11.魔法使いには魔法使いの秘密
販売員一人称語りです。
私は少しホッとしていました。てっきり私が異星人だということがバレてしまったのかと思ったからです。しかし、彼らに言ったことも半分以上は事実でもあるのです。
彼らにとっても、私が魔法使いでも異星人でも同じことなのではないでしょうか。つまり、私が売り歩いている物は魔法道具ではないにしても彼らにとっては魔法道具のようなものだということです。私の星の技術では普通にあるものでも、彼らの星にはありません。だから魔法のように見えるでしょう。私のことを魔法使いだと思ったのも、彼らがまだ星間航法を知らない故で、もしも宇宙を自由に飛ぶことができて、他の星に知的生命体がいることをチラリとでも知っていたのなら、私が異星人だと思ったはずです。
だから、ある意味私は正体を知られてしまったのでした。まずくはありますが、彼らは私のことをバラさないと言ってくれたのだし、今はそれを信じるしかありません。
それでも、これ以上色々とバレたりボロを出したりする前に、もう退散しなくては。
「では、私はこれで」
そう言って席を立つと、またゆずさんが話しかけてきました。彼女は意識もせずに鋭いことを言うので、なるべく質問されたくないのですが、私の性格上どうしても聞いてしまうし、話してしまうのです。己のお喋りな性格が若干ではあるが恨めしい今日この頃だったりもしました。
「ねえ、ハニューシカさんって、言葉づかい変よね?」
「そりゃ、外国人なんだから、しょうがないんじゃないの」
弟のよしさんがフォローしてくれました。でも、やっぱり変ですか。どの辺が変なのか私には分からないのですが。
「ていうか、わざと作ってるみたいな話し方するじゃない。本当はもっと違う喋り方なんじゃないの?」
「わざと?そうかなぁ。ねえ、ハニューシカさんって本当にロシア人?」
「え?えーと、違いますよ」
ああ、動揺のあまり、言葉づかいが戻ってしまいました!
「じゃあ、どこの人?どのくらい日本にいるの?誰に日本語習ったの?ていうか、どうしてわざわざ日本で魔法使いが魔法道具売ってんの?」
そんな矢継ぎ早に質問されても、答えられません。
でも私は、あることが分かっていました。このゆずさんという人は、思い込みが激しいので、下手に刺激して「違う」と答えない方が話が早く終わるのです。私のことを魔法使いだと思い込んでいる時もそうでしたから。ここはうまく答えて、本当のことのように思わせればいいわけです。
「ゆずさん、あなたは本当に勘が良いですね。確かに私は言葉づかいを作っていました。私は普段このように喋ります」
「ほら、やっぱり!」
「でも、詳しいことは教えらえません。魔法使いには魔法使いの秘密があるからです。でも、いくつかあなたたちを信じて、教えておきましょう。私は自分の国を追われて日本にいるのです」
「亡命?ほら、あっちの方って政治が複雑じゃん」
よしさんが小さい声で言いました。
「亡命とも違いますが、似たようなものです。とにかく、私は日本にいることを知られてはいけないのです」
なーんて大げさだけど、そういう話しにしておくと多分信じてくれるはずです。私の思惑通り、二人とも神妙な顔をして頷いてくれました。
「魔法使いの道具は下手をすれば戦いを招きます。そんなことにならないために、私はこうして人目に付かない仕事をしているのです。」
「じゃあ、魔法道具なんて売らなきゃ良いじゃない」ゆずさんが言いました。
「確かにそうです。でも、生きるためにはお金が必要ですから」
「ふーん、まあ、そうかもね」ゆずさんが言いました。
「でも、やっぱりバレるんじゃないの?」よしさんが言いました。
「大丈夫です。日本は狭いところにたくさん人がいるので、こういうところでは分かりにくいんです」
「ああ、まあわかるけど」二人が答えました。しかしよくハモる双子ですね。
とにかく、私がゆずさんの考えているような方向に話を持っていったのもあり、二人はわりとすんなり納得してくれました。よかったです。