大規模戦・総力戦①
執筆時間が取れず中々連続投稿に入れません……。もう少々お待ちください。
スオウとアイザックが退場した後、そこからの5日間は一進一退の攻防を演じた。
可能な限り二つ名持ちとの対戦を避けるPKプレイヤーに対して、陣と玄武のペアを始めとした選抜部隊がゲリラ戦を展開。不意打ちを得意とするPKプレイヤーたちが、逆に奇襲をかけられその数を減らした。
一般プレイヤー側も損害が無かったわけではない。
オウリを中心に『死神』のメンバーやPKプレイヤーでも精鋭と呼べる猛者たちが3日目を皮切りに戦場に姿を見せ、その冷酷な進撃にパニックに陥ったプレイヤーを刈り取っていくという一幕も見られた。
最終日となる7日目。
一般プレイヤーはその数を減らしに減らし残り200強。
だが、光彦、スオウ、アイザックといった二つ名持ちの退場はあったものの、主要なプレイヤーは未だ健在。残ったプレイヤーは何れも強兵と呼べる実力者達だ。
翻ってPKプレイヤーもその数を減らし、残り500弱。
数だけ見れば一般プレイヤーを倍する程だが、生き残ったプレイヤーは精鋭と呼べる数は少ない。
しかし、戦場に於いて数の有利というのは覆し難い。どんな実力者だろうと、数を頼みに囲めれてしまえば圧倒的な不利ではあるのだから。
PKプレイヤーたちはゲリラ戦を止め、今が勝負を決する時と清炎の原野に集まった。
迎え撃つ一般プレイヤー達の顔に悲壮な色はなく、この大規模戦最大の山場に緊張した面持ちで敵を睨みつけていた。
〓〓『煉獄』・第一層:清炎の原野・一般プレイヤー側〓〓
朱雀、ミオソティス、水穂、剣歯、そして陣。
何れも実力者として知られるプレイヤー達が、200名のプレイヤーを前に進み出る。
「アタシは『四神会』の朱雀だ!
トップ3ギルドの代表として、アタシがこの最終戦の指揮を取らせてもらう事になった!
いよいよ、泣いても笑ってもこれが最後の戦いだ!」
目の前のプレイヤー達は、自分の武器を打ち鳴らし健在をアピールする。
それを一通り眺め朱雀は頷き、言葉を続ける。
「連中はアタシ達を哀れな兎だとでも思ってやがる。舌舐りしながら、どう料理してやろうなんて思案しながら、獲物の狩り方なんてモンを考えてやがる。だが、アタシ達は兎か?違うだろう、なぁお前ら!
アタシ達は戦士だ!架空の中で刃振りかざす力ある者だ!
武器は研いだか!防具は磨いたか!腹は満たしたか!
敵の喉元に意思を突き立てる覚悟は出来ているか!!」
プレイヤーが一斉に武器を張り上げ、言葉にならぬ怒号を張り上げる。
たった200人。だがその声は大地を震わせ、びりびりと空気を張り詰めさせた。
朱雀は踵を返し手を振り上げ、敵の軍勢を楽しげに睨みつける。
「戦士達よ!存分に戦えぇ!!」
朱雀が手を振り下ろし、プレイヤー達は一斉に敵目掛け駆けた。
陣は拳を打ち鳴らし気合を入れ、結局この戦いの間はペアを組み続ける事になった玄武を連れて歩き出す。
「もう行くのですかぁ?」
「光彦にゃいつも言ってるが、俺は戦術は分かるが戦略が分からん。
どうせ遊軍になるなら、最初から出張って敵の数減らしたほうがマシだろうからな。嫌なら残ってもいいぞ?」
「い〜え〜。朱雀様からも離れるなって言われてますからねぇ。
玄武もお供しますよぉ」
「わふっ!」
「あら、貴方もついて来ちゃうんですかぁ。危ないから巻き込まれないようにしなさいねぇ」
玄武はぶんとポールアクスを振り回し彼女なりに気合を入れて、血狼の子狼は陣の肩に飛び乗る。
『四神会』所属、『鉄壁お母さん』・玄武。
無所属、『格上殺し』・ジン。
共に名の知れたプレイヤーが、最終戦最序盤にて出陣。
〓〓『煉獄』・第一層:清炎の原野・PKプレイヤー側〓〓
オウリは500人のPKプレイヤー達の前に、一人で立っていた。
今までに彼が見せた能力は間違い無い。何れも我も強く、短絡的な者達。それをこれだけの数生き残らせ、有利な状態で最終戦に至らせた手腕は見事の一言だろう。
この場に於いて、彼を見た目通りの『子供』だと侮る者は居なかった。
「いいかい皆?相手は数は少なくても意気軒昂。僕等への恨みもあってやる気も十二分。今まで避けさせた二つ名持ちとの戦いもこれからは避けられない。決して有利とは言えないかもしれない。
だけどね、僕等はそんな悪い事をしたかい?買い物も出来ず、アイテムを自分達で調達しなきゃいけないってデメリットまで抱えてるのに、なのに所詮PKだの卑怯者だのって言われてさ。その上これからは制限も付くんだってさ、運営まであちらの味方と来た。
これって許せるかい?納得できるかい?膝を折って言われるがままに出来るかい?」
PKプレイヤーたちから「許せるか!」「俺らは楽しんでるだけだ!」と声が上がる。
オウリは体を回転させてプレイヤーたちを指し示した。
「そう!そんなの納得出来るわけがない!理解も出来ない!許せるはずもない!
僕らの楽しみが奪われるのが運命だとしても、連中が安穏とゲームを楽しむのを指を咥えて見ているなんてのは耐えられない!
だから、殺そう。
出来うる限り陰惨に、可能な限り陰湿に、思い付く限り残虐に。
今後彼らがゲームを楽しむ時に、どこかに僕等がいるんじゃないかと恐れるような。
今日、今より、この時が、連中にとっての『悪夢』になる戦いをしようじゃないか!
思う存分に喰らい尽くせ!行くぞお前等!」
駆けて来た一般プレイヤーを迎え撃つべく、進軍を開始するPKプレイヤー達。
オウリは上機嫌で歩きながら歌う。
「Humpty Dumpty sat on a wall,
Humpty Dumpty had a great fall.
All the King's horses, And all the King's men
Couldn't put Humpty together again!
壁からおっこちるハンプティ・ダンプティはどっちかな?」
自分に襲いかかるプレイヤーを一振りで殺しながら、オウリは足取り軽く戦場へと歩を進めた。
『死神』ギルドマスター・オウリ、出撃。
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策も何もない正面からのぶつかり合い。
当初想定された通り、双方の力は拮抗し乱戦の様相を呈してきた。
その中でも、最初に実力者同士の戦いになったのは、意外な事に後方に控えていたミオソティスだった。
『箱庭』のメンバーとアイザックに託された『FFF』のメンバーに指示を出し、自分もいざ戦場へといったタイミングの時だった。彼女の手が空くのを待っていたかのように、協議の際に一般プレイヤーを煽っていた禿頭のプレイヤーがのっそりと現れたのだ。
愛用の細剣を構えるミオソティスに対し、両手を振りそれを止める禿頭。
「待て待て!殺りあう前にあんたと話がしたかったんだよ!ちょっとでいい、剣を収めてくれ」
ミオソティスは怪訝な顔で、それでもいつでも突き込めるよう構えを変える。
協議の場に於いて自分の生傷を抉り煽ってくれた相手だ、そう安々と構えを解く訳にはいかない。
「なんの用ですか?もう戦いは始まっています、貴方と話す事など無いと思いますが」
「殺りあうのはいい。こっちもそのつもりだしな。その前に、あんたに二つ謝らなきゃならん事がある」
禿頭の男は自身の両手剣を地面に刺し、腰を折り頭を下げた。
「まず協議の時はすまんかった。オウリさんの指示もあって煽るような真似しちまったが、俺としちゃあんたへの態度は本意じゃなかった」
「……もう一つは?」
「これも謝るしかねえんだが、あのハラスメント問題を引き起こした切っ掛けになったバグ。あれな、半分は俺が見つけたバグなんだよ。
PKで体力減らされた相手が、自分で特定の手順を踏めば裸になっちまうなんてモンだったからな。仲間内でカードで負けたやつへの罰ゲームに丁度いいってんで、巫山戯半分に広まっちまった。
その後で、ハラスメント警告突破するPKプレイヤーの専用スキル使ったバグが見つかっちまった。そのバグ自体も単体で見りゃあそう悪質なモンでもなかった。言ってみりゃあキャバクラで笑って許されるレベルの軽いタッチくらいなモンよ。それだって普通に考えりゃ問題だろうが、ここまでデカイ問題になるほどじゃなかった」
禿頭の男は、刺した両手剣の柄をギリギリと音を立てて握りしめ、苦渋に塗れた顔で続ける。
「この二つを合わせりゃ面白いんじゃねえかって言い出した奴が出て状況が変わった。タナカさんも言ってたがな。脅して裸にひん剥いて、好きでもねえ男に体弄られたらそりゃあ強姦ってヤツだ。ゲームだって言っても感覚はリアルだからな、VRそのものの限界で最後まではやってねえつったってよ、実際にそれをされてるのと変わりゃしねえよ。
俺等がいくらPKふっかけるプレイヤーだつってもよ、それは超えちゃいけねえ一線ってやつだろ。やべえってんで運営にも報告したし、オウリさんに頼み込んで警告も出してもらった。やりそうな奴等が狩場にしてるフィールドの巡回なんてこともやった。だけどな、やっぱ堪え性のねえ連中ってのは『やれるならやっちまう』んよ。
だから、あんたの所の娘には迷惑をかけた。あんたへの謝罪ってよりも被害にあった娘への謝罪なんだけどな、連絡先も分からねえし俺から謝られたくもねえだろう?だから、その娘の傷が癒えた頃、俺見てぇな奴も後悔していたって伝えて欲しいんだ」
「……身勝手な言い分ね。警告突破のバグがなくても、裸に出来るバグがあれば遅かれ早かれ女性プレイヤーに使うプレイヤーは現れたでしょう。どう言おうが、それを広めてしまったという貴方のやった事は取り返しはつかないのよ?」
禿頭の男は両手剣を引き抜き、ぶんと音を立てて豪快に構えた。
どこか開き直った笑みを浮かべ、言いたいことは言ったとばかりに。
「そりゃあそうよ。そんなの俺が一番よくわかってらぁ。
EAO止めるのも考えたんだがよ、それはそれで無責任だろう?だから、馬鹿がこれ以上の馬鹿をやらねえように残ることにしたんよ。ぶっちゃけると、巡回だバグの監視だで忙しくてな。あれからPKもやってねえから、PK職としての俺は終わってるんよ。PK特化ビルドの俺は今更普通のプレイヤーにゃ戻れねえ、俺の道はこっから先はねえ。それが、悪ぃ頭で考えた俺なりの筋の通し方ってやつだ。
だから、攻略組のトッププレイヤーに喧嘩売れる機会なんてのはこれが最後。勝っても負けても、楽しんでゲームプレイするのはこれで最後だ。
オウリさんの言葉じゃねえけどよ、存分に殺り合おうぜ?箱庭娘の姉ちゃんよ!」
禿頭の男はそう言い放ち、両手剣をミオソティスに叩きつけた。
両手剣アクティブスキル、『重撃』の一撃が大地を穿ち、避けたミオソティスの身に小石が当たる。
ミオソティスVS禿頭の両手剣使い・開戦。
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初撃を避けられた男は両手剣を旋回させ振り回し、ミオソティスの細剣ごと薙ぎ払わんとする。
重攻撃の得意な両手剣に対して、細剣は速度重視の軽い武器。まともに受け続ければ細剣の耐久度が底を尽き、武器破壊されてしまうだろう。
ミオソティスは体を沈め、斜めに構えた細剣で男の攻撃を受け流す。
そのまま男の腕を軽く切り裂くが、さすが耐久力の高いパワーファイター。そんな物はかすり傷だとばかりに苛烈な攻撃を繰り出す。
「そんな軽い攻撃じゃ何も感じねえぞ!パワーファイターと戦った事ねえんかオメエは!」
そのまま男は両手剣アクティブスキル『ボディストライク』でミオソティスに体当たりを敢行。ブルドーザーのような一撃は軽い彼女を木っ端のように吹き飛ばした。
空中で回転し姿勢制御を行ったミオソティスは、風属性広域破壊魔法『雷豪雨』を発動。
男は両手剣の腹を上に構え、自分に当たる物だけ器用に受け流す。
「っく、パワーファイターの皮を被ってるけど、かなりの技巧派ね!」
「そりゃどーも!あんたは攻略組って言っても大したことねぇな!
攻略ばっかやってるから対人戦は苦手ってか!」
ミオソティスは着地した後、煽る男へ向け駆け出す。
男が迎撃に振りかざした両手剣に手に纏わせた風属性魔法『風弾』を当て体勢を崩し、隙だらけの胸板に細剣アクティブスキル『レイジストライク』を叩き込む。
レイジストライクは軽い攻撃しかない細剣の中、唯一の重攻撃を放てるスキルだ。
耐性に優れたパワーファイターとはいえ、これには耐えられずにたたらを踏み後退。
「舐めないで頂戴。EAOのAIは複雑玄妙。モンスター相手でもプレイヤースキルが無ければ勝負なんて出来ないわ。
伊達にトップギルドのリーダーなんてやってないの。お分かりになって?」
「そうじゃなきゃなぁ!楽しくなってきたじゃねえかオイ!」
男は横から斬りかかってきたプレイヤーを切り飛ばし、楽しげに笑う。その顔は純粋に勝負を楽しんでいたものだった。
「ここらへんも騒がしくなってきやがったな。
邪魔されちゃぁ興醒めだ。勿体無えが、次を最後の勝負としようや」
男は両手剣を上段に構え、ミオソティスは受けて立ち魔術を詠唱する。
そして、二人は同時に動いた。
男が放ったのは両手剣アクティブスキル最高の威力を誇る『弧月斬』。半月を描きながら襲い来る両手剣を前に、ミオソティスの魔術が発動。ミオソティスが放ったのは彼女の切り札、職が『エルフ』の者だけが放てる精霊系大魔法『エレメンタルレイド』。虹色に輝くエネルギー弾が両手剣を弾き飛ばし、禿頭の男を飲み込んだ。
エレメンタルレイドが消えた後、その場所には男の痕跡を残す物は何も残っていなかった。
その威力から男を完全に消し飛ばし、最後の言葉すら残させることは無かったのだ。
「そこまで真っ直ぐに何かを楽しめるなら、別のやり方だってあったでしょうに……。
あの子が貴方の後悔を受け入れられる日が来るとは思えませんが、今回のことを笑い飛ばせるくらいあの子が強くなれた日が来たら、貴方の思いは伝えましょう」
ミオソティスは細剣を納刀し、次なる戦場に向けて気持ちを切り替える。
大規模戦は終わっていない、むしろ乱戦極まり始めていた。
彼女の指示を待つプレイヤーのために、感慨に浸ることすら無く前線へとその身を投じて行くのだった。
ワンポイントミオソティスさんコーナー
今話と次話は、戦闘シーン等描いていないメインキャラにフォーカスを当ててみようという試みをしています。取り急ぎ今回はミオソティスさん。
彼女の戦いはある意味真っ当な『EAOでの戦い』です。主人公は一人だけ違う世界で生きていますが、本来はミオソティスの戦いのように『スキルと魔法が飛び交う』事をやっています。
禿頭に関してはある意味純粋なPKプレイヤー像を想像して書いてみました。戦いを楽しみ、身内での馬鹿騒ぎを楽しむと言った。対象が対人では無く対モンスターだったら四神会向きのキャラクターですね。




