25.見られたのです
ハニューシカさん一人称語りです
暗い河川敷で私は襲われそうになりました。でも、私は地球の人の知らないような便利な道具を色々持っていますから、まあ、事なきを得ました。
襲ってきた男の人をそこに残し、私が茂みから出てくると、そこにはあの双子の由さんが強張った表情をして固まって立っていました。
見られたのです。
彼はどう思ったでしょうか。多分、正しく理解はできていないはずです。だいたい魔法使いだろうが宇宙人だろうが、彼らの理解の範疇外だからこその概念であって、理解できるのならば普通の人として受け入れられるはずですから。
だから由さんが、一体いつから私を見ていて、私が何をしたのかを見ていて、その上でそれがどう彼の中で処理されたのかが問題なのです。
私たちはたっぷり1分間も見詰め合っていました。
「由さん・・・」
「あ、あ」
私が声をかけると、やっと由さんが動き出しました。でも言葉になっていません。衝撃を受けたのでしょう。宇宙人の技術は地球人のそれとは比べ物になりませんから。
「大丈夫ですか」
私が近寄ろうとすると、由さんはバっと一歩下がりました。
「ひ、人、人殺し!」
由さんはかすれた声で、でもしっかりと言いました。
人殺し。
嫌な言葉です。人間が人間を殺すなんて、考えられません。
でも、彼にはそう見えたのでしょう。
「どうしたんですか、由さん」
私は彼を落ち着かせようと、近づこうとしました。
「よ、寄るな!」
由さんは一歩下がりました。落ち着いてくださーい。何て言ったら落ち着いてくれるんでしょうか。
「由さん、大丈夫ですか」
「大丈夫なもんか!見てたんだぞ。そ、そこで、こ、こ、殺しただろ!」
ああ、あんまり大声出さないでください。
「殺していませんよ」
「な、何言って!そこに、そこ、で、人が!」
地球人は興奮しやすいんですね。というか、人が人を殺したと思うなら、それが正常な反応かもしれないですね。私だってそうなるような気がします。
「本当に殺していません。生きていますから、声をかけてみたらどうですか」
私は低い声で言いました。でも、私はもうその男の人の前に行きたくはありませんから、由さん一人で見てきてください。
「ホントに?」
「はい。私はここで待っていますから」
「信用できるのか?」
「見てきていただくのが、一番信用できると思います」
私がそう言うと、由さんは小さく頷いて、そうして茂みに入って行きました。私は隙間から見ていました。
由さんは男の人に声をかけていました。
「おじさん、おじさん!」
男の人は由さんの声に反応して顔をあげました。ホラね、死んでないでしょう?
「おじさん、大丈夫?」
由さんは男の人を立ち上がらせてあげていました。優しいですね。
「ああ、すまないねぇ。ちょっと転んじゃって」
「ちょっと転んじゃったんですか?」
「いやいや、暗いからね」
「大丈夫ですか?送って行きましょうか?」
「なに、ちょっと散歩して買い物したら帰るから、大丈夫だよ。君は、高校生かい?最近の高校生は礼儀正しくて優しいんだねぇ」
「いえ」
「じゃあ、ありがとう」
男の人は由さんにお礼を言って、こっちに歩いてきました。私は茂みに隠れて、その人が行ってしまうのを後ろから見送りました。




