華灯籠
本気で久し振りに投稿します。
ちょっと色々あって1年弱も放置になってしまっておりました。
(なんでここまで間が開いたのかは、折を見て活動報告にてお伝えします)
今後も不定期になると思いますが、以前も書きましたがエタには絶対しませんので長い目で見てやって下さいまし。
〓〓『人界』・第一層:エリアシティ・西区『箱庭』ギルドホーム〓〓
激戦だった公式イベント後、相変わらずいまいちモチベーションの上がらない陣の元に一通のメールが届いた。
宛名はミオソティス。
陣は約束したつもりは無かったのだが、打ち上げの時「歓迎するから『箱庭』にいらっしゃい」との言は、彼女の中では「約束した」ものと解釈されていたらしい。ギルドに入って堅苦しくなるのは御免な陣ではあったが、なにせ水穂が世話になっている場所だ。兄としては一言礼でも言わなければと、誘いに乗ることにした。
「邪魔するぞ」
「あらあら、よくいらっしゃいましたね。丁度準備も終わった所です♪」
『箱庭』のギルドホームは「ガーデン」と書く通り、樹木オブジェクトや石畳、どこか土の匂いがするような『中世庭園風』の場所に仕上げられていた。
陣が大理石調のテーブルに着席すると、ミオソティスが手ずから紅茶を淹れてくれる。
「おっと、こいつはスマンな。
それで、今日はなんの要件で俺を呼んだんだい?」
「あら、随分とつれない台詞ですわね。用事が無いと呼んではいけないのですか?」
流し目で見つめてくるミオソティスはそんな事を言ってくる。陣はそんな事はないと肩をすくめるが、どこからともなく漂う女性らしい甘い香りや、硬さの無い柔らかな雰囲気は正直落ち着かない。
あまりそういう場に呼ばれないせいか、豪胆な陣をしてどこか座りを悪く感じさせる。
肩身の狭い思いでぽりぽりとお茶請けのクッキーを摘んでいると、ふぅとミオソティスが嘆息して陣を見やる。
「そう緊張されなくてもよろしいでしょう?
まぁ、今日お呼び立てしたのにはちゃんと理由がありますけど。
ちょっとソニアちゃんの事でジン様に相談したかったんですの」
「ジン様て、そんなお偉いモンじゃねえぞ俺は。
んで、未ドリルがどうかしたのか?」
未ドリル?とミオソティスが首を傾け、実はと陣に話そうとした時、後ろから当のソニアが猛スピードで駆けて来るではないか。
「ミオソティス様!?なんでここにこの剣銃士がいるんですの!?」
「おー未ドリル。なんか光彦が探してたぞ?」
「だから縦ロールにするつもりは無いと何度言ったら分かりますのあの変態は!!!」
フーフーと鼻息を荒くするソニアをどうどうと落ち着かせ、陣はミオソティスに向き直る。
「んで、ソニアの事で相談があるってなんなんだい?
本人目の前にするとやり辛いなら、場か時を変えてもいいぞ?」
「いえ?自業自得ですし。
むしろ本人から説明してもらいましょう」
ソニアは顔を真っ赤にして項垂れる。
どうやら、確かに何事かあったようではあった。
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「はっはっは!ドジっ子だ!かつぼっちだ!」
陣は腹が痛いとテーブルをバンバン叩き、ソニアは憤懣やるかたないといった表情で陣を睨み付ける。
だが顔を真っ赤にさせたまま睨みつけても、愛嬌こそあれ全く怖くは無い。
ソニアの話はこういう事だった。
EAOプレイヤーの誰しもが挑戦する一つのクエストがある。とある小種界の廃鉱山に生息する一体のモンスターを倒し、そのクエストを受けたプレイヤーのメイン職に合った武器を貰うという物。初心者プレイヤーの登竜門と呼ばれるクエストで、これをクリアして初めて中級者と言われるらしい。
クエスト報酬が武器という事もあって、陣はこのクエストを受けてはいない。近いうちにプリムラが陣の武器を完成させてくれる約束になっているし、あえてそれより低性能であろう武器を入手することに興味がなかったのだ。
ソニアはこのクエストに何度も挑戦し、同じ数だけ失敗を繰り返しているのだそうだ。
そのダンジョンはトラップだらけで容易にクリア出来ず、かつ一度クリアするとそのプレイヤーはダンジョンに入場出来なくなる仕様。
最初は勿論パーティーを組んで挑戦していたそうなのだが、ソニアが片っ端からトラップにかかり失敗。
一度だけ運良く深部に潜れターゲットモンスターと遭遇する所までは行ったのだが、そのモンスターが可愛らしい見た目だったそうで、あっさりソニアが魅力にやられモンスターを抱きしめ脱兎で逃亡。前衛である軽戦士の奇行にパーティーは瓦解。ソニアの失態で大失敗してしまったそうだ。
その内付き合ってくれてたパーティーメンバーは別口でクリアしてしまい、同行してくれるプレイヤーがいなくなってしまうというから自業自得も極まっている。
「まぁ、それでこの子はまだクエストクリアが出来てないんです。
レベル帯を考えれば格段に良い武器ですので、是非入手させて上げたいんですけど…。『箱庭』の子達はみな高レベルですので、ギルド内で付き合ってあげられる子がいないの。
それで、未だに『初心者用剣銃』を使ってらっしゃるジン様なら、お願い出来ないかなぁと思い立ちまして。プリムラさんの事は私も伺ってますけど、サブの武器を持っていても悪くはありませんわよ?」
陣はうーんと手を組む。前述の理由で武器の入手に積極的では無い上、足を引っ張ると公言されているソニアを連れて行けと言われても困る。
顔を真っ赤にしたままチラチラとこちらを見るソニアを見て、陣はピコンと一つ妙案を思いつき笑顔で応える。
「うん、別に構わないぞ。
その代わり、ソニアが俺の言うことを一つ聞く。これが条件な」
「な!?人の弱みに付け込んで!まさかエッチな事じゃないでしょうね!?」
「誰が色気0のお前にそんな事期待するか!?
まぁ大した事じゃないし、無理な事じゃないのは約束する。
どうする?」
ソニアは顔を更に真っ赤にさせて今にも噛み付いてきそうだ。
何故かミオソティスが「まぁ♪」と嬉しそうに腕を組んで自分の胸を強調。わざと作った谷間を見せつけるのは確かに色っぽいのだが、貴女は逆に色気過剰なんだからほんと止めてください。
「わ、分かったわ。背に腹は変えられないものね…。だけどエッチな事はいけないと思います!」
「だからその桃色思考から離れろ!」
そうして、陣がEAOで初めて出会ったプレイヤーとコンビを組んで、初めてのダンジョン挑戦と相成った。
〓〓小種界『鉄山』・ダンジョン第一層〓〓
話がまとまった陣とソニアは、早速陣が該当クエストを受領。連れ立って小種界『鉄山』にやって来ていた。
初めて挑戦するダンジョンは箱型のブロックを繋ぎあわせた道が延々広がり、周辺をカンテラが照らす、実際の鉱山と言った趣。
廃鉱山という設定の割りには随分と明るいのが気になるが、リアルに松明が必要なほど暗かったら取り回しに無理が出るので、これは正直ありがたい。
「んで、どこまで進めばそのモンスターはいるんだよ?
後、ここにはどんなモンスターが出るんだ?」
「前に会ったのは五層ですわね。
出現モンスターはスライム、ゴブリン、ゴーストが多いですわ。
問題の五層にはスケルトンと、極希にジュエルゴーレムが出るらしいと聞いております」
へぇ、と陣は興味をそそられる。
ジュエルゴーレムはそれほど強い敵では無いのだが、ダンジョンに出現するモンスターレベルから見れば小ボスに該当する。
そして『ジュエル』と名が付く通り、ちょっとしたレアな宝石をドロップするのだ。
出会ったことが無いモンスターだけに、見てみたいなと陣は思う。
「なるほどね、レベル帯考えればソニア《おまえ》がパーティー組んでたら、あんまり危な気なさそうなダンジョンだな。
ミオソティスが自業自得って言ってたのが分かったわ」
陣が肩を竦めると、「な!?」と憤慨したソニアが陣に詰め寄ってくる。
そして後一歩という所を踏み込んだと同時、「カチリ」とソニアの足元で不吉な音。赤かったソニアの顔が、みるみる青くなっていく。
「えっと…ですね…
あれが当ダンジョン名物、トラップになります」
ソニアが上を指すと、頭上の隠し天井からごろんと岩が転がり落ちてくる。
「!!??っのおおおおおお!!!???」
がしんと陣は岩を受け止める。
あまりの重量に陣の腰にダメージ、みしみしと何かが潰される音が体中から聞こえる。
「あら、ごめんあそばせ」とソニアは陣が支える事によって出来た隙間からすたすたとトラップを回避、先へ進んでしまう。
「てめ!?ちょ!?この未ドリル!この状況なんとかしてから行きやがれぇぇ!!」
陣の苦闘は始まったばかりだ。
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「そして私たちは苦闘の末に、ついに五層にたどり着いたのだった!」
「いやお前何にもしてないからね!なんでモノローグ調なんだよ!」
実際、ダンジョン探索は酷いものだった。
ソニアは片っ端からトラップにはまるし、それの処理をやるのは全部陣だし、スライムにソニアの服が溶かされてスケベ呼ばわりされて引っ叩かれるし。一度なんて呼び寄せトラップにソニアが嵌って、陣だけモンスターハウスに取り残され、大量のモンスターを討伐して疲弊して出てきたら「何遅れてますの?」とソニアがのたまった時には、あまりの発言に「こいつここに置いて帰ろうか」と思ったほどだ。
閑話休題。数々の苦難を乗り越え、陣はついに五層にたどり着いた(むしろ陣はソロのつもりでいた、ソニアはもう質の悪いトラップの一種だ)。
さすがに五層ともなると空気が違う。一層では煌々とついていたカンテラも僅かに散見されるのみ。ある意味ホラーのような様相だが、出現モンスターがスケルトンだという事を考えれば、製作者もその効果を狙っているのだろう。
陣は油断なく歩を進める…べきなのだが、もう早く帰りたい一心で出現するスケルトンを撫で斬りにしながら歩を進める。
ソニアは「楽でいいですわね」とほくほく顔。陣は「もう本当に帰りたい」と討伐スピードアップ。
ある意味思惑の歯車が噛み合っている。
「ん?あれがターゲットなんじゃないか」
陣が気づいた先には、スケルトンとは違う純白の輝き。
それの先には別の、カンテラに反射するきらびやかなモンスター。どうやらアレがジュエルゴーレムらしい。
そして、純白の輝きは、兎型のモンスターだった。
「う さ ぴ ょ ん 逃 げ て ぇ ぇ ぇ !!!」
「ま た か テ メ エ は ぁ ぁ ぁ ぁ !!!」
ソニアは今まで楽できて元気いっぱいなせいか、軽戦士の速度を生かして兎を奪取。そのまま抱え込んでうずくまってしまった。
陣は猛烈なデジャヴを感じながら、ジュエルゴーレムの一撃を相馬流抜刀術:水鏡で受け流し、そのまま剣銃を回転させ切り落とし一閃。やはり大して強くは無いモンスターだったのか、それだけで倒してしまった。
問題は、ソニアが抱きかかえた兎だ。
自分の成長した筋力パラメータを考慮せずに力いっぱい握った結果、兎は昇天してしまう。
「きゅう」
「あぁぁぁ、うさぴょおおおおん!!!」
『System Message:
DonjonBoss : ジュエルゴーレムを討伐しました。
ライトストーンを取得しました』
『System Message:
Quest:《中級者の武器を入手せよ》のクリア条件《ターゲットラビット討伐》を達成しました。
依頼主に報告して下さい』
巻き上がる粒子を見ながらソニアは滂沱の涙を流す。
「死んだ貴方の魂がどこに行くのか分かりませんが、貴方の行く場所が明るく暖かな所でありますように…」
ソニアは目を閉じ、指を組んで祈る。
その姿は「サンダーソニア」の花言葉、「祈り」を体現するかのような荘厳さ。
余人が話しかけているのに気が付かないほど、深く祈られて逝ける兎は、あるいは幸せなのかもしれない…。
「じゃなくてお前が握りつぶしたんだからね!どんだけ自業自得やらかせば気が済むんだテメエは!それよりなんで俺と祈りの文句似てるんだよ!?っつーかなんかスケルトン超湧いてきて防衛戦の時みたいになってるからどうでもいいから早く戻ってこいテメエェェェ!!!」
ソニアには陣の叫びが届かない。
必死に祈り続ける少女と、凄まじい形相で剣銃を振るい続ける陣と、うず高く積もれていくスケルトンの骨のコラボレーション。それは神聖な何かではなく、邪教の儀式のような様であった。
〓〓『人界』・第一層:エリアシティ・東区〓〓
「いや、コレはないだろうよ…」
「ええ、コレはありませんわ…」
陣とソニアはエリアシティに戻り、早速クエスト完了を報告。無事に中級者用の武器を貰ったのだが…。
「なんで報酬がダガーですの!?軽戦士のメイン武器は剣って聞いてたから、全然スキル上げてませんわよ!」
「いや、まだいいじゃん、『スチールダガー』ってまだなんかゲームっぽくっていいじゃん!
なんだ俺の『中級者用剣銃』って!?『初心者用』が変わっただけ!?どんだけバリエーション少ないんだよ剣銃!明らかに手抜き食らってるだろコレ!!!」
ひとしきり叫んで落ち着いたのか、ソニアが嘆息しながら陣に言う。
「はぁ、まぁいいですわ。約束は約束ですから、私に何をさせたいんですの?」
陣はコンソールを出し、光彦がプリムラ武具店にいることを確認。
よし、と悪巧みの笑み。
「それはだな…」
〓〓『人界』・第一層:エリアシティ・西区:プリムラ武具店〓〓
「ほう、そんな事があったのか。
それでソニアと約束した報酬はそれと。陣よ、お前も興が分かってきたな!」
光彦は眼鏡を輝かせながら陣に言う。
しかし今日は輝きが違う。見るからに絶好調だ。
「まぁ相当渋ってたけどな。とりあえず今日だけって約束でさせてみた。
あんまはしゃぎ過ぎるんじゃないぞ?お前やりすぎる事多いんだから」
陣が光彦を窘めていると、扉をキィと開いてソニアがやって来る。
そう、見事な縦ロールにしたソニアが!
「縦ロール!Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)ーツインドリル!Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)ー!
キタ━━━ヽ(∀゜ )人(゜∀゜)人( ゜∀)ノ━━━!!!」
「ク、この変態喜ばせるだけだと分かってたからやりたくなかったですのに…!」
ごろごろと転がる光彦を心底気持ち悪そうな眼で見下ろすソニア。
光彦はスクっと立ち上がり、急に真剣な顔でソニアに言う。
「それはそうとドリル」
「ドリルってなんですの!?なんです急に真剣な顔で」
「ドリル砲はいつ撃つんだ?」
「シネヘンタイ!」
陣からして見ても、見事に腰が乗った正拳が光彦の顔面に突き刺さる。
まぁここはエリアシティ内なのでダメージは無いだろうが、あれは見ているだけで痛い。
どうどうと陣がソニアを押さえるも、照れ隠しか本気の怒りか、しゅっしゅと口で言いながらジャブを放ってくる。
バタバタとしているとプリムラがカウンターの奥からやってくる。
「随分騒がしいねえ。ほいよ、ジンさん、出来たよ…ってブーーーーッ!!!???」
プリムラがソニアを見るなり盛大に吹き出す。
「ソ、ソニアちゃん…?なんともまぁ、おもしろおかしい髪型になっちゃって…www」
「いい加減失礼ですわね!やりたくてやったんじゃありませんわよ!」
プリムラがソニアの縦ロールを「びよんびよん」と引っ張って遊びだす。
まぁ狙ってやった事だが、正直ここまでおもちゃにされるとは陣も思ってなかった。まぁ一回やれば光彦も落ち着くだろうから、これ以上髪型で弄られることは無いだろう。他にも弄りやすいキャラなので、受難は続くだろうが。
さすがに女性に手を上げるわけにはいかないのか、ソニアはスカートを握りしめて耐えている。
陣はしつこく髪を弄っているプリムラを引き剥がし、彼女の手からひょいとアクセサリーを取りソニアに放り投げる。
「なんですの、これ?」
「ん?ドリル見せてもらったからな。クエスト手伝った程度じゃ釣りが出るからその分と。今日の記念代わりにくれてやるよ。
まぁプリムラ印のアクセサリーだ、『箱庭』の仲間にもそこそこ自慢出来るだろうさ」
じゃあな〜と手を振り、陣は店から出て行く。
ソニアはライトストーンが嵌った髪飾りを光に翳し、
「綺麗、大事にいたしますわ…」
と陣の背中を見ていた。
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「落ちたね」
「あぁ、落ちたな。これから大変だぞソニアよ」
そのやり取りを見ていた光彦とプリムラは、カウンターの奥でひそひそと話す。
「なんかここ最近、ジンさんモテモテじゃないかい?
防衛戦の打ち上げの時も朱雀さんやミオソティスさんに引っ付かれてたし」
「あれがモテていたかは議論が分かれるところだがな。
まぁ陣は昔から女性から好かれるタチだったぞ、みな諦めていったがな」
プリムラは「ん?」と小首を傾げる。
光彦はやれやれと首を振り、肩を竦める。
「いや、実際頼り甲斐のある男だしな。奴は実家の生業を継ぐ事が決まっているし将来安泰だ。
顔も決して悪くないし、修行馬鹿ではあるが頭も悪くない。
ただな、奴自身のスペックと朴念仁っぷりから女子がついていけないのだよ」
光彦は嘆息一つ。
「なにせ胃袋を掴もうにも本人の方が料理が上手い。好意を伝えようにも修行を理由に捕まらない。それでも「付き合って」と告白した豪の者もいるが、「おう、どこの買い物に付き合えばいいんだ?」と聞き返す鉄壁の朴念仁っぷり。
元々恋愛事に興味が薄い男だからな」
内心、「色々と事情があるヤツだからな。家族以外の人間を受け入れるというのは無理だろうが」と胸中で溢す。
「そりゃあ、まぁ、茨だねえ…」
「だな」
ぽーっと外を見つめるソニアを見て、哀れを感じずにはいられない二人だった。




