鬼継祭③
連日投稿4。現在、酷い風邪を引いておりましてクーラー病になるのだけは避けたい所なのです。リアル話は次まで続きます。
そして、文章量多いです。
紀文の『相馬に票を入れる』という発言で、三善の者は混乱する。
何故身内を害するような事をいうのか理解できない。確かにこの勝負は表向きは『余興』、勝っても負けてもいい勝負だ。だが、この勝負に勝つというのは『急進派』にとって大きな意味を持つのだ。
相馬と三善、次代当主の初勝負。ここで土をつければ相手より一段低く見られ、鞠子の代で相馬を潰したい加藤達『急進派』からすれば初手で躓く事になってしまうのだ。
「いくら我らが目障りだとは言え、相馬に肩入れするとは狂ったか紀文!」
加藤が立ち上がり激昂する。急進派の者もそれに追随し、次々と立ち上がる。
あれだけ傲岸不遜にしていた鞠子も、目に涙を溜め俯いてしまった。
自分の祖父を呼び捨てにしていたりする姿から紀文を見下していたのかとも思ったが、そういう事でも無いようだ。
才はあるのだろうがまだまだ子供。そう教育されていれば「そういうものか」と思ってしまうものだろう。
正直、加藤に関してはどうでもいいのだが、子供が泣くのはいただけない。
陣は立ち上がり、紀文に問う。
「紀文様、票を入れて頂いて有り難うございます。
ただ、もし権力闘争の具であったり、何かしらの当て付けであるならば嬉しくありませんよ?」
紀文は陣を見、またちらと鞠子を見、言わねば分からぬのかと肩を竦める。
激昂する加藤達は今にも壇に上り紀文に掴みかからんとする程。加藤が階段に足を乗せた瞬間、その隠していた本性を露わにし叱り飛ばす。
「静まれい!
貴様達は何を見ていたのだ!」
見下していたはずの紀文に怒鳴りつけられ、加藤の足が止まる。
「陣殿の舞い、それが持つ意味も分からぬ愚昧共が吠るでないわ!
陣殿の舞った動き、その順番。正眼、八相、上段、下段、脇構え。これは陰陽五行に通じる術よ。
その舞いは相馬五行の刀術、水。奏者を排し鈴のみというのも良い、金気相生、その刀術を演出するにこれほど良い相性も無いだろう。
翻って鞠子の十種神宝、布留の言。これは死者蘇生の呪よ、五行に於いては命を司る水になる。
陣君の舞いは先に舞った鞠子の五行比和。隆盛を誇る三善、その益々の反映をと願う祝いの舞いぞ。
舞いそのものは甲乙付け難い。ならば、敵に塩を送る相馬次代の心意気に報いずしてなんの三善か!」
紀文は階段を降り、だらだらと冷や汗を流す加藤を覗きこむ。
加藤が追い詰められるのも当然だ。
武の相馬に対し、術の三善。その三善の者が、術の理も分からず無様にも噛み付いたとなれば、その恥は如何程か。
しかも、それが見下していた紀文からの糾弾ともなれば、急進派そのもにも影響が出るのは避けられないだろう。
紀文は加藤にのみ聞こえる小声で囁く。
「相馬と三善の確執は今に始まった話ではない。だが、それで目を曇らせ自分達の呪すら濁らせれば本末転倒よ。
お前の行動は内部の膿が誰かを知るのに都合が良かったが、そろそろ膿を出す時期。既に外部からお前に資金提供していた者は抑えた。
また随分と『良くない仕事』にも手を出していたようだな……。いくら暗部とは言え、守らねばならぬ筋がある。分かってはいるだろうが、覚悟しろ」
紀文の本性を知り、がっくりと項垂れる加藤。
それを見ることもなく、紀文は壇を去っていった。
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一方、訳が分からず陣はだらだらと冷や汗を流す。
そう、それを言っては始まらないのだが、全ては紀文の早とちりというか、言いがかりに近い当てずっぽうだったのだ。
刀を選んだのは衣冠服が動きにくかったので、得物が無ければダイナミックに動けないだろうというものから。たまたま刀が目についたので借り受けたが、別に槍でも小太刀でもなんでもよかったのだ。鈴のみで演じたのも「演奏についていけないから」であったし、鞠子の舞いが水の行になるとなど意識すらしていなかった。
相馬五行の中での相関関係は流石に知っている陣だったが、それ以外の事など想像の埒外。しかも時代錯誤な「術」など、権江から食卓の話題に供される程度で本格的に学んだことなど無いのだ。
隣には、そのせいで今にも泣きそうな幼女が一人。女性の感情には木石に近いほど無頓着な陣だが、この状況には流石に罪悪感が刺激される。
壇に登ってきた権江に「なんとかしてくれ!」とアイコンタクト、権江がしかたないですねえと嘆息し口を開く。
「紀文殿より票を頂いた陣ではありますが、あくまでもこの場は『舞い』の勝負の場で『術合戦』ではありません。
如何にも無骨な孫の舞いに汗顔の至り。熟達の舞を見せてくださった鞠子さんに、相馬の一票は入れさせていただきます」
「えーっと、という事は三善側の勝利でいいでしょうか……?」
「どうでしょう?まぁ余興ですし、どちらでもいいのではないでしょうか?」
さぁ?と肩を竦める権江。
紀文と加藤のやり取りから混乱気味な場を締めて、権江は壇上から語りかける。
「さぁさ、余興はここらへんにして宴と参りましょう!
恥ずかしながら私はお腹が減ってしまいましたよ、お酒も欲しい所『まずはお茶からですわよね』……お酒も欲しい所ですねぇ」
爺強し。美女がジト目でこちらを見てきたら陣には勝てる気がしないのだが、あっさり押しきりやがった。
奥多摩では酒造もあり、季節は秋。ひやおろしの新酒が出回る時期でもあるのだ。それを楽しみにしていた客もおり、権江の言に思ったより大きな歓声が上がる。
鞠子も場に流されたのか、権江の発言にちょっと笑い、元の澄まし顔に。
今日は自分が酒の当てを作らなくていいから楽だなと思い、首を鳴らしながら陣は着替えに向かうのだった。
〓〓奥多摩・三善本邸・野外宴会場〓〓
宴会場は惨憺たる有り様だ。
藤堂さんが周りの警察関係者から相当飲まされたらしく酔いつぶれ、水穂が何が面白いのかちょこちょこと酌をして回っている。
既に陣は成人なので飲めないことはないのだが、あまり得意ではないので逃げ場を求め視線を彷徨わせる。
丁度いい事に会場の一角で礼子が野点をしているのが見え、酒が入った方はご免とばかりに追い返しているので陣の目には一種のオアシスに見えた。
これ幸いと空いていた毛氈に座り、ようやく一息つく。
「大変でしたねえ、宣誓式に余興までやられて。その後も延々挨拶回りされてお疲れでしょう?」
「何気に鴻城さんから『大学卒業したら警察に来ないか』って随分絡まれまして。それが一番大変でした」
礼子がころころと上品に笑い、携帯の茶釜から手際よく茶を点て陣に渡す。
一口含むと、これがまた絶妙に苦い。和菓子を口に放り込んで咀嚼していると、笑顔の礼子と目があった。
「すいません、不調法で」
「あぁ、いえ。謝らないでくださいな。
野点には特に作法は無いんですよ?好きに楽しんで頂ければいいんです」
そういう礼子の尻を狙い、不躾な手が伸びてくる。
まるで後ろに目があるかのように礼子は手首を掴み、座ったまま見事な小手返しで放り投げる。
「困ったことと言えば、酔った方がこのようにおいたをする程度ですよ」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい。
元々宴会と野点をごっちゃにやるって失礼な話ですよね。わざわざ来ていただいたのに……」
「お酒の入った野掛けと思えば、これも風情というものですよ。
まぁ、まさか権江さんと紀文さんの代で、こうやって相馬の方と三善の方が肩を並べて飲むというのは想像もしていませんでしたが」
そういって礼子が目で促し、そちらを陣が見ると権江と紀文が一緒に酒を飲んでいる姿が。
紀文は酒に弱い上に泣き上戸らしく、号泣しながら権江に何事かまくしたて受け流されている。
「まさかと言えばあの二人が仲が良いってのもまさかなんだよなぁ。
相馬と三善って歴史的に仲悪いんですよね」
あら?と礼子が目を丸くし、陣に別のお茶を淹れてくれる。
今度のお茶は抹茶ではなく、煎茶のようでとても飲みやすく美味い。
「色々とあるんですよ。相馬1200余年。三善が出奔して100年余り。なんで袂を分かったか、とかですね。
なんで三善がこれだけの隆盛を誇り、翻って主家である相馬は隠れるようにひっそりと暮らしているのか。こんな所も疑問でしょう。
興味があるなら私の口から聞くよりも、権江さんから聞いたほうが宜しいですよ。
答えてくれるかは兎も角、陣さんも相馬を継ぐのですから。そういう事を知ってもいい頃合いかと。
ああ、そんな些事より……」
そう言って、すっと空いた湯呑みを持っていく。
所作が綺麗なせいか、いまいち気配というものを掴み難い女性だ。
礼子が陣の後ろを指差し、陣に伝える。
「ほら、陣さんに可愛らしいお客さんが来ていらっしゃいますよ」
礼子が指した先には、地味な和服を着たおかっぱ頭の少女が居た。
じとーっとした眼差して陣をじっと見つめ、いつの間にか服の裾を掴んでいる。
「ざ、座敷わらし!?
い、いや、お前、もしかして鞠子か!?なんだその格好は!?」
陣の声にびっくりした鞠子が、木の影に隠れてしまう。
腕だけ影から出し、ちょいちょいと陣を手招く。
「はぁ、なんかあんのか?
すいません礼子さん。ちょっと出てきます」
いえいえと笑いながら手を振る礼子に、最後に疑問を投げかける。
「それはそうと、うちの爺とも仲が良いみたいですし、紀文さんともお知り合いみたいですが、礼子さん一体お幾つなんですか?」
「女に年を聞いちゃいけませんよ次代当主。
まぁいいでしょう。何歳だと思います?」
改めてそう言われると全く想像出来ない。
外見は20代後半だが、お茶の師範をしていると言われればもっと年嵩とも思える。
茶目っ気を出している今などは、陣よりちょっと歳上なだけにも見える。
陣は肩を竦め答える。
「降参です。20代だろうなぁくらいとしか」
「まぁ嬉しい、でも外れです。
まぁ素直に答えるか分かりませんが、権江さんに昔のことを聞くときにでも一緒に聞いてみなさいな」
そう言って人差し指を口元に立てる仕草。
考えてみれば陣は礼子の事を何も知らない。名前と、お茶の師範という『話』を聞いただけなのだ。その名前が本当なのか、お茶の流派は?とか。権江の口から京都方面に住んでいることは窺えるが、分かるのはせいぜいそれくらい。
「さぁさ、女をあまり待たせてはいけませんよ」
手で鞠子を示され、しぶしぶ陣は席を立つ。
「そうそう、これから飛び立つ若人へ、人生の先達からの餞です。
茶聖、千利休の心得。
稽古とは一より習い十を知り、十よりかえるもとのその一。
もし自身が修行に限界を感じたら、この言葉を思い出して下さいな」
「肝に銘じます」
陣は礼を言い、頭を下げる。
なんだかんだで、一番謎が多いのはこの人なのではなかろうかと思いながら、陣は鞠子の元へ向かうのだった。
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鞠子に連れられ向かった先は、中庭に当たる庭園だった。
宴会場からも離れ、静謐に過ぎたそこは何処か物悲しい。
ぶすくれた表情でぽんと縁側に座り、とんとんと自分の隣を指で叩く。
素直に口で言えばいいのにと思いながら陣が座ると、渋々鞠子は口を開く。
「すまなんだの」
「特に謝って貰うようなことを、お前からされた覚えは無いんだが?」
陣は横目に見ると、鞠子は身を縮ませ小さくなってしまっていた。
いつもはお付の者に囲まれ、お山の大将を気取っている子供のことだ。素の『鞠子』という個人で相対する事などほとんどないのだろう。いや、あの加藤や周りの事を考えれば、初めての事なのかもしれない。
「加藤の事よ。
紀文より先程呼び出されて、事の次第を告げられたわ。
あ奴、私をお飾りにするだけに飽きたらず、裏で悍ましい事に加担しておった。
麻薬や一部の政治家への売春斡旋のみならず、貧困に喘ぐ国の親から子供を買い、人身売買にも手を出しておったよ。
今は紀文の手の者が内部粛清に走り回っておる。これで少しは風通しが良くなればいいんだがの」
加藤は相当あくどいことで私腹を肥やしていたらしい。
いつ頃から悪事に手を染めていたのかは分からないが、今になるまで露見しなかった事を見ると、それなりに加藤も優秀ではあったのだろう。その能力を正しい方向に使えば、彼の野望には届かないまでもかなり権力を得ていたのではないだろうか。
「今更言うても信じてもらえんじゃろうが、急進派の相馬憎しという感情も奴が助長していた所があってな。
三善は暗部、相馬は正道。戦後とは時代が違うのに、なぜ我らが影を歩まねばならぬのかとな。
その言は甘く、いいように操られる者が多くての。直接加担しない迄も、その思想に毒された者は更に多かった。
私も内心おかしいとは気付いていたが、加藤は私の育て方筆頭でな。周りも加藤の一派で占められていて相談する相手もいなかったのよ。
紀文にも嫌われていて、頼る者も無く、適度に阿呆のように見せて身を守るしか無かったのだ」
鞠子の今までの態度、『お山の大将』といった振る舞いこそ仮の物だったと彼女は言う。
それを聞き、陣は確かに腑に落ちるものがあった。彼女は天才児という触れ込みながら、その言動があまりにも幼かった。
口調こそ時代がかったものではあったが、中身は我儘な子供以外の何者でもなかったのだ。それが『加藤が求める鞠子像』という演技だと言われれば、確かにそうかと納得も行く。
しかし、彼女は色々と勘違いをしている。それは正してやらねばと、陣は鞠子の頭に手を置き荒っぽく撫でる。
「別に子供が我儘でも俺は気にし無えよ。我儘で当然、甘え上等だ。
話聞いてもお前本人が何か悪事をした訳じゃねえ。それに、多少暴言吐いた程度のガキに切れるほど俺の堪忍袋の緒はヤワじゃ無えぞ。なら、やっぱ謝れるような事をお前からされた訳じゃ無えわな。
俺がお前に対して言えることがあるならな……」
陣は鞠子の額にデコピンをぴしと当てる。
あううと額を抑えて蹲る鞠子を横目に、陣は言う。
「孫娘を嫌いな爺さんなんて居ねえよ。うちの爺見てみろ、俺の事は容赦なく殴るわ蹴るわふっ飛ばすわなのに、孫娘の妹にはダダ甘もいい所だぞ?『紀文』なんて呼び捨てにしねえで、おじいちゃんと言って抱きついてみろ。俺が言ってる事が分かるから」
「さも簡単なことのように言うが……それでも嫌われてたらどうするのだ……」
「そんときゃ俺に言え、紀文さんぶん殴ってでも人の道っつーのを教えてやるわ。例えばこんな風にだな……」
陣はひょいと縁側から立ち上がり、盛大に息吹、構えから組内術:炎錐を虚空に放つ。
踏み込みの衝撃で玉砂利が弾け飛び、綺麗に描かれていた砂紋がぐちゃぐちゃに撹拌される。
「危な!?というか死ぬからな!?人に打ったら死ぬからな!?むしろ本当に武術なのか!?
舞い勝負で本当に良かったわ!武術の試合とか言われてたら殺されていたぞそれ!?」
「大丈夫大丈夫。内弟子の藤堂さんとか食らってもぴんぴんしてるし、うちの爺なら逆に跳ね返してくるから」
「確信した!やっぱり相馬は危険だ!というかお前が危険だ!」
今から紀文さんの所へ行こうと、ぎゃあぎゃあと騒ぐ鞠子を肩車して陣は宴会場に向かう。
権江と飲んでいる紀文さんに鞠子を放り投げ、約束どおりお爺ちゃんと言わせると、紀文は満面の笑みで号泣しながらもみくちゃに撫で回す。にやにやと権江と共にそれを眺め、その場を去る陣。
遠く、「ノータッチですよぉぉぉ」と叫ぶ織田の声が聞こえた気がした。うん、まぁ綺麗に終わったんだからいいじゃん。
〓〓首都圏中央連絡自動車道・車中〓〓
三善本邸で一夜を過ごし、相馬家の一行は車中の人となっていた。
藤堂は「礼子さんとほとんど話できなかった」と愚痴を言い、水穂は疲れたのか寝てしまっている。
静かに目を閉じる権江に、陣は礼子から言われたことを聞いてみることにした。
「なぁ、爺。なんでうちと三善家ってのは仲が悪いって言われてるんだ?
今回の宣誓式、蓋を開けてみれば加藤の暴走があっただけで、三善そのものと仲が悪いってのは嘘っぱちだったじゃねえか。
紀文さんも裏表はありそうだったけどいい人だったしさ」
権江は片目を開け、陣と運転している藤堂を見て何事か考える。
まぁいいでしょうと呟き、権江は答える。
「対外的に『不仲』と言っておいたほうが都合がいいからですよ。
昔と違い、今は隠し事をするのに不向きな時代。隠したい何かがあるのなら、『重要ですよ』と後生大事に隠すより、『大した物じゃありませんよ』と侮らせるくらいで調度良いのです」
「そりゃあ、隠したい何かがウチにあるって言うのかよ」
ちらと陣を見、権江はディバックからお茶のペットボトルを取り出して飲み始める。
一息つけて、瞑目し答える。
「そりゃあ1200年以上も続く家柄ですから、隠しておきたい事の一つや二つはありますよ。
昨日の宣言で相馬の次代は陣さんで決定しましたが、貴方はまだ目録の身。口伝を収めた時に、全てお話してあげます。
貴方が自身に巣食うものを御しきれるようになれば免許くらいはすぐでしょうから、弛まず励みなさい」
余談ではあるが、相馬流の段位は切紙、目録、印可、免許、皆伝、秘伝、口伝の7段に構成される。
皆伝までは分かりやすく、「組打の火、鉄砲(飛び道具)の土、短刀術の金、抜刀の水、歩法の木」の何れかを収めるごとに1つずつ段位が上がる。陣は組打術、抜刀術を収めているため目録となる。全ての行を収めれば皆伝。その理を理解し、行の本質に迫ることが出来れば秘伝。そしてまだ早いと昇段方法が教えられていない口伝となる。
相馬流の後継者は口伝まで収めることが求められ、その時代の当主が死去した後に継承となる。
閑話休題。
陣は自分のバッグからスポーツ飲料を取り出し一口含む。
ふと気づくが、聞きたいことはそれだけはなかったのだ。
「なぁ、爺。そういや礼子さんって何歳なんだ?」
「ッブーーー!!!???」
「あぶな!?」
盛大にお茶を吹く権江、運転席にいる藤堂に思いっきり吹きかけ、焦って運転を失敗しそうになる。
大騒ぎになる車内をさておいて眠り続ける水穂、大物である。
「じ、陣さん……?それを礼子さんに聞いたんですか?」
「おう、知りたいなら爺に聞けと言われたぞ」
権江は口元を拭いながら、お茶をがぶ飲みし落ち着かせる。
そんなに大した事なのだろうか。
「えーっとですね。それは陣さんが口伝を収めても、私の口からはとても言えません。
いずれ礼子さんに会う機会もあるでしょうが、あまりそこには触れないほうが賢明ですよ。世の中には知らないほうが良いこともあるのです」
わざとらしく景色を眺め答えない権江。
この爺をしてこう言わせるとは。本当に礼子は正体不明の女性であった。
尾道礼子は今後別の所で登場します!
俵屋は綺麗なお姉さんも大好きです。
ちなみに予防線という意味で書いておきますが、主人公が相馬流の60代目なのに対して歴史が1200年もあるのは代替わりが多すぎるのではと思われる方もいたかもしれませんが、戦国時代や戦争等に参加する家系のため、そういった『戦い』がある時期の代替わりは激しかったであろうという想定で多目に見積もっています。
それだと口伝まで習得出来ず断絶してしまう可能性が高いのでは?とも考えられますが、その秘密は4章にて語られます。
大体ですが、平安時代から続く家系の場合、通常は30〜40代辺りになるようです。EAOの舞台は現代よりちょっとだけ未来の話になりますが、その場合でも一般の家系の場合は31・2〜40代頃になるのだと思います。
取り急ぎ、代替わりの多さについての説明に関しては書くとしても先の話になってしまいますので、こちらで補完しておきます。




