 ハニューシカさんが守っているものは、結構大変なんだってことがやっと分かっただけだ。



 ハニューシカさんは出入り口の布を開けて「あ!」と言って少しの間固まっていた。だけど、外の人はそうでもなかった。

「よう、(ゆー)さん。なんか賑やかだったな。お邪魔かい?」

 そう言われてようやくハニューシカさんは動き出した。

「あ、ああ、(てー)さん。うるさかったですか。すみません」

「いやいやいや、別にうるさいから文句言いに来たんじゃねえんだ。ほれ、コレそこで預かってきたからよ」

 僕たちからはハニューシカさんの後ろ姿がチラリと見えるだけだから、何をしているのかはわからない。だけど、どうやら、訪ねてきた人がハニューシカさんに何かを渡したということだけはわかった。

 少し間を置いて、ハニューシカさんの声が随分と大きく聞こえた。

「これ!誰から預かったんですか?私宛ってどうしてわかったんですか?」

「いやー・・・そこの噴水が見える辺りでよ、変な服着た兄ちゃんが、この辺に高級訪問販売員のUというヤツがいないかって言うんでよ、(ゆー)さんのことかと思ってよ」

「はあ、まあ、そうですが」

 誰だよ、高級訪問販売員のUって、と僕たちは思ったけれど、ハニューシカさんは普段そういうふうに名乗っているのかもしれない。

「それで、渡してくれって言うから、持って来ただけだ。ダメだったか?」

「あ、いえいえ、そんな。助かりました。ありがとうございました」

「そっか?じゃ、渡したからな。またな」

 そう言って、その人は行ってしまったみたいだった。誰だったんだろう。ハニューシカさんのことUさんって呼んでたよね。

 僕たちはハニューシカさんって呼んでるけど、名前が色々あるみたいだ。なんだかスパイみたいだね。

 まあ、そんなことはどうでも良いや。ハニューシカさんは、その人が帰ると布を閉めて、こちらを振り向いた。手には黄色い封筒を持っていた。



 ハニューシカさんは少し疲れたような顔をして、冷蔵庫の前に戻ってきた。

「もう、出てきて良いですよ。すみませんでした、狭いところに」

「ううん、うるさくて怒られた?」

 柚は別にあんまり悪かったと思ってないように謝っていた。

「いえ、大丈夫です。ああ、さっきの人はお隣さんなんですがね、隣の家とくっついてるわけじゃないですから、そんなにこちらの声は聞こえていないと思いますよ」

 確かに、段ボールハウスは所せましと並んでいるように見えるけど、いざその中を歩いてみると、窮屈に並んでいるわけじゃなくて、お隣とはそれなりに離れている。まあ、土地がいっぱいあるし、どこに住むか簡単に決められるんだろう。ちょっと気に食わなかったら、移動も簡単だろうし、わざわざプライバシーを消してまですごく近くに住む必要はないだろうから、それなりにお隣とは離れている。だから、僕たちが大きな声で喋っていても実はそんなにうるさくなかったに違いない。



 とりあえず、ここに来たのが未来からの誰かじゃなくて、僕はホッとした。

 柚を見ると、がっかりした顔をしていた。多分、未来人が見られると思っていたに違いない。こんな時でも、柚は肝が据わっているというかちゃっかりしている。

「コレを持って来てくれたんです」

 そう言ったハニューシカさんは妙にそわそわしていた。僕と柚はすぐにわかった。この手紙を読みたいんだろうって。そして、できれば一人でこっそり読みたいんだろう。

 それで気を効かせて帰る僕たちなら、こんなにズケズケ段ボールハウスになんて押し掛けたりしないよ。あ、僕、なんだか柚みたいだ。

「ハニューシカさん、読んで良いよ?私たち静かに待ってるから」

 帰る気ないよ、と意志表示をする柚とその黄色い封筒を、ハニューシカさんは何度も見比べていた。

 そしてその封筒を開けることにしたみたいだ。やっぱり読みたいんだよね。

 どうぞ、ごゆっくり。

 僕たちは静かに待っていた。


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