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エピローグ

普段の投稿より短いですが、一章最後ということでエピローグです


「とまぁそんな事があったわけだ」


 陣はココロッカ草原で助けた槍士ランサーと共に酒場サルーンで酒を酌み交わす。

 大分細部をぼかしたものではあったが、今までの陣の話を聞いた槍士の男は、目の前の青年があの『防衛戦』を勝ち抜いたプレイヤーだと知り目を丸くしている。


「はぁ~…。まぁ剣銃士ガンブレーダーの身であんだけ強けりゃ、そりゃ只者じゃないとは思っていたが、有名人と会えるなんて光栄だよ」


「よせやい、俺はそんな大層なプレイヤーじゃねえよ。

 まだEAO初めて2週間ちょいの、初心者ニュービーに毛が生えたようなプレイヤーだ。むしろ諸先輩に色々教えて欲しいところだぜ?」


 茶目っ気を出して肩を叩く陣に、槍士は苦笑を浮かべながら酌をする。

 悪いとは思いつつ、眠り薬を混ぜた酒を注ぐ。


 ん?と陣は怪訝な顔をして、バタンとテーブルに突っ伏してしまう。

 薬が効いて眠り込んだの見て、悲壮な顔をした槍士は陣に布を被せて簀巻きにし、種界門へと運び出す。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


「さぁ連れてきたぞ!今度こそ俺の竜を返してくれ!!」


『煉獄』(インフェルノ)のゲートに陣を連れてきた槍士は、周辺に悲鳴のように呼びかける。


「フフフ、構わないぞ。お前が約束を守る限り、こちらも約束は守る」


 槍士は槍士ではなく、上位職の竜騎士ドラグーンだった。

 ただ、転職したての彼の相棒、騎乗竜はまだ小さく、それを特殊なアイテムで監禁したプレイヤーキラーのグループに脅されてPKの片棒を担がされていたのだ。目ぼしいカモを連れてくれば開放してやると言われ、泣く泣く『煉獄』(インフェルノ)にプレイヤーを連れてくる毎日。ただ、それも今日で終わりだ。

 キーキーと小竜が相棒の懐に飛び込んでくる。小さなそれを抱きしめて竜騎士の彼は涙を流す。


「コイツは2週間前の『防衛戦』覇者だ!『血狼の長衣』(ブラッドウルフコート)『小人族の胴輪』(ブリシンガメン)を装備してるくらいだ、たんまり溜め込んでるだろうよ!

 約束だ!もう俺らには構わないでくれ!」


「ほう?それは期待できそうだな。お前に関わることももうないだろう、構わないとも。

 まぁお前もここでキルされて、身包み剥がされるんだがな」


「な!?」


 その時初めて、深くフードをかぶったPK集団に周辺を囲まれて居ることに気がつく。

 いかに竜騎士が上級職とはいえ成り立て、そして相手は百戦錬磨のPK集団。

 絶望に塗られた顔を見て、PK共がニヤニヤと嗤うのが分かる。悔しくて堪らないが多勢に無勢。

 せめて死ぬまで抵抗してやると睨み付ける竜騎士に、PK共が殺到する。


 その時、眠っている筈の陣が素早く立ち上がる。


「せいっ!」


 相馬流抜刀技:水蓮が一閃、無数のPK共が一気に吹き散らされる。

 唖然とした竜騎士が後ろを振り返ると、残心から肩に剣銃を乗せた陣が優しく笑っていた。

 ぽんと竜騎士の肩を叩き、陣は前に出る。


「さぁPK共!てめえらは泣いても許してやらんからな!覚悟しやがれ!」


「ハハハ!この人数に囲まれての大言壮語とは恐れ入る!

 真っ当なプレイヤーじゃ私達には敵わな…っ!なんだ!体が!」


 ゲートの後ろから光彦ライトが姿を表わす。

 悠長にPK共が勝ち誇っている間に詠唱された、彼の広域束縛(バインド)の魔術が放たれたのだ。

 ゲートからはミオソティスや水穂アクアを始めとした『箱庭』《ガーデン》の面々が次々と現れる。


「おー、光彦ライト、ナイスタイミング」


「くっ!我らをハメたのか!?」


 陣はニコっと笑ってPKグループのリーダーを見据え。


「うっせえ、黙れ」


 と殺気を全開で浴びせる。

 ガタガタと震え出したPKの前に立ち、剣銃を半身水平に構える。


「相当卑怯な真似してPKやったらしいじゃねぇか。被害にあってEAO辞めたプレイヤーも出てるってよ?

 因果応報、お前らにも相応の苦痛を味わってもらおうか」


 PKは震えながらも反論する。


「っは!どうせ死んでもデスペナ食らって死に戻るだけだっつーの!

 俺らはユーザー帰属が無いアイテムは装備していない、やられた所でそこまで痛くねえんだよ!」


 陣はニコっと笑って『箱庭』(ガーデン)のメンバーを指す。

 そこに揃っているのが、アクアとミオソティスを除いて全て聖職者(クレリック)司祭(プリースト)で揃えられているのを見て顔色を無くす。


「はい正解!被害にあって憤慨する『箱庭』(ガーデン)有志の皆さんです!

 …楽に開放されると思うなよ?死んでデスペナ、生き返り、バインドの無限コンボだ。

 キャラ作り直したほうがはええって目に合わせてやるから覚悟しろ」


「な!?そんなの許されるわけねえだろ、俺らより悪質じゃねえか!?お前らも垢バン(※不正行為によりアカウントロックされたり抹消される事の意)されちまえ!」


「それはどうかしら?」


 ミオソティスがPKに近寄り優雅に顎をつかむ。

 彼女がやると妙に華やかで優美な行為なのだが、ミシミシと軋むほど強く掴まれては痛みでそれどころではないだろう。


「あなた達はやり過ぎたの。まだPKをするだけなら良かったのに、限りなく黒に近い酷いハラスメント行為をしてウチの子をEAO引退にまで追い込んだ。

 普段なら『仕様』の一言で静観する運営も、さすがに『今回に限り何があっても不介入』と言ってくれたわ…

 さっきのジン君のセリフじゃないけど…死んで楽になれると思うなよ下衆が」


 その台詞と共に、ミオソティスの細剣が深々とPKを抉る。

 水穂アクアとミオソティスが次々とPKを屠り、メンバーの子達がすかさず復活、逃げ出す前に光彦ライトのバインドが飛び交い、それが延々と繰り返される。


 女は怖ええと呟き、陣は呆然とそれを見る竜騎士の元に行く。

 肩をぽんと叩き、彼が抱きしめていた子竜を優しく見る。どうやら彼は真っ当なプレイヤーらしい。確かに彼は心弱く、PK共の言いなりになるしかなかったのかもしれない。しかし、彼は彼で守るべき者のために必死で戦っていたのだろう。


「アンタがやった事は許される事じゃないが、事情があるのは分かってる。

 今回連中が怒っている件にも関わってないのも分かってるし、あいつらには文句言わさねえ。

 無罪放免とは行かねえが、俺も一緒に行ってやるから被害者に謝りに行こうぜ?」


 竜騎士の彼が小さく頷いたのを見て、強く肩を握る。


「まぁ、全部終わったらまた飲みに行こうや。あ、でも今度は薬抜きで頼むぜ?

 ちょっと…入っちまって…今更…眠…」


 バタンと倒れた陣は大の字になって豪快に寝てしまった。

 竜騎士はどういう顔をしたらいいのか分からず、泣き笑いの顔でそれを見ていた。


 これはそう遠くない将来「英雄」(ベオウルフ)と呼ばれる一人の青年と、「終焉へ進む楽園」の物語。

一時間後に後書きが投稿されます。

それでここ最近の毎日更新は終了です!

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