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The Prayer  作者: 遠藤静
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Chapter2-1

 ヘリオス西南部に位置する閑静な高級住宅街。どこの家も二階建ての立派な屋敷を構え、唯でさえ大きな館の二倍以上ある庭をどの家も所有している。その中でも一際大きく黒塗りの高い壁に囲まれ四六時中正門にはキャメルのトレンチコートの男が二人立ち尽くしている。彼らは決してそこらの看板持ちなどとは訳が違う。なんといってもエリーザ(ドン)を突然の襲撃から守る為、鍛え抜かれ信頼を置かれたいわゆる筋金入りという訳である。正門の先の駐車場にはロードスターやキャデラックなどの高級車が駐車され更に先には漆塗りの屋根と支えるチャコールの壁からなる屋敷が威厳を醸し、空気に重たい雰囲気を孕ませそびえ立つ。この屋敷にエリーザ・ラヴロックことエリーザ・カスティオーニが戻ってから早二日が経とうとしていた。しかしながらエリーザは二日間羽を伸ばすこともできず、いつ終わるかもわからない来客に追われていた。今日もやっとエリーザが来客たちと一通り話し終えたのは午後の三時になってからだった。ろくに昼食も執れず、裁判の当日よりも深くずっしりした疲労感を肩に縛り付けソファーに深く腰を沈める。

 彼女は彼女の事務室にいた。床はチェスナットの光沢のある木張りで、ブラインドは常に下ろされ窓の近くには大きなウォルナットのデスクが配置され基本的にエリーザはそのデスクの椅子に腰かけ来客を歓迎し、話を聞いている。一方今現在座っているソファーは部屋の丁度中央にある細部まで装飾が施されたテーブルを挟む二つのターコイズのソファーだ。統一感を出すために、テーブルのクロスにもターコイズがあしらわれている。また部屋にはバーカウンターまで設置され、バスルームにトイレまで完備されまるでホテルの一室だった。

「しかしリーサも立派になったもんだ。二日間ここを訪れる客はあんたが無罪になっただけで親戚が結婚するときと同じくらい包んでくれる。一度骨でも折って入院すりゃあこれの倍は“粗品”が集まるだろうな」

 ラヴロック・ファミリーの顧問であるロベルト・マルディーニがシガーを吹かしながらエリーザとは対面のソファーに腰を落とした。「いるか」シガーをロベルトは勧めるが、首を横に振られた。ロベルトはファミリー結成時から随分長い間、ファミリーを支えてきた男だった。先代ドンからも信頼され、かつてはファミリーの幹部を務め経理関係から抗争に至るまで幅広くファミリーを支える中心人物の一人として確固たる地位を築いてきた。エリーザが現在のドンとなる前、次のドンは彼だと周囲からはささやかれ確かな人望と確かな力を持った男である。

「ロッピー酒を。なるべく弱い奴頼むわ」

「そういう仕事は専属バーテン雇ってさせるもんだ」

 今回こんなに集まったんだから。ロベルトが付け加えると、エリーザはため息交じりで言葉を続けた。「じゃああなたを顧問から解雇してバーテンにするってのもあり?」

 エリーザとロベルトはドンと顧問の関係ではなかった。常に古くからの友人であり同僚の様に接していた。彼女がドンの座を手にしたときから一時期ロベルトは酷くかしこまった口調で彼女と話していたが、彼女はそれには酷くくすぐったい思いをしたそうだ。それからというもの二人の関係はあまりにもフランクでドンと顧問役として二人を見るよりも、友人というほうがしっくりくる。

「そいつは困った。少しお待ちを、ドン・エリーザ」

 ロベルトが立つのと同時に、部屋の扉がノックされエリーザ―はため息交じりの声にならない声で「今度は誰」と呟いた。「ミス・カスティオーニ、アリア・アルディーニ様がみえていますがどうなさいますか」弁護士のテリーの声が扉越しに聞こえた。

 アリア・アルディーニ、それは二〇前半でこの国の行政の中核を担う五賢人というポストに身を置く女性である。小柄で金髪な彼女は外見からはまだ十代のそれもかなり幼い様に見える。だがそんな彼女は現在リベルタリアの国政の地域独立行政のトップに立たされているなど、外見からは判断できまい。

「おいおいテリー、まさかそんな大物をここまで足を運ばせておいて無駄足にさせるわけにはいかないだろ」

「テリー、ここまで通して。荷物チェックはいらないわ。付き人の男の子もね。ロッピーは夜の会合の相手についてそろそろ資料をまとめてきてくれるかしら」

 ロベルトは灰皿に吸いかけのシガーを押し付け、はいはいと部屋を立ち去って行った。更に一分と経たず、アリア・アルディーニが扉をノックし連れ人のレント・アリエスと共に部屋に入ってきた。エリーザは抱擁し頬にキスして迎えた。二人がターコイズのソファーに腰を下ろすとエリーザも先程同様に対面に腰を沈めた。

「今日はデスクのほうに座らないの、リーサ?」

「デスクの椅子がこのソファーよりも座り心地がいいものだったら、考えてもいいわ。テリー、二人にお飲物を」

「お二人ともお好みはございますか?」

 一瞬連れ人のレントは水を。と、呟いたようにもみえたがアリアの「テキーラロック二つ」に掻き消された。しかしながらテリーはその注文に背き、ノンアルコールの飲み物とテキーラを注いだグラスを二つ客人の前にそっと置いた。安堵するレントの表情を見て、面白くないといった表情のアリアに対し、エリーザは小さな紙に筆を走らせすぐにアリアに手渡した。さっと目を通すや否や、途端表情が強張りメモを半分に折ると真摯な目線でエリーザに何かを訴える。

「リーサ、これが本当なら不味いわよ」

 そんなことはない。エリーザはそう言い“人が沢山死ぬかもしれないが”と付け加え、マッチに火を点しメモ書きを受け取ると灰皿の上でさっと燃やした。火にのまれるメモ書きが灰皿の上で踊り、エリーザはそれをおぼろげに見つめ言葉を続けた。「これは些細なこと。むしろ予想の範疇よ。彼がどんなにコソコソと活動を始めたとしても、我々のもの(コーザ・ノストラ)に手など出させはしない。手を出せもしない。なんてたって予想の範疇ですもの」

「ならば私があなたに助言するのは野暮ね。今まで通り助力をしていれば事足りそうだもの。しかし犠牲はあまりに出さないでね」

 疲れ切ったエリーザは顔を手で覆い、コクンと頷いた。弱々しく一つの犯罪組織のボスとは誰も思えないだろう。それほどまでに現状彼女疲弊していた。裁判がやっと終わりこの二日多くの業界人たちとの“話し合い”があった肉体的な面でも相当疲弊している。しかし一番の問題は精神面の疲弊だった。彼女はファミリーのボスをとある事情をきっかけに引き受けることとなった。ファミリーの構成員はそれまでただ夜の女たちを束ねるリーダー的存在――リーダーと言っても最も公平で、最も中立的な立場であるが故の選抜――であり、虫も殺せなさそうな女性がラヴロック一家のドンの座に座ることに驚愕した。また女性というだけで大変なアドバンテージを背負っているのにも関わらず、所詮は夜の女の端くれ程度と彼女は認識されていた。よって反乱分子と呼ぶに値する内部でエリーザをボイコットする連中が現れた。奴らは彼女が決めた 血の掟(オメルタ)を破り、彼女は彼女の領域を犯す彼らに罰を与えた。幾人かはいまでも失踪届が出され捜索活動が続いている。無論見つかることなどないだろうが。

 このような無慈悲な裁きにより、エリーザは女性にして巨大ファミリーを統率する氷の女王として西のエリーザ・ラヴロックとして君臨することとなった。だがファミリー内での法を執行する者として彼女は本来のエリーザらしさである優しさを置き去りに、ただただ無慈悲に断頭台のロープを引いた。生来に反する行動は彼女の精神面を蝕み壊死させ、硝子の心にヒビが入ることすら感じさせなくなった。

 だが数か月前ふとした時自身の現状を俯瞰したエリーザは吐き気を催した。自身の両手が罪に染まり、蝕まれた心がどんなに腐敗し、瓦解していたか気が付いた。エリーザは胃袋の中身をその場にぶちまけ、三日三晩寝れず喉元に水をも通すことができなくなった。そのタイミングで裁判が訪れた。一度は裁かれ断頭台への道を突き進もうとも考えたが、残されたファミリーたちのことを考え馬鹿な真似は止そう。と、考えたのだった。事実そのお蔭で偽りの冷酷なまでの冷静さを取り戻し、無罪を獲得し今に至るのだった。だがそれでも心の傷が消えることなどなかった。

「アリア、そういえばあなたも話したいことがあるからここに来たのよね。なにかあった?」

「ええ、まあ色々と。まず一つ目にこのところ安く白い粉を取引している連中がいる。しかもただの素人じゃない、かなり手馴れで何重にも絶縁体を設けて完全に根本がわからない状態よ。そこであなたたちに根から摘み取ってもらいたいの」

 またか。エリーザは声には出さず、飲みこんだ。悪とはいえ、また人の始末をしなければならない。アリア・アルディーニと呼ばれる少女は最年少五賢人の一人であり、この西地区の行政全てを担っているといっても過言ではない大物だ。彼女と関係を持てることは大きい。だが彼女は麻薬を嫌い、扱う組織の完全抹殺をこちらに要求してくる。断ることとなればこちらも大きなカードを失う可能性がある。五賢人ほどの影響力のあるカードを手放すことはエリーザにはできないのだ。故に彼女は薬物を扱った一八にも満たない青年団を皆殺しにしたこともあったのだ。また悩みの種が増えそうだ。

「二つ目に南のフェルナンドのヴァレリナ・ヴェルトットの動向を常にチェックして、こちらへの被害を最小限にして欲しいの。ヴェルトットの奴は完全にいかれてる。刑務所に何度ぶち込まれようがでてくる、白昼堂々と人を殺す、まだまだあるけれどもとにかくあれがヘリオスに入ってせっかく築いた現状のイメージを壊してほしくないの」

「彼女の動向は常にチェックしてる。私も蜂の巣にされたくないものでね。それにいざとなったら、お借りしているニヒルを差し向ける予定よ」

「ニヒルは今何を?」

 黙っていたレントが会話に首を突っ込むと、アリアが鋭い眼光で怒りを露わにする。

「危険な仕事でこのところ顔を合わせてないわね。多分半年は電話すらしてないわ」

「それってエリーザさん、死んでる可能性もあるっていうことですか?」

「大丈夫。彼が上手く仕事をしてるのはわかってるから。仕事をしていることがわかる以上、それは生きてるってことでしょ。それに彼が死ぬなんて思えないわ。殺されるなんて特にね」

 その場にいる全員が話題に挙がっている人物が死ぬことを想像できないということに対して頷いた。彼は一言で言うならば殺人鬼だった。まだ十代の頃両手の指でいままで目の前で人が死んだ数が数えられなくなった。彼にはその頃まだ名前は無く、何とも呼ばれてはいなかった。しかしながら何件も不可解な死体が発見されるごとに彼は名を持つようになった。粉々にされ、時に個人を特定できないほどの破損した死体が発見された事件がリベルタリア各地で起きた。時として死体は身体のパーツのみとなった。二つの目玉と顎のみが発見された事件を境にとある新聞社が彼に名前を付けた。猟奇的で暴力的、また人の生き死にを司る悪魔の様な殺人者。いいや人かすらもわからない。なんてったって見た人間が生きていた事件がこれまでに“無い”のだから。まるで心を持たず虚無から生れたかのような凄惨な殺人、また死体発見者は数年の間死体の赤く染まった姿に毎晩うなされ続ける。都市伝説として恐れられていた悪魔は畏敬の念からこう呼ばれた。虚無ニヒルから出でし()畏怖の朱(ドレッドレッド)――彼の本質は時に猟奇的な死という現象そのものであり、時に悪魔という化け物やUMAの類となり、ある時は死を彩る芸術家アーティストとして人々から称された。

 だが現在は模範した殺害が世界中で起こり、彼は存在せず凄惨かつ卑劣な遺体を残す殺人という一つの流行した殺し方(ブーム)なのではないかと人々は噂するようになった。彼の名はここ数年ですっかり聞かなくなった。誰もが流行と同じ様に忘れた今、誰もニヒル・ドレッドレッドがアリア・アルディーニに仕えているとは予想もしないだろう。よってこの事実を知る者も、この部屋にいるアリア本人とアリアの付き人であるレントとラヴロック・ファミリーの幹部から上の連中だけである。

「ならヴァレリナについて心配は今のところ無いってことでいい?」

「ええ、でもこれだけは注意して。彼女は危険すぎる。正直言って白昼堂々と辺り一帯を蜂の巣にするほど脳ミソがとろけてる女は何考えてるかわからないわ。だから決してできるだけ近寄らないで」

「近寄らせないのもあなたたちの仕事よ」

「オーケー。すぐ動きがあったら筋金入りをそっちに寄越すわ。他に要件はあるかしら。今夜チャイナタウンにいる大物との会合があるからそれの準備もしなきゃで大忙しなのよ」

「特にはないわよ。けどチャイナタウンは政府と中国大使館の特別管轄地域なのに、そんな“大物”がいるなんて驚きだわ」

 チャイナタウンはリベルタリア南西に位置する港町に築かれた、中華人民共和国とリベルタリアにできた協和と調和の象徴と呼ばれている。だが実質はチャイナタウンは中国とのパイプを築くための一つの手でしかなかった。統治についても中国大使館に任せ、実際中国領の様に扱われていた。国からも干渉できないわけでもないが、如何せんお偉い連中は中国の機嫌が取りたいらしい。現時点でご機嫌取りをしたところで、所詮は害虫に餌をやるのと等しいことだが、お偉い連中はチャイナマネーが大きな影響力を与える時代が来ることを予測し、いまから対策を早め早めに行っていたのだ。

 ゆくゆくは中国から来た客が金を落とし、莫大な収入源となる。先見の明は遥か半世紀以上先のことを予測し、つい十数年前に生まれ変わった若き国がやがて世界経済の中心を担うことに迷い無く投資したのである。無論、国内外からの批判は相当のものであったが。

 この国は長らく多くの柵としきたりに囚われることなく時代の波に乗り切ってきた。早々と合衆国の連邦政府を模範し、合衆国と連携し通貨統一で自国通貨をドルに置き換えた。自ら独自の通貨を捨てることがどのようなデメリットがあることを承知の上でのことだった。どちらも合衆国の現在の在り方が時代の先を行くことを見据えてだった。結果成功を収め、小さな島国にして世界で認知される大きな力を持った存在となった。先見の明は既に実績を持ち、確かにこの国の指針を担っているのだ。だから今度のチャイナタウンも反対を押し切り強行できた。

「戦争に負けて植民地になるならいざ知らず、無償であんな汚い国に植民地をくれてやるなんて上の連中も大盤振る舞いね」

「アリア、あなたも一応上の連中の一人なのよ」

「正直私たち五賢人なんて所詮地方統治の駒と責任追及の為のスケープゴートよ。まあ中央区の賢人を除いてはね。前に先代の北の人が死んだの憶えてる? 彼を殺したのはマスティーニの手駒なのはわかりきってるのに、私たち東西南北中央区を束ねる連邦政府は何も手出ししなかった。マスティーニ・ファミリーが地方行政の勢力じゃ対処できなくなってることも分かりきってるのにね。それで今度はすっかり自分も下手したら殺されるって思ってる息子のカロー・カルニーニが北区の賢人に任命された。カルニーニ行政はもう駄目よ。殺しがあってもマスティーニ絡みなら全部事故死で通っちゃうもの」

 かつてマスティーニ・ファミリーを痛烈批判し、必ず全員を檻にぶちこんでやると強い自信と群衆からの期待を背負った人物がいた。彼は北区の賢人として異例の高齢で就任したが、就任半年後理髪店で理髪師ごと蜂の巣にされてこの世をさった。後釜はすぐに当時一流大学を卒業しポテンシャルとブランドネームの両方を携えた息子のカロー・カルニーニに決まった。一度は拒絶したカローであったが、自宅に投資家であり裏ではマスティーニ・ファミリーのドンとして絶対的帝王として君臨するシルヴァーノ・マスティーニからの訪問を受け自ら名乗りを上げた。一説ではマスティーニは断り切れない条件をカローに出したと言われているが、真相は定かではない。

 アリアは目を細めて、一抹の哀愁を漂わせると続けた。「所詮は私たち五賢人の代わりなんていくらでもいるわ。いくら元老院の議席が手に得られども、いつ知らない濡れ衣を着せられるかもわからない身に自分がいるって考えると正直吐き気がこみ上げてくる」

 エリーザはアリアの一言を受け、自身との立場は違えど似た状況であることを感じた。今までまるでこの世にこれ以上辛い状況にいる人間はいないと悲劇のヒロインぶっていたが、目の前の自分よりも一回り若い少女の状況を見ると自信の甘えが鮮明に浮彫にされていく。もどかしさに抗うように内心自己の負担を必死に肯定するが結論など早々と出る訳でもなく胸にしこりを残した。

 反射的にアリアへと慰めの言葉を掛けようとするエリーザだったが、扉をノックする音で阻まれた。「エリーザ、いつも野菜送ってくれる農家の夫婦が来てるぞ」資料の整理を行っていたはずのロベルトの荒々しいノックが、一瞬沈んだエリーザの虚ろな心を現実に引き戻した。

「用事があるなら後にしてと言ってちょうだい」またまた長々と無罪に対する世辞を淡々と並べられたあと馬鹿みたいな“粗品”を残し帰っていく連中か。最早そんな連中と話している時間も残っていない。だからこそ断ったがロベルトは続けた。「そいつがちょっと厄介な話らしいんだ」

 その一報を聞いたアリアは腰を上げて、エリーザと握手をすると「今日は失礼するわ。それと最後に無罪釈放おめでとう」遅れてレントも立ち上がり、繰り返しエリーザの無罪について祝辞を述べた。

「テリー、お二人を屋敷の外まで見送ってあげて。また何かあったらご連絡を」

 アリアが踵を翻し、テリーは後から彼女たちの前を歩き扉を開けた。扉を出たところにいたロベルトはすぐに頭を垂れ、アリアが通る道を阻む者は誰もいなかった。まだ二十歳になったばかりの少女の貫録は、エリーザのそれ以上のものであり賢人の名を背負うことができるのも頷ける。

「ロッピーその厄介な話が聴きたいわ。なにがあったの?」

「でかい畑をチンピラどもに銃突きつけられて売っちまったそうだ。豪邸が建てられる土地をたったの一〇〇〇ドルで売ら“された”そうだ。更に厄介なことになそのチンピラども、あんたの命令だって言ってたらしいぜ」

「私はそんなこと言った憶えないわよ」

「誰もあんたが本当にそんなことしたと思ってないだろう。頭ぶちまけようとしたやつのとこまで態々出向いてくるほどじいさんたちの脳ミソは腐ってないだろう。とりあえずどうする、ここに通すか」

 エリーザの頭の中では様々な想像が渦巻いていた。老夫婦が嘘を吐き、簡単に面会を済ませ私を殺そうとしているんじゃないか。また誰がうちの組を名乗ってそんな卑劣な脅しをしたのか。多くの疑問と猜疑心が喉元までこみ上げてくる。

「通す前にしっかりボディーチェックして。それと近くの似顔絵師に電話して今すぐ呼んで。幹部全員には自分の部隊から徹底的に今回の当事者になる可能性がある奴をリストアップするように伝えて」

 また悩みの種が増えたと深く腰を沈めたソファーからエリーザは立ち上がり、デスクから手帳を取り出し今日一日のスケジュールを改めて見返し今やるべきことに関して整理を行うことに努めた。

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