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万機剣銃士

二章が書き上がりましたので、昨日から合わせ5話を水曜日まで連続投稿致します。

今回は区切りの関係で少し短いです。明日から通常の文字量に戻ります。

 万機剣銃士マテリアル・ガンブレーダー

 剣銃士ガンブレーダーの上位職であり、スキル『万機』を操るEAOでも最もトリッキーであるだろう職だ。


「仕切りなおしだ!行くぜオラァッ!」

『来イ!小サキ者ヨ!』


 陣は足場にしていた木材を蹴って飛翔、ラハブの胴体を蹴って更に飛び上がりつつ、ネイリングにスキル『万機』を使用する。


 万機剣銃士だけが使用出来るジョブスキル、『万機』。

 このスキルはその名の通り『万の機を』扱えるようになるスキルである。自分の最大MPをタイムリミットとし、その制限時間内であれば『EAOに存在する全ての武器種』に剣銃が変化を遂げるスキルだ。

 消費MPは1秒間に1MP。現時点での陣の最大MPは330。最長で5分30秒の間、陣は『万機を扱う事ができる資格』を手に入れる。

 変化する武器の威力はスキル対象の剣銃とマスタリーに依存する。マスタリーレベルは初期値だが、変化する元の剣銃は伝説級武器『刺し貫くネイリング』。元がバランス職の武器に属する剣銃だけあって専門の伝説級武器には一歩劣るものの、現在の一線級プレイヤーが使用する武器より遥かに高性能な武器になるのだ。


 これだけを見れば良スキルにも思えるが、当然だが事はそれ程単純ではない。


 変化するというだけで対象武器種のスキルが使える訳では無く、そもそもに於いてマスタリーが存在しないのでシステム的なアシストも無い。また遠距離武器に関しては更に扱いが酷く、弾であれ矢であれ『MPを消費して打ち出す』仕様の魔矢・魔弾に変わる。弾数が無制限になるのはいいのだろうが、ただでさえ長くない『万機』が使える制限時間が更に減る事になるのだ。


 万機剣銃士のマスタリーである『万機剣銃』を育てることで、ある程度自在に扱えるようにはなる。だがそもそも攻撃スキルが無い以上、普通の剣銃士として剣銃を振るっていたほうが下手したら1秒辺りのダメージ、DPSは出るという本末転倒なスキルなのが『万機』スキルの正体だ。

 しかも時間制限付きのスキルである以上マスタリーの成長速度も遅く、晩成型ではあるが大器なのかは疑問という仕様。


 一般的なプレイヤー観点で見れば『何故こうまで不遇にする?』と、EAOの運営に対して剣銃士に恨みでもあるのかと首を傾げるような仕様だ。ただでさえ友軍誤射フレンドリーファイヤ問題でパーティーに参加するのが難しいので育てるのが大変な剣銃士、そして苦労を重ねて上位職に至ったプレイヤーに畳み掛けるかの如き不遇っぷり。

 ベータ時代からの流れでロマン職のままであれば、EAO運営に対してクレームの嵐が吹き荒れそうな程なのである。


 だが、元々に於いてマスタリーに頼らない戦いをする陣には、それは関係がない。

 むしろ『瞬時に武器が切り替わる』という仕様は、陣からすれば戦術が広がる素晴らしいものと思えたのだ。


 これまでの戦いで既にMPを消費しており、残りのMPは180。その後を考えないとしても最長3分しか『万機』を使用出来る時間は無いが、その時間に掛けるしか無いと陣は判断した。


『万機』が施されたネイリングは、陣の手元でその姿を長大な両手剣に変える。

 両手剣でラハブの顎をかち上げ、振り上げたネイリングを今度は大鎚に切り替え、鼻っ面に全体重を乗せて振り切る。

 浴びせ蹴りならぬ『浴びせ打ち』を食らったラハブは海面に叩きつけられ、陣は大鎚を槍に切り替え胴体に着地しながら捻り突き。ネイリングの攻撃力が一点に集中し、ラハブの胴を深々と抉る。


『SIGYAAAAA!?』


 直ぐに治るにしろダメージが有る事自体が嫌なのか、ラハブは頭から陣に突っ込んでくる。

 陣はネイリングを拳鍔ナックルダスターに変え、組内術:炎錐で迎撃する。

 存分に撥条が乗った一撃はラハブの顔面に突き刺さり、怪物の牙を叩き折る。そのまま突き上げ蹴り、隙だらけの顎に向けて拳打のラッシュ。

 脳を揺らされ一時的に麻痺スタン状態になったラハブに、組内術:劫火徹し一閃。

 劫火徹しは戦場に於いて陣形を崩すために使われる技だが、その名の通り『浸透勁に属する徹し技』でもある。臓器に直接ダメージを食らったラハブは思わず悲鳴を上げ仰け反る。


 ここで様子見していては折角与えたダメージも回復されてしまう。

 畳み掛けるかのようにネイリングを脚甲に変え蹴撃、今度は本家本元の浴びせ蹴りで更にダメージを追加する。


「いい感じのスキルじゃねえか!」


 万機の使い易さと確実にダメージを与えられていることに手応えを感じ、喜色を浮かべる陣。

 陣が持つ戦闘勘と万機の相性が異様に良いのだ。


 ゴルフスィングのような動きで大鎚を角に叩きつけへし折り、一旦距離を取って止めに走る。

 散々ダメージを与えられたラハブは雰囲気で分かるほどの怒気を漲らせ、水流を放つべく口を開ける。

 講師の三迫から聞いていた想定されるラハブの弱点、口中への攻撃をするチャンスだと、ネイリングを槍に変えて突っ込んでいく。


 しかし、ここで無常にもシステムメッセージが流れ最悪の事態が起こる。


『System Message:プレイヤーのMPが無くなりました。万機を解除します』


 槍として構えていたはずのネイリングは剣銃に戻り、バランスの崩れから思わず躓く。

 その隙をラハブが見逃す筈もない。自身の体をも貫く角度でラハブは水流を放ち、避けきることが出来ず掠ってしまう。

 その威力は絶大、掠っただけにも関わらず木っ端の如く陣は吹き飛ばされ、たまたま残っていた木材の上に叩きつけられる。


 僅かにHPは残っているがMPは枯渇し、またラハブが口中を攻撃できるような隙を見せることはもうないだろう。

 状況は完全に詰んでいる。陣にとって、EAOに於ける初めての敗北であった。



※---※---※---※

※---※---※

※---※


『小サキ者ヨ、決着ハ付イタ。

 サァ「らじえるノ書」ヲ渡スガ良イ』


「っは!誰が渡すかよ。

 また呼んでやっから次こそ決着だ!待ってやがれ」


 ラハブに吹き飛ばされた陣は、最早ぴくりとも体が動かない状態だ。

 万機剣銃士は可能性の塊に思えた。だが勝負の最初から『万機』のスキルがあれば兎も角、途中から不意打ちのように手に入れたスキル、そして即興で作った舞台では戦術の面で遅れがあったと言わざるを得なかった。

 MPのコントロールは今までほとんど意識していなかったことでもある。陣は今まで自身の力のみで戦ってきており、ここに来て『プレイヤースキルの不足』という問題点を露呈した形になったのだ。


『アクマデ逆ラウカ。

 ナラバ何度デモ打チ滅ボシ、心折レルマデ殺シ尽クシテヤロウ……ナンダ?』


 ラハブが陣に止めを刺すべく身構えた時、フィールドの雰囲気が変わった。

 今まで雲一つなかった空は色を深紫に変え、夜の海は暗さを増す。

 ラハブをして原因が分からないのか、怪訝に辺りを見渡すが陣とラハブが居るのみ。


 そして、ラハブの目の前に一つの鬼火が灯った。

 不審な気配に攻撃を控えたラハブの前でその鬼火はみるみると数を増やし、その体に纏わり付いて行く。

 ラハブは嫌がるように暴れ振り払おうとするが、実態が無い鬼火は素通りするだけで振り払うことが出来ない。

 更に数を増やした鬼火に拘束され、ラハブは徐々に海面に沈んでいく。


 ラハブの正面に浮かんだ鬼火が僅かに薄れ、中に浮かんでいた頭蓋骨が見えた。

 陣には骨の違い等分からない。だが直感で悟った、あれは『カル』なのだと。

 その恨みを自身で晴らすべく、カルがラハブに襲いかかったのだと。


『KAKAKAKAKA!!』


『亡霊如キGAAA!!』


 ラハブが頭蓋骨に水流を浴びせるが、それは何事もなかったのように素通りする。

 ラハブはその顔を水面に出すのみで、体のほとんどを水中に引きずり込まれてしまった。


『小サキ者ヨ!貴様ガソノ書ヲ持ツ限リ、我ハ何度デモ貴様ヲ襲ウ!!

 大事ニ持ッテオレエエエェェェ!!!』


 ラハブはそう言い残し、海中に没した。

 無数に浮かんでいた鬼火も、一つを除いてラハブを追うように海中へ沈んでいく。


 それは鎮魂の灯籠流しのようでもあった。

 恐ろしいながらも美しい光景。救われぬ魂を乗せ、沈んでいく死出の灯火。

 無数の灯火は星のような姿を見せ、全てが星空に包まれているような神秘的な光景を生み出した。


 陣の意識が遠ざかる中、「あぁ、綺麗だな」と目を瞑る。


 その陣を、悲しそうに一つ浮かぶ鬼火が陣を見ていた。

話の中で言及が無かったのでこちらで。


EAOに於いての武器種ですが、以下を想定しています。


近距離武器

短剣・長剣(片手剣)・両手剣・刀(日本刀)・曲刀(青龍偃月刀等も含む)・細剣・槍・格闘武具(根を含む)・斧・鈍器(ハンマー含む)・杖。


中・遠距離武器

鞭・弓矢・銃器(拳銃・長銃)


職専用特殊武器

剣銃(剣銃士)・忍者刀(忍者)・連節剣(暗殺者)・カタール(暗殺者)


暗殺者はPKプレイヤーの対人戦に特化した専用職になります。クラスチェンジ条件に何人プレイヤーをキルしたか等が含まれます。


今回主人公が手に入れた『万機』は上記武器種全てに変わります。ちなみに両手で扱う武器種に関しては1本、片手で扱う武器種に関しては2本まで増やせます。よって片手斧や短槍に変形させて延々投げ続けるというような使い方は出来ません(MPを使用しない形での遠距離攻撃は不可能という設定です)。


どこかで言及したような気もしますが、『包丁』を始めとした調理道具に関しては武器種ではありません。メイド職がフライパンを武器に戦うというのもちょっとロマンがあるかなと思いましたが、今回は自重しました。

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