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世界・1

お気に入り件数が10件超えていました。なんの実績も無い小説に有難いことです。

頑張っていきますので、これからも宜しくお願いします。


「はっはっは!それでジンはド素人の初心者ニュービーの癖に血狼ブラッドウルフを討伐してしまった訳か!しかも滅多にお目にかかれないボスのユニークアイテム付きとはな!

 お前の妹の件もあるから絶対に適正はあると思ってたが…

 いや、想像以上の暴れっぷりじゃないか!」


「み「おっと、ここではライトな?」あ〜、ライト?

 お前そう言うけどマジで逝くかと思ったんだぞ?

 なんだあの化けモン。16人がかりのレイドパーティ?とか言うので勝ったって聞いたけど、あんなん鍛えてない一般人じゃ人数集めても絶対勝てんぞ?」


 合流した光彦は陣の台詞を食い気味で笑いながら、何事があったのかを聞いた話を元に振り返る。

 不審を感じ斥候、これは陣の性格から考えて理解は容易い。

 問題はそこからだ。第一層においてはかなりの強者に数えられる灰色狼グレイウルフ。単独で遭遇しても何も知らない初心者ニュービーではかなりの苦戦を強いられるだろう。普通は第一層のエリアシティで初期装備から武具の買い替え、装備を固めた所でようやく勝負になるというレベルなのだ。

 言わんや、血狼ブラッドウルフなどは第一層で出会うモンスターでは無い。βテスト時代はレイドパーティ(最大4人のパーティーを更に4組集めて戦うEAOの世界において最大人数のパーティー)で辛うじて勝つことが出来た強敵だ。

 確かに正規サービスが開始されて3ヶ月、攻略組と呼ばれるトッププレイヤーならそれも可能だろうが、あくまでもそれは極小数の『トッププレイヤー』だからこそ出来る話なのだ。


 なんともまぁと一息つけた光彦は、自分が成したことの意味を理解していない親友に陽性の笑みを向ける。


「ジン。お前はこれっぽちも理解していないようだが、これはEAOプレイヤーからすれば凄まじい事なんだぞ?

 何が起こったかの暫定的な仮説はあるが、EAOでの『強さ』の概念が引っくり返りかねん事なんだ。

 俺としては非常に『面白い』のだが、周りの目もある。その血狼の長衣(ブラッドウルフコート)は俺が手伝ったから手に入れられたって事にしておけ」


「そうですわよ!全く非常識にも程があります!

 まさか本当にただの初心者ニュービー血狼ブラッドウルフを倒したなんて!」


 光彦を味方につけたと思ったのか、前のめりで助けられた少女が詰め寄ってくる。

 陣は「そういやこいつの名前知らねえや」と気づいた。少女の胸ぐらを掴もうとする手をパシパシと払いながら、さてどう聞いたもんかと。そして自分自身にも当てはまることだが、先程の群狼の件をどう説教してやろうかと思案していると光彦がプルプルと震えているのが見えた。


「おい、ライト?なんだお前調子「デスワッ娘キターY⌒Y⌒Y⌒(。A。)ー!!!」悪くねぇみたいだな…」


 ゴロゴロと転がる光彦を、少女がドン引きしながら眺める。

 現実リアルでやっていたら不審者として通報されかねない。


「なんですのこの方…変態ですの?」


「否定する事が出来ねぇ…光彦ライト!話が進まんからいい加減「うむ!60点だな!なんでデスワ口調なのに金髪縦ロールでツインドリルを作らんのだ!」にしようよマジで!?何さっきから食い気味に意味分かんねえ事言ってんだテメエは!」


 手をワキワキと怪しく動かしながら、光彦ライトが少女に躙り寄って行く!


「さぁお兄さんとエリアシティに行こうね〜、キャラカスタム出来る美容院に行ってその髪をドリルにしようね〜」


「何この変態さん!?ちょっと、こっちにこないで!イヤァァァ!」


「もう駄目だ、分けわかんね、なんだこの茶番…とりあえず光彦ライトは一回頭冷やそうな?

 おら、劫火徹し(弱)」


「ドゥフ」


 陣の最大限手加減した掌底が光彦の水月(鳩尾辺り)に吸い込まれ、綺麗に決まった光彦は崩れ落ちる。「ドリル…ドリル砲…ロマ…ン」とかブツブツ言ってる段階で、もう変態確定でいいんじゃないかこれ?とか陣は思うのだが、まぁ気にしても仕方が無いと気を取り直して、遠巻きまで逃げていた少女に向かい「コワクナイヨー」と手招く。


「この方、大丈夫…というには色々と残念な感じですけど大丈夫なんですの?

 お友達なんでしょ?」


「まぁ、全力で否定したい所だが…そりゃあ今はいいや。そのうち復活すんだろ、こんなんでもβテスト時代からEAOやってる高レベルプレイヤーらしいからな。

 それよりもお前…あー、いい。小娘、お前に言いたいことがある」


 陣は半眼で少女を見下ろす。

 静かな気を感じたのか、少女がビクっと震えた。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


 名前も知らぬ少女は相変わらず兎を抱いているのだが、陣の気に当てられて腕に力を入れすぎているのか、窮屈そうにキーキーと鳴いている。


「俺が言いたいのはな、なんで狼どもからその兎を助けた?」


「そんなの決まっているでしょう!いくらゲーム内とはいえ、可愛い生き物を凶悪な猛獣から助けたい。

 普通はそう考えるものじゃなくて?」


 あー、やっぱなと嘆息し、陣は親指で遠くの樹の根元を示す。

 そこにはクルクルと鳴く瀕死の子狼が1匹、親や兄弟がいなくなった事が不安なのか、弱々しく辺りを見渡している。どの狼かは分からないが最初にいた親狼は陣が殺したのだろうし、他の子狼は戦闘の余波で死んだか、逃げ散ったグレイウルフと共に去ったのだろう。

 陣は子狼の元に向かいつつ、ちょっと当たりが厳しいかなと思いながら少女に告げる。


「んじゃ、お前の正義感の巻き添え食ったあの子狼にも同じ事言うんだな?

 何事も無ければ今夜の夕餉にその兎を食い、親や兄弟達と過ごしていたであろうコイツにも」


「な…そんな事、分かるわけ…

 それにこれはゲームですのよ!?自分が大事にしたいものを大事にして何が悪いんですの!?

 貴方が何に怒ってるのか全然分かりませんわ!!」


 事ここに至ると陣と少女のメンタリティに落差があることが明確になってくる。

 少女にとってこの世界はあくまでもゲームの世界であり、自分も一人の冒険者として『遊ぶファンタジーの世界』だ。圧倒的大多数、いや、EAOで遊ぶほぼ全てのプレイヤーにとってそれは賛同するまでも無い『常識』だ。

 だが陣にはそれに違和感を覚えていた。確かにこの世界はゲームなんだろう、それを履き違えるつもりはない。

 しかし、群れとして状況を読み戦略的に襲ってきたグレイウルフ。そして、最期に及んでも嘲るように嗤って逝った、誇り高き血狼ブラッドウルフ。それらが、単なる『ファンタジー』ではなく…あの砂の――

 陣はいらないことを思い出すなと頭を振る。


「別に誰も悪いとは言ってないし、お前に怒ってる訳じゃねえ。それにお前の行動を否定するつもりもねぇよ。

 個人的には思う所はあるが、否定するつもりだったら最初から助けになんて割って入らねえさ。

 同じ状況なら何度だって同じように割って入っただろうしな」


 抱き上げた子狼が小さく粒子(パーティクル)を散らし消える。

 陣の手の中にコロンと一つ、小さな玉が転がる。


『System Message:子狼の玉(灰)を入手しました』


「お前が助けた無力な兎がいて、同じ無力なコイツは逝く。

 お前が言う通りこん中はゲームだ。だから自然の営みに任せろなんて言うつもりはねえ。

 ただな、守るべきモンを履き違えたら残る自分は哀れだぞ?

 間違えたと気づいた瞬間、取り返しがつかねぇモン背負うのは他ならぬ自分自身だ。

 お前も、ちょっとでもコイツに罪悪感があるなら、その兎を助ける代わりに逝ったヤツの事を考えてやれ」


「うぅ…わかった…わ…」


 天に向かって舞う粒子を「まるで魂が登ってるようだ」と陣は思う。

 データの魂がどこに辿り着くのかは分からないが、暖かく優しい所であって欲しいと陣は願う。


 陣もそれまでどこかEAOを『遊ぶファンタジーの世界』だと思っていた。

 多分、この時から、陣にとってEAOは『学ぶべきものが多い戦場(いくさば)』になったのだと思う。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


「それにしても小娘小娘と酷い呼び方で呼ばないでいただけるかしら?

 あ、そういえば自己紹介がまだでしたわね。

 私は軽戦士ライトウォーリアのソニア、剣銃士ガンブレーダーさん、貴方は?」


「俺の名前はジン。見ての通り初心者ニュービー?とかいうヤツだ。

 しかし金髪金眼でソニアって…『愛嬌』って柄じゃねえだろ…プフッ」


「なんでそれだけで『サンダーソニア』だって分かりますの!しかも花言葉まで…って違います!『愛嬌』じゃなくて『祈り』の方ですからね!」


「ブフォ…『祈り』って…もう髪赤に染めてコエビソウでいいじゃん」


 余談だが、コエビソウの花言葉は「お転婆」である。


 ソニアは笑いが収まらない様子の陣を見て憤懣やるかたなしという顔をする。

 まぁこれに関しては陣が悪いであろう。こういったデリカシーの無さも修行に明け暮れた事と、多感な時代を特殊な生き方で過ごしてしまった弊害だったりするのだが、少なくとも見ず知らずの少女に対する態度ではない。

 いい加減腹に据えかねたソニアが抜剣しようとするが、いつの間にか復活してきた光彦に剣の柄を抑えられて失敗する。


「ふむ、俺には別に悪い名だとは思わんがな?

 コイツは幼少の頃よりとある事情でサバイバル能力に長けていてな。花言葉だのの妙な雑学はその時に習い覚えたのだろう。

 友人として謝罪しよう。済まんな未ドリル」


「あなたも大概失礼ですわよ!なんですの『未ドリル』って!?」


 光彦はまぁまぁというハンドジェスチャーを交えながら、演技がかった手振りで着用していたマントを広げる。


「まぁいいでは無いか。

 俺はギルド『黄金福音』の高位魔術師(ハイウィザード)、ライトだ。よろしく頼む」


「!?

 『黄金福音』って確かトッププレイヤー集団ですわよね!?ギルド対抗戦でも上位入賞の常連という。

 は〜…ハイスペックな変態ですわね…」


「ハイスペック変態…

 ま、まぁそれくらいの実力がないと血狼の長衣(ブラッドウルフコート)入手を手伝ったなんて話誰も信じないだろうからな」


 あんまりな言様だが、まぁこれも自業自得だろう。

 どんなに立派な肩書きだろうが普段の態度がアレでは推して知るべしである。


「ハッハッハ!すまんすまん。兎に角本題に戻そうや。

 んで、光彦ライト。さっき強さの概念が引っくり返るとかなんとか言ってたが。そりゃあ一体どういう事だ?」


「ん、了解した。

 これを説明しようと思うと世界観やシステムの根幹から説明する必要がある。

 確信が持てない話でもあるし、独占するつもりも無いがあまり大げさに開示もしたくない。

 出来ればソニア嬢には外れ「ませんからね!今更ですわ、しっかり聞かせてもらいます!」てはくれないのか…では既知の話も多いと思うが、おさらいだと思って聞いてくれ」


 そう言って光彦はこの世界の成り立ちを話し始めた。

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