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大規模戦・責任

 オウリはスオウを陣達へと蹴り飛ばし、爽やかに告げる。

 この男は、君達を裏切っていたのだと。


「まぁ、こっちもそちらとは敵対する身だからね。そう簡単には信じられないだろう?

 だから、証拠としてこの『記憶石』(メモリーストーン)を渡しておくよ。

 石に触れた状態で再生と頭のなかで唱えてご覧、面白いモノが見れるから」


 オウリはそう言うと、『記憶石』(メモリーストーン)を陣へと放る。

 今に至っても罠である可能性は否めない、まずは俺が見ると陣は映像を再生する。

 スオウとオウリの一連のやりとり、自分を中心として知らずに起こっていたあれこれを確認し、スオウが不審だった理由も全てが腑に落ちた。


「なるほど、なぁ……。

 こりゃ光彦ライト完全にとばっちりじゃねえか。狙うなら俺だけ狙えばいいものを……。

 戻ったら謝らにゃいかんな」


 陣は『記憶石』(メモリーストーン)を朱雀に放り投げ腕を組む。

 集まった面々全員が『記憶石』(メモリーストーン)を見て事態を把握。冷めた目でスオウを睨みつける。

 特にアイザックの怒りは凄まじかった。彼もまたスオウに利用され、騙された一人だったからだ。


「スオウ……。これは一体どういうことだ?

 ここにいるジンと私が脱落させたライトは、PKプレイヤーと手を組みこの大規模戦に於いて一般プレイヤーの敗北という結果を狙っているという話ではなかったのか?

 私は、こんな話は聞いていないぞ」


「誤解だ!アイザック!これはPKプレイヤー共とジンが共謀した罠だ!騙されるんじゃない!」


「罠だというなら、これが罠である証拠を出せ。

 少なくとも今ここで、スオウ、いや、貴様が裏切り者だと思ってないプレイヤーはいないだろうよ」


 アイザックは騙されたショックからか、いつもの熱さはナリを潜め一見冷静であるかのようだ。

 だが、これはよくない兆候。人は余りにも怒りが行き過ぎると逆に冷静になるもの。結末の前にアイザックが暴挙に出ないよう陣は彼の後ろに回りこみ、いつでも動けるような体勢を取る。


 朱雀は呆れ果てたとスオウを見やり、肩を竦めて言う。


「入江での事でといい裏でこそこそ何か企んでると思うたが、こんな浅ましいことを考えておったのか。

 何がそこまでお前を堕落させた?少なくとも以前のお前は、トップギルドのリーダーに相応しい奴だったはずなんじゃがの」


「βテスト時代に『箱庭』を立ち上げる時も、ライトさんと一緒に尽力してくださいましたよね。

 私も不思議でなりません……」


 スオウは開き直ったのか、キッと二人を睨みつけて叫ぶ。


「実力で有名になった君等には分からないさ!

 僕は人とのコミュニケーションだけでのし上がったプレイヤーだからね。周囲の評判に耳を傾けざるを得ないし、自分だけが気がついたチート行為があるなら糾弾せざるを得ない。それが僕の役割だと自負しているからね。

 その僕が、こんなチート能力を実力と勘違いさせるようなプレイヤーが有名になるのを見過ごせるはずないんッガ!?」


 スオウの発言途中で朱雀が蹴り飛ばし黙らせる。


「なぁスオウ。お前さん、本当に根っこの部分から勘違いしているんじゃな。

 ギルドのリーダーって存在はそうじゃないじゃろう?

 メンバーの話に耳を傾け、己に厳しく自らを律し、メンバーが振れる旗になる事。それを行えるからこそ、下の人間が信頼してついてこれる。それがリーダーの『責任』じゃないのか?

 今のお前さんのざまはなんじゃ。己の虚栄心や見栄でプレイヤーを疑い、終いには敵にすら振られ無様を晒しておる。

 ああ、勘違いするで無いぞ?別にアタシはそれに怒ってるんじゃない。ジンをチーターだと思うのは貴様の勝手、それに策を弄して追い落とそうとするのも勝手じゃ。それで追い落とされる男ならば、そやつが弱いのよ。

 アタシが怒っているのはな、お前さんが『仲間を裏切って』までそれを成そうとした事じゃ。それは、人の上に立つ者がするべき事じゃない。お前を信じて従ってきた『福音』の連中や、自身のギルドを持てる実力者なのに残っていたライトが哀れよな」


 朱雀の話は陣にとっても頷ける話だった。

 有能な軍曹を想像すれば分かりやすい。末端の兵士の意見を吸い上げ、常に自らのグループの中で恐れられる『最恐の存在』である事を求められ、いざ戦場に於いては誰よりも下を守り戦地を駆ける存在になる。場合によっては兵站の手配、更に上への上申も行い、恐れられながらも慕われる存在であるのだ。

 だが、そんな理想的な者ばかりではない。上からの無茶な命令に唯々諾々と従い無駄な死者を出す者も多いし、部隊内での暴力行為によって下級兵を殺してしまうような者もいる。

 そういった者に比べれば、スオウのやった事など『可愛らしい』ものだ。


 どうする?と朱雀とミオソティスに見られ、陣はスオウを掴み肩に乗せる。


「とりあえずこっからは俺らの領分だ。こいつを脱落させずに連れてきた事には礼を言わせてもらう」


「参考までに、どんな処罰をするつもりか聞いても?」


 オウリの『処罰』という発言を聞いて、陣の肩の上で暴れだすスオウ。

 そのスオウに拳骨を食らわし黙らせ、陣は軽く肩を竦める。


「罰も何も、もうこいつは十分な罰を受けているだろ。

 こいつは、身内を裏切るって行為をしちまった。それはどんなにこの場にいる人間が口をつぐんでもどっかから漏れる。そうなればこいつは破滅だよ。『黄金福音』だって空中分解しちまうだろうし、精霊の輪(ダンシングフェアリー)の二つ名も地に落ちる。

 EAOから去るか、後ろ指を指されながらプレイを続けるかしかこいつには選択肢がねぇんだ。それは十分な罰だろ」


「自分が被害にあってるのにお優しいことで。

 ここまで段取りを整えたんだ、個人的には一般プレイヤーに大々的にバラして徹底的に糾弾するくらいの『人の悪辣さ』を見せて欲しいんだけどねぇ。

 むしろ、そこまでしてようやく『罰』なんじゃないかなと思うんだけどね」


 大げさなと陣はオウリに呆れ、踵を返し自陣に向かったその時。

 今まで黙っていたアイザックがスオウを奪い取り、地面に叩きつけた。


「っが!?」


「オウリ殿の言う通りだ。こいつはそんな生温い罰では無く、全プレイヤーに対して謝罪してもらう必要がある」


 アイザックは背中に背負っていた両手剣を高々と振りかざし、スオウの首を跳ね飛ばした。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


 スオウは粒子を撒き散らしながら、そんな馬鹿なという顔を貼り付け消えていった。

 アイザックは両手剣を自身の首にあてがい、自死する構えを見せる。

 その顔は、どこか開き直った明るいものであった。


「アイザック、どうするつもりだ?」


「簡単な事だ!ジン殿が責任を問わぬというなら、私が彼の責任を問う!

 それに騙されたとは言え私も同罪!今直ぐ通常フィールドに戻り、ライト殿に謝罪する必要がある!そしてスオウが行った事を白日に晒し、全プレイヤーに対して我々は謝罪せねばならない!」


「そんな事をしなくても、お前さんに関しては酌量の余地があるだろ。いささか短絡的に過ぎているとはいえ、お前も騙されていたんだ。それに今脱落して、これからの大規模戦はどうする?『FFF』のメンバーはどうするんだ?」


「許されるかどうかだけの問題ではない!私の矜持の問題でもあるのだ!

 例えそれで私の二つ名が剥奪されようと、この件をうやむやにして葬ることは出来ぬ!

 残った『FFF』のメンバーには私が脱落する理由と共に『四神会』と『箱庭』に従うようメッセージを送った!何れもトップギルドに見劣りせぬプレイヤー、ご自由にお使いに!

 ジン殿、あちらでまた改めて会おう!それでは、これにてご免!」


 そう叫ぶやいなや、アイザックは自身の首を掻ききり粒子を散らし消えた。

 その去り際は見事な物。グズグズと言い訳することもなく、自身の責任を取るべく戻っていったのだから。

 燃える闘魂アイザック、その名に恥じぬ散り様だ。

 本当に短絡的なと陣は呆れはするが、ああいう男は嫌いではない。余りにも性根が真っ直ぐだったために騙されはしたのだろうが、普通に何かを楽しもうと思ったらああいう人間が案外必要なのだ。


「なんとまぁ……。暑苦しい男だと思っていたが最後まで暑苦しい。こやつが『特に何もせぬ』と言っておるのじゃから、放っておけばいいものを」


「でも、責任の取り方としてはご立派では?

 中小ギルドのリーダーの方がトップギルドのリーダーより『リーダーらしい』なんて……。

 戻ったら荒れてそうですから、今から頭が痛いですわ」


 二人はアイザックの最後に頭を抱え、オウリは嬉しげに爆笑している。

『人の悪辣さが見たい』と言い放ったオウリだ。大規模戦が終わればそれが見れると期待しているのだろう。

 陣の中で『PKの流儀』にちょっと株上げたオウリだが、速攻でその株が大暴落の兆し。


「はぁっはっはっは!あの筋肉ダルマ君いい味出してるじゃないか!

 お陰で楽しみが増えたよ!今から通常フィールドに戻るのが楽しみさ!」


「ちょっと黙れよ、お前」


 陣の殺気を正面から浴び、高ぶる殺し合いの気配にオウリは舌舐りをする。

 あぁ、やはりスオウ(こもの)の今後なんていうのはデザートに過ぎない。このプレイヤーとの戦いこそがメインディッシュだ。その期待にそぐわぬ濃密な殺し合いが出来るだろう。

 オウリはパッと両手を上げ後ずさる。


「おにーさんとの戦いは、こんな所でやりあったら勿体無いよ。

 しかき時の然る可き場所で、邪魔者無しに存分に殺し合おう。でもそれは今じゃ無い。こんなつまらない場所でやったら勿体なさ過ぎる。

 前菜を平らげ、スープを飲み干し、お腹が落ち着いたら迎えに来てよ。

 いきなりメインディッシュを食べちゃったらつまらないじゃないか。

 時が来たら、『死神』(リーパー)の王が荒くれ共を従えるそのことわりを持って、おにーさんの前に立ち塞がらせてもらうから」


 行くよと手下に声をかけ、オウリは悠々と立ち去っていく。

 その姿は威風堂々として、まさに王者と呼ぶに相応しい風格をも備えていた。


 陣は今度こそ踵を返し、残り6日を駆けるべく自陣へと戻る。

 その姿は泰然自若として、まさに強兵と呼ぶに相応しい歴戦を物語っていた。


 別の思惑で参加していた者が去り、本当の大規模戦が始まった、その瞬間でもあった。

ワンポイントスオウさん&アイザックさんコーナー

スオウさん小悪党ぅ〜。失礼。しかし本当にスオウさん酷い小悪党ぶりでした。本来もっと切れる悪党にしようかなと思ったのですが、どう考えても小悪党になっちゃうんですよね。本当の悪党だと問答無用で主人公に切って捨てられていたでしょうが。

アイザックさんは考え無さ過ぎにも思えますが、こういう熱い人が一人いるとゲームが楽しかったりするんですよね。大抵こういうロールプレイをされる方って人情に厚いイメージがあります。ギルドメンバーからすれば、普段はいい兄貴分だったりするんだろうなぁ。

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