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弾丸僧侶

ちょっとどうかな〜と思うのですが、復帰後あまりお待たせするのもアレなので投稿します。後日大改修するかもしれません(汗


〓〓『人界』(トレジャー)・第一層:エリアシティ・西区〓〓


 激戦だった公式イベント後、しつこくモチベーションの上がらない陣の元に一通のメールが届いた。

 差出人は剣歯ソードトゥース


「よし、無視するか!」

「待ってくださいよ兄貴ぃぃぃ!」

「うぉ!?って後ろにいるのにメールしてくるんじゃねえよ!声かけりゃあいいだろうが!」


 取りすがってくる剣歯ソードトゥースをげしげしと足蹴にするが、だくだくと泣きながら決して陣の足を離そうとしない。

 その内、ちょっと嬉しそうな顔になるから本気でキモい。

 いい加減根負けして、何かあったのかを陣は聞く。


「はぁ…。んで、何かあったんかよ?」

「っは!?すいやせん、なんか新しい扉が開きそうでした!

 ってこんな事してる場合じゃありやせんでした!助けてください兄貴!」


 なんか最近妙に厄介事に巻き込まれてるなぁと嘆息しきりな陣だった。


〓〓『人界』(トレジャー)・第一層:エリアシティ:門外〓〓


 剣歯は「とにかく待たせてるんで、本人見てから言ってやってくだせえ!」と理由も分かってない陣を門外へ連れ出す。

 そこには一人の僧侶服カソックを纏った男性プレイヤーが待っていた。

 漆黒のカソックをピシっと着こなし、静かに立つ様は見事な聖職者。低レベルフィールドであるにも関わらず周囲を見る眼は鋭く、油断しない姿勢は高レベルプレイヤーである事を予感させる。


「やぁ剣歯君。その方が君が言ってたプレイヤーかな?」

「おう、お前はこの人に従え、四の五言わずに従え、問答無用で従え」


 上品に首を傾げるそのプレイヤーは、余り裏表なさそうな雰囲気といい、問題がある人間には一見見えない。


「話が読めねえんだけど、一体この人に何しろって言うんだお前(ソードトゥース)は。

 あ、俺はジン、しがない剣銃士だ」


 陣は手を差し出し挨拶。

 たおやかに握り返すその手は荒事に向いたようには思えない。

 高レベルだろうと聖職者ならさもありなんと陣は思った、が。


「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私、拳銃士(ガンナー)のウルフと申します」

「え?聖職者系じゃなく?」

拳銃士(ガンナー)のウルフと申します」

「え?」

拳銃士(ガンナー)のウルフと申します」

「…」


 何度聞いても、変わらない。変人、襲来。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


「いや、ですからカソックに銃の組み合わせって最強じゃないですか!

 こんなにカッコイイ物はありませんよ!」


「いや、剣銃士の俺が言えた義理じゃないがカソックって防御力最低レベ…「ギンッ!」はぁ…自分でオノマトペ言うなよ…。

 んでこいつがどうしたんだ?」


 陣がウルフを指さすと、剣歯をして肩を落とし、呆れたような口調で陣に言う。


「いや、まぁ俺らの間(プレイヤー)じゃ厨二なんざ特に珍しか無いんですがね…。本人好きでやってるなら止めやしやせんし。

 問題はこいつのバトルスタイルで…」


 陣がはてと思い剣歯を見ると、呆れ声を深めて言い募る。


「ぶっちゃけ半端なく弱いんす…。

 ほら、俺『四神会』抜けたんすけど繋がり切れた訳じゃありやせんし、付かず離れずでやってたんすけど。

 暇ならこいつなんとかしろって青龍様から押し付けられたんすよ。こっちにすりゃいい迷惑ってなモンです。

 正直、未だになんでこいつが『四神会』に入れたのかも不明なくらいで…」


 剣歯がちらとウルフを見るも、自分の事を言われているにも関わらず涼しい顔だ。

 ある意味大物かもしれない。


「はぁ…。

 俺なりになんとかしようと頑張っちゃみたんですがね。

 こいつが頑として自分のスタイル曲げねえモンで、もうどうしたらいいやらと。

 それで兄貴に助けてほしいとお声掛けしたんでさ」


「…なんかお前も貧乏クジ引いてるな…。

 んで、そのスタイルってのはなんなんだ?それが分からねえとなんとも言えないぞ?」


 剣歯はその場で立ち上がり、3匹程度の低レベルモンスター「サンド・ドッグ」を指さす。


「見るのが一番早いっす。

 おいウルフ、あのサンド・ドッグ相手にお前の戦闘スタイル見せてやんな」


 ニコニコと陣と剣歯のやりとりを見ていたウルフは、「はい」と一声、さっとカソックを払い立ち上がる。

 颯爽とモンスターの元へ駆けて行く、その動きは決して悪くは無い。

 防御力に難があるとは言え、動きが良ければなんとかなってしまうのがEAOだ。

 何が問題なのだろうと陣が眺めていると、ついにウルフがサンド・ドッグの元に到着。素早くカソックを払い腰から二丁の拳銃を構え、モンスターに一声。


「醜悪なモンスター共よ!神に祈れ!」

「へ?」

「神敵はデストローイ!」


 ダンダンダンと小気味よく魔弾を撒き散らす。さっきまでの爽やかな好青年は影を潜め、狂気に眼がグルグルと回っている。

 うん、厨二だ。なんつう厨二っぷりだ。つーかアレ、本当にカッコ良いのか?トリガーハッピーか?狂信者か、厨二神への狂信者か!?

 禄に狙いも付けずに魔弾をばら撒いているのもあってほとんど当たってない。拳銃という武器特性上、動体標的への相対距離を考えればウルフが構えた場所は遠すぎる。そして、まぁ景気よく魔弾をぶっ放すせいで速攻で弾倉が空になる。

 お?っと陣が思った瞬間。ウルフが蹲り頭を抱え、サンド・ドッグは嬉々として襲いかかる。

 うん、見事にぼっこぼこだ。あの威勢の良さは何だったんだ。


「ちょ!?おま!?何やってんのマジで!?」

「ええ…。アレ、どうにかしないといけないんすよ…」


 二人はあまりと言えばあまりな有り様に頭を抱える。パシュンと粒子を撒き散らしウルフが死亡。


「あぁ、安らかに眠れ…」

「いや、死に戻っただけですから直ぐ帰ってきますよ兄貴…」


 陣は呆然と、ただ虚空を眺め続けるのだった。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


 にこにことウルフが戻ってきて、ものっそい頭痛を感じながら陣が突っ込む。


「いや、お前さん、何考えてんの?」


 ウルフはきょとんとした顔で陣を見、またにこやかな顔に戻り聞いてくる。


「え?何か問題ありましたか?」

「問題しか無いだろうが!!!」


 こんな具合なんですよ、もう嫌っす。と剣歯は頭を抱えいよいよ地面に五体投地。

 気持ちは分かる。


「いやさ、お前、もう一々全部突っ込むと面倒だけどさ。

 なんで二丁拳銃なの?なんであんな離れて撃つの?なんでリロードしないで蹲るの?」


「かっこいいじゃないですか二丁拳銃!モンスターに近寄るの怖いじゃないですか!二丁装備してるからリロード出来ないじゃないですか!」


「もういっそ拳銃士やめろテメエェェェ!?」


 いよいよ本気で頭痛が襲い、陣も地面に寝転がる。


「俺もそこらへん言ったっす…。全然聞く耳ないんすコイツ…。

 つーか制御役コントローラーの拳銃士がカソックて段階で色々無理あんのに…、どうすりゃいいんだか…」


 制御役コントローラーとは、EAOの中に於いてモンスターの足止め、敵対値ヘイトのコントロールを行い、パーティーの盾役タンクに一気に負荷が重ならないように調整するロールだ。

 他にも癒やしを行う治癒役ヒーラー攻撃役ダメージディーラー補助役バッファー等ある。例えばウルフの拳銃士は制御役コントローラー、剣歯の忍者は補助役バッファー兼攻撃役ダメージディーラーとなる。

 ちなみに陣の剣銃士ガンブレーダーは、最弱職と思われているという事もありこの役柄は特に研究されていない。強いて言うなら攻撃的制御役オフェンシブコントローラーといった所だろう。

 ここの詳細はまたいずれ。


 二人の苦悩を他所に、ウルフは涼しい顔だ。

 自分のこと言われてると理解してるんかコイツ様は。


 と、その時、陣にとあるアイディアが閃く。

 これなら行けるか?と陣はウルフに問いかける。


「ウルフさんよ、お前さん、これ見えるか?」

「はい?」


 きょとんとしたウルフに、陣の居合が一閃。

 ウルフはぎょっとして身を引くが、中途半端な回避はむしろ体勢を崩すだけ。陣の斬撃が触れる程度に首元を掠める。

 ここは無差別PKが許されている煉獄インフェルノでは無い。当たった所で痛くも痒くも無いはずだが、ウルフの背中一面に冷や汗が吹き出す。


「ちょっと!ジンさん!なんですかいきなり!?」


「いや、少しだけ試させてもらった。

 お前さん、眼は良いな。ちゃんと鍛えればモノになるかもしれん。

 ちょっと待ってろよ」


 陣はコンソールからとあるユーザーのログインを確認し、事情を話した上で呼び出す。


 しばらく後。


「呼ばれて飛び出たアクアちゃんでっす!

 あにぃ、それでわたしはその拳銃士をやればいいのだな?」


 ずんと空中から水穂アクア

 顔の横でピースをしながら文字通り何もない所から湧いて出た。


「いや!?お前マジでどっから湧いて出た!?

 いいや、そこらへん突っ込むとキリが無さそうだし…。

 前にお前が自慢してたけど、『剣舞士』(ソードダンサー)はEAOのジョブの中でも最速なんだろ?その速さでコイツに稽古つけてやってほしい。

 出っソードトゥースの忍者も、前に戦った時かなり素早い攻撃してたよな?お前も出来れば一緒にやって欲しい。

 ウルフの方向性とかそっちは一旦置いておいていいからさ、眼だけ徹底的に鍛えくれればいい」


 ちょっとその人剣舞姫ですよね!?なんで有名人が!?やるって何を!?殺る!?と騒ぎ出したウルフを横目に、陣はエリアシティに向けて歩き出す。


「え?兄貴どこいくんですか」


「ちょっとプリムラの所に行ってくるわ。ちょっと思いついた事あるからさ。

 2日くらいでいいからウルフは狩りに出ないで、水穂アクア出っ歯(ソードトゥース)に鍛えて貰いな」


 じゃあなぁと手を振って陣は去る。

 意味が分からず出っ歯とウルフは呆然とするが、水穂アクアはやる気満々だ。


「んじゃ始めるぞ〜。とりあえず10連撃くらいからやってみよ〜」


 顔色を真っ青に変えたウルフを、水穂アクアはニコニコと眺めていた。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


 2日後――


 陣がプリムラにとあるアイテムを作ってもらい、必要な武具の調達を行って戻ってくる。

 無理を言ったおかげでアイテムは作ることが出来たのだが、今度彼女の鉱石調達クエストに付き合うことになった。世知辛い。


 エリアシティの郊外でウルフは必死の形相で水穂アクアの攻撃を避けまくっていた。

 時に転がり、時に丸まり、時に顔から地面に突っ込み。

 その姿には、彼が夢見る「厨二」的なかっこ良さなど微塵も無い。だが、確かに避けていたのだ。


「ほら!わたしの剣を見るんじゃなくてわたし全体をみるんだ!

 出っ歯っちもやってやるのだ!」


「わけ分かんないですよアクアさん!って剣歯さんも嬉々として参加しないで…ギャース!」


 うん、妹よ。さすがに素人に「観の目」教えるのは無理があると思うぞ。

 というかお前も観の目弱いだろ、基本全部直感だろ。さては爺からの聞きかじりだな…。


「つーかその教え方でよくそこまで避けられるようになったなウルフ…。

 お前さん言動からだと考えられないけど、割りとセンスあるんじゃないか?」


「あ、ジンさん…。たす…かゆ…うま…」


 ウルフは陣に救いを求めるように手を伸ばし、パタリと脱力する。

 まだだ!まだ終わらんぞ!と水穂アクアと出っソードトゥースが追い打ち。

 見事にボッコボコだ。


「ほらほら二人共、なんかゾンビ化し始めてるからやめなさい。

 んで割りといい仕上がり具合だけど、お前らから見てどんなモンだ?」


「ん〜。いわれたとーり避ける目だけ鍛えたからな!

 しょーじき弱いままだけど、避けだけはうまくなったな!」


「へい!ヘタレのままですけど、俺らの攻撃だいぶ避けてるんで、そこらのモンスターだったら間違いなく避けれると思いやす!」


 重畳と陣はしゃがみ、倒れたままのウルフを見て破顔一笑。


「おし、じゃあ仕上げだ。

 今からお前が強くなるために、方向性だけ教えるよ」


 ウルフの手を取り、立ち上がらせる。

 方向性?と3人は困惑するが、陣は取り合わずに聞く。


「んで、『人界』(トレジャー)で一番モンスターが湧く場所ってどこよ?」

「「「?」」」

「いいからいいから、出来れば一体倒すと、倒したプレイヤーにリンクして襲ってくるタイプのモンスターが良いな。

 その場合、他のプレイヤーには目もくれないヤツがいたら尚いい」


 3人は困惑を深めただけだが、陣はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべるだけだった。


〓〓『人界』(トレジャー)・第八層:麦畑〓〓


「ここが『人界』(トレジャー)で一番モンスターが湧く場所っす!

 言われた通り、リンク属性ありやすんで一匹やりゃあガンガン襲ってきやす。

 見た目はでっけえハリネズミみたいな奴で、たまに針飛ばしてくるんで気をつけてくだせえ」


 出っ歯の言に陣は頷き、プリムラに作ってもらった特製ガンホルダーを装備。

 ジャラジャラと弾倉マガジンを吊り下げたガンホルダーは異常。『血狼の長衣』(ブラッドウルフコート)と相まって、どこぞの暗殺者のような出で立ち。いや、暗殺者はそんな目立つ格好はしないだろうが。

 剣銃士がマスタリーが無いだけで拳銃の装備が出来る職で良かった。プリムラに制作を頼んだはいいが、自分も装備出来るかは陣にして少し不安だったのだ。さすがにこれから見せるのは実演しなければ分からないだろうから。


 腰まである麦に視界が閉ざされ、どれだけの数がいるのかの把握が難しいが、確かに相当量のモンスターが徘徊している気配があった。


「んじゃ始めるか。

 ウルフは下がってな、一回しか見せるつもりねえからしっかり見ておいてくれ。

 水穂アクア、出っ歯。お前らは万が一のためにウルフ守ってやってくれ」


 陣はそう言うや否や、ガンホルダーから自動拳銃を2丁取り出す。

 たまたま陣の近くにいた無警戒のハリネズミを一匹蹴り飛ばし、セーフティーウォールで隔離。


「コォォォォォォ!」


 そして、盛大な息吹。

 まるで実際に気を発しているような重圧、離れて見ているウルフ達にすらビリビリと感じるような気当たり。

 水月(鳩尾)の前で拳銃を交差し、右の拳銃は銃口を下に、左の拳銃は銃口を上に。水穂には分かったが、どことなく空手の『天地上下の構え』に似ている。だが、本来あれほどコンパクトには構えないのだが…。

 セーフティーウォールが解除され、ハリネズミが陣に襲いかかる。

 陣は右腕で下から肘打ち、かち上げられたモンスターに両手の銃で2射。

 モンスターは粉砕されて粒子になり散る。


「おぉ!」


 あっさり2丁拳銃でモンスターを粉砕した陣を見て、ウルフは目を輝かせる。

 だが、ここからが本番だ。

 リンク属性のあるモンスターは、一体倒されたことを感じ取り陣の元に殺到する。


 陣は全く身動きせず、天地の構えを継続。

 まさに襲いかからんと何体かが飛び跳ねる。


 陣は太極を描くように構えを解く。

 流れるように銃弾が速射され、数体のモンスターが散る。だが敵は多数、必ず撃ち漏らしは出る。

 噛み付かんとするモンスターを紙一重で避け、背部に一射。後ろから襲いかかる敵にはチラとも見ずに銃底を叩き込み粉砕。

 数の利を活かすことにしたのか、両脇から襲いかかってきたモンスターを左右の銃を交差して射撃。

 散った粒子の確認もせず、悠然と陣は歩みを進める。

 近距離では分が悪いと感じたモンスターが針を飛ばしてくるが、極小の的を撃ち抜き、舞うように避け、歩を止めることがない。

 これだけ銃弾をばら撒けば当然尽きる。ここでプリムラ作の特製ガンホルダーが効果を発揮した。

 普段はジャラジャラと弾倉をぶら下げているだけ見えるが、実は特定の方向に強く引っ張らない限りは外れない仕様になっていた。その仕様を生かし、陣は2丁を携えたまま流れるように弾倉交換マガジンチェンジ


 陣はその調子で敵を倒し続け、一匹を踏み込みから打突、銃口が敵に触れた瞬間0距離射撃。

 堪らず粒子を撒き散らす敵を横目に、残敵の確認。もう残ってはいないようだった。


 周囲のモンスターを全て蹴散らし、陣は天地上下の構えを行い残心。素早くホルダーに銃を収め、唖然とする3人の元へ戻ってくる。一度として陣はダメージを受けること無く、全てを避けきり、また歩みを止めることがなかった。


 ウルフは滂沱の涙を流し、片膝を付き陣を仰ぎ見る。


「おぉ…その者黒き衣を纏いて金色の野に降り立つべし…。

 古き言い伝えは真であった…」


 お前は大ババ様か!?

 いや、ナ◯シ◯とかどんだけ懐古主義なんだ。陣も再放送で見て好きだったりするのだが。


「っは!もしや貴方こそ御使い様(ブレイブセイント)!?

 私も!私もそこへ連れて行ってください!」


「だぁぁぁ!厨二そっちの世界に俺を巻き込むんじゃねぇぇぇ!

 んでしっかり見たんかよ!?俺は二度とこんな事やらんからな!!」


 陣は腰に取りすがってくるウルフを鬱陶しげに引き離す。

 剣歯が恐る恐る陣に尋ねる。


「あ、兄貴。今の一体なんですかい?

 もう兄貴が強いのは今更なんで何も聞きゃしませんが、何が何だか…」


「あぁ。今のは21世紀初頭に作られた架空武術(フィクションアーツ)『銃の形』(ガン=カタ)だ」


『銃の形』(ガン=カタ)

 21世紀初頭に封切られた映画、「リベリオン」のために考案された架空の武術だ。

 超近接銃撃戦という矛盾を解決するため、映画の武術指南役と監督が創りだしたフィクション・アーツである。

 その後のアクションムービーに多大な影響を及ぼした事から、アクションムービー好きの間では伝説に近い映画になっている。

 現実では銃の暴発や、そもそも銃底で敵を殴るとか0距離で銃を扱う事自体が常識外のため実現不可能。だがここはファンタジーの世界。剣銃の取り回しでそれを実感していた陣は、ここでなら実現可能なのではと思い立ち、唯一の問題である弾倉交換を解決するためにプリムラに頼み込んでいたのだった。

 まぁ見た目は派手だし格好は良いので、ウルフのお気に召すだろうと思ってはいたのだが、必要以上に気に入ってしまったらしい。


「つーわけだ。まぁ武術としては邪道もいい所。うちの流派にこんなモンないし、むしろ現実の武術じゃねえしな。

 俺はこんなの二度とやる気は無いけど、他人がやる分には問題ないからやってみた。

 ウルフは眼が良かったから、まぁ慣れれば出来るんじゃないか?」


 いくら架空の武術とは言えど、あっさり再現する陣の異常性も極まっている。

 普通は慣れれば出来るという話では無い。


 陣はガンホルダーを外しウルフにトレード申請。

 手早く済ませてアイテムを渡し、慣れないことしたから気疲れしたと座り込む。


「慣れれば出来るって…。兄貴、そりゃぁ無茶ってモンでしょう…」

「うん。あにぃ自分の身体能力分かってないから…。

 あれ目標にしてもどうしようもないと思う」


 ちゃんと修練続けるんだぞ〜と陣は気軽に言い、ウルフは陣を真似てホルダーを装備。ホクホクした顔で自分の拳銃を出したり仕舞ったりを繰り返している。


 これからのウルフの受難を思い、水穂と出っ歯の二人は遠い目で麦畑を眺める。


 ウルフが本当に強くなれたのか、それはまた別のお話。

俵屋はリベリオンを始めとしたアクションムービーも大好きです。

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