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28.後を追うんだ

由くん一人称語りです

 ハニューシカさんは、もう帰ることはできないと言った。それってどういうことだろう?


 僕と柚はきっと同じことを考えている。

 いつもは、柚は何でも知りたければ、すぐに聞くけれど、今は何も言わなかった。

 僕もそう。本当はどうして国に帰れないのか聞きたいけれど、きっと聞いても分からないし、何よりも今こうやって自分の本当のことを教えてくれたハニューシカさんを困らせたくなかった。

 僕と柚は、ハニューシカさんのことを大事にしたかったんだ。


 だからハニューシカさんが、顔を向こうに向けて、いそいそと帰ろうとしても、僕たちはあえて何も言わなかった。

 何も詮索しないように振舞って、そして手を振って別れた。

「では、私はこれで」

「うん、またね」

 そう言って僕たちは公園を出た。

 ハニューシカさんは駅の方へ、僕たちは家の方へ、それぞれ歩き出した。



 ハニューシカさんが角を向こうへ曲がって、もう姿が見えなくなると、僕と柚は顔を見合わせた。

 何も言わないでウンと頷いて、僕たちは回れ右をした。何をしているかって?勿論、ハニューシカさんの後を追うんだ。

 僕たちはハニューシカさんが曲がった角まで、速足で戻った。スニーカーを履いてるけれど、走ると足音がしてしまう。かかとを付けて、怪しい競歩スタイルでブリブリとお尻を振りながら歩く双子。変だけど、誰も見てないから気にしない。


 すぐにまた、ハニューシカさんを発見した。彼はわき目も振らずに駅の向こう側へ歩いて行くところだ。僕たちは彼に気づかれないように、距離をとりながら追って行った。

 ウチから駅を越えて向こう側へは、普段あまり行かない。

 向こう側は長い商店街があって、それが結構急な坂道なんだ。さびれている上に急坂なんて、用があったって行かない。そんなところだからだ。

 ただ、その坂の上に大きくて結構有名なお寺があって、縁日が出る日は商店街もにぎわって、人も多い。

 ハニューシカさんはその寺を目指しているのだろうか。



 少し息がはずむくらいは長い坂道をガンガン登り切って、やっと寺の前に着いた時はホッとした。

 暗くて不気味ではあるけど、坂道よりは良い。

 だけど、ハニューシカさんはまだ歩き続けた。もう閉まっている寺の門の前を通り過ぎ、境内を回り込むように、左にある小道に入って行った。

 寺の方も静かだし、林みたいになってて葉っぱがザワザワ言うのが聞こえる。

 目だけキョロキョロして裏に回ると、足元がただの土の道から、ゴツイ飛び石になった。ああ、なんだか(おもむき)があるなぁ、なんて思わないからね!

「し!」

 僕が何も声を出してもないのに、柚は急に立ち止まって、僕を静かにさせた。

 見ると、小道を低い鉄門が塞いでいた。

「開くの?」

 僕はひそひそと小声で聞いた。柚は僕に振り返って小さく頷いた。

 それから門の取っ手をゆっくりと回した。キイと言いそうな絶妙なところで、柚はゆっくりと動かし、時々抑えるように手を止めて、かなり時間をかけて扉を開けた。まるで無声映画のような、もどかしい緩慢な空気の中を、柚はゆっくりと動き、なんとか扉を抜けることができた。



 で、どこに出たかというと、墓場だった。

 僕は目を瞑って顔をのけぞらせた。そんなことだと思ったよ。はあ、来るんじゃなかった。なーんでよりに寄って、夜の墓場に来ちゃったんだ。

 ハニューシカさんは一体ここに、何の用事があるんだろう。まさか住んでるの?

 明かりもなく、彼を探して僕たちは墓場を歩いた。



 墓場にはところどころに大きな木が立っている。その一番奥の大きな木の下に、ぼんやりとした姿を見つけた。

 一瞬お化けかと思って飛び上がりそうになった。

 「ハニューシカさんだよ」

 柚が超小声で言った。聞こえないよ、って思ったけど、聞こえた。

 僕たちは彼に見つからないように、墓石の陰に隠れて覗いて見た。

 ハニューシカさんはその大きな木の下から出てきて、少し僕たちの方に近づいたところにある、花の咲いているあんまり高くない木のそばに立った。


 彼は例の鞄から、何か板のようなものを取り出した。随分大きなものだ。一番大きなサイズのスケッチブックくらいかな。もうちょっと大きいか。

 それをその中木に立てかけると、その板を扉のように開けて、その中に消えた。

 消えた!?

 あ、っと思ってよく見ると、彼が置いたはずのあの板もなくなっていた。

「ちょっと!見た?」

 柚が普通の声で言った。

 それから、柚は僕の返事を待たずに、あの中木のところへ走って行った。僕もついて行く。

 そこには何もなかった。板も、彼も、その痕跡も。

「ねえ・・・」柚が言った。「ハニューシカさんって、魔法使い?」

 何をいまさら。

 そう思ったけれど、柚が聞きたいことはそういうことではなかったみたいだ。


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