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食戦

※これから5話ほど間章として1話完結の短編を投稿していきます。

基本的に、短編は本編と比べるとかなりノリが軽く、更にネタに塗れる方向にあります。しかも短編に関してはプロットが存在しません。本気でノリで書いてます。


本編と同じノリを期待されるとがっかりさせてしまうかもしれません。

短編で出てくる登場人物、アイテム等は本編に出ない、ないし出ても「なんで出たのか」分かる形にしますので、ノリがお嫌いな方は本編開始までお待ちください。


〓〓『人界』(トレジャー)・第一層:エリアシティ〓〓


 公式イベント『防衛戦』も終わり、陣はエリアシティ内をぶらぶらと散歩していた。

 暇があれば修行を始めてしまう彼にしてはとても珍しい事だが、どうにも『その気』になれずどうせ暇ならとEAOにログインしたのだ。

 だがタイミング悪く、目ぼしい知り合いは皆何かしらの用事があったりログインしてなかったり。いい機会だと今までちゃんと見て来なかったエリアシティを探索することにしたのだ。

 エリアシティは相変わらず活気に満ち溢れ、行き交うプレイヤーも生気に満ち満ちている。

 良い事だと顔を綻ばせ、陣はエリアシティを行く。


 場所は西区の食材屋。

 露店売りされている珍しい食材を取り、はて?と陣は首を傾げる。


「お〜いおっちゃん。これ何に使う食材だい?」


「それは潰してソースにするんですよ、剣銃士さん」


 隣を見ると、真っ白いコックコートを着た青年プレイヤーがニコニコと微笑んでいた。

 人好きのする笑顔に、陣もにこやかに応える。


「ソースか…匂いからすると魚とかに合わせるんかね。白身じゃ味負けするから赤身が合いそうかな?

 おっと、すまんな…えーっと」


「私はブランチ、スキルでは無くメインジョブ料理人コックを選んだ者です。

 剣銃士さんも料理されるんですか?」


「俺はジン、見ての通りしがない剣銃士ガンブレーダーだ。

 料理はまぁ嗜み程度にな。体を作るのは食だ、食う事を疎かにしたら修行にならねえからな」


 ブランチは目を輝かせ、ぽんと一拍子。

 笑顔が深まり、糸のように細くなった目は喜色に輝いている。


「それは素晴らしい!

 EAOはゲームだからと食を軽視するプレイヤーが本当に多いんです。

 空腹パラメーターも何か食べれば回復しますから。なんでも構わないと、パンだけ食べてる方とかね。

 いや、いい出会いをしました。とても嬉しいですよ」


 こちらこそと陣はブランチと握手する。

 ちょっとどうだい?と近場のカフェに誘う。ブランチが現実リアルでも料理人である事、陣が普段作る家庭料理の話など、遅くまで料理談義に華を咲かせるのだった。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


 翌日―

 EAOにログインした陣を、血相を変えた水穂アクア光彦ライトが待っていた。


「あにぃ!大変だ!伝説レジェンドが現れた!」


「は?なんだ藪から棒に?なんだレジェントって?」


「いいから来るんだ!βテスト以降現れなかった生ける伝説(リビングレジェンド)が現れた!

 こいつは見ものだぞ!」


 水穂アクア光彦ライトは陣の服を引っ掴み、ずるずると東区へと陣を引き摺って行く。

 訳も分からずドナドナと連れて行かる陣。周りのプレイヤーが送る、奇異な者を見る目は大分痛かった。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


 陣が連れて行かれたのは闘技場。の筈なのだが、そこは闘技場と呼ぶにはあまりにも様相を異にしていた。

 殺伐とした『漢祭り』といった雰囲気だった闘技場は華やかに彩られ、フルーツや椰子の木に溢れ、象や猿が闊歩するその場はまるで南国。心なしか環境設定も夏場のよう、亜熱帯の蒸し暑さ。

 いや、象とかモリモリ果物食ってるんだけどあれはいいのか?

 露出度の高い民族衣装風の服を着た女性プレイヤー達が、踊りながら陣一行に近寄り告げる。


『ようこそ!料理の殿堂へ!

 本日は挑戦ですか?観戦ですか?』


「は?料理の殿堂って、ここは闘技場だろ!?」


「まぁいいから、とりあえず観戦だ」


 光彦ライトは陣の口元を押さえると、勝手に話を進める。

 ではこちらへと通された先は闘技場の観覧席…、なのだが冷たい石造りの席は豪奢なビロード張りの物に変えられ、着席すると同時に先ほどの女性達がトロピカルジュースを配ってくる。金のかけ過ぎだ、どんな富豪の悪巫山戯だこれは。

 その時、絹を裂くような女の悲鳴が響き渡った。


「おっと、丁度勝負がついたようだな」


 光彦ライトが指さした先では、一人の女性プレイヤーが項垂れ、仮面を被った料理人が勝ち誇っていた。


「なんで勝てないんですかぁぁぁ★」

「フン、愛が足らんのだよ愛が!!」


 彼こそは生ける伝説(リビングレジェンド)。β時代より忽然と現れ、全プレイヤーの中で一番最初にスキルカンストに『至った』男。料理の達人(マスターシェフ)仮面の料理人(マスクドコック)の名で呼ばれる伝説の料理人!なのだそうだ。ただ、EAOが舞台を正式サービスに移したと同時、華々しい歴史を捨て姿を見かけることもなくなった。何らかのレアアイテムを装備しているらしく、観察スキルも通じずキャラ名不明。当然来歴も不明。謎に満ちた凄腕の料理人。

 勿論『ただの料理人』ではありえない。闘技場の魔改造(これだけの)事を仕出かすのだ、下手すれば運営側の人間であってもおかしくはない。

 陣は、それはもう猛烈な頭痛を感じて頭を抱え込む。何やってんだブランチ《あのひと》は!?


 陣はひらりと観客席から飛び降り女性プレイヤーの元に。

 可哀想に、女性は項垂れを通り越して四つん這いになり絶望している。よほどこっ酷く負けたのだろう。

 というかだ、まぁ、あれだ。うん。女性は金魚だった。


「何やってんだ金魚オマエはぁぁぁぁ!!!!????」


「あ、ジンさんじゃないですか☆

 ちょっとは女性らしさを身につけようと料理とかで勝負してみたんですが、瞬殺されました★」


「ちょっと待て剣銃士、まだ勝負は終わっていない!」


「アンタも何やってんだブランチィィィ!!!???

 勝負ってナニ!?つーかそのために闘技場(ココ)魔改造したんかテメエは!?」


 俺の名は秘密なのだと慌てるブランチを横目に、金魚が作ったと思わしき料理を見る。

 見た目はそれなりに美味そうだ。料理に飾り付けは不要という者もいるが、陣は飾り立ても(それもコミ)で料理だと思っている。

 まぁ一口と味見した瞬間、陣の時が止まった。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


「っは!ここはっ!?」


 場所は闘技場。陣は辺りをキョロキョロと見渡し思案に暮れる。

 あれ?さっきまで手招きしてた婆ちゃんはどこいったんだ?一緒に川を泳ぎながら爺は元気だぞと談笑してたはずなのに。


「それは臨死体験だな。お前の祖母はもうお亡くなりになっている。というか、それは半分くらい三途の川を渡って無いか?

 見た目は美味そうなんだが、そんなに不味いのかコレ」


 闘技場に降りてきた光彦ライトが嫌そうに料理を摘む。

 見た目はいい、匂いもいい、味だけが殺人級だ。


「美味い不味い超越して、人が殺せるレベルだ。

 というか金魚、お前二度と料理作らねえか今度ガチで料理修行するか選べ。現実リアルで食ったらマジで人殺せるぞこれ。

 どっちも嫌なら司会者(チェアマン)辞めて罠師目指せ、多分これ罠にしたらモンスター倒せる」


 ううう、料理苦手なんですぅ★と更に金魚は沈んでいく。

 まぁまぁと水穂アクアが金魚の肩を叩いていると、仮面の料理人(ブランチ)が叫ぶ。


「こんな物は料理とは言わん!食材に対する冒涜もいい所だ!」


「あー、否定してやりたいけどさすがに擁護出来んわ。頑張れ、超頑張れ金魚」


 ずぶずぶと床にめり込む勢いで凹む金魚を放置して、大仰にブランチが手振り。

 陣達を指し、憤懣やるかたないといった様子で糾弾する。


「お前らもだ冒険者プレイヤー!神聖な料理勝負をなんと心得る!

 ただでさえ貴様ら冒険者共はやれパンでいいだの、むしろ小麦粉でいいだの、いっそ水でいいだのと料理に対する尊敬も畏敬も無い!

 気が向いて作ってやれば、やれ材料費が高いだの、ステータスアップ効果が無いだの、やっぱ水でいいだのと栄養様をなんと心得る!

 挑戦者じゃ無いのなら邪魔だ!さっさと出て行け!」


 光彦ライトはクイとメガネを煌かし、陣の肩を叩く。

 嫌な予感しかしない。


「よし!ではこのジンが勝負しようじゃないか!

 いやぁ伝説の料理人との勝負!楽しみなカードだな。

 勝負好きなジンなら当然やるのだろう?」


「お前!?なんで俺が!?」


「当然だ!私や水穂アクア嬢は誰はばかること無い食い専だ!料理なんか出来るか馬鹿者!」


「偉そうだなマジで!?誰得なんだそれ「私は美味いものが食いたい」「あにぃ、おなか減った」「あ、ワタシも小腹が☆」ってお前ら得かよ!?」


 立て板に水、いや覆水盆に返らずか。ブランチはその気になったのか、くいくいと手を振って陣を煽ってくる。

 むしろ俺としてはブランチの意見に賛成なんだがなぁ…と胸中で独り言ち、陣とブランチの無意味な勝負がここに始まる。


 陣VSブランチ・開戦(?)。


〓〓『人界』(トレジャー)・第一層:エリアシティ・東区闘技場〓〓


「私の記憶が確かならば(バリッ!)ピーマンは不味い!(ダバダバ)」


「ほら、水穂アクア、無理しないでぺっしなさいぺっ」


 ちなみに前世紀末にやっていた某番組は、この時代たまに再放送されていたりする。

 そして本来ピーマンではない、パプリカだ。ピーマン(っぽい何かだが)を生で食えばそりゃ苦い。

 というかだ、あの司会者もパプリカですら不味いのを我慢して食っていたそうだ。たまに顔が引き攣っていたのはそういう事らしい。


「んでブラ「だからキャラネームは秘密だ!」…ウゼェ。面倒だからコック?ルールはなんだ。

 俺は料理勝負なんてしたこと無いからぜんっぜん分からんぞ」


「む、ならばそこにいる三人にどちらの料理が美味いか選んで貰い、多数決で勝敗というのはどうだ。

 制限時間は1時間!料理の品数は無制限。そしてテーマは『卵料理』。初歩にして真髄。有り触れていながら奥深い。そして…」


「「栄養価が高い」」


 ジンとブランチはニヤリと顔を見合わせ、ガッチリと握手する。

 何が彼らをそうさせるのか。陣はEAOで始めて友と呼べる男を見つけた気がした。


 陣とブランチは3人に向かって色々と尋ねておく。料理を作る側からしたら聞いておくべき所は割りとあったりするのだ。


「んで、なんかアレルギーあるヤツはいるか?」

「そうだね。VRとはいえアレルギーが有ると100%の安全性は保証できない。無理せず言って欲しいな」

「はーい!緑のキャツ(※グリンピース)が入ってなければなんでもいいのだ!」

水穂アクア…お前のはアレルギーじゃなく好き嫌いだ…」


 ヒアリングが終わり、いよいよ開始を待つばかり。

 陣とブランチは軽く拳を打ち合い、自らの戦場キッチンに着く。


「お前ら妙に仲がいいな…。まぁいい、それでは私が開始を告げよう。

 では!「アレ・キュイジーヌ(料理開始)☆」って金魚ぉぉぉ!!!」


 いい所を金魚に食われた光彦ライトが号泣する。

 二人は食材の山目掛け駆けて行った。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


「それで今日は司会はしないのか金魚よ?割りと好カードだと思うんだがな」


「はーい☆今日は完全オフって決めてるんでお休みです☆

 私も審査員なんでMCやったら野暮ってもんですよ☆」


「ふむ。では今日は実況なしか。

 おっと、そう言ってる間に動きがあったようだな」


 ブランチが手早く卵を掴みキッチンに戻ってくる。

 素早く選別、質の良い新鮮な卵だけを選り分ける観察眼は流石の貫禄。

 ボールに割り入れホイッパーで入念にかき混ぜている。


「ほーそーせきほーそーせき!

 コックさんが早速調理を開始しました!アナウンスしてみたいと思います!

 コックさん!今日はどんな料理をつくるんですか?」


 闘技場に降りた水穂アクアがアナウンサーのまね事。

 だが、突きつけるのがマイクでは無くサツマイモなのはどういう事なんだろう。


「んー、まぁ卵料理は本当に腕が出るからね。オーソドックスなオムレツあたりを中心に数点かな。

 審査員に女の子が多いから、デザートにプリンなんかも用意するつもりだよ」


 泡立たないよう細心の注意を払いながら、ザクザクと卵を混ぜる。

 その姿はまさに「達人」。食べなれない物を出して評価を下げるような凡ミスは彼にはあり得ない。


「ありがとうございました!

 さて、われらがあにぃは…何やってるの兄様…」


 思わず素になる水穂アクア

 さもありなん、陣は釜の前でじっと腕を組んでいるだけだった。

 目を閉じ、微動だにしない彼は瞑想しているかのよう。武術家の相が色濃く現れ、凛々しい若武者の立ち姿。

 ただ、今は勝負中だ、かつこれは料理勝負だ。その凛々しさは無駄以外の何者でもない!


「ほーそーせき…

 あにぃがよくわかりません。中継かえします…」


 返された光彦ライトにもよくわからない。


 ブランチは素晴らしい手際の良さで次々と料理の下ごしらえを続ける。メニューはオムレツ、カルボナーラ、暑さを鑑みてかかぼちゃと卵の冷製スープまで。短時間で下ごしらえを済ませた彼は、今は鼻歌を歌いながらプリンを蒸している。


 それから15分、「グワッ」っと刮目した陣は釜を火にかける。火を見る様子は陶芸作家のごとき真剣さ。細心の注意を払い火勢を調整し続ける。菜箸を蓋にあて、煮える音を聞く念の入れよう。こちらはこちらで職人のような一徹さ。


 陣の動きを見た光彦ライトが叫ぶ!


「分かった!陣め、TKGだ!TKGを作るつもりなんだなお前は!」


「TKGって何ですか★」


「T(amago)K(ake)G(ohan)だ!シンプルにして究極!まさに卵を味わうに最適!

 しっかりと米に水を吸わせるために待っていたのだな!

 だが相手は生ける伝説(リビングレジェンド)、果たしてTKGで勝てるのか!?」


 いよいよ終盤。

 パスタを見事なアルデンテに仕上げたブランチは皿にカルボナーラを盛り付け、脇に添えるオムレツ、冷やしたスープ、そして黄金に輝くプリンと「達人」の看板に偽り無し。翻って陣は小さめの丼茶碗にご飯を盛っただけ。見た目の華やかさでは完全に負けている。


「「出来ました!」」


 いよいよ完成、勝つのは陣かブランチか。いざ、実食!


※---※---※---※

※---※---※

※---※


「では、まずは王者からということでコックの料理から頂こうか」


 白いクリームが眩しいパスタを3人はフォークに絡め一口。

 滑らかな舌触りと濃厚な味わい、だのに後味を残さずさっぱりと喉に滑り落ちる。


「ほう」

「美味しいですぅ☆」

「うん、これは美味いな!いくらでも食えるな!」


 オムレツは割ると中がとろっとした半熟、微かに効かせたブイヨンが味わいを落とすこなくコクを出している。

 冷製スープも見事の一言。ただでさえクセのあるかぼちゃを、卵を繋ぎにすることで見事な一体感を演出する。本来あまりの濃さからかき消される卵の味わいを殺すこと無く、しっかりと「卵料理」として成立させる技は魔法のようだ。

 プリンにしてもそうだ。カラメルを下品に使って「甘いだけの何か」にしてしまわず、風味の生きた卵菓子として成立する最低限の量しか使っていない。


 一貫した見事な卵料理の数々、さすが生きた伝説(リビングレジェンド)と呼ばれる料理人。


 問題は陣の料理だ。むしろ、卵かけご飯が料理といえるのか?


「さて、次は俺の番だな」


 3人の前にドンドンと茶碗を置いていく。

 ピンと立った大盛りご飯そのものは確かに美味そうなのだが、あまりに侘びしい食卓風景だ。

 そこへ、予め割っておいた卵を次々投下。それを見た時、ブランチは陣の意図を理解する。


「そうか!黄身か!!」


 そう、白身という雑味を省き、つやつやと輝く金朱の黄身。まるで深雪の富士に朝日が登るかの如き和の心!

 まるで荒々しく峻厳な日本画を見る心境、恐る恐る薄皮を割った瞬間、とろりと流れ出た黄身は山の怒りに触れたのか、マグマのような力強さ。

 適量の割り下をさっと回しがけ、3人はそれを口にする。


「こっ!これは!?」

「美味しいですぅ☆」

「うん、日本だな!これが日本なんだな!」


 ただ卵をかけただけのご飯。ただ、細心の注意を払い炊かれた甘みのある飯。選び抜かれ、かつ雑味を取られた濃厚な黄身。それらが混然と一体になり『料理』としてそれを成立させる。何気なくかけた割り下も普通ではない。普通は鰹節や昆布で取られるはずの出汁が、この割り下は鶏出汁で作られている。本来卵は山の物、海産物での出汁ではなく生みの親である鶏と合わせる事で、味に統一感が出た上、濃厚な黄身に更に深みを与えている。


「「さて、それではジャッジと行こうか」」


 陣とブランチはお互いの健闘を湛えガッチリと握手する。

 最早勝敗は関係ない、そこには死力を尽くした二人の料理人がいるだけだった。


〓〓『人界』(トレジャー)・第一層:エリアシティ・東区料理場(キッチンスタジアム)〓〓


「お互いに持てる限りの技を出し切った二人の料理人!

 王者の貫禄で素晴らしい料理を生み出した生ける伝説(リビングレジェンド)!文句のつけようが無い美味なる3皿だった」


 光彦ライトの司会に、ブランチがコック帽を取って一礼する。

 自らの料理は会心の出来と、その姿からは自信が満ち溢れている。


「そして挑戦者・ジン。ただのTKGを料理に昇華したその技には脱帽した。

 更に腕が上がったのでは無いか?料理スキルのカンストもそろそろだろう、今後も楽しみな男だ」


 陣は、改めて「なんでこんな事やってんだ俺は」と正気に戻り頭を抱える。


「さぁ(私も含めた)審査員3人よ!審判の時だ!」


「ワタシはコックさんですねー、女の子はああいうおしゃれな料理の方が好きです☆」

「うむ、私はジンに一票だ。あれだけのTKG、そう容易く食えるものではない」

「うーん、アタシは…」


 水穂アクアはちょっと考えこみ、にこやかに笑って応える。


「引き分けなんだな!普段のそしょくからは考えられないほど両方美味しかったのだ!

 勝ち負けじゃなくて、全部うちの爺ちゃんといわおっちに食わせてやりたいんだな♪」


 光彦ライトは額に手を当て嘆息する。


「それじゃ面白く無いだろう水穂アクア嬢?素直にどちらが気に入ったのだ?」


「こーおつ付けがたし!いいじゃないかそれで!」


 なんと結果は引き分け。

 陣とブランチはお互いの料理を交換し合い、それぞれに味見。

 二人共満面の笑みでお互いを讃え合う。


「美味い!まさか冒険者の君がここまでの料理を作れると思わなかったよ!」

「いや、そちらの料理もだ。俺もそれなりに作る方だと思っていたが、さすがは本職だな。いい勉強になった」


 お互いの肩を叩き合い、修羅場を生き抜いた戦友のように組む。

 今日の料理のポイントやより効率的な作成方法、洋食専門のブランチに和食の作り方を教えるなど、3人をさておいて料理談義にのめり込む二人。

 暫くはそれを見ていた三人だったが、あまりにも話しが長いのでついには退屈して騒ぎ出す。


「というかだ、追加はまだなのか?」


 ?


「そうですねぇ★ちょっと食べてお腹に火が付いちゃったです★

 もっと食べたいです♪」


 ??


「人は卵だけで生きるにあらずなのだ!あにぃ、なんか作れ!」


 !!!???


 ピキっと青筋を立てた陣の肩を、滂沱の涙を流したブランチが叩く。

 これが、これがブランチが怒り嘆いていた現実。食うことしかしない奴は食材や作り手への感謝もなく、餓鬼の如く貪り食らうだけなのだ。しかも3人とも見事に2人前ずつ食ってる筈、今から何か腹に入れたら料理を残すこと必至。

 とりあえずさっきのトロピカルジュースを出せと3人が更に大騒ぎ、ついに料理人達の堪忍袋がブチ切れる。


「クックック…」

「ハッハッハ…」


 陣が剣銃を抜剣し肩に載せ、ブランチは使い込まれて鈍く輝く包丁を逆手に構える。

 その目は狂気にぐるぐると渦巻き、明らかに正気を失った様相。

 今にも襲いかからんとする二人の様子に気づいた三人は、冷や汗を垂らしながら言い募る。


「いや、そんなマジにならなくてもいいではないか」

「そうですよ〜★ちょっとした茶目っ気じゃないですか★」

「だなだな、なんなら外に食べに行くから…」


 陣は天を仰ぎ哄笑し、ブランチは項垂れ肩を震わす。


「クックック、そう遠慮するなよ…」

「あぁ、そうだ…タップリと食らわせてやろうじゃないか…

 そう、まるでフォアグラになるまで肥えさせられたガチョウのようにね…」


 やばい!と3人は脱兎の如くその場から逃げ出す。

 二人はギラと目を輝かし、いざ、出陣。


「「逃げるんじゃねえこのフードファイター共が!

 謝れ!栄養様に謝れぇぇぇ!!!!!!!!」」


 その日何があったか、その後の三人は頑として語ろうとしなかった。

 だが、それから暫くの間。闘技場を不法占拠した二人の料理人コンビが、ちょっと料理が出来るだけのプレイヤーの心を、軒並みへし折っていったとか。

こんな感じですがいかがでしょうか?(汗


よろしければご評価、ご感想くださいませ!


※ちょっと色々あったのでローカルですがルール定めさせていただきました。ローカルルールなんて知らない!と言われてしまいそうですが、出来ればご一読の上投稿いただけると幸いです。

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/284952/blogkey/730026/


2013/8/21 活動報告ページのURLミスを修正。あぁ(;△;

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