3.良く言えば夢があって
ここから訪問販売員の一人称語りになります。
私は大慌てでその家を出てきました。私の正体がバレては困りますから。
鞄のせいでちょっと感づかれたような気はしますが、ナントカごまかせたのではないでしょうか。ああ、あの鞄、便利だけどやっぱりこの星で使っちゃダメですね。
お気づきでしょうが、私はこの星の人間じゃありません。ちょっと訳ありで、この星に来てしまって、商売をしながら、私がひっそり住むために必要なものを探しているんです。
あの少年たちに言った「昨日ムショから出てきたばっかりで」というのも、実はあながちウソではありません。「昨日」ってわけではありませんが、ムショからってのは、本当なんです。
私、刑務所にいたんです。それで、星を追放されたんです。流浪の身。それで、こんな辺境の星にやってきてしまったわけです。
この星――地球って言うんですよね――この星は、私の居た星から、私たちの考えるところの相当遠くにあります。辺境っていうか、端っこっていうか、僻地っていうか、そんな感じです。だいたい私、こんなところに知的生命体のいる星があるなんて知りませんでしたから。
でも、降りてみてびっくりですよ。まだ宇宙航法が確立されていない星だったんですから。エネルギーの使い方も宇宙の考え方も未熟で、良く言えば夢があって、悪く言えば無謀、ってところでしょうか。
とにかく、私は犯罪者として流されてこの星に来たのですが、ここで宇宙人であることをさらすほどの大馬鹿ではありません。宇宙船を隠し、正体を隠すことにしました。そうすれば、ここでなんとか生きていけると思ったんですね。
あ、ちなみに、私がこの辺境の星で正体を明かすとですね、何が起こるかと言うと、まずは私は変態扱いされます。もともとこの星にない技術や品物をたくさん持っていますからね。理解されないうちは変態扱いですよ。
で、もしちゃんと理解されたとすると、今度は戦争が起こります。確実に戦争になります。原因はいくらでも考えられますが、とにかく戦いが起こって、下手をすると星ごとなくなるでしょう。
そして、それがバレるかバレないかのうちに、結局私は死ぬでしょう。流刑にあっても、私は監視されています。
流刑を吉と見るか凶と見るか、人によって違いますが、私は吉の方だと思っています。誰も私のことを知らない星に行って、幸せに暮らしなさいって言ってもらったのと同じですから。私は自星では犯罪者と言われましたが、きっと彼らにも私は死ぬほどの悪いことをしたとは思っていないのです。ですから、生きることを許されているのだと思います。
でも、もし私がこの星で宇宙人であることを明かすとなると、それは許されないことです。ですから、その監視によって生きることを許されないでしょう。まあ、戦争に巻き込まれて死ぬ方が先のような気もしますが。どっちにしろ、宇宙人であることを明かすのは身の破滅だということはよーく分かっていました。
だから、あの鞄のせいで正体がバレるのは困るんです。変態とか戦争とかはこの際置いといて、とりあえず、私は正体がバレないように、こうして裏の世界で訪問販売員をしているのです。
勘のいい日本のお嬢さんには気を付けなければ。私はもうあの家には近づくまいと心に誓ったのでした。