紅花
形を変え続ける赤い花の中でも私は生まれた。顔を確認する術も無く、自分の身体にも触れられない。色を亡くしていく空を見上げ続けた。
「あかり... 」 私はそう呟いた。
俺の横で寝息を立てながら寝ている姉さん。これはもう慣れっこな光景だが、今日はおかしい。
昨日、俺の前に現れた少女、多々良 翠が乗っかっていた。
「降りてくださいませんかね?」
「えー。こんな乗り心地の良いう... 人はそうそういないよ」
う、の続きが気になったがあえて無視をする。
「う~ん... 朝ごはん?」
と、寝惚けながら起床する姉さんこと朱里。
「あら~、翠ちゃん。お久し振り♪」
... え
「ご無沙汰ですね、朱里さん!」
知ってたのかよ...
「朝のニュースをお伝えします。今日未明、マンションが一階から全焼するという大規模火災が発生しました。生存者は1人のみ、幸い怪我は無いようです。」
キャスターさんはポーカーフェイス、というか人形のように、驚きの色を見せず読み上げる。流石。
「うーわ、流石にこれはないでしょ」と翠。
「うふふ、余程運が良かったのね。あの娘」
能天気な朱里姉さん。
本を読みながら、横流しにニュースを聞いていた俺は、ちらっと時計を見る。 あっこれはヤバい。
隣に置いてあった鞄を持ち、家を飛び出す。
読んでいた本がちょうど、主人公が三次元移動をしている場面だったので俺もそれにならう。
先ず電柱に登り、屋根に飛び移る。その繰り返しでギリギリ間に合った。数分前だ。
俺は他人より、「学習能力」というのが高いらしい。
「ふぅ~」 といきなりの運動で疲れたため、息を多量に吐き出す。
「え~と、本日は皆さんにお知らせがあります」
ありきたりな展開だ。
「それじゃ、入ってきてっ」
扉を開け入ってきたのは、翠ではなく、小柄な少女だった。
「今日からこのクラスでお世話になります、生天目葵衣と申します!よろしくお願いしみゃふ!」
俺は引きつった笑みを浮かべる。葵衣、という少女が噛んだ事に対してではない。
彼女が今朝のニュースの生存者だったから。