表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/67

31.冷蔵庫になんて入っちゃ

ハニューシカさん一人称語りです。

 私の持ち物で、とても便利な道具があります。

 現代日本にはありません。ですから、それを日本人に見せてはいけないんです。使用しているところを見られないように、私はいつも細心の注意を払っています。

 ですから、今日もあの人気(ひとけ)のないお寺の裏の四角い黒い石がたくさん立ち並んでいるところでコレを使用して、無事自宅に戻ってきました。

 ところが、自宅の扉を開けて足を一歩踏み入れたとき、目が合ってしまいました。

 私の家の入口の布を、誰かがめくって家の中を勝手に見ているのです。

 しまった。見つかった。

 どうしよう。

 私は激しく動揺していましたが、その人の目はそっと布を元に戻し、入口を締め直してくれました。

 見なかったことにしてくれたのでしょうか。

 しかし、このままでは危険だと思い、私はまだ開いているその扉から元のあの高台に戻ることにしました。

 この狭い扉に戻るため、私が自宅の入口に背を(実際には尻を)向けたとき、大声が聞こえて、私の残っていた腕を掴まれました。

「待って!ハニューシカさん!」

 私の名前?羽生歯科と呼ぶのは、由さん、柚さんだけですよね。

 掴まれた腕をゆっくりと見て、それから私は振り返って、私の腕を掴んでいる人を見ました。案の定、柚さんでした。

「ちょっと、ちょっと、ちょっと、ちょっと!何やってんの?冷蔵庫になんて、入っちゃダメだって!」

 は~、気が抜けますね。この方は、せっかく超能力があって色んなことが分かっているのに、それにわざわざ気づいていないかのような反応をしてくれるんですから。だいたい、冷蔵庫に入るって・・・ああ、確かに、私冷蔵庫に入ろうとしていますね。



 とにかく、腕を掴まれていてはもう高台には戻れないので、私は観念して冷蔵庫の扉を閉めました。そして柚さんの方に向き直りました。

 由さんも一緒にいて、真剣な目というかちょっと怖いくらい見開いて、私を見ていました。さっき、私がここに出て来た時に布の隙間から見ていた目は、由さんのものだったのですね。

「あ、あのですね・・・由さん、柚さん・・・どうしてここに?」

 取り繕おうにも言葉が出ません。

「私たちはね、ハニューシカさんを探していたの」

 んー、まあ、想像通りですよ。だいたいにおいて、柚さんは納得いかないことがあると私を探しているようですから。でも一体、何が納得いかなかったのでしょう。前回お会いしたときは、私の秘密を打ち明けたので、随分と距離が近くなったような気がしましたし、柚さんも納得してくれたような気がいたしますが?



 由さんも真剣な目をしていました。そして珍しく、由さんが口を開きました。

「僕たち、ハニューシカさんのことを聞いたじゃない。その後、実はもう一度話をしたくて、後を追ったんだ」

 私はあの日のことを思い出そうと、考えました。私の癖で、考え事をする時に、どうも眉間にしわがよってしまうのですが、それが怖い顔に見えたのか、由さんはちょっとビクっとしました。すみません、脅していませんよ。

 あ、そういえば、あの日も高台に行きました。真っ暗な中、ちょっと作業をして、それからどこへでもドアで帰ってきたのでした。もしや、それを見られていたのでしょうか。

「真っ暗な墓地から、いなくなったのを見たのよ」

 柚さんが言いました。

 やっぱり見られていたのです。日本人に見つかってはいけない、便利な機械「どこへでもドア」を使っているところを。

「見られていたんですか」

 私は観念しました。もう、こうなっては本当のことを洗いざらい話さなければ、逆に色々と疑われて話がこんがらがってしまうと思ったのです。



「ねえ、ハニューシカさんって、本当に魔法使い?」

 柚さんが静かに聞いてきました。

「そんなことを知って・・・どうしようって言うんです?」

 私は思わずこう言ってしまいました。

 突き放すつもりはないのです。ただ、彼らはどうして私のことをそんなに知りたがるのでしょう。

 超能力者で、知ろうと思えば何でもわかるはずなのに、どうしてわざわざ私に聞くのでしょう。それとも、ただの興味なのですか?日本人は他人(ひと)のことを根掘り葉掘り聞かないといられない性分なのですか?

 私が彼らに、本当のことを言えない理由は、ただ私のことを悪人だと知られたくないというだけではありません。

 私の素性を明かすことは、場合によっては彼らに危険があるかもしれませんし、知らないうちに宇宙人の監視下に置かれるようなことになってしまうかもしれません。そうなったら、申し訳ないと思うからです。

 なのになぜ、彼らはそんなに私のことを知りたがるのでしょうか。

「それはね」

 私の心の声が聞こえたかのように、柚さんが答えました。ああ、やっぱりこの方は超能力者ではないですか。

「ハニューシカさんのこと、心配だからよ。だって、帰ることができないって・・・お家に帰れないってことでしょう?お父さんやお母さんに会えなくなって、友だちとも別れて、日本に来たのでしょう?仕事をしているけど、私たちと同じくらいの年に見えるし・・・心配なのよ。勿論最初は、魔法使いって言うことが珍しくて知りたいと思ったのよ。だけどね?それだけじゃないの。私たちは少しの秘密を打ち明けて、友だちになったじゃない。だから、友だちとして心配しているの。もう、帰ることができないって、どういうことか、知りたかったのよ。だからね、できれば、お家も知りたかったし、どんな暮らしをしているのかも、知りたかったの。ハニューシカさんには迷惑かも知れないけど・・・ごめんなさい」

 どういうことか、私は謝られてしまいました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ