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大規模戦・総力戦②

執筆時間がなかなか取れず、連続投稿に入れませんorz

 ミオソティスが禿頭のPKプレイヤーと戦っていたその時。朱雀もまた一人のプレイヤーと対峙していた。

『四神会』の強兵を倒しながらやってきたプレイヤーは、朱雀と同じく拳で戦う男だった。


「ヒャーハッハッハ!ついに会えたぜ朱雀ちゃんよぉ!

 アンタが出るっつーからオウリに乗って参加したんだ!さぁ、今すぐバトろうぜ!」


「朱雀様が出るまでも無い、私が相手しよう」


 すっと前に出る青龍を手で下がらせ、朱雀は呆れた顔で男に言う。


「なんというか、典型的に頭が悪そうな男じゃのう。

 なんでアタシと戦いたかったんじゃ?さっさと言うのじゃ」


「そんなの決まってらぁ!俺様はPKだのなんだのってのはどうでもいい。俺様が目指してんのは最強の拳士よ!

 拳で戦う『拳闘士』(グラップラー)は数だきゃあ多いがな、それで有名になってるプレイヤーつったらアンタくらいじゃねえか。だったら、アンタを倒しゃあ俺様が最強の拳士だって言っても誰も文句は言わねえだろ?

 だから、そっちの青竜刀使いはお呼びじゃねえんだよ!俺様の目的はEAO最強の拳士と呼ばれてる朱雀!アンタ一人だ!」


「なんとまぁ、とんだ馬鹿者じゃのう。ゲームとは言えども世は広いぞ?別にアタシを倒しただけじゃあ最強とは呼べんだろうに」


 朱雀はナックルダスターを装備し、その顔を喜色に塗れさせガチンと打ち合わせた。


「でもまぁ、そういう愉快な馬鹿は嫌いじゃないわい。

 来い、馬鹿者。四神が炎帝、『南の朱雀』が相手してやる」


 朱雀は長袍チャンパオの裾を押さえ、偉大なるカンフースター、李小龍ブルース・リーが考案した挑発のポーズを取る。指をちょいちょいと動かし、さっさと来いとアピール。

 そうじゃなくちゃ!と拳闘士の男は朱雀に躍り掛った。


 朱雀VS拳闘士の男・開戦。



※---※---※---※

※---※---※

※---※


 先ずは小手調べと男が放った突きを挑発のポーズを取ったまま朱雀は避け、更にちょいちょいと動かし続ける。

 男は朱雀へ高めの中段蹴り、バックステップで避けた朱雀を追いそのまま後ろ蹴りを放つ。

 朱雀はそれも見切り、ひょいと自然な動作で軸足を刈り取る。


 地面に叩きつけられた男へ強烈なストンピング。

 息が詰まり咳き込む男に落胆した視線を向け、つまらんと斬って捨てる。


「お主、口ほどには強く無いのう……。

 何か奥の手があるなら早めに出したらどうじゃ?このままで面白う無いわ」


 朱雀の言を聞いた男はウィンドミルから乗せられた足を跳ね飛ばし立ち上がる。


「なぁるほど。確かにこのままじゃ俺様に勝ち目ねえわ。

 さっすがの『破壊神』、痺れるねえ。

 じゃあお言葉に甘えて、切り札使わせてもらうわ!」


 るぅぅゥオォoAaaaa!!と人ならぬ叫び声を上げ、男は赤熱のオーラをその身に纏わせた。

 その姿、荒ぶる闘神の如し。


 荒い息を吐きながら男は言葉を吐く。


「この姿になっちまうと抑えが効かなくてなぁ!楽しまずに終わっちまったら悪りぃな!

 知らないだろうから教えてやるが、これがPK専用スキル『狂化』ってヤツよ!凄まじいフィジカルアップするんでな、今までとはひと味ちげえぞ?

 こっからが本番だ!行くぜぇ最強ぉぉおおお!!」


 男は最初と同じく突きを放ってくるが、その速度は今までとは比にもならない。

 大地に突き立った拳はクレーターを穿ち、放ってきた蹴りは真空波をも生み出す。

 朱雀は危なげなく避け続けるが、先程までと違い自らの拳で打線をずらすまでになっていた。


「ほぅ!先程とは大違いじゃな!

 口だけと言ったのは訂正しよう。じゃがの、速度と力が上がってもそれを振るう者の力量が同じでは大差はないのう」


 朱雀は突きを跳ね上げ体術アクティブスキル『爆拳』を放つ。直撃を食らった男は一瞬顔を顰めるも、朱雀の腕を握って振り回し地面へと叩きつける。首跳ね起きで素早く立ち上がるが、男の尋常ではないタフさに驚きを隠せない。


「朱雀様!」


「ええい、大事無いわ!しっかし、えっらく固くなりおったものじゃのう。

 愛用のナックルダスターが一発でいかれてしもうたわ。

 素手で殴ると微妙にダメージくらいそうで嫌じゃしなぁ。本気出せば問題はなさそうなんじゃが……」


 青龍の叫びにすげなく答え、壊れたナックルダスターを放り捨てる。

 そのやり取りが終わるのを待たずに、男は再度突きを放つ。


「ま、お主だけに切り札を切らせるのも申し訳ないでのぅ」


 その台詞と共に、伸びきった男の腕から血しぶきが舞った。


「アタシも切り札一枚、切らせてもらおうかい」


 アイテムストレージから朱雀が取り出し、構えるは白刃煌めく『太極剣』。朱雀は太極剣を並歩点剣に構え、ぬるりと男の懐に潜り込む。

 その滑らかな動きは速度を錯覚させ、『気がついたら懐に潜り込まれた』ようにすら見えていた。


 超近距離で片手剣用アクティブスキル『エクサクレーレ・セクス』が発動。

 超速で放たれる6連撃は、余さずに男の身に吸い込まれる。

 男は倒れながらも朱雀の装備する太極剣を睨みつけ、自身の身が危ういにも関わらず食って掛かった。


「朱雀!お前、そりゃあ一体どういうことだ!?

 なんでお前が剣なんて持ってるんだ!俺様達は格闘武器以外は装備出来ねえだろうが!」


「いや、お主。馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、思った以上に凄まじく馬鹿じゃのう。

 アタシがいつ自分を『拳闘士』(グラップラー)だと言った?アタシのジョブ『剣闘士』(グラディエーター)じゃよ。当然じゃが体術は使うがあくまでおまけ、剣が主武器じゃ。

 まさかそれも知らずにアタシに挑むとはのう……。拳士拳士言うから何か変じゃとは思うておったが、体術もそれなりには使うから構わないんじゃと勘違いしていたのじゃが。なんか申し訳なくなってきたのう、期待に答えられなくてすまんの」


「そんな……俺様は何のために……ウォォォン!」


 状態異常『出血』になっている男は今にも死んでいきそうな気配なのだが、男泣きに泣いている彼を見ると単に放り捨てるのもなぁと朱雀は頭を掻く。


「あぁもう、わかったわかった。通常フィールドに戻ったらアタシとガチの殴り合い出来るプレイヤー紹介してやるから、みっともないからいい加減泣き止め!

 アタシは大抵ギルドホームにおるでな」


 本当か!本当だなぁと叫びながら男は粒子を散らし爆散。

 最後の最後まで愉快な馬鹿だ。あれだけ考えなしに行動していれば、何の意図も無く偶然PK行為をしてしまい、そのままスキルを手に入れて『好都合』とばかりにPK街道を突っ走った可能性すらある。


「あんな約束されていいんですか?

 紹介すると言われた相手、私の思い違いじゃなければジン殿ですよね。

 あの方も別に体術が専門では無いと思いますが」


「あやつは器用なプレイヤーじゃからの。『海域』(ラグーン)でもアタシとガチで殴り合えたんだから別に構わないじゃろ。

 ああいう愉快な馬鹿はあやつの方が好きそうじゃからな。押し付けさせてもらうわ」


 からからと朱雀が笑い、不憫なと青龍がこっそりと溜息を付く。

 全くもって預かり知らぬ所で、また一つ妙なフラグを立てられる陣だった。



※---※---※---※

※---※---※

※---※


 一方その頃、水穂は連節剣使いの女性プレイヤーに絡まれていた。


「いい加減うざったいんだぞ!さっさと大規模戦終わらせてちゃんとしたものが食べたいんだあたしは!」


「さっきからちょこまか避けやがって!そんならさっさと退場して通常フィールドに戻りゃいいんだよ!」


 中遠距離になれば鞭、近距離になれば剣と、女性プレイヤーは連節剣を器用に使いなかなか隙が見当たらない。


 連節剣、またの名を蛇腹剣。PKプレイヤー専用職『暗殺者』(アサシン)が使う職専用武器の一つだ。

 中心にワイヤーを通しあるときは鞭、ある時は剣と形を変える架空の特殊武器だ。この武器が架空であるのには理由がある。その扱いの難しさだ。

 まずもって刀身が分解し鞭になるので、鞭としては重すぎ、剣としてもバランスが悪い。そしてワイヤーと言う線でその形状を支えているため、想像している以上に脆い。それに、刃のついた鞭など取り回しを間違えれば自身を傷つける結果しか産み出さず非常に危ない。


 だが、ゲームの中に於いては違う。

 例え操作を失敗して自分に当たった所でダメージを食らうことはないのだ。


 ゲーム特有のファンタジー武器ということで、何気に人気があったりするこの剣。

 しかし、ほとんどのプレイヤーがその取り回しの難しさから極めることを諦めてしまう武器でもある。

 それを考えれば、この女性プレイヤーはかなりの使い手と言えるだろう。


 水穂は先程から連節権を繋いでいるワイヤーを狙い曲刀を振るっているのだが、器用に剣部分と打ち合わされ思うように展開しない。速度重視の『剣舞士』である水穂と、遠近と攻撃範囲の広い連節剣はかなり相性が悪かった。


 水穂も魔法は使えるが、回復魔法以外はあくまでも牽制や目眩まし程度。

 現状を打破する手段を持ち得ず、彼女はただ時を無為にするしかない。


「むぅぅ。相性が悪すぎるのだぁ!じんじょーに剣でしょうぶしろこの年増!」


「絶壁が生意気いうんじゃないよ!大人の色気が分かるようになってから出直して来な!

 あたいは『姫』なんざ言われていい気になってるアンタが最初から気に入らなかったんだよ!いい機会だから憂さ晴らしに付き合ってもらうよ!」


 絶壁は言いすぎだろう、彼女にだって極僅かだが膨らみはある。服を着てしまえば分からないだけで。

 きーっとお互いが舌戦を交え剣を交わす。いい加減見苦しいキャットファイトの様相を呈し始めた頃、女性プレイヤーは気がついたかのように攻撃の手を休め、見下すように笑いながら言う。


「そういやアンタ、ゲーム内にリアルの兄貴がいるんだってねえ。

 あたいにも兄貴がいるんだけどさぁ。まぁ世の中の兄貴なんて総じてウザくてキモくて同じ空気吸ってたくないっつーかさ。そんなんとゲームの中でも面合わせるってのはどんな感じだい?」


 水穂も手を止め、女性プレイヤーを睨みつけた。

 彼女からは怒りが察せられ、女性プレイヤーは嗤い出す。


「あはは、怒っちゃった?ってその顔は兄貴が嫌いだからって顔じゃないねえ。

 何?アンタもしかしてブラコンってヤツ?きっもちわりーなアンタ」


「馬鹿にするな……」


「はぁなんつったんだよ?」


 水穂は自分の髪を結んでいた紐を解き、それを風に泳がせる。

 女性プレイヤーが一瞬それを目で追い、視点を戻した時には既に水穂は目前に佇んでいた。

 サイドテールに結んでいた髪は顔にかかり、その視点を読ませない。

 どこか空恐ろしい、ホラーのような雰囲気が彼女には合った。


 門前の小僧習わぬ経を読む、という諺がある。

 日頃から見聞きしている事を、いつの間にか覚えてしまうというもの。そして、水穂の家は『相馬流古武術の宗家』。

 水穂は相馬流を習う弟子ではない。だが、権江や藤堂、そして陣の修行を一番間近で見聞きしていたのは彼女なのだ。


 今使った技は『相馬流歩法:葉散はちらし』。その理念を体現したものである。


「馬鹿にするなと言った……」


「……わっけわかんねぇなぁ!キメエんだよお前!」


 連節剣を剣状態にした女性プレイヤーは水穂に斬りかかる。

 水穂は曲刀でそれを受け、刃を滑らせる。がりがりと鈍い音をさせながら軌道が逸きり、返す刀で女性プレイヤーを切って捨てた。思わず倒れそうになる女性プレイヤーの喉を掴み、水穂は彼女の顔面を殴り飛ばす。


「げっは……!?」


「…………」


 無言で女性プレイヤーを覗きこむ水穂、彼女の瞳は女性プレイヤーを見ていなかった。何か、見てはいけない深淵を覗きこんだ気がして女性プレイヤーは恐怖する。


「……馬鹿にするなと言ったのよ……。貴女に兄様の何が分かると言うの……?

 私の為に兄様が負った傷……。その罪を笑って許してくれる兄様を……貴女は何を持って嗤うというの……?」


 ずぶりと曲刀が女性プレイヤーに刺し込まれ、徐々に深く押し込まれていく。


「分からないわよね……?分かるはずないもの……。

 死に行く身を顧みて……今がゲームの中だと感謝なさい……」


 女性プレイヤーは恐怖に凝り固まった顔のまま、粒子を散らし消え去った。

 以前光彦が水穂に話した通り、陣の抱える問題よりも、彼女の闇は尚深い。


「……見よう見まねとは言え、葉散はちらし水鏡みかがみもこんなものじゃ無いのに……。相馬流を兄様がゲーム内で使えるのは、やはり何かあるのかしら……。

 駄目ね……こんな様ではまた心配させてしまう……切り替えないと……」


 水穂はふらふらと飛んでいった紐を拾い、サイドテールに髪を結わえて走りだす。

 この場に光彦がいれば、「兄が兄ならこの妹は」と溜息をついていた事だろう。



※---※---※---※

※---※---※

※---※


 オウリは目の前に横たわる男を蹴り飛ばし悪態をついていた。


「ねぇ、君も一般プレイヤーの間じゃ多少は名の知れたプレイヤーなんでしょ?

 だったら力量差くらい分かるよね?勝てないって分かってて、なんでワザワザ僕を狙ったのさ」


 オウリが蹴り飛ばすズタ袋のようになった男。それは最終戦開始時から一人隠形し、陣形後部から奇襲をかけた『剣歯』(ソードトゥース)だった。敵集団を迂回して回り込んだ時、オウリが一人で暇そうにしているその瞬間であれば『れる』と気が逸り襲撃。結果返り討ちにあったのだ。


「っへ……大将首取れりゃあ大手柄だ。狙わねえ手があるかよ」


「それで返り討ちにあってちゃ世話ないけどね。まぁいい暇つぶしにはなったよ」


 剣歯の言に嘘はない。

 最近勇名著しく、その名が知れ渡るようになった兄貴と慕うジン。

 だが、自分は未だに『準攻略組』と呼ばれるトップには届かないプレイヤーだ。

 子分気取りで付きまとう以上、自分だって『結果』を出したい。そう願うのは人として当然の事であり、彼を責めることは出来ない。


「とは言え、僕もそろそろ行かないとだからね。止めくらいは刺していってあげるよ」


 オウリはそう言い、ナイフを頭上に掲げ一気に剣歯に突き立てようとした正にその時。オウリは『何かがやばい』と感じ飛び退いた。彼がいた場所には魔弾が着弾、間一髪避けていなければヘッドショットを食らっていただろう。


「なにやってるんだよ剣歯?自慢の出っ歯が煤けてるぜ?」


「あらぁ。ぼろぼろですねぇ」


「わっふぅ……」


 戦場を駆け抜け、中央突破してきた陣と玄武の到着。

 オウリはつまらなそうにしていた表情から一変、満面の笑みを浮かべて陣を歓迎する。


「待ってたよおにーさん!あんまり遅いから、こっちから迎えに行こうとしてた所さ!」


「お前から来いって言ってたくせに短気なヤツだな。

 今回の一連。いい加減に一事が万事で茶番臭くてこっちは辟易としてるんだ。御託はいいからかかって来い。

 さっさと戻ってまともな飯食いてえんだ俺は」


 あの妹にしてこの兄である。


 ご飯?と目を丸くしたオウリだが、勝負自体は望む所。オウリは素早くナイフを引き抜き、油断無く構えた。

 玄武は剣歯にかけより回復魔法をかけはじめ、小狼は陣の肩から降り立ち剣歯の顔をぺろぺろ舐めている。

 陣は剣歯の回復を玄武に任せ、ネイリングを矢筈に構えた。


 最終戦。いや、この大規模戦自体の趨勢を決める勝負、その幕が上がる。

 陣VSオウリ・開戦。


ワンポイント朱雀さん&水穂さんコーナー

ようやく朱雀と水穂の戦いを書く事が出来ました。ある意味朱雀はバランスブレイカーで、水穂はちょっと扱いが困ったちゃんなのでいつ書こうかと思ってましたので。

朱雀に関しては素手のままでも楽勝で勝てたんですが、余計な気を回して酷いことに。水穂に関してはちょこちょこ出てきた本性が更に垣間見えることになりました。

というか我ながら剣歯が不憫だ。色々と裏で活躍してるのに。

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