第五話 純粋な闇
彼女は崖の上にいた。
数年前もここで、こうしてボ~としていたな。
と彼女、レティこと元人間、レティアンヌは
久々に思いにふけっていた。
「おいレティ、またこんな場所で道草か?
いい加減にしないと、いくら我らが破壊王
ルシファー様のお気に入りだと言っても
あまりおいたが過ぎると罰もらうぜ?」
レティはすっと細眼で右を振り向かずに見て、
やがて視線を前に戻し
つまらなさそうにため息がてら呟いた。
「また君かシェム。別にいいだろ。ボクが何してたって」
するとシェムと呼ばれた中年男性…の背中に生えている
黒い蝙蝠のようなでかい翼が少し騒めいた。そしてゆっくりと
元の位置へと畳み込まれていく。彼は悪魔だった。
「お前なぁ…お前のその癖のせいで
遅刻して上司に怒られんのは
俺だって分かっててやってんだろ?!」
するとクスリと木の葉が
かすかに揺れたように静かに笑い、
ゆっくりと振り向きざまに
いたずらっ子のような笑顔をしたまま
だがしかし眼は深い深い闇の色を濃くして彼女は言った
「ふふ…分かってるなら説明要らないね?」
「やっぱワザとだったかっ!!」
シェムは怒りで身を震わすが闇の王の
お気に入りにはさすがに手を出せない。
ここは彼お得意の『辛抱』が出て、
ガックしと肩を落とすしかなくなる。
シェムはこの前まで別の子をアシスタントしていたが
この問題児で、ある意味色々最強レティの
『子守』担当になってしまったのだった。
それが彼の‘運のつき‘だった。そう彼も思っていた。
まぁ、実際にそうなのだが。
どうして子守を頼まれたかというと言うまでもなく
彼女がある意味たちの悪い悪戯っ子や
問題児よりさらに高いレベルだからだった。
もっといえばだれも彼女の面倒が見切れず、とうとう
辛抱強さなら彼の右に出ないものはいない、
シェムのところへと回ってきたから。
聞くところによると、この悪魔の世界に入ってからは
彼女は休みなく働き、働き者だと思えば遅刻はするわ、天使が来た時の
足止めという犠牲を己のパートナーにするわ
隠れて思い入れのある場所をいつまでもボ~っと眺めるわ…
以上あと他もろもろで、彼女は見事に魔界で問題児一位となり、
誰も彼女とはつるみたくなくなり
終いには新米なのにパートナーもいらないと生意気を言う。
嫌われ者を絵にかいたような感じだ。
しかし。生きていたころとまるで真逆。
シェムや色々な悪魔たちは
実を言うとまだ人間だった頃のレティを知っていた。
というよりも見張っていた。ルシファーのお気に入りとして。
ルシファーは長い間彼女を付け狙っていたのだった。
彼女は一見強そうで、何にも負けない根本な力があった。
どこまでその力が弱まるのか見たかったルシファーは
どんどんこの子を陥れていった。
愛する人たちの死を受け入れるしかなかったレティの心の変化に
いち早く気付けたのは、彼女を支える存在である、
一生モノの友と言っていい存在の子、エルティーナである。
エルは彼らにとって邪魔ものだった。こちら側の戦略に気づき
徐々にレティを元気づけて行ったからだった。
だが、彼女の命は極端に短いことも、そこにつけ入れる事も
彼らの戦略に入っていた。しかし、エルティーナは
幼くしてそこまでお見通しだった。
彼女の助言や行動は悪魔たちを恐怖で震え上がらせるには十分だった。
まるで、見えないはずのモノを見ている感覚。
心の中をのぞかれているような、気味の悪い感覚。
悪魔たちの間では彼女には滅多に近づかないほうがいい
とまで囁かれるほどだったが…
ルシファー自らがエルティーナへと出向いたときは皆目を疑ったものだ。
彼女は身体は弱いくせして心が強靭だったため
ルシファーも手傷を負って帰ってきた。
だが、破壊の王はただ怪我をして戻ってきたわけではなかった。
状況を覆す道を見出すことに成功したのだった。
そうして始まる、レティをめぐる争奪戦。
色々と邪魔をしたエルティーナはあっけなく寿命で逝ってしまい
残されたレティを支配しようと動き
見事、彼女はこちら側に堕ちた。悪魔見習い前となった。
そうして手に入れたはいいモノの。当の本人はこの有様。
まるで魂のない入れ物(人形)のようだ。
あまり感情がなく、すべての物事に関して冷静かつ無頓着。
悪魔は貪欲なのだ。
これじゃ面白くない。
と、今回ルシファーはシェムにある危険な企画を用意した。
それはきっと無表情になりつつある
レティの枯れた心のバラを潤すには丁度いい危険と掛け。
ある意味、枯れたバラを潤す甘い蜜。
そう。忘れてはならない。
彼ら悪魔は非情で冷徹無残。
どんな方法を使ってでも己の欲望を満たす奴らだ。
彼女が持っていた最初の野望の炎。
それを再び灯すには―――…
「…はぁ。俺、今回消滅するかもしんねぇな。」
悪魔にとっての『死』は浄化…つまり
『今の状態が消えて一からやり直す』こと。
言うなれば消滅。またを浄化。
今までの罪が許され、魂が浄化され悪魔から天使か、
それとも転生かをさせられる。
その者の『罪の重さ』によって変わってくる。
罪の輪の中に入りそこで何年も苦しんでから浄化ということも。
そんなのは御免だ…と、シェムは唾を吐くように汚らしく呟いた。
それらは悪魔にとっては最大の恥であり、
最大の屈辱でもあるからだった。
「…何?任務の前に貴方が嫌味??この任務何かあるんだ?」
レティが何かを感づき探りを入れる。
この世界に入って十数年、彼女も単純じゃぁない。
しかし当のシェムは極秘だと封印の印を腕に押されたために
秘密を暴露出来ない。流石は悪魔。抜け目ない。
ここは白を切るしかない。
もともとこんな生意気な餓鬼になんぞ誰がしゃべるか。
と思いつつ、苦虫をかみつぶしたかのような顔でシェムは言う。
「…ちっ。いつもと同じさ。人間どもの魂を狩れ。
そしてルシファー様に差し出せ。
見習い前のお前にはこの任務しか来ないって
分かって聞いてるだろ?」
すると『何も言わなくたってわかってるじゃないの』
とでもいうようにレティはフフフと笑い、
スッと左の道へと歩き出す。
どうやらついて来いと言っているようだ。
感でどこへ行けばいいのか分かったらしい。
もう彼女は色々と人間離れしている。
見習い前の幼い子なのに…末恐ろしい…とシェムは身震いした。
そして彼女の元へと行こうとした一歩矢先に
彼の目の前が崩れて崖が現れた。
そして後ろには先ほどの光景。崖は確か自分の後ろにあったはず。
それが一体何故?そこまで考えた時、シェムははっと気が付いた。
後ろで可笑しそうにレティが笑っているから。
そうか、また彼女がやったのか。
レティは殆ど感で術を身に着けてしまった。
それもありとあらゆる魔術や禁断の術、幻は彼女の十八番。
きっと今まで彼女と反対方向で話していたに違いない。
だからか。彼女が妙にクスクス笑っていたのは。
はらわたが煮えくり返る。
パートナートレーナーのこの俺によくもっ!
だが、もうこれは諦めている事。
そう、レティは誰も信用などしていない。
悪魔の世界で暮らす中、それは正しい。
なんせ、だまし騙される日々なのだから。
しかし、それではあまりにも。
寂しくないだろうか。
孤独ではないだろうか。
これが真に彼女のしたいことなのか?
そうは思うも、彼女には、彼女の心の中までは
当の悪魔も、悪魔の王も誰も見ることはかなわない。
だから相手が何を考えているかわからないから、
悪魔はずるがしこく卑怯なのだ。
こういう時、シェムはある意味悪魔にあるまじき行動をとることで
彼女とうまくコミニケーション?
をとって皆を驚かせたのだった。それはとても簡単で、かつ、
誰かがやったらきっと誇りのほの字もなくなるだろう、
悪魔のプライドを捨てた捨て身の方法。
それは『諦める』だった。
「任務、次どこか分かってんのか?」
「わかってるよ。うるさいな」
と、彼女は唾を地面に吐き捨てた。さも、どうでもよく。
酷い有様だな…こっから初めのころへ戻すのは無理なんじゃ?
そう思い始めるシェムだった。
そうして、道すがら関係のない色んな人の
魂を無理やり大きな鎌で刈り取り収集していた。
長年悪魔をやってきたシェムでさえ、異常な事だと分かっている。
だが誰も止めはしない。多ければ多いほどいいのだ。
それに、シェムには分かっていた。
彼女が壊れかけているということに。
ルシファーはそれを利用し、彼女の行動を
意図的に流しているにすぎないと。
彼女は自分の中の何かが張りつめているとき
任務の中で発散する。それが彼女が
かろうじて完全に壊れないために自ら編み出した悲しき防御。
見ているだけでも苦しみが伝わってくるようだった。
必死にありとあらゆる魂を鎌で刈り取り
悪魔のビンの中へ入れていく。
彼女との任務はたいていビンを多めに持っていく。
彼女の気持ちがまだ発散できてないときに
ビンが底をつくと、今度はシェムが
彼女の戦いの相手をしなければいけなくなる。
しかも彼女の気が済むまで永遠に。
前に一週間戦いを夜通しでやる羽目になったことも。トホホである。
何度かそうやって戦ったことがあるが、あれは酷過ぎる。
鎌から鎌へ感情の爆発的な何かが
自分の中へと送り込まれてくるから鬱になる。
精神力が持たないため、彼は普段から
ビンを大量に買い占めて異空間のポケットに閉まっている。
今回の任務中、すでに魂で埋まったビンが300を超えた。
今日は特に機嫌が悪いらしい。夢見でも悪かったのだろうか。
彼女はほとんど眠らないが、寝たら寝たでうなされ、
結局30分程度で目が覚めるらしい。
汗だくに苦しそうに奥歯を噛み締める様をもう何度も見てきた。
俺の入り込む領域じゃない。俺のできることは
今のなんとなくな関係を保つ以外にない。
悪魔にしては、少しだけ他人思いのシェムだった。
さて、なんやかんやで、とうとう目的の場所へと到着。
そこには、一人の女性が病院へ入っていく様が見て取れた。
「あの女を狩るの?」
「ああ。だが今じゃない。指令には彼女が
『夫の見舞いから帰ろうとするところを
事故死に見せかけ狩れ』と書かれているぞ。
時間はまだまだあるなぁ。お前見張ってろ。
俺はちょっくら他の仕事こなしてくる。」
そう言ってシェムが羽ばたき空へと消えたのを確かめて
レティは己の肩に携えた大きな鎌を消した。正確にはしまっただけだが。
遠くから特殊な術を使い、彼女の様子を垣間見るシェム。
「さて…鬼が出るか蛇が出るか…まぁ、どっちとも
嫌な方向へと行くセッティングだがな…」
そうとは知らず彼女、レティは一人、ため息をついていた。
「待つ仕事は嫌いだから持ってくるなって
何度言ったらわかるんだよ…」
一言文句を言い、壁に寄り添った。
そしてベットに休む男と、その隣で一生懸命に
看病し、話し、少し笑う女をみて、ふとレティの中では
思い出すことを拒んできた記憶が逆流した
父と母もこういう時期があった。
父が大けがをし、母が毎日病院へ見舞いに行く。
何度か自分もついていったこともあった。
父の容体は良好でもうすぐ退院とまできた
だが―――…
あの日。
「…っつ!」
頭を押さえる。冷や汗が流れた。
「こんな時に…思い出すなっ!」
早くなる鼓動。圧迫される呼吸。
あの心優しい母が目の前で―――…
そう、いまのシチュエーションとまったく同じ。
互いに笑いあってはいるこの二人は知らないのだ。
これからやってくる悲劇に。知る余地もなく、あんなに幸せそうに。
残るのはたがいに過ごした過去の時間と
悲しみと苦しみだけなのに―――…
そこまで考えにおぼれていたレティは気づかなかった。
自分が重大なミスを犯したことを。
ため息をまた一つする。
すると、自分に覆いかぶさるようにしてかかる影が。
そちらを見ると、じっとこちらを見つめる少し年下くらいの子が居た。
「おねーさんだぁれ?」
キョトンと首を傾げて笑顔で聞いてくる様はまさに天使のよう。
だが問題はそこじゃない。
「お前…僕の事見えるの?」
普段の彼女の姿や気配は誰にも見えないし感じ取れないはず。
なのになぜこの幼き少年は
「みえるよ?みんな、みてるよ?あんなこいたっけー?って。」
なるほど、気づけば彼の言う通り
患者や廊下を通り過ぎる者たちは
一室のドアの近くで、もたれかかってため息を吐く少女を
怪がいそうな眼で見つめていた。
「そ、そうか…さっきの記憶の逆流のショックで
一時的に人間並みに…」
「ここねー、パパとママがいるんだよー」
「へ?」
「パパねー、足をおっちゃったの。でもねー、それは
パパのせいじゃないんだって。しろいこがねー、おしえてくれたのー」
「…はい?」
サッパリ言っている意味が分からない。
だが彼が勝手に話す情報から、どうやら、推測するに
天界の者がちょっかいをすでに仕掛けているという事。
そして、今の人間並みに弱まった自分の力だけでは
勝ち目がないということも分かった。
逃げるか。
そう考えた瞬間、目の前の男の子が
レティの手を掴み引っ張っていく。
「ちょ、どこ行くつもりなんだよ!パパのところへ
いかなくていいの?」
「つれてきてって、頼まれたから、つれてくのー」
それはもう、爽やかに笑いながら男の子はレティを引っ張っていく。
レティは普段の力を出せずに困っていた。
それに何より、今は姿さえ消せない状況下。
大暴れできない。
消えることもできない。
逃げられない。
「…ちっ…こんな時シェムはどこほっつき歩いてるんだよ…。
役に立たないな。まったく。」
憎々しくしかめっ面で今はそこにはいない
普段は居てもいなくてもどーでもいいパートナーに毒ついた。
「僕さぁ、こう見えて忙しいんだけど
そろそろ放してくれないか?」
「んー、でも、なんかおねーさん、にげそうだから」
「…ちっ」
六歳くらいの子のくせして、中々感がいいじゃないか。
レティは不機嫌さをますますあげていく。
あれやこれやと試してはいるが
一向にこの男の子は手を放す素振りがない。
すると突然、身体がふわりと浮いたような感覚がした。
男の子の手はするりと力なく離れていく。
地面を見れば彼はバイバイと手を振っていた。
ヤバイ。ここは天使の領域だ。
直感で天使が張ったバリアー内にいると分かった。
きっと誰にも姿は見えないようになっていて
力もまったく感じない。
「くそっ。なんなんだよ!僕に何の用があるんだ?!」
「私が主任に頼んだの。あなたと話がしたくて」
声は後ろのほうから聞こえてくる。
ふざけるなと思った。今更話し合い??
「…そんなことで何かが変わるとも思えないけど?」
「そう?変わると思うけど…」
「あんたがどこの誰だかわかんないけど
話すことなんてないから。分かったら僕をここからだせ。」
声はしばし黙った後、ふふっと笑った。
「…何に腹を立ててるの?」
ぎくっとしたのはレティだった。何故わかった??
「随分と不機嫌そうだけど…昔の嫌な夢でも見たの?」
「…どうして…僕の癖まで知って…」
「知ってるよ…ずっと見て、一緒にいたから。
貴方って、不機嫌の時パターンがあって
後ろを向いたまま他の人と話す癖は
貴方がとても嫌な夢を見たってことだから。」
そんな事があるわけがない。
それを知っていたのは、そうやって見抜いて
暖かく包んでくれていたのは―――…
だから、あるはずがない。そんな可能性なんて…
そこでレティはゆっくりと声のするほうへと振り向いていった。
そこに目にした、昔の親友の姿。
これには、ただただ驚愕するしかなかった。
二度と会うはずのない、病気で死んでしまった
親友が変わらずそこにいた…
「なんで…エルがここにいるんだよ…」
「あなたを救うために…私はここに来たの」
だが、この言葉にレティは泣きそうな顔になる
「救う?今更何を救うのさ?!偽善者きどり?!見て分かんないの?
僕はもう堕ちるとこまで堕ちた!後戻りはできない道へ
足を踏み入れてしまった…後悔はしてない。
これは復讐だ…私からすべてを奪った、神への復讐!!」
ギラリと彼女の瞳の奥が光る。
消えかかっていた何かが再び蘇った。
「たしかに、君にはお世話になった…楽しかった…だが、それは
君が去って行ったあと、僕に重くのしかかった。
来る日も来る日も、君との思い出が
僕を苦しませた…そして、苦しみから逃れるために僕は目的を掴んだ。」
静かに聞いていたエルは悲しそうに顔をゆがめ、
怒りをあらわにするレティへと視線を移した。
「それが…復讐?」
「そうさ!あんたのせいで、神のせいで!そして
ありとあらゆる善が皆を不幸にする!!
だから、僕が解放してあげることにしたのさ!!
『生』という檻から『死』という解放へ!!」
「…」
少し、エルは顔をうつ伏せた。
息を切らして大声でどなったレティは息継ぎを荒くしながら
バリアーを解除できないかとあれこれ考えていた。
すると、エルが顔を伏せたまま静かに言った。
「…ちがう…」
「何が…ちがうって?何も違わないよ!善があるから悪がある。
なら、全ぶなくなれば「違う!!」…なんだよ…」
「あなたはどうしてそこまで、ひん曲げてしまったの?
全部違うわ!!あなたのそれは、ただ誰かのせいにしたかっただけ。
傲慢なわがままよ!自分を守ろうと必死になってるだけ。
今のあなたは傷つくことに恐れをなして
過去からも逃げようとしている…」
「じゃあ、僕が弱虫みたいじゃないか!」
「あなたは、弱虫なのよ。みんなそうだわ…
心の奥には自分さえ知らない臆病な自分が居るものなの。
それは、時に何でもない拍子に出てきて
自分を苦しめる…あなたはすべての痛みが怖くて
これから来る苦しみに恐れをなして
逃げようとした。そしてそちら側に堕ちてしまった。
復讐は何も生み出しはしない…新たな苦しみを生むだけよ…」
「…この、偽善者め…今更何を言っても手遅れなんだ。」
「…偽善者でも構わないよ…貴方を救えるのなら…なんだってする。」
エルが手をさし延ばす。ゆっくりと、レティは自分の手をエルの手へ運んでいく。
しかし。
「…悪いねエル。」
その言葉と同時にレティが隠し持っていたビンを地面に割った。
すると解き放たれた魂は周りを包み込み、やがて体を求めて出口を探し当てた。
エルは突然のことにより、気を緩めてしまう。
「あそこか。」
手を一振りし、大鎌を携えてその空間の裂け目を
一気に一刀両断し、くるりと鎌ごと回転、鎌を地面に突き立てるため
上空から投げる。上手に地面へ突き刺さったのを確認し
鎌の杖部分へと捨て身の空中ダイビング。見事に着地。
「やるしか…ないのね…」
彼女を静かに見つめるエルに、レティは笑った。
「ああ。今度会ったら戦いになる。覚えておきな」
言うが早いか、彼女は黒い霧状になり姿を消した。
ただ一人取り残されたエルはしばし、消えたレティの場所を見つめていたが
すぐに青空を見つめ
「大空はこんなに青いのに…ね」
と呟き、反対方向へと歩いて行った。
永い戦いはまだ幕を開けたばかり。
そのころ、後から現れたシェムはタップリとレティの
ストレス発散に丸三日も付き合わされたが
レティの態度や眼に、野望の炎が灯されていると知り
ニヤニヤが止まらなくなり、ますます彼女との交戦は
悪戦苦闘となったのは言うまでもなかった。
「よくも僕を一人にしてくれたね?おかげでひどい目に合った挙句
手柄を天使に横取りされたんだからね?」
この時のレティは類を見ない笑顔だったという…
「ま、まてレティ!は、早まるなぁぁあああ!!」
そして、シェムにまた一つアビリティが生まれた。
『逃げの風』という、なんとも悲しきフレーズだった。
そして、そんなころ、エルティーナはというと
「おねえちゃん、もういくの?」
「うん…ここから、私の…ううん。私たちの永い話が始まるんだ…
次の任務が入ってる…私は止まれない。彼女が止まらない限り…
悪が止まらない限りは全力をもって命を死守する」
男の子はニッコリと穏やかに微笑むとエルの手を握った
「ぼくね、おねえちゃんみたいになりたいなぁ。」
エルはスッと目を細め、そしてにこりと軽やかに微笑した
「叶うよ。君なら」
そして、彼の何もない背中に、何かあるような眼差しを向け
スッと透明な何かに触れ、撫でた。
「くすぐったいよぉ」
「君ならなれるよエルフィス。」
「えへへ。ありがとう。」
そして彼女は歩を進めた
「もう一人の天使になりうる魂を持つ者…もう一人のエル…か」
もう一度エルは振り向き男の子の背中を見送った。
そして、白い霧になり消えていった。
ほらね?ほらねほらね??
全然前の話の後書きで言ったこと出来てないでしょ?
そういうヤツなんですよ私は。たまにできるけどもね。
人間なんて大抵がそういうものですよ。うん。
だて人間だもの?感情もってるもの。(ただのいいわけ)
誰だって気だるくなったり面倒になって放置…げフンげフン…
疲れが出て休みたくもなってくるもの。ねぇ?(同意を求める視線)
まぁ、なにはともあれ、ここまでお読みいただき、ありがとうでした!
ここまでで終わりでも良いし、ここから第二部へ突入してもいい。
一応、第一章はこれにて終わりでーす。
第二章も読みたい方は、お心を広くして長々とお待ちください。
ネット環境が悪い上に最近忙しく、さらに多くの作品を手がけて達筆途中で
三年間ほったらか…温存しているお話もあるので、色々手がけているんです。
そのために更新が亀裂更新になりがちですが、ご了承ください。