15.あなたの魅力を
由くん、一人称語りです。
僕が学校から帰ると、ハーフっぽいけど普通の高校生に見える、ハニューシカさんがウチにいた。てっきり柚の彼氏がいたのかと思ってドキドキしたけど、考えてみりゃ、柚がウチに彼氏連れてくるなんてありえない。彼氏がいるなんて聞いてないし、いても僕や両親には教えなさそう。まあ、柚のことはどうでも良いんだ。
ハニューシカさんのことだ。この人は本当に、高校生にしか見えない。前回ウチに来た時は、変なテカテカしたガラの悪いスーツだったけど、今日はネクタイを締めてメガネをかけている。どっからどう見ても高校生。まあ、制服よりはちょっと高級な感じのスーツだけど、ネクタイが高校生っぽい。それに袖丈が萌え袖になってる。わざとか?天然か?似合うから良いけど、ますます社会人には見えない。
なーんて考えてたら、柚とハニューシカさんの会話が始まっていた。
「ガラスの瓶ですか?」
「そ、小さくていいの。綺麗なのがあったら欲しいと思って」
柚はガラス瓶を注文していた。そんなの普通に買えば良いじゃん。とは思うけど、女子高生の考えることは分からないからな。放っておこう。
僕が見ていると、ハニューシカさんは手帳のようなものを取り出して何かを調べていた。
「ガラス瓶、ガラス、ガラス・・・」
「何やってんですか?」
僕が聞くと、ハニューシカさんはメガネのツルをちょっと持って、こっちに振り向いた。ああ、こういう仕種も高校生っぽい。
「ちょっと素材を調べていたんです」
「ガラス、知らないの?」柚が聞いた。
「窓ガラスのガラスだよ?」僕が言った。
「いえ、知っていますが、他にどんな用途があるか知りたかったので。あ、柚さんはガラス瓶を何に使うんですか?」
何気なくハニューシカさんの手元を見てみると、見たことない形の機械だった。スマホと電子辞書を混ぜてゴツくしたような感じのもの。
「自分で香水作ろうかと思って。香水入れるものが欲しいの」
「ああ、なるほど。香水瓶ですね?」
そう言うと、ハニューシカさんは機械を置いて、鞄に手を入れた。それから、小さなガラスの瓶を5つ取り出した。
「わあ、綺麗!」
柚の歓声に、実は僕も一緒になっていた。本当に綺麗なガラス瓶だ。形はそれぞれ丸かったり、四角かったり、洋ナシのようだったりとちょっとずつ違っている。透明で中身が見えるようにはなっているけれど、切子のように切込み線が入ってるのや金色で模様が付いているものもある。どれもとっても高級そうな瓶ばかりだ。高いんじゃないかな。
「これはお勧めしません」
ハニューシカさんが言った。お勧めしないのに出したんかい!
「なんで?」柚が聞いた。
「高いですから」
「ああ」僕たちは納得して頷いた。
「香水って高級品ですよね?だから香水瓶も高いんです。ほら、高そうでしょう?」
ハニューシカさんはひとつ手に取って陽にすかすように目線にあげた。ガラスがキラキラ輝いている。そりゃー高そうだ。
「いくらなの?」柚が聞いた。
「金持ちのおばさんにだったら、70万円で売りつける品物です」
「な、70万!?」僕たちの声がひっくりかえった。
「それだけ価値がありますから」
なるほどー・・・僕はマジマジと香水瓶を見た。こんなものが70万。ああ、でもわかるよ。
「ね、これも魔法道具なの?どんな魔法?」
柚が聞いた。さすがに70万は出せないけど、どんなものか知りたいだけだ。
「えっと・・・」
ハニューシカさんはまた電子辞書を見て調べていた。
「そうですねぇ、機能としては、ふたが最新式で開けやすく閉めやすいのに絶対こぼれません。それから中身が変質しません」そこまで読んでから、今度は顔をあげて「おばさんに売る時は、美しい奥様の魅力を最大限に引き出します、と言うんですよ」と言ってにんまりした。
さすが押し売り。
この顔で、このセリフ。絶対売れる、と僕は確信した。