表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/67

14.ごようはありませんか

 ふた月ぶりにあの双子の家を訪れた私は、(ゆず)さんに顔を忘れられていたショックを隠し、にこやかに挨拶しました。

「こんにちは、柚子(ゆずこ)さん、羽生歯科です。ご用はありませんか?」

 私が普段、お金持ちのおばさんに使うような営業用スマイルを披露すると、柚さんはやっと私を思い出したようでした。

「ハニューシカさんだ!そうだ!ああ、久しぶり!どうぞ、どうぞ」

 そう言って、私を玄関に招き入れてくれました。玄関を閉めると、私はもう一度挨拶をしました。

「柚子さん、こんにちは。今日は由男(よしお)さんは?」

「由はまだ学校。もうすぐ帰ってくると思うけど。あ、上がってよ」

 柚さんはすぐに私のことを思い出し、居間へ通してくれました。それから前回と同じ椅子に勧められて座りました。

「いやー、本当に来てくれるって思わなかったわ」

 柚さんは落ち着いた様子で、向かい側に座りながら言いました。

「本当にって、柚さんが来るように言ったんじゃないですか」

「だってさ、胡散臭かったから、あんまり信じてなかったのよ。ごめんなさい」

「胡散臭かったですか?」軽くショック。

「そりゃそうよ。あんな紙切れに名前書いただけだったでしょ?後から考えたら、やっぱ無理かなって思ったのよ」

「そうでしたか」

 まあ、そう思うのかもしれませんね。地球の常識は分かりませんから、こうやって地球人と接しながら少しずつ覚えるしかありません。

「ただいまー!」

 扉の音がして、玄関から声がしました。由さんの声です。

 由さんは居間に入ってきて、私を見つけました。

「あ!」

 と、言ったきり、私を見て固まっていました。たっぷり30秒も動きませんでした。早く動いてください!



「斉藤はじめ!?」

 誰ですか・・・由さん、私のこと全く覚えてないんですか。適当にもほどがありますよ。

 とにかく、由さんの適当な名前に柚さんがブっと吹き出しました。

「あ、彼氏?悪い、邪魔した?」

「んなわけあるかー!」

 由さんの見事なボケに、柚さんの見事なツッコミが決まりました。

 ああ、私・・・本当に忘れられていたんですね。来なけりゃ良かった。

 私がしょんぼりしていると、由さんはもう一度私のことをマジマジと見て、それからちょっと考えて

「ハニューシカさんじゃん」

 と言いました。もう!覚えてるんじゃないですか!意地悪だなぁ。でも、柚さんよりずっと良いですよね。名前覚えていてくれて。

「お久しぶりです、由さん」

 私はやっとホッとして、挨拶をしました。

 私は今日、大切なことを学びました。高校生は、あっさりしていると。

 来てほしいと言っていたわりに、ふた月後には私の顔も名前も覚えていないくらい、あっさりしているということを。

 もしかして地球人は、特に日本人は、あんまり人との交流を好まないのでしょうか。今まで、お金持ちの方に珍しいものを売りに行くと、目の色を変えて買ってくれたり、私が訪問するのを大歓迎してくれていたのは、たまたま?ということなのでしょうか。

 とにかく、こういう人もいるんだな、ということが分かりました。さて、そんな高校生は、私から何を買おうとするのか、ちゃんと売れるのか、ちょっと心配になりました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ