悲翠
目が覚めると横には姉さんの顔。見ているとこちらまでまた寝たくなってしまう。だから起きる時間が早くても「おはよう」は姉さんが先に言ってしまう。
丈が短い和服に身を包む姉さん。小太刀を持った姿は言うなれば暗殺者の類だった。
「大丈夫?」
「..... うん、なんともないよ」
出来るだけ口調と視線を一定に保とうと試みる。
「やっぱり、怖いよね。いきなりお姉ちゃんがこんな格好してたら」
やはり姉さんには隠し事は無理だった。
目はとてもいとおしそうに俺を見つめる。
「..... 待ってた... 」
その一言に俺は自分の肌が冷えるのを感じる。
姉さんは未だに剣を握っている俺の手に自分を手を重ねてきた。... 冷たくもなく、温かくもない。ただ不可視の物質がのし掛かっているような感覚。
「... ッ」
姉さんが上に飛び、俺の目の前を鋭い光が通る。
「う~ん、[これ]は初めてだね」
首と指を鳴らしながら、翠が立っている。
「私達は認識されるけど、記憶には残らない」
逹.....?
「そうですね、所詮人というのは同種以外には興味がない。私は憂樹に覚えてもらえればそれでいいんです」
「これは重度のブラコンだね~..... 」
「ちょい待ち。全然話が分からんぞ。二人とも」
流石に我慢の限界だった。
「知らなくて良いんですよ」
「聞いてくれる? 」
.....
「「同時に言わないで」」
..... ハッ( ; ゜Д゜)
無言で武器を構える二人、これはまずい。
翠は大鎌からレイピアへ、手数を重視。
直ぐに打ち合いが始まる。
一撃でも軽視出来ない、0コンマ単位で行われる。
翠の予想外の素早い陽動、本命。技術は向こうが達者。私は少し距離を取る。
そして、腕を狙った突きを弾く。予想通り、翠の重心が下に向き、そのままレイピアは地面目掛る。
動脈に小太刀を刺そうとするが.....
空を切る、いや翠のいるはずの空間を切る。
..... レイピアは姿を変え、鎌となる。
終わった、
私が閉じかけた瞼の隙間に見たものは.....
思い切り鎌と姉さんの間に剣を滑らせ、遮る。
「あっぶね..... 」
俺は冷や汗を流した。しかし妙に落ち着いている。
姉さんを助けなきゃ