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第三話 魂で奏でるヴァイオリン

「よーし、今日はここまで!明日のテストは

実際に好きな楽器を弾いてもらうから。それじゃ解散。」


音楽の先生がそう言い、生徒たちがお辞儀をする。

今日も彼らの生活は普通にまったく変わりえなく

終わろうとしていた。


「…はぁ」


先ほどの音楽教師の田村たむら雄介ゆうすけ

らしくもなく、ため息をこぼした。


「先生、どうしたの」

「ん?ああ、エルティーナか…いや、何でもないよ」


雄介の前に現れた帰国子女らしい生徒、名を清白きよはくエルティーナ

高校生。皆からはエルやエルティで呼ばれている。

なんとも不思議な子で真っ白い肌に髪は肩からちょい下の長髪で、

大き目のクリクリとした蒼い目が長い前髪に見え隠れしている。


普段は何にも興味を示さず、無口&無表情。

しかし、本当に困っている人が居たら迷わず手を差し伸べる。

だからか、彼女の人気は常に鰻上りだった。


「何でもなくない。貴方は何かを隠している。

正直に話したほうがいい。スッキリするから」


彼女の的を射た発言にドキリとしながらも

そこはさすが大人、雄介は落ち着いた対応で答える。


「大丈夫だって。エルの心配するような事じゃないから。

大人には色々と面倒なことがあるんだよ。それに少し疲れているだけだ。」


「そう…」


と呟く彼女に、納得してくれたかなと思いながらホッとしていると

突然こんな事を言い出した。


「なら、一緒に来て」


そして彼の手首を掴む。

振りほどこうとするが、一体全体この細い体の何処に

こんな力があるのかと驚くほど、彼女の力は強かった。

無論、雄介はそのまま屋上へと連れてこられた。


反抗を示す言葉を述べようと口を開くが

彼女の視線が気になり口を閉ざした。

ジッと何かを見つめるように、屋上の上

つまりは彼女は空を見つめていたのだ。


「…そう、この人で間違いない」


「…?」

「…でも、今は任務の途中。私はまだ帰れない」

「…??」


そのままブツブツと誰かと会話でもするように

エルは話し始め、雄介はただハテナを頭に浮かべるばかり。


「…そう…」

「(一体、誰と話をしているんだろう?)」

「…これも任務の一つと任命…」

「(任務…?)」

「…承知した」


彼女がそう言うといきなり雄介のほうへ顔を向けた


「な、なぁ、エル…お前…もしかして」

「…」

「天使…だったりする?」


なにせ、この間不思議体験したばっかりだ。

そして、この子から感じる気配はまるであの日の―――…


そう思考が動いていたとき。

無表情の彼女があの日の天使のように笑った。


「一時的に引き合わせる。それくらいしか許されていない」

「え?」


そう言ったかと思うとエルは手を空へ伸ばした。

もちろん、雄介の手首を掴んだまま。

途端に空が降りてくるような錯覚に陥った。


眩暈がするようだった。

ぐるぐるぐるぐると空が雲が回る。体の感覚が無くなっていくような…

そして次の瞬間彼らの周りが光で包まれた。


『…』

「君は…!」


そこには、あの日と変わらず微笑んでいる、背中に翼を持つあの時の彼女が居た。

彼女が大切そうに手にヴァイオリンを持つ。そして一つの曲を奏でた。

とても巣晴らしいその音は光に溶け込みやがて空気を震わせる。


一曲弾き終わり、名残惜しそうに雄介へと微笑む。


『ありがとう』


彼らを包んでいた光は一層輝き、体の浮遊感が徐々に無くなっていく。


「ま、まってくれ...」


もうお別れだと気づいた彼は必死になって呼び止めようとする。


あの時言えなかった言葉を…君に言っておきたかった言葉を…!

聞いてくれ...!!


しかし、酷く眩暈がする。口が重くて上手く開いてくれない。

また空が回る。青色と白色がパレットに混ざるような気分だ。


そうして、彼の意識は消失した。


しばらくして生徒たちが彼が倒れている校庭に駆け寄り、

気絶している彼を保健室まで運んだ。



しばらくして雄介は目覚め、一件落着した。


だが、彼はまたもや自分の気持ちを、彼女に言えずに帰ってきてしまった。


「はぁ…」

「先生」

「ああ、エルか。あの時はありがとうな。彼女にまた会わせてくれて…」

「なんてことはない。」

「…なぁ…空の彼方に居る彼女に、気持ちが届くようにするには…どうすればいいと思う?」


するとエルは滅多に見せない微笑をしながら、静かに彼に告げた


「すでに思い出の中に答えはある」

「思い出の中…」


そしてしばらく悩んだ末に彼は何かを思い出し

何を思ったかヴァイオリンを取り出し弾き始めた。


『魂の音色は誰にも迷惑はかからないわ』


彼女はそう言った。



ならば



一つ一つの音に己の想いを込めて弾けば。

かならず彼女へ届く。



大好きです。と、ありがとうを込めて彼は今日も弾く。

ちなみに、コレが元で雄介が人気者になったことは言うまでもない。


そして…


「任務完了。主任、次はどこへ?」


エルは真っ白なワンピースを着込み、自分の居た高校を眺めた。


任務が完了した今、ここに居る事に意味はなく

彼女は携帯らしきもので誰かと会話していた。


「…次の任務、了解した…」


そういって、彼女は人ごみの中へ消えていった。


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