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26.記憶を操作するなんて

 茂みから(よし)さんが出てきました。私の顔を見ると、なんとも腑に落ちないような浮かない顔をしていました。まあ、理解できなかったのでしょう。

 しょうがないですね。あんまり種明かしをすると正体がバレてしまいますから、普段だったらこういう時由さんにも忘れてもらうのですが、なんだか今はそれができませんでした。こないだ会った時由さんが、ウソやごまかしは嫌だと((ゆず)さんが)言っていたのもありますし、やはり私たちは友だちですから、多少のことは由さん(と柚さん)になら知られても構わないと思ったのです。だから、由さんの記憶を消すのはしないことにしました。

「死んでなかったでしょう?」

「うん」

 由さんはホッとため息をついて、疲れたような顔になっていました。よっぽど緊張したのでしょうね。すみませんでした。

 私たちは由さんの家の方に向かって歩き出しました。



「あの男の人はですね、私のお客さんの旦那さんらしいのです」

「え?あ、ああ。ふーん」

 私は由さんのために、先ほどのことを説明することにしました。

「私が、お客さんの家に出入りするのを知って、私のことを愛人か何かと勘違いしたのですよ。それで、怒って私のことを懲らしめに来たんです。ナイフを持っていたのだって、ただの脅しのつもりだったんですよ」

「うん」

「だけど多分、私のことを見たら頭に血がのぼっちゃったんでしょうね。それで私のことを襲ったんだと思います」

「うん」

 由さんは私の背後の草を見ているようで、あんまり反応しませんでした。ちょっと子どもには刺激の強い話でしたでしょうか。

「それで、愛人ではないと言ったのですが、どうしても聞き入れてくれなかったので、ほんの少し忘れてもらったわけです」

「忘れて・・・?記憶?」

「はい」

「そんなことできるの?」

「ええ、すみません」

 由さんはちょっとぼんやりしているようでした。記憶を操作するなんて、嫌なことだと思ったに違いありません。そんな私のことを嫌いになったかもしれません。やっぱり言わなければ良かったと思いました。初めて地球で友だちになった人に嫌われるのは辛いことです。



 私たちは住宅街に入り、もうすぐ由さんの家に着くところでした。二人で並んで歩いていると、声をかけられました。

「やっほー!ハニューシカさん!」

 由さんの双子のお姉さんの柚さんでした。走って私たちのところまでたどり着きました。

「こんにちは、柚さん」

「二人一緒で、どうしたの?・・・由?」

 柚さんは由さんの様子がいつもと違うことに気づいたのでしょう。顔を覗き込んでいました。

「いや、べつに」

 由さんは柚さんから顔を隠すようにそむけました。そんなことをしたら柚さんが余計に気になるでしょうに。

 でも分かっています。それだけ由さんは嫌な思いをしたんです。記憶を操作するなんて、良い気分じゃないですよね。でも分かって欲しかったんです。私は由さんにウソをつきたくなかったんです。でもそれが、かえって由さんを傷つけることになってしまいました。

 やっぱり地球人に素性を知られるのはいけないんですね。それに、仲良くなることも無理だったようです。友だちだなんて、勝手に浮かれてしまいましたけど、傷つけることになるなんて思いもしませんでした。

「柚さん、何があったか、聞いてもらえますか」

「は?」

 思わず唐突に言ってしまったので、柚さんはびっくりしていました。でも、私はこの双子を傷つける存在であることを、言っておいた方が良いような気がするのです。だから、言えることを言おうと思いました。嫌われるかもしれないですし、もう会ってもらえなくなるかもしれませんが、この二人には、本当のことが言いたくなったのです。勿論、私の星の法律で言えないこともありますが、それでも伝えられるだけ伝えたかったのです。

 柚さんは近くにある公園に私を連れてきてくれました。誰もいませんでした。


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