第四話 お祭りの夜
いよいよ今日だ。
僕は、ピンクの服を目の前に、まだ迷っている。
やっぱりいつものボーイッシュな格好で行こうかな。
これを着る勇気が僕にあるのか?
「そんなだから、いつまで経ってもダメなのよ。」
あのオネエの声が聞こえてきそうだ。
今日はお祭り。今日くらいこんな格好してもいいだろう。
僕は思い切って、オネエ妖怪のくれた服を着た。
道行く人たちがみんな僕を見ていく。
うー、やっぱり恥ずかしい。
今更ながら僕は後悔した。
女装とか思われてないかな。
神社に着くと、すでに翼が来ていた。
わー、いきなり翼に見られるのか。
僕は帰りたくなった。
案の定、翼は驚きの表情を浮かべていた。
「どうしたんだ?みなみ、いつもとイメージ違う。」
やっぱ着てこなきゃよかった。泣きそう。
「へ、変?」
僕は恐る恐るたずねた。
「ううん、すげー似合ってる。かわいいよ。」
お世辞かな。でも翼に褒めてもらって嬉しい。
「おーい、翼、みなみー。」
浴衣姿の日向と日向子が手を振る。
「おー、浴衣かぁ。浴衣姿もいいねえ、日向子ちゃん♪」
翼がにやけた。
僕はまた胸にチクリと痛みを感じた。
日向子、浴衣、めちゃ似合ってる。やっぱかわいい。
「褒めるの日向子だけかよ。俺も浴衣なんだけど。」
「野郎の浴衣姿なんてどーでもいいよ。ねー、日向子ちゃん。」
「ほんと、調子いいよね、翼は。」
3人のそんなやり取りを無理やり笑顔を作って聞いていた。
なんだよ、僕。自分も褒めてもらったじゃん。
それくらいで凹んでんじゃないよ。
ガンバ、僕。
お祭りは田舎にしては、結構露天が出ていて、にぎやかだった。
「うわー、すごい人だねー。何か買いたいけど、買えるかなあ。」
「あ、見て。あそこお団子屋さんがある!
お団子って珍しくない?」
「そうかぁ?普通に売ってないっけ?」
「珍しいよぉ。普通はたい焼きとかたこ焼きじゃん?
あれ、食べようよ。」
僕らは浮かれていた。
そのお団子屋さんの前の行列に僕らは並んだ。
「んー、みたらしとあんこかあ。」
翼が言った。
「どっちにするの?」
日向子が聞いた。
「あんこは甘すぎるから、じゃあみたらしで。」
翼が言うと、日向も「俺も~。」と言った。
結局男の子たちはみたらしで、僕と日向子はあんこにした。
「あ、そろそろ、花火始まるよ。急ごう。」
僕らは買ったお団子を持って、川原に急いだ。
川原につくころには花火が上がり始めた。
僕らはお団子にぱくつきながらそれを見上げた。
翼が日向子を後ろから見つめてる。
ああ、やっぱり翼は日向子が好きなんだ。
僕は思い知らされた。
翼がお団子を頬張りながら言った。
「やっぱさ、俺、日向子が好きだな。」
僕はお腹を殴られたような衝撃を受けた。
思ってはいたけど、こんなところで翼が告白をした。
すると日向子が振り向いて言った。
「そうなの?実は、私も。」
そう言って微笑んだのだ。
僕は世界がぐるぐると回り始めた。
泣いてはいけない、泣いては。
でも、このままここにはもう居られない。
耐えられない。
僕の目から涙がこぼれてしまうから。
僕は走った。
「みなみ!どうしたの?」
「おい、どこ行くんだよー。」
皆が口々に言った。
ごめんね。
僕はこんなにも弱い。
やっぱ、ダメだったよ、オネエ妖怪。