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大規模戦・朱雀


〓〓『煉獄』(インフェルノ)・第一層:清炎の原野・山岳地帯〓〓


 キルカウントが50を数えた辺りから、山岳地帯へPKプレイヤーが足を踏み込まなくなってきていた。

 時刻はサーバー時間で深夜に差し掛かる。夜間の間は監視の目も鈍る、その間に次の狩場へ移動しなければならない。


「さて、ここも警戒されたようだし移動するか。

 次は朧谷にでも行こうかね」


 陣は監視の目を掻い潜り、朧谷へ向かう。


 そういえばと切っていたグループチャットをオンにすると、早速ミオソティスから連絡が入った。


『ミオソティス:ジンさん!どこにいらっしゃったのですか!?今どちらです!?』


 何かあったのか、妙に切羽詰まった声音に顔を引き締める。

 周囲の雑音も酷く、相当騒然としている様子だ。


『ジン:ずっと山岳地帯に篭ってたぞ?どうした、そちらは騒がしいようだが』


『ミオソティス:本当ですね、信じますよ?急いで陣地に戻ってください!ライトさんが何者かに討たれました』


 その言葉を聞くやいなや、陣は監視を無視して全速力で走りだした。





〓〓一般プレイヤー陣地〓〓


 自陣に到着した陣は指揮所に駆け込むと、渋い顔をした二つ名持ちの面々が彼を待っていた。

 陣が知らないプレイヤーもいたが、殆どのメンバーが疲れに疲弊しており、事件があった事もあり明るい顔を見せているものは居ない。

 特に酷いのはミオソティスだ。元々白い肌から血の気が引き、今にも倒れそうな気配を見せている。


「遅れてすまない、今までずっと山岳地帯にいたからな

 ライトがられたって事だが、どういう状況だったんだ?」


 陣は一言謝り、空いている席に座る。

 水穂アクアやミオソティスはどこかほっとした空気を見せているが、どこか不穏な気配がその場を漂っていた。

 朱雀はイライラと指で机を叩き、それがこの会議が進んでいないことを物語っていた。特にスオウとアイザックは陣を親の仇のように睨みつけ、不穏な空気に拍車をかける。


「白々しい!ライトをったのはお前だろうが!」


「一体何の話をしてるんだお前は?」


 謂れのないスオウの発言に、一気に不機嫌になった陣は彼を睨みつける。

 いくらゲームとは言え友人を殺したのはお前だと面と向かって言われれば、陣では無くとも不機嫌になって当然だ。


 先ほどまで陣を犯人として会議をしていたのだろう、ミオソティスが焦るのも頷ける。

 それからも何事かまくし立てていたスオウを、朱雀が苛立たしげに遮る。


「『箱庭』のも体調が悪そうだし、ここはアタシが仕切らせてもらうよ。

 こやつが来る前から一貫して言っておるが、そうまで言うなら証拠を出せと言っておるじゃろう。

 ジンよ、お主も無罪たる確たる証拠があるなら出すが良い」


 陣にも証拠を出せと言われるが、生憎やっていないことを証明しろと言われても無理がある。

 アイザックが立ち上がり、陣が怪しい理由を話す。


「それは簡単な話だ!

 敵が陣地に侵入した場合はアラームが鳴るはず、だがライト殿が最後に確認された夕刻から今に至るまで彼が外に出たのを見た者はいないし、アラームが鳴ったことはない!

 そうなれば一般プレイヤーの何者かが裏切り、彼を弑したのは明白!

 かつ、如何に魔術師職とは言え彼も攻略組の一人!そう簡単に裏切り者に遅れを取るとは思えない!

 なれば怪しいのは二つ名を持てる程のプレイヤー、そして二つ名持ちでアリバイがないのは、何をしていたのか不明なのはジン!貴様だけだ!」


 スオウが頷き、アイザックが胸を張る。

 陣が頭を掻きながら、内心参ったと思い答える。


「おいおい、そんな穴だらけの理屈で疑われてるのかよ俺は……。証明って言われてもねえ。

 俺が山岳地帯にいた間にPKプレイヤーを50人は討伐してるんだが、そこにいた事をGMのタナカさんに調べて貰ったりは出来ないのか?」


 50人!?と幾人かのプレイヤーが騒ぐが、それどころではないと徐々に静寂を取り戻す。

 ふうと朱雀は一呼吸入れ、気を落ち着かせてから陣に答えた。


「残念ながらそれは無理じゃ。先程『箱庭』のから連絡させたんじゃが、『ご承知の通り、イベント遂行に問題が出ない限りは不介入』と言われたそうじゃ」


 ほれ見たことかと乗り出したスオウを手で制し、朱雀が続きを話す。


「じゃが、こやつが言う『アイザックの出した証拠が穴だらけ』という主張も最もじゃぞ?

 アタシらは警察じゃない。アリバイの聞き込みなぞどこまで正確か知れたものではないわ。

 しかも犯人が二つ名持ちと言っているのも、敵側じゃないと言っているの勝手な思い込みじゃ。

 何らかの方法で『道化師』を羽目た可能性もあるし、敵の仕業じゃないと言っているのも確証は無いしの」


 朱雀の言にスオウとアイザックの二人は黙りこむ。

 そう言われてしまえば前提条件が揺らぎ、彼らの主張そのものが根拠の無い思い込みになってしまうからだ。


「少なくともこやつのアリバイに関してはイベントが終わればはっきりするじゃろうて。

 50人も一人で討伐したならダイジェストにも乗るじゃろうし、実際に『道化師』が死んだわけではないからの。

 戻った後に本人に聞けば良いのではないか?

 ただでさえ劣勢の今、仲違いするより善後策でも考えたほうが建設的じゃとおもうがな」


「それは推定無罪で無かった事にしろって事かい……?」


 ゆらりとスオウが立ち上がり、納得行かないと声を上げる。


「いくら3ギルドのトップ同士で同格とは言え、冗談じゃないよ。

 その男が裏切り者の可能性がある以上、無かった事にすれば後顧の憂いを残しかねない!

 最低でもこの大規模戦が続く内は24時間の監視と戦闘行為の不参加、これは譲れないよ」


「ならば監視の役目は『FFF』が担おう!

 そこの男はこの場の『箱庭』『四神会』に友誼を結んだ相手が多いと聞く!

 そこが監視役ともなれば、他のプレイヤーに説明がつかんからな!」


 あくまでも陣を裏切り者として扱う二人。

 いい加減面倒になってきた陣が『このままここを突破して第三勢力として暴れてやろうか』と本気で検討し始めた頃、朱雀がテーブルを拳で叩き壊し立ち上がる。


「茶番極まれりじゃな。臭うて堪らんわ!

 一度しか言わんからよう聞け。『5層の入江』にいた鳥は美しかったか?」


 ぴたりと二人が黙り、顔面を蒼白に変える。朱雀が何を言っているのか他のメンバーは知る由も無いが、二人にはそれで通じたらしい。

 ふんと朱雀はそれを鼻で笑い腕を組む。


「興が削がれるしの。ゲーム内の事じゃし、これ以上は言わんわ。

 だが、よく考えても見い?こやつを拘束した上で犯人じゃなければ、こやつにどう申開きするつもりじゃ。

 それに、元々この大規模戦は『自分勝手な理屈でプレイを阻害する者達へ異を唱える事』が目的じゃったはず。貴様らしか信じていない理屈を押し付け排除してしまえば、PKプレイヤー達と何も変わらなくなると理解しておるのか?

 そうじゃなくとも今やこやつは注目の的、それを排除した上で仮に大規模戦で負けてみい。突き上げを食らうのはアタシら3ギルドじゃぞ。

 その時は確証が無かった、無罪を決める証拠が無かった。そんな言い訳が外で見ている今回不参加のプレイヤーに通じるとでも思うておるのか?そう思っていたなら、流石に周りの程度を低く見積もりすぎじゃろう。

 そういう理由で、アタシは『四神会』のマスターとしてもこれ以上この問題を大きくするのは反対じゃ。

 ここまで言って尚もあくまでこやつを裏切り者にしたいと言うなら、こちらも『痛い腹』をえぐらせて貰うぞ」


 スオウは朱雀に何も反論もせず、ふらふらとアイザックを連れて指揮所を後にする。

 それを見届け、ああ臭いと朱雀は自らの鼻を摘んだ。



※---※---※---※

※---※---※

※---※


 出て行った二人以外は陣が犯人だと思う者はいなかった事もあり、その後の会議はスムーズに進む。

 光彦ライトの脱落は痛手だが、その原因となる隙を生み出したのは指揮系統の混乱だ。

 都合が良いことに主立った二つ名持ちが集まるこの場は、今まで好き勝手に動いていた面々が纏まるチャンスでもあったのだ。

 各々が光彦ライトの件で反省する点もあり、率先して自らの役を決めていく。


 陣も好き勝手やっていたから疑われる余地を残したと朱雀に言われ、彼の身は大規模戦の間『四神会』の預りに。色々と忙しい朱雀、お目付け役の青龍、四神会のプレイヤーに指示を出す白虎と顔見知りは全員多忙。なので未だに見たことが無いプレイヤーではあるのだが、決まった役回りのない『玄武』が陣に付きペアで動く事になった。

 これにはミオソティスや水穂アクアから苦情が出たが、彼女らは一般プレイヤーを取りまとめるという役回りもあり、そうなると陣の戦闘能力が勿体無いと朱雀が説得し引き下がる形に。


 決まるべきことも決まりどこかほっとする空気が流れる中、ミオソティスが朱雀に質問する。


「そういえば先程から臭い臭いと言われていましたが、何が臭いんですか?

 特に何も匂いませんが」


「ん?まぁ単なる比喩表現じゃ、気にするようなものでも無いぞ?」


 あまり触れてほしくないのか煙に巻こうする朱雀に、陣は苦笑しながら聞く。


「朱雀よ、その『臭い』ってのはもしかして『肝が腐った匂い』だったりしないか?」


 朱雀は呆れたような顔を見せ、陣の腕をぱしんと叩く。

 自分が見込んだ通り、この男は機微にも敏いと内心嬉しく思いながら。


「分かっておるならもう少し気を使え!

 お主ならここまで至らせずに黙らせることも出来たじゃろうに。

 巻き添え食らったライトが哀れじゃわ」


 ミオソティスと水穂アクアがなんのこっちゃと「?」を浮かべ、気にするなと手を振る。


 敵襲も無いだろうと雑談をしていると、外から「朱雀様〜?」と声がかかり指揮所のドアをノックする音が聞こえた。


「おぉ、そうじゃった。玄武を呼んでおったのじゃ。

 今回お主のパートナーになるからな、面通しくらいはしておこうと思うてな。

 玄武、入っていいぞ」


 朱雀の許可に入ってきたのは、一人の女性プレイヤーだった。

 固そうな黒いスケイルアーマーに身を包み、大盾とポールアクスを背負った姿は確かに亀のようだ。

 雰囲気も顔立ちも「おっとり」としており、ポニーテールにひっつめた黒髪が似合っている。


 しかし、彼女の特徴を語るならば外せない要素がある。

 それは体型の出にくいスケイルアーマーすら押し上げる、『巨』と呼んでいいほどの圧倒的な胸のボリューム。


「で、でけぇ……」


 水穂ぺたんこが絶望感で死に、ミオソティスも目を丸くし彼女に見入っている。


「私も大きい方だと思ってましたけど、本当に大きいですわねぇ。私よりカップは大きそう。

 リアルもそうなんですか?」


「あまり機械に詳しくなくて、外見はトレーサーのアナライズデータそのままなんですよぉ。

 お互い肩が凝っちゃって大変ですねぇ。

 あら?貴方は玄武の胸を見ないんですね。男性にしては珍しいですねぇ」


 玄武の言う通り、陣は玄武を見ずにそっぽを向いている。

 女性のデリケートな会話に男性が入ればどんな吊し上げが待っているか分からない。かつ、この女性しかいない場で初めて会った女性の胸をガン見する勇気など陣には無い。

 陣も若い男だ。そこまで大きいと言われればちょっとは見てみたい気持ちはある。だが、そういう視線に女性は敏感なのだ。チラとでも見れば確実にばれる。


「ま、こいつが『四神会』の玄武じゃ。

 アタシらの間じゃお母さんとも呼ばれておるがな。こう見えて大盾とポールアクスを同時に使えるパワーファイターじゃ。職は戦士の上位職『狂戦士』(バーサーカー)、二つ名は『動ける亀』(ムービングタートル)じゃな。

 玄武よ、こやつが今回お前のパートナーになるジンじゃ。知っておろうがEAO唯一の剣銃士上位職、『万機剣銃士』《マテリアル・ガンブレーダー》にして伝説級レジェンダリー武器の使い手。そして『格上殺し』(ジャイアントキリング)の二つ名持ちのプレイヤーじゃ」


「はい〜。ジンさんですねぇ。

 宜しくお願いしますぅ」


 玄武に求められ握手をするが、微妙に下に行こうとする視界を上げるのに苦労する。

 称号の『ややむっつり』がどうなっているのか怖くて、ステータス画面が見られない陣だった。


ワンポイント朱雀さん&玄武さんコーナー

今まで朱雀さんが活躍するといったシーンがほぼなかったので、今回は彼女に活躍してもらいました。今後の大規模戦では今までクローズアップされなかったキャラクターにもスポットが当たります。

そして、ついに登場しました。当作最大規模のお胸のサイズを誇る玄武さんの登場です。

だいたい想定ではF〜Gカップ辺りでしょうか。かなりボリューミーな感じです。個人的な嗜好もあるかと思いますが、コレ以上大きいと不格好かなぁと思っています。ライトノベルのイラストだと時折「Kカップかよこれ!?」みたいなものですとか、かなり現実離れしたものも見受けられたりするのですが……。

彼女の活躍は次話になります。

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