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33.思ったほど高くない

 それから柚さんは急にいたずらっ子のような顔をして、私の方ににじり寄ってきました。

「ね、その冷蔵庫、見せて?」

「え?」

 私が良いとも言わないうちに、彼女はあの小さい方の冷蔵庫を開けました。

「あれ?」

 何を期待しているのかだいたい分かります。まだ冷蔵庫がどこかに繋がっていると思ったのでしょう。私が出てきたのですから、宇宙人やら未来人のことなど分からずとも、だいたい想像できるのでしょう。

「普通の冷蔵庫だ」

 由さんも覗き込んで、二人で怪訝な顔をして見詰め合っていました。

 ここは種明かしをしておきましょう。このお二人にはこれからも仲良くしてほしいですし、この製品は実は日本人にもいくつか売れているのです。

「コレのことですか?」

 私はいつもの鞄から、扉を取り出しました。

「あ、コレ!」

 二人でハモって扉を指さしました。やっぱりあの高台のお寺の裏で、見られていたんですね。

「コレはですね、どこへでもドアというものなんです。卸価格で64万円もするものなんです」

「えー!あははははは!」

 お二人はなぜか値段を聞いて大笑いしていました。なんですか、何かあるんですか64万円に?



「これ、売ってるんですか?」

 由さんが笑いながら聞いてきました。

「当然です。でも、あんまり売れないんですよ」

「どうして?」

 またハモってます。さすが双子ですね。

「はあ、多分高すぎるんでしょうね」

「ああ、お金持ちの人にすっごく高く売りつけてるんでしょ?」

「え、いくらなんですか?」

 興味津々ですね。こういうお金の絡むことは子どもに言って良いのか分かりませんが、しょうがないですね。

「150万円です」

「なーんだ、思ったほど高くないや」

 柚さんの反応は意外にもあっさりしていました。え、もっと高くでも売れますかね?でも、売れないんですよ。だから本当は400万円で売っていたのを、値下げしたくらいです。

「150万だったら、大人になったら買いたいよ、僕」

「私も」

 おや?金持ちよりも一般人のほうが売れるのでしょうか。不思議ですね。と、思ってから気づきました。大切なことを言い忘れていました。



「ああ、すみません。使い方があるんですよ」

「使い方?」

「そうです。まずですね、これを使う場所が大切です。なるべく自然のモノにくっ付けて使わなければなりません」

「自然のものって?」

「木とか土とか水とか、そういうものです」

「自然じゃないものって?」

 よく分からないという風な顔をして柚さんが聞いてきました。

「自然じゃないものって言うのは、加工されてるものです。ただの木の壁でもペンキが塗ってあったらダメですし、ガラスもプラスチックもダメです」

「ふうん。ブロック塀は?」

「ダメです」

 多分。ブロック塀がなんだかわかりませんが、いかにもダメそうですので、勝手にダメ判定してしまいました。



「それからですね、扉の前で行きたい場所をなるべく細かくイメージするんです。あんまり大雑把だと、変なところに出てしまうんですよ」

「変な所って?」

「たとえば、自分の家、とだけ考えるとですね、自分の家の前なのか、中なのか、トイレなのか風呂場なのかそのどれかに移動してしまうんです」

「へー、変なの」

 変ですか?普通だと思いますけど。柚さんったら、そんなに笑わなくても。

「じゃ、知らないところは?たとえば、外国とか行ったことないところは?」

 柚さんより由さんのほうが、まともな反応ですね。

「イメージできなかったら、言葉だけでも良いんですよ。空港の一番東にあるトイレ、とか、住所を言って、その玄関前とかでも大丈夫です」

「へ~、面白いね」

 ここは二人がハモりました。納得してくれてなによりです。私は話を続けました。

「移動して扉をくぐり終えると、扉はすぐに閉じてしまいます。そして残された方の扉は元の場所で消滅します」

「ん?消滅?・・・つまり?」

 柚さんが顔を斜め上に向けてちょっと考えた顔をしました。だいたい、どのお客さんでも、ここで同じような反応をします。



「つまり、一回使い切りということです」

 分かりやすく説明したつもりです。ところが、お二人はしばらく怪訝な顔をして考え込んでいました。まあ、みなさんそうです。一回使い切りだと思っていないんです。どういうわけか、何度も行き来ができる扉だと思ってるらしいのですよ。

 でもですね、その場合、扉の回収が難しくなるんです。いえ、原理上できなくないんです。実際私は、その高級機種を一つ持ってはいるのです。だけど、日本で売り物にするとなると、一回使い切りが良いところでしょう。

 理解が早かった由さんが、急に笑い出しました。

「わはははは、そりゃ、売れないよ!行くだけ行って、帰ってこれないならさ、わははは」

「それで150万円か、なるほどね」

 柚さんは頭の中で計算でもしているかのような顔をしていました。

「まあ、ファーストクラスで海外旅行に行くくらいの値段出して、お尻が痛くならずに行けるなら、安いか」

 お二人は急に納得したようでした。


※参考までに「ドラえもん道具カタログ 2112年版」によると、「どこでもドア」の価格は64万円。

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