幽鬼
外は雨が降っている。俺の横には折れた槍と眠っている少女がいる。
「もう... 無理かな」
「僕に任せて」と、何かが囁く。少なくとも今俺の身体を動かしているのはその何かだ。
だんだんと俺の意識が消え始めていく。学校の屋上で覚えた感覚だ。
駄目だ。今度は自分でやらなければ。
「そう... それじゃガンバ」
囁きが無くなった。
目の前に槍の先端が迫っていた。ギリギリ避ける、埒が開かない。... 不意に槍が止まる。
翠が言う。
「... 純度が高いのかな、光が反射してない」
本来あるべき金属光沢が俺の剣にはなかった、純度が高い...?
「もう、完成しつつあるね」
言い終わると床に手をあてる。
「もっと広い場所に行こう」
我が家が俺を押し出す。... え?
森まで吹き飛ばされた。
「いきなりでごめんね。私は分子で構成されている物質に内部から干渉出来るの」
内部から..... となると、翠は幽霊に似た存在にあたる。
翠の手元に目をやると、槍が大鎌になっていた。
..... どうやら戦い方を変える様だ。不利すぎる。
「いくよ」
静かに翠は言う、最早俺を葬る事にしか意識がないようだ。
打ち合いが始まる。相手の視線、手の向きから攻撃の来る向き、威力を想定しながら。
大鎌は両刃と考えた方が良さそうだ。物質への干渉は意外に瞬時に行えるらしく、手の向きからの予測は意味を成さない。
それなら.....
俺は思い切り間合いを詰める。勿論、背後から俺の背中を裂きに来るであろう塊に気を付ける。
予想通りだ。
背負った剣で防ぎ、翠の左側の肺目掛けて衝撃をいれようとするが.....
柔らかい土のせいで滑り、勢いが、逃げる。
「っべー」
..... 手には柔らかい感触があった。
翠..... そういえば俺が見たときは何時も大きめの服を着てたが、お主..... 中々。
顔を赤くする翠と対照的に青くなる俺。
「もう..... いいや..... キミを封印するのは諦める」
今までの行為を考えると封印に[ごり押し]がつく。
「あー..... なんか..... ごめん」
取り敢えず謝る。
「いいよ、男の子だもんね」
さて、帰ろ。と言おうとしていたのだろうか。
翠が手を差し出しながら倒れた。
..... は?
「やぁー、危なかったね」
姉さん.....?
「大丈夫だよ。気絶だから」
手で小太刀をくるくる回しながら言う姉さんはどこか安心した様子だった。
目以外は。