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27.記憶を消すの?

 小さな公園ですが、花壇に囲まれて見通しの良い綺麗な公園にやってきました。もう暗い時間になっているので、街灯の明かりだけですが、話をするだけならば十分です。お互いの表情が分かるくらいの薄暗さの中で、(よし)さんと(ゆず)さんがベンチに座りました。横一列に3人並んで座るのでは話しにくいので、私は彼らの前に立っていました。



 座るとすぐに、さっぱりした柚さんらしく口を開きました。

「で?どうしたって?なんかあったの?」

「実はですね、柚さんに言っておいたほうが良いと思うことがあるんです」

「うん?」

 柚さんは大きな目をして私のほうを向いていました。こんな純粋な目で見られて、なんというか居心地の悪さのようなものを感じながら、それでも話さなければと心を決めました。でも、いざ話し出そうとすると何から話して良いやら、考えてしまうものです。

「あのですね、先ほど河川敷で由さんにも目撃されまして、それで少し説明したのですが、つまりですね、私は、あの、えー・・・」

「柚、ハニューシカさんは人間の記憶を消したんだよ」

 しどろもどろの私の言葉に業を煮やしたのか、由さんが結論を言ってしまいました。

「記憶を消した?そんなことできるの?」柚さんが聞きました。

 さすが双子。同じ反応しますね。

「できるんです」私はますます居心地が悪くなりました。「つまり、そういうことです。私はそういうことができるので、柚さんたちに嫌な思いをさせてしまうんです。すみません」

 私は何をどう説明したらいいのか分からなくて、謝ってしまいました。

「なんで謝るの?」柚さんが聞きました。

「だって、記憶を消すことができるなんて、嫌でしょう?」

「そりゃそうだけど、私たちの記憶も消すってこと?」

 柚さんが言うと、今までうなだれていた由さんが顔をあげて、柚さんと私を交互に見ました。

「いえ、そんなことはしません。ただ、私はそういうことができるので・・・人として、やっぱり嫌でしょう?」



「どうして記憶を消したの?」

「どうしてって、あのですね、私のことを奥さんの愛人だと勘違いした人に襲われそうになったんです」

「愛人?」

 柚さんにとっても思いもしなかった言葉なのでしょう。目を真ん丸にして私を見ていました。横で由さんが何やら赤い顔をしていました。

「お客さんの家に私が何度か通ったので、そう思われたみたいです」

「ぷ!」柚さんは小さく笑っていました。

「それでそのお客さんの旦那さんが、私のことを愛人だと思い込んでしまって、違うと言っても聞き入れてくれなくてですね、ってなんで笑うんです?」

「だって、ハニューシカさんが愛人!」

 失礼な。どういう意味で笑っているのか分かりませんが、私だって大の男ですからそのくらいあるでしょう?とは思いましたが、そこで反論していると話が進まないので、グッと我慢して説明を続けました。

「私は見つかったらヤバいものを売っていますし、色んな意味で目立つわけにはいかないんです。それで、記憶を消すしかなかったんです。これからも、私はそういうことが起こり得ますし、他にも由さん柚さんが嫌な思いをするようなことをしてしまうかもしれないんです。私はこの国の常識を知りませんし、立場的に隠れていなければならないので、犯罪のようなこともしますし、危険なこともあるかもしれないんです。ですから・・・」

 この先は言いたくありません。このお二人は、とても良い子たちなんです。私がこの星に来てから接してきた「お客」とは違う、友だちなんです。



 ですから、本当のことを言いました。それで彼らが、私のことを嫌うなら、私はもう現れません、と言えばいいのです。

 私が口ごもっていると、今まで笑っていた柚さんが真面目な顔になって言いました。

「記憶を消すの?」

「消しません。あなたたちは私のことを勘違いしたりしていませんし、私のことを誰にも言わないでいてくれると信じていますから。だけど・・・」

「だけど?」

「だけど、もう、現れない方が良いと思うんです」

 真っ直ぐに私のことを見つめている柚さんの顔を見ることができませんでした。

 恥ずかしくて悲しくて、私は俯いていました。私は犯罪者です。流刑の身です。そんな者が、前途有望な子どもたちに接してはいけなかったんです。

 だから、私は、彼らの前から去った方が良いのです。



「なんかよく分からないけど、私は全然嫌じゃないよ?」柚さんがあっけらかんと言いました。「記憶を消すのは嫌だけど、だけどさ、ハニューシカさん、今全部私に言ってくれたじゃない。私たちのこと信じて、教えてくれたんでしょう?全然嫌じゃないよ。今までははぐらかされたり、隠されたりウソつかれたりしたけど、今は本当のこと言ってくれてるんじゃない。だから全然嫌じゃない。それどころか、嬉しいのよ」

 そうです。彼女はウソやごまかしを嫌うんでした。

「柚さん・・・」

 私が顔をあげると、柚さんも由さんも私を見上げていました。

 その二人の目は、私のことを疑わない、純粋な目でした。流刑になるような私のことを、素性も知らずに信じてくれる、その目。申し訳ない気持ちと、そして何よりも嬉しい気持ちで胸がいっぱいになりました。

「これからも、お二人とも、時々会っていただけますか」

 私がやっとそう言うと、お二人は顔を見合わせ、それから私に笑いかけてくれました。

「勿論」

「でもさ」続けて柚さんが言いました。「国に帰る時は、教えてよね。黙っていなくなっちゃったら、すごくイヤ」

「はい、それは大丈夫です。もう、帰ることはできませんから」

 私は流刑の身。帰ることなどできるはずがないのです。まあ、この星にいられなくなったら、また余所(よそ)に飛ばされることはあるかもしれませんが。

「帰ることができないって?」

 由さんが真面目な顔をして聞いてきました。

 ああ、私はまた口が滑ってしまいました。自分の素性を明かすようなことを言ってはいけないのに。

 案の定、お二人はとても興味深そうに私を見つめていました。


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