13.あのふたご
私は地球で生活をしながら、よくあの双子のことを思い出していました。勘のいいお姉さんの柚子さんと、じっくりと観察する慎重派の弟である由男さん。二人は全然違う個性に見えて、同じことを考えているような気がしました。
双子と言うのは不思議なものです。私の居た星では、自然に妊娠出産することは多分ほとんど例がありませんから、双子という概念もありません。管理されて調整されて、家族を作り、家族と暮らします。まあ、無理を言えば同じ日に生まれた子どもをもらうことも、できるのかもしれませんが、ほとんどの夫婦はあまり子どもを持ちたがらないので、双子なんて考えもしないものです。
ところがこの星はどうでしょう!男女の双子ではなく同性の場合、親も区別がつかないほどにそっくりなのですよ。一卵性の双子が本当に存在するんですから。いやー、驚きました。それどころか、三つ子や四つ子ということもあるんですから。それが、ちゃんと生まれてくると言うのは、いや、生命の神秘を感じますね。人間はかくもたくましいものかと、感心しました。
そういうことを考えていたのもあり、私はあの双子にまた会えることをとても楽しみにしていました。約束のふた月後をまだかまだかと待ち望んでいたのです。
はじめて会った日から、ふた月が経ちました。まあ、ちょっと日数足りていませんが、だいたいふた月ですから良いでしょう。
前回と同じ曜日、前回と同じ時刻に、私は双子の家の前にいました。この時間ならば、親御さんはいないはずで、あの双子だけが家にいることでしょう。彼らは私の正体を魔法使いだと思っていますし、喋り方もわざわざ変えることもないので、なんだかちょっと気楽に会えそうな気がします。
とはいえ、まだ学生の彼らに一体何を売ろうか・・・ちょっと迷うところです。
まあ、そんなことは気にしません。私に会いたいと言ったのは、柚子さんのほうなのですから。とにかく会えば良いのです。
私は鞄を持ち直し、家の前の壁のピンポンを押しました。
『はい?』
インターホンの向こうから、無愛想な声が聞こえました。
「こんにちは、わたくし、消防署の方から参りました」
『はい?ああ、ちょっと待ってください』
あ、しまった。消防署の方からって言わなくて良いんでした。でも、もう言ってしまいましたから、このまま待つしかありませんね。
家の中からパタパタと小さな足音が聞こえてきて、玄関の扉が開かれました。そうして、顔をのぞかせたのは、お姉さんの柚子さんでした。
「はい・・・あ、あー!あ、ま・・・えーっと・・・!」
柚子さん、もしかして、私のこと覚えてない?なんとなく見た事あるどこかの誰か、みたいな様子で、私のことをひたすら思い出そうと頭を抱えている柚子さんを、思わず冷たい目で見てしまいました。
それにしても、柚子さんの方から、ふた月後に来て欲しい、というようなことを言ってませんでしたかね?それなのに、覚えていないって。どうなんです?
私は、自分があの双子に会えることを楽しみにしていただけに、軽くショックを受けました。会いたがっていたのは私だけだったんですね。って、乙女か!
覚えていられなかったのですから、帰ろうか。とも思いましたが、思い出されないのもシャクなので、せっかくですから思い出してもらうことにしました。
まったく、柚子さんのほうから来てほしいって言ったんですから、覚えておいてくださいね!