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17.最新式のふただと

 ハニューシカさんに友情の印として貰ったガラスの香水瓶を、(ゆず)はとても気に入っていた。僕もそう思うよ。すっごく綺麗なんだ。あの時出された中では一番小さい瓶で、シンプルだけどとにかく洗練された美しさって言うのか、いかにも高級そうなガラス瓶なんだ。この瓶だけは細い金の鎖が付いていた。首にかけられるようになっているんだろう。

「ねえねえ、(よし)、これみてよ、すごいのよ」

 気に入って数日間香水瓶を開けたり閉めたり観察していた柚が言った。

「うん?」

「このふたね、全然力を入れなくても開け閉めできるの」

 そういえば、ハニューシカさんも最新式のふただと言っていた気がする。でも、全然なんてことないだろう?と、思って僕は柚からその瓶を受け取り、試しにちょっと開けて、閉めてみた。

「はあ!」

 思わず変な声出ちゃった。

 だって、本当に全然力が要らないんだ。力が要らないってレベルじゃない。空中にある紙かなにかを右から左に動かすような感じ。全然摩擦の力を感じないんだ。だけど、そのわりにちゃんと密閉されたことがわかるんだ。

「これ、水もれないの?」

「もれないのよ、ちょっと待ってて」

 そう言って、柚はコップに水を持って来て、スポイトで入れて、ビンの蓋をした。そして瓶を逆さにしてみせた。斜めにしても逆さにしても、振っても、水はこぼれなかった。瓶の中でキラキラゆらゆら揺れているだけだ。



「すごくない?」

 柚は静かに言った。僕に言ったというよりは、独り言みたいだった。

「すごいね。さすがだね」

 僕がそう言うと、柚は僕の顔を見た。

「さすがって言うか、これって魔法?」

 柚が聞いてきた。って、柚が聞く?だって、ハニューシカさんは魔法使いだ、って柚が言ったんだよね?どういう意味でそう聞くかな。

「魔法じゃないの?魔法じゃなかったら何さ」

「魔法じゃなかったら、何かしら」

 柚は考えた。瓶のふたを開け閉めしながら、やがてまた口を開いた。

「だからね、そういう技術ってあるのかなって思ったの」

「技術?」

「なんか、日本的な技術と似てる気がするのよ。ほら、お菓子の袋って縦にも横にも、手で開けられるじゃない。だけど、外国のお菓子の袋ってびよーんって伸びちゃって、手では開けにくいものが多いじゃない?」

「うん」

「そういう技術」

「は?」

 あ、ごめん、全然意味がつながらなかったよ。柚の説明って時々こうだよね。

「だから、日本的な技術。繊細で気が利いてるような感じのもの。普通のふたは、絶対開きにくいのに、これは開けやすいの。普通、水がこぼれないようにするなら、ギュッと押し込まないとならないのに、これはそっと閉めてもこぼれないの。そういう繊細な技術」

 うーん、なんとな~く言いたいことは分かるけど、よくわからない。



 柚はふたを何度も開け閉めして、それから、ふたの瓶と接する部分を丹念に擦っていた。

「ああ、わかった。魔法じゃなくて、日本人なら同じものが作れそうってこと?」

「そういうこと」

 柚がニッコリ頷いた。なるほどね、そういう技術ね。

「でもさ、中身が変質しないとも言ってたけど、それは魔法じゃないとムリじゃない?」

「そうよね」

 柚はふたを開けて、小さな入口の穴からガラス瓶の中を覗いていた。見えないだろ、狭くて。

「変質しないようには、日本人じゃ無理か・・・やっぱり魔法なのかなぁ」

「魔法なんじゃないの?」

 今更何言ってんだ。とは思ったけど、柚は何かそう言う風に感じたんだろうね。そう思うしかなかった。


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