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プロローグ

第三章開始です







「貴方には、『英雄』になる覚悟がありますか?」






〓〓『煉獄』(インフェルノ)・第一層:エリアシティ・種界門〓〓


 先日のPKプレイヤー達からの宣戦布告から一夜明け、主な一般プレイヤーとPKプレイヤーの代表と会合が持たれることになった。

 これはEAOの運営者、ゲームマスターからの要請でもあり、この結果を持ってEAOのゲームライフが大きく変わることが予想された。

 そのため、代表者として『煉獄』(インフェルノ)を訪れたプレイヤーも錚々たる顔ぶれ。


 先ず現れたのはEAOを代表する3ギルドのトップ。


『四神会』ギルドリーダー。破壊神・朱雀。

『箱庭』(ガーデン)ギルドリーダー。無垢薔薇(イノセントローズ)・ミオソティス。

『黄金福音』ギルドリーダー。精霊の輪(ダンシングフェアリー)・スオウ。


 いずれ劣らぬEAOの『顔役』であり、この3人を知らぬプレイヤーはいないであろう。


 次に種界門から現れたのは、3ギルドに所属するEAOの有名プレイヤー。二つ名持ちの面々だ。


『箱庭』(ガーデン)所属。剣舞姫ソードプリンセス水穂アクア


『黄金福音』所属。道化師マッドピエロ光彦ライト


『四神会』所属。剣匠ブレードマスター・青龍。


 そしてそれ以外の二つ名持ちが種界門を潜って現れる。


 生産ギルド『鉄槌』ギルドリーダー。金剛の鎚(アダマンハンマー)・プリムラ。

 傭兵ギルド『FFF』(フルフレームファイヤ)ギルドリーダー。燃える闘魂・アイザック。

 無所属。索引図書館ライブラリーインデックス・ナトリ。


 そして、一般プレイヤーとして最後に現れたのは彼だった。


 無所属。格上殺し(ジャイアントキリング)・ジン。


 他にも二つ名持ちのプレイヤーは大勢いる。

 だが1ギルドに付き参加は2名までとして欲しいと運営側より依頼があったため、この場に参加できなかったプレイヤーも多い。

 四神会に至っては『知らぬ者は居ない』と頭に付くプレイヤーだけでも4人は存在するのだから。

 また、プレイスタイルとしてPK行為を忌避する者も多く、話し合いすらご免だと参加しなかった二つ名持ちもいる。

 はたから見れば人気が落ちそうな話だが、元々そういうプレイスタイルを貫いていればあまり問題にはならないらしい。


 集まった10名。一般プレイヤーからは彼らが代表者となる。

 この場に於いて陣はアイザック以外とは面識があり、随分と俺も顔が広くなったものだと感慨深い。

 スオウだけは陣を複雑な表情で見ており、公式イベントの時に脅しすぎたかとちょっと反省もする。


 そしてPKプレイヤー達。彼らの人数も10数名。

 名前は知らないもののいずれ劣らぬ不敵な面構えをしており、『所詮は卑怯な真似しか出来ないPK』と侮るものはこの場に居ないだろう。


 種界門が輝き、最後にゲームマスターが現れ開催を告げる。


『はい、皆さん揃っておりますね。

 本日はお集まりいただき有難うございます。ワタクシ、GM(ゲームマスター)の一人でタナカと申します。

 この件に関しましてはDr.ミカミより直接の責任者として任命されました。この場に於いてはワタクシが全権代理者とお思い下さい。

 今日は、先日PKプレイヤーの連盟より出された宣戦布告に関しての協議となります。

 建設的な話し合いの場としたいので、忌憚なくご意見を言っていただければと思います』


「ちょっといいか?」


 のそりとPKプレイヤー達から一人進み出て、陣達を睨めつける。

 禿頭に筋骨隆々としたあからさまなパワーファイター。その巨体から放たれる一撃はさぞや強力なのだろう。

 体型に見合った太く低い声で、まるで恫喝するかのように物言いを付ける。


「おりゃあこの集まり自体が不思議なんだがよ、この協議は必要あんのか?

 宣戦布告なんていう体裁は取ったが、そもそも『煉獄』(インフェルノ)でのPK行為はシステムに認められた話だろ。

 プレイ進行が遅れてるのは一般プレイヤーの努力不足で、それを俺らPKプレイヤーの責任だっつーならそんなシステム作った運営側のミスなんじゃねーのか?

 システムに則って真っ当にゲームを楽しんでる俺らからすりゃあ、運営の首輪付きで『ルールを決めて仲良くり合おう』ってのはいい迷惑なだけなんだがよ」


 タナカはアバターを身じろぎもさせず、その発言を肯定する。


『はい、そういう意見がある事も重々承知しております。

 ただ、今回の宣戦布告といったもの自体が、一般のプレイヤーを挑発するものに終始しておりまして。

 それを通して何がしたいのか、最終的な着地点が何なのかが全く分からない状態であったわけです。

 それもありますが、ゲノムブレインの社内でも流石に『煉獄』(インフェルノ)内の全フィールド、全時間のPK行為を容認する設定は行き過ぎていた可能性があると認めております。

 PKプレイヤーとしての役割ロールを演じて楽しんでいたプレイヤーの皆様には大変申し訳無い事ではありますし、現時点では詳細は話しできませんが、近々規制を実施する事も決定しております。

 これは「Eden Acceleration Online」のゲームとしての楽しさを維持するための処置となりますので、前もってこれはご理解いただきたいと思います』


 タナカの発言に思う所合ったのか、この場では陣が知らない唯一の一般プレイヤー、アイザックが挙手して発言を求める。


『はい、アイザックさん』


「有難うございます!

 さてシステムが許容するなら認められると言ったPKプレイヤー!

 それを言うならこちらも聞きたいのだが、PKプレイヤー達からのシステムの穴をついた酷いハラスメント行為でEAOを去らざるを得なかった女性プレイヤーが出た問題があった!

 また、ペットモンスターを人質に言うことを聞かせ、『釣り』と称して他の一般プレイヤーを罠にかけるような悪質なPK行為があったことも確認されている!

 他にも通常考えたら真っ黒に近いグレー行為のオンパレードだ!

 そういった事を『真っ当に楽しむ』と言えるのは人として問題があり過ぎないかね!?」


「それこそ知ったこっちゃねえや。

 システムで規制していない以上、認められた行為なんだろ?」


 アイザックはPKプレイヤーの返答を聞き、顔面を真っ赤に変えて震えている。

 いちいち語尾に「!」が入ることといい、二つ名通り確かに相当熱い男だ。だが、こういう性格の男はのらくらと言い逃れをする禿頭のような者とはとことん相性が悪いことが多い。


 今まで身じろぎもしなかったタナカが、不意に腰を曲げミオソティスに謝罪する。


『それはミオソティスさんのギルド、箱庭のメンバーも被害に遭われた件ですね。

 あの事件はワタクシ達運営側から見ても痛恨事でした。当然、EAOを去った方には出来得る限りのフォローを継続的に行わせていただいておりますが、その際に不快な思いをされたプレイヤーにはお詫びのしようもございません。

 PKのシステム周りは元々のEAOの仕様になく、プレイヤー側からの強い要望により急遽独自仕様として実装されたものでした。Dr.ミカミに携わっていただければ、こんな事は無かったと思います。

 要望に応えようと焦り、ワタクシ達の独断で不完全な運営を行ってしまいました。誠に申し訳ありません』


「今更タナカさんに謝られても辞めていったあの子は帰ってこないわ。

 その件に関しては直接の原因となったプレイヤーを排除させて頂いたことで、『箱庭』としては解決したと思っています。

 思う所が無いわけではありませんが、私に謝罪する必要はありません」


 ミオソティスにしては冷淡なそっけない発言。

 実際、未だにハラスメント行為の件は冷めやらぬ熱を持って彼女の怒りを煽っている。正直に言えば、この場で冷静な話し合いをするためにも触れて欲しくない生傷なのだ。


 しかし、タナカの口からPKプレイヤー側の責任に言及されなかったからなのか、禿頭の彼はふんぞり返って言う。


「ほらな?

 結局そんなの使ったもん、やったもん勝ちなんだよ。

 悔しいなら俺らをハメる方法を見つけりゃいいんだ」


 その顧みない発言にミオソティスが凄まじい眼光で禿頭のPKプレイヤーを睨みつけるが、全く悪びれる表情も見せずに不遜な態度を崩さない。


 タナカは折っていた腰を戻し、また直立不動に。

 禿頭の彼に顔を向け、淡々と告げる。


『少なくともハラスメント行為の件に関しましては、ワタクシ達運営側も非常に憤慨しております。

 複数アカウントを使い分け悪質な行為が行われたことにより、悪質行為者と処分のイタチごこっこになっておりましたのも不手際に過ぎると痛感しております。ですが、日本支社からの要請でアメリカ本国のDr.ミカミの手により追跡プログラムの開発・実装が既に行われております。

 十分なログ解析も行われましたので、一両日中に一斉処分が開始されます。

 この中に悪質なハラスメント行為をされていた方、それに加担されていた方が居らっしゃるようでしたら、二度とEAOの地に戻れないよう徹底的に処分させていただきますのでそのお積りでいて下さい。

 また、どこまでもリアルなVRであるという特殊性を鑑み、ハラスメント行為の件は強姦未遂罪として刑事事件になる可能性があります。法整備の遅れから所詮ゲームと思われていたようですが、我々も警察も法も甘くないとご承知下さい』


 タナカによる大鉈宣言に、PKプレイヤー達から「そんな馬鹿な!?」「穴作るほうがわりいんだろ!俺らにゃ関係ねえ」といった声が上がる。

 ハラスメント行為の件は本気で腹に据えかねるものがあったのだろう。思い返せばミオソティス達と共に行った報復行為の『釣り返し作戦』も、かなりグレーであるのに運営側からは『公式に黙認』された。今のタナカの発言も、立場として中立の運営からしたら随分とPKプレイヤー達への「毒」が強いものだ。


 その後も協議は続くが、話し合いとは名ばかりの罵り合いが続く。

 平行線になってしまうのはしょうがない事、『楽しみ方』がとことん違うのだから。一方が納得する結論は当然一方は不服であり、心情的にも実利的にも一般プレイヤーに傾いている運営側も、強権を振るう事による悪評を恐れ決めきれないでいる。

 ゲームという閉鎖社会に限らず『よくある話』ではあるのだが、ここまで紛糾してしまえば結論など出ようはずもない。


 主にアイザック・スオウと禿頭を筆頭にしたPKプレイヤー達とのやり取りとなり、そろそろ『見苦しい』という域に達しつつある。ミオソティスは怒りが冷めやらず口をつぐみ、朱雀は我関せずと放置の構え。光彦やプリムラはイライラとした様子で腕を組み、水穂アクアとナトリは口を出すタイミングが図れず手を出しては引っ込めている。

 陣も生産性のない話に飽き始め、なんとなくPKプレイヤー達を見回している時、ある事に気がついた。


「ちょっと俺も発言していいかい?」


 陣の挙手に周囲の者は黙りこむ。

 一般プレイヤーからすれば何を言い出すか分からない怖さが陣にはあり、PKプレイヤー達からすれば誰だコイツといった不信感がある。

 不毛な協議にタナカも嫌気が指していたのか、嬉々として陣を指した。


『はい、ジンさん。

 なんでしょうか?』


 PK達がざわつく。

 何も知らないプレイヤーから見れば、陣は夏から始めたプレイヤーにして、一気にスターダムを駆け上った有名プレイヤーなのだ。何も知らない以上胡散臭さも拭えないが、何の実力もないプレイヤーがそう簡単に二つ名持ちになることはあり得ず、正体不明の実力者と認識されていた。

 そして、先日ナトリの手により陣が『唯一の伝説級レジェンダリー武器持ち』というのは発表されている。耳の早いプレイヤーであれば当然それを知っており、今最も注目されているプレイヤーが『ジン』だった。


「あー、発言ってよりあまりにも話しが平行線で不毛なんでな。

 いい加減そろそろそっちの代表者と話がしたいんだよ」


 その発言に禿頭のPKプレイヤーが進み出て、自分を親指で指し答える。


「俺が代表なんだが?」


「いやいや、アンタじゃないでしょ」


 はいはい御免なさいよとPKプレイヤー達を掻き分け、地べたに直接座り爪を研いでいた男の前に立つ。


「アンタがPKプレイヤーの代表じゃないのかい?」


 陣にそう言われた男はきょとんとした顔で、小首を傾げて陣を見る。

 その姿は『少年よりの青年』。金髪碧眼の白人アバターを使用しており柔らかな印象に加え、体格も細く決して強そうにも見えない。

 一人我関せずとしていたので他の一般プレイヤーからは人数合わせと思われており、どう見ても『PKプレイヤーの代表』とは見えなかったのだ。


「へぇ、そっちにも見る目のあるおにーさんが居たもんだね。

 参考までに聞かせて欲しいけど、なんで僕がPKプレイヤーの代表だと思ったのかな?」


 その発言に一般プレイヤー達は騒然となる。

 明らかに員数外と思われたプレイヤー自らが『PKプレイヤーの代表だ』と認めたようなものなのだ。


 陣は周りの視線に痒さを覚えたのか首をさすり、その疑問に答える。


「上手く抑えちゃいるが、アンタが一番気配が濃い。

 血の気の多い連中があれこれさえずっちゃいたが、この中で殺し合いがしたくてウズウズしてるのはアンタだけだったんだよ。

 それに代表かどうかは単なる勘だが、このPKプレイヤーの中でアンタが一番強いだろ?」


 それを聞いた男は、ふいにケラケラと笑い出す。

 何かのツボに入ったのか涙すら浮かべ、陣の膝をばんばんと叩き続ける。


「はっはっはっはっは……。あー、久しぶりに本気で笑ったよ。

 結論言うと正解!僕がPKプレイヤーの代表さ。

 気配とかマジ受ける、まさかそんな方法でバレるとは思ってなかったよ。わざわざ観察スキル阻害の小技やってるのが馬鹿みたいだね。

 ま、ウチの禿にもそっちのムサ苦しい正義感クン達にも飽き飽きしてたから、そろそろプライベートチャットで指示出そうと思ってたんだけどさ」


 彼はスッと自然な動作で立ち上がり、パンパンと尻を叩き埃を払う。

 陣に握手を求め、邪気のない笑顔で言う。


「僕はギルド『死神』(リーパー)のギルドマスター、オウリ。

 折角の機会だから仲良くり合おうね、格上殺し(ジャイアントキリング)のおにーさん」


 戦場に極偶に居るタイプかと、内心嘆息しながら握手に応じる陣。

 殺して、殺して、殺し続けているうちに人を殺す自分が楽しくなって、そうしないと息苦しささえ感じる戦闘狂バトルジャンキー。戦場に於いては味方を危険に晒してまで自分の楽しみを優先する鼻つまみ者。

 ゲームの中とは言え、ここまで壊れてしまったらさぞ現実が生き難いだろうと思う。そういう性格だからこそゲームで発散しているのかもしれないが。


 ようやく話が進む気配に、周りのプレイヤーもふぅと溜息を付く。

 ここから、本当の『協議』が始まるのだ。

第三章でのPKプレイヤーとのやりとりですが、以前に私がプレイしていたMMOで実際にあった話を叩き台に話を膨らませています。

その時は二つ名持ちみたいな有名プレイヤーはいませんでしたし、話もここまで大事にはならなかったんですが、やはり人と人との諍いというのは陰湿で見苦しいと感じていました。

三章のテーマはそういった人の見苦しさ、浅はかさみたいな部分を少しでも感じていただけるよう書ければと思います。

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