第四話 天使見習いと悪魔見習い~過去編~
誰一人知ることなく、物語は幕を閉じ、そして開く…その結末は幸か不幸か。二つの小さき命が道を違った時…戦いは始まる。
このお話は、もう何百年と昔のお話。
ある所に、仲良しの10歳の女の子二人がいました。
二人は幼馴染でいつも一緒になって遊んだり
勉強したり、毎日を楽しく過ごしていました。
「エルティーナ!お待たせ!」
そう言いながら走ってきたのは短髪黒髪の
強気な少女。跳ねている髪と猫の目のように
瞳がつりあがっていて可愛らしい。
一方、エルティーナと呼ばれた少女は
大人しいを絵に描いたような、おっとりとした少女。
背中の真ん中までくる長髪は、何故だか真っ白に近い
銀色のような色だった。色素が薄いが、逆に
彼女の雰囲気と妙に合って、更に可愛さを引き立てていた。
「レティアンヌ。急いで。学校もうすぐで始まっちゃうわ」
言いながら楽しく川沿いの橋を渡り
毎日の出来事をレティアンヌが面白可笑しく語り
それを静かに微笑しながら的確なアドバイスや
物事を違う接点で見て話すエルティーナ
それが彼女らの日常だった。
運命が別つあの日までは…
「エルティーナ!」
「来ては駄目!!貴方だけでも逃げてレティアンヌ!!」
エルティーナは今、震える両手に一本のナイフを握っている。
怯える目の先には、そのナイフを落としたであろう強盗がいた。
そう。何時もどうり仲良く帰りの道を歩いて行った彼女たちは
道端でバッタリと強盗に出くわしてしまった。
もちろん、彼女たちは金目のものなど持っていなかったが
強盗がそんなことなど知る余地もなく。
ナイフを見せつけレティアンヌへと襲い掛かってきた。
しかしレティは武術を習っていたため強盗を軽くいなした
驚きつつも体勢を立て直そうとして
強盗の被っていたマスクがすっぽりと頭から抜けた。
「見たな…」
見ようなどとはしてはいなかったものの
外れてしまったから反動で見てしまった。
「もう、生かしてはおけねぇ。かわいそうだが…死ね!!」
そう言いながら今度はレティのほうではなく
「エル逃げて!!」
エルティーナのほうへと襲い掛かってきた…
咄嗟の行動だった。
きっと、頭が真っ白になるということは
レティの今の状況だったのだろう。
親愛の親友が見知らぬ誰かにナイフで殺される
その残酷な状況が、彼女にそうさせたのだ。
させない…そんなことさせない…
彼女の身体は自然に動き、行動に移った
レティは咄嗟に道端の石を強盗の頭へと投げつけ
見事当たらせ、次に痛みで怯んだ犯人へ体当たりをかました。
犯人が驚き転んだあと、レティを思いっきり蹴とばし
彼女は犯人とエルティーナから数メートル離れ倒れ伏す
その隙をついて犯人がナイフを手に取って
再び襲い掛かろうとした瞬間だった。
ナイフは地面にはなく、数メートル先の
エルティーナが震えながら構えていることに気が付いた
そして、今の状況に当てはまる。
「あんたを置いて逃げられるわけないでしょ!!」
きっと、ここから動いたらあの人間はエルを殺してしまう。
「…助けを…呼びに行ってって言っても?」
「…その間に襲われでもしたら…!!」
「大丈夫よ。走っていけば街まで三分とかからないから」
たしかにそうだった。
このままこうして抵抗してもいいが
所詮、大人と子供。体力的には子供が負ける。幸い、あっちは一人。こっちは二人。
二手に分かれて行動したほうがいい。エルを犯人と置いていくのは凄く嫌だけど
体力と足の速さは断然あたしの方がエルより勝ってる。
「分かった。一分で戻ってくるから!!」
到底、そんな短い距離ではない。無理な話だ。
だが、そう言いながら駆け出した彼女の姿をチラっとみて
エルティーナは心底安堵した。
「良かった…レティ…貴方には…もうちょっとだけ生きていてほしかったから」
その言葉を聞いて、強盗が不審に思った。
「なぜそんな事を言うんだガキ?」
いつの間にか攻撃態勢を犯人は崩していた
「だって、私…病気だから」
「??それがなんだってんだ。今あいつを逃しても無駄だ。
俺が後々殺しに行けばいいことだ。どうせ、俺はもう引き返せないんだからな。
何人とを殺し、もう人を殺すことに何の感情もねぇ。
色々な悪行も犯した。もう二人殺したって変わんねぇさ」
どこか諦めたかのような口ぶりにエルティーナはその無表情な顔で
相手の瞳をジッと見つめた。そして、やがてゆっくりと重たい口を開く。
「あなたは…本当にそれでいいの?」
「いいんだよ。俺の人生だ。何をやろうが俺の勝手。
たとえ今やっていることが元で地獄行になろうが構わねぇよ。後で苦しむ。
だから今は俺のやりたいように楽しくやる。」
小さき存在の彼女を上目線でせせら笑う彼に
小さく息を吸い込んでゆっくりと言葉を選びながらエルティーナは喋った。
「あなたが今も全然楽しくないのは目を見てわかる」
その彼女の言葉に、犯人は驚きを隠せず
一度背いた顔をまたエルのほうへと向き直した
「今のことを言ってた時、あなたは泣きそうな眼をした。
寂しいのね…貴方に何が起こったか聞かないけど
でも、諦めないでほしいの…私は病気で
もうすぐこの世から居なくなる。それをレティは知らない」
犯人の頭に先ほどの親友を必死で助けようとしていた
もう一人の女の子の姿が浮かんだ
「だから、ずっと神様に祈ってた。
わたしが神様のもとへ行ったとき、レティはきっと
悲しくて苦しくなって一緒に死のうって思っちゃうかもしれない。
私を想ってやろうとしちゃうだろうけど
そんなの、私は望まない。
彼女には彼女の時間のある限り、私の分まで
目一杯、生き抜いてほしいから…そしてその後、神様のもとで
再会できる日を楽しみにしてる…でも
きっと彼女は何もかもを恨む。長年の付き合いで
そうなるだろうなって予想はつくから。
だから祈ってたの。私の後に彼女を支えてくれる誰かを
与えてくださいって。出来れば私が逝くその前に。」
そして彼女は嬉しそうに犯人を指さし
満面の可愛い笑顔で告げる
「あなたが、そう。」
「なっ?!」
この言葉に犯人は驚き固まった。
この子は一体何を言ってるんだ??
正気の沙汰じゃないだろう。こんな、殺人鬼を…
親友の支え人だなんて。
「俺はくだらない人間だ。汚い人間だ」
「知ってる」
「こんな俺が、そんな代役勤まるはずないだろうが」
「ううん。あなたなの。貴方でなきゃダメ。」
「何で俺なんだよ…?」
その問いかけにますます彼女は笑みを深くした
「世の中の汚いところを見てきたあなたになら
これから来るはずの彼女の痛みや苦しみを分かって
そして、正しく導くことができると思うの」
「無理だ…おれにはもう選択肢はない…俺は…
殺人鬼なんだ…」
「それはあなたが自分に言い聞かせてる下らない言い訳だわ」
「!!」
いつになく冷たく言い張る彼女に
一瞬、息をのんだ。
「過去をどうのこうの言って思い返しても
新しい道は開けない…前へ行くには過去を受け入れて
これからどうやっていけば考えて
今まで決めてきた道の一つ一つ、選択肢を徐々に変えていけば
新しい未来へつながるはずよ」
その言葉に男は救われた。
一つの純粋な魂が男の薄汚れた魂に
また、希望の光をともしたのだ
「…ありがとう…」
「ううん。それはこっちのセリフ。」
そう言いながらエルは男に近寄っていき
手を握った。
「後の事…よろしくお願いしま…す…」
「…え?」
言いながら彼女の身体はガクンと力なく
前へとのめり倒れそうになったのを
男が慌てて抱きかかえる。
「お、おいっ!どうしたんだ!!」
「…言った…でしょ…わたし…びょうき…」
「知ってる!でも何の病気だ?!病院つれてくから言え!」
すると彼女は首を振る
「無理なの…小さいとき聞かされたんだけど…
私の病気は遺伝子からなの…パパのDNAは
ママのとは合わなかった…それで
中々子供が出来なかったんだって。
やっとできた私はこんなだしね…」
「…」
遺伝子の問題で起こる病気…
そういえば、この子は髪も真っ白に近い銀色で
肌もそこらの人より若干白い…
「先天性白皮症、
先天性色素欠乏症…白化現象か…」
「…分かるんだ?」
「…過去、医者になろうと大学卒業したほどだからな。」
「ふふふ。なら…本当に素敵な道を
貴方は行けるわ…」
先ほどより弱弱しく笑う彼女。それを心配して
男は自分に出来そうなことをやろうと
彼女を抱きかかえて走る
「家はどこだ?!家族なら事情、わかってるんだろ?!」
コクリと頷き彼女は震える指で家の方角を示した。
後で判明したこと。
彼女はその自らの遺伝子によって
悪質な要素が身体に出来上がっている事を
男は知った。
彼女の身体は今までの先天性白皮症、
先天性色素欠乏症…白化現象とは大いに違った。
それは髪や肌のメラニン要素が半々であること。
そのせいで身体がバランスを取ろうとして逆に
身体に負担になるようなものを作っている事。
そしてそれは、彼女の命を極端に縮めている。
そのせいで彼女は満足に運動が出来ない。
身体の病気に対する抵抗力が低く
また心臓も弱いためいつ発作が起こるかわからない。
だから彼女はつねに落ち着いていなければならない。
しかし、先ほどの出来事が彼女の小さき体に
負担をかけてしまったのだ。
「…じゃあ、俺はこれで」
「…自首…するのかい?」
背中越しにエルティーナの父が男に話しかける
「はい。すべてをやり直そうと思ってます。
俺を救ってくれた彼女が言う神様を
もう一回、信じてみたくなったんですよ」
そして、彼はこう付け足した
「それに、もしもの時の『支え役』になってくれって
頼まれた身ですからね。今までやらかした
罪を償ってから、彼女の願いをやり抜こうと思いまして」
そうして、扉が閉じかけた時、うっすらと目を開けたエルは
扉のほうへと手を伸ばし、苦しそうな声で呟いた。
「そっちへいっちゃダメ…ここにいなくちゃ貴方は…」
「寝ていなさいエル。彼なら大丈夫よ」
優しい母の声。しかし、彼女は
出来る限り声を荒げて言った
「死神が…死神が貴方がここを離れたら
連れて行かなければならないって言ってるの!!
だからお願い行かないで!!」
え?
そう問いかける暇もなく
扉が閉まると同時に一つの銃声が響き渡った
「大丈夫ですか?!極悪な犯人がここで人質をとって
立てこもってるって追放があったんです!!」
そう言って駆けつけてきたのは警察官だった…
「…イヴァン…」
それが、たった先ほど銃に打たれた男の名だった
今思えば、悪魔たちの策略はこの時始まっていたのかもしれない
警察官の撃った弾丸によって
支え役になるはずだったイヴァンは即死。
その数日後、エルティーナもその短き命を終えた。
残されたのは三日夜通し泣き続けたレティアンヌだけ。
「神様ってさ…不公平だよね」
彼女は崖の上にいた。下を見下ろすその瞳に生気は感じられない
数日前の彼女とは全くの別人となっていた。
「優しい人を次々につれてっちゃう…」
あたしの大好きな母さんも父さんも弟のヨハンも
そして今度はエルティーナ…あなたまで…
「…神様、私はあなたなんて」
大嫌いです
その言葉を合図に彼女の目の前に
ものすごい明かりが広がった。
雷も鳴り、地響きが起こる。
そして、何かが燃えるような音がしたと認識し、
それが自分の目の前にあると気づいたレティは
熱さを我慢し、目を開ける。
そこには、空中でプカリと浮きながら
心底楽しそうな顔をした男の人が居た
いや、背中に蝙蝠のような真っ黒い翼と
頭にでかい角を生やし、真っ黒い尻尾があることから
こいつは悪魔だろう。
「よう。地獄からやってきた使い悪魔の「ブッシュ」だ。」
「なにしにきたの」
「おうおう。威勢がいいな嬢ちゃん。
悪魔を目の前にしても屈しないなんてね。」
「怖くないさ。悪魔も天使も、サタンも神様も
なにも怖くない。むしろどうでもいい。」
大切な人はもういない。
私にはもう、何もないのだから。
だから怖くない。これから先何が起ころうとしたって
怖くなんてない。
「神を冒涜したお前は地獄から招待状が届いたぜ」
ニヤニヤしながら悪魔は指の先から炎をだし
一枚の真っ黒い封筒を出現させた
開ければ文字は真っ赤な血で書かれたかのような色。
「サタン様直々に血の契約書だ。契約すれば
この世のすべてを壊し、支配することを約束に
働いて昇進していってもらうことになる。
まずは…亡霊のようなもんからかな。
その次に悪魔見習いとして働ける。色んなすっげー力も
もらえるぜ?どうだ??」
「……この世を壊して支配か…いいかもねソレ」
ニヤリと黒い影を落としながら彼女が不気味に笑う。
その瞳はかつての光でもなく闇でもなく
執念の炎だけが宿っている。
「あたしから奪った神様に復讐だ。あたしも…奪ってやる」
ここに、悲しい子供と悪魔の血の契約が交わされた。
その日から、彼女は忽然と姿をけし
この世を支配すべく、また復讐を遂げるために
神の子である人々を殺す仕事をこなすことになった
一方その頃、深い眠りについたはずのエルティーナは
沢山の人々の泣き声や叫び声
苦しみの声や怒涛の声などが合わさって聞こえてきたため
その安らかな眠りから目覚めた。
そこは闇の中だった。
自分はてっきり、神のもとへ帰ると思っていたため、
困惑し、なす術もなくその真っ暗な場所を
ただただフワリふわりと漂っていた。
その中で聞こえてくる悲しみや怒りと言った感情や声。
苦しい。息がつまりそうだ。
死んだ人間の魂は罪がなければ
苦しむことなく神のもとへと行けると教えられてきた。
しかし、自分の今いる場所は正反対だ。
ならば、彼女は何か罪を犯したということになる。
しかし彼女には見当もつかなかった。
そして、その苦しみの中で
彼女は聞いてしまったのだ。
見知った懐かしい声が恐ろしい悪意を放って人を葬る際の言葉を
『じゃあね。恨むんならこういう運命を定めた
神様ってやつを恨みな』
「…レティアンヌ…?」
そう言った途端に流れてくる彼女の罪の始まりと
その悪行の数々。彼女は血の気が引いた。
まさか
まさか
自分の死がここまで彼女を狂わせるなんて
そして、同時に思った
彼女を止めて、そして救いたいと
そう、エルティーナが思った時
一筋の光が見えた。そして彼女は
今し方居た苦しみの闇の中から引っ張り出された
「生を全うし、清き魂を保ち、闇に落ちていた
神の子を救った者よ…聞け。
お前の死がお前の友を悪の道へと繋いだ
よって、彼女の罪は巨大なものとなり
お前を罪の輪の中に閉じ込めてしまっていた。
しかし、お前の気持ちに変化が現れ
それを神は大変良く想われた。」
「…ありがとう…ございます」
ぺこりとお辞儀をするが
背中に真っ白い鳥の翼を生やし
頭の上に光輪をつけていることから天使だとうかがえた
「だが、お前のその罪はまだ晴れてはいない。
お前の友がお前の死によって罪を繰り返す間は
お前も安らかに眠ることなどできない。
もちろん、彼女の母も父も弟も、罪の輪の中で
嘆き悲しみながら苦しみ続けている。
そして、お前の友はその魂たちが苦しむ間
決して罪は消えない」
「…どうすれば…私はあの子を止められますか」
その言葉を聞き、天使はスッと真っ白い紙を取り出した
そこにはびっしりと見たことのない金色の文字が書かれていた
「神が仰るのは次の通り。お前はまず、これから先
お前の友が犯そうとする罪を防がなければならない」
そして、時には彼女と対峙し
最悪の場合は戦いになるかもしれない
「辛く苦しく厳しい道のりだ。お前にその覚悟があるか?」
「…何もしないという選択をとっても
罪の輪の中で苦しみ続けるだけなんでしょう?
だったら私は…厳しい道を行く。
これ以上レティに罪を重ねやしない。
そして、いつか止めて見せる。」
「お前の覚悟、しかと聞き入れた。
ついてきなさい。守護天使と戦闘天使のところへ案内する
その二人のもとで魂の戦い方など教わりなさい。」
案内人天使は彼女を目的地へと導くと
「神のご加護があらんことを」
と言い残し、次の仕事へと行った。
こうして、彼女たちの永い永い戦いは
幕を切って落とされたのだった。
そしてそのことは地上の誰一人として知る者はいない
本当は短編で終わっていたお話ですが、コレなんか良くね?
と思い、続編らしきものを書き上げていったらいつのまにか凄い枚数になってますた。
だって天使のお話、読むのも書くのも昔から大好きだったんだもん。
すきすきオーラが大爆発して爆走して出来上がったのがこのお話だヨ♪
色んなものを混ぜてもしかたがないので、出来る限りエルとレティが活躍しているお話を取り入れ、修正し、まとめあげました。
…全然終わる気がしないんだけれども、まぁ、どこからでも区切れるようにしようと努力しましたが無理でしたね。
なので、一応このお話の次くらいで読むのを止めても良いようにしなくちゃなぁとは思ってますけど
きっと無理だろうなぁ…(微笑)