32.魔法の道具じゃ
ハニューシカさん一人称語りです。
私が真剣な顔をしていたのでしょう。由さんと柚さんもとても真剣な顔をして私の言葉を待っていました。
「もう帰ることができないと言ったのはですね、それは私が・・・」
そこまで言って、どうしても次の言葉が出せずに、咳払いをすると、柚さんが口を開きました。
「分かったわ。ハニューシカさんは魔法使いじゃないのね」
私のことを気遣って言葉を継いでくれたのでしょう。彼女は超能力者なのですから、きっと私が言おうとしたことが分かったのでしょう。それで、喉が張り付いて声が出ない私のために、柚さんが言葉にしてくれたのです。
「はい」
私は少しホッとしたような気持ちで、それでもなんだかいたたまれなくて下を向いて息を吐きました。
「こないだと、さっきのを見て分かったの。その前から、ちょっとはそうなんじゃないかと思ってたんだけどね。ハニューシカさんは未来から来たんでしょ?それで、タイムマシンが壊れちゃったんじゃない?だから帰れないんじゃないかしら」
あー、なるほど。よくある展開ですね。って、違いますよ~?
「どうして・・・?」
私は先ほどまでとは違う意味で、何と言って言いのかわからず、思わず聞いてしまいました。どこをどうして、未来人だと思ったのか聞きたいものですよ。
「だってね、あのガラス瓶がそうでしょ?それに冷蔵庫が外との出入り口になってるって、魔法の道具じゃないと思うのよね。それに、そこにある機械も、みんな見た事ありそうで、全然訳の分からないものだし、きっとタイムマシンの一部なんじゃないかって思ったのよ」
ああ、当たらずとも遠からずですね。
この方の超能力は若干センサーがずれているようですが、まあ、宇宙人を知らないのですから、こういう反応になってしまうのかもしれませんね。
「柚さん、あなたにはまいりました」
私がこう言うと、彼女はニンマリとして由さんと顔を見合わせました。
「ただですね、言っておかなければなりません。私はもう帰ることはできませんが、私は監視されています」
「監視?」
「そうです。私が、この日本にないモノを売ったり、技術を見せたりすると、私は抹殺されてしまうんです。それにですね、その秘密を知ってしまった人も、同じように監視されるのですよ。ですから、私は本当のことをあなたがたに知らせたくないんです。私のように、いつでも監視されるようになって欲しくないんです。ですから、これ以上詳しいことは言えないんです」
由さんと柚さんは納得したようにお互いを見て頷いていました。
このお二人には、私のことを毎度色んな情報で惑わしているというのに、実に順応性が高いと思います。
「未来の情報を過去に教えちゃいけないっていうのは、小説とかで読んだことがあるよ。だからハニューシカさんは時空管理局みたいなのに見張られてるって言うんだね。
そうか、わかった。ハニューシカさんは、僕たちのこと、心配して、それであんまり本当のこと教えてくれなかったんだね。でも、僕たち、大丈夫だよ。誰にも言わないし、監視が付いたって、ね?」
「そうよ、別に、着替えシーン覗かれてるわけじゃないんだから、気にしないわ。どんな監視の仕方してるか知らないけど、私たちにやましいことなんてないんだし、ハニューシカさんだって、悪いことしてないんだから、堂々としていれば良いじゃない」
分かってるのか分かっていないのか、この双子は実に前向きで楽観的でした。本当に助かります。
「ありがとうございます」
私が頭を下げると、彼らは笑顔になってくれました。
宇宙人でも未来人でも彼らにとっては同じことなのですね。まあ、魔法使いよりは真実に近づいたような気がします。それに、私は、自分が罪人であることを言わなく済んで、ホッとしていました。
ただやはり、黙っていることの罪悪感は少なからずありましたが。それでも、この順応性の高い双子には、本当に助かりました。